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第9話

ผู้เขียน: 一燈月
小夜と芽衣は食事を終え、しばらく語らってから店を出た。

二人が席を立つ間際も、向かいの個室からはまだ微かに楽しげな声が漏れ聞こえてくる。とりわけ、樹の子供らしい無邪気な笑い声が、やけに耳についた。

その声に、芽衣は心配そうに小夜の顔を盗み見る。彼女の表情に変わった様子がないことに安堵しつつも、胸の内の懸念は少しも晴れなかった。

この親友が抱える問題は、もはや夫婦関係だけではない。

先ほど店に入ってくる彼らを見た時の、自分の息子が相沢若葉にあれほど懐く光景。それは、尋常ではなかった。

どうりで、小夜が離婚の話を持ち出した時、あっさりと養育権を放棄すると言ったわけだ。

当時、芽衣は深くは尋ねなかったが、心当たりはあった。結婚してからの数年間、小夜はよく樹を連れて遊びに来ては、樹に自分のことを「第二のママ」と慕ってもらいたい、などと話していたのに。

それが、ここ一年ほど、ぱったりと樹を連れてこなくなった。

尋ねても、「勉強が忙しいから」と答えるだけ。今思えば、あの子はその頃からもう、母親である小夜に心を開かなくなっていたのだろう。

しかし、小夜が自ら話したがらない以上、芽衣もそれ以上は聞けなかった。

子供のことは、あまりにも彼女の心を抉るに違いないからだ。

そもそも、小夜が圭介と結婚した時から、芽衣は賛成しかねていた。結婚前も後も、圭介は一度も小夜の交友関係に顔を出さず、彼女の世界に全く関心を示さなかった。

自分なら、恋人ができたら、一番の親友に紹介して一緒に食事でもしたいと思う。

だが、圭介は小夜の友人たちと一切関わろうとしなかった。

結婚して七年、帝都で一番の親友である自分ですら、プライベートな場で圭介に会ったことは一度もないのだ。

まあ、それくらいならまだ理解できた。結婚は、夫婦二人の問題なのだから。

それに、相手はあの長谷川グループの現当主。学生時代から有名人で、グループを継いで七年で父親を追い落として実権を握った。冷酷非情で知られ、今またAI分野へ大胆に進出するなど、その手腕はまさに冷徹で、迅速果断そのものだった。

そんな、腹の底が読めない、人を寄せ付けない高嶺の花を、親友が大学時代に射止めたと聞いた時は、心底驚いたものだ。

当時は賛成できなかったが、圭介が自分たちのような小さなコミュニティを見下しているだけならまだいい、小夜にさえ優しくしてくれれば、と願っていた。

しかし、現実はそうではなかった。

壁一枚を隔てた向こう側で、小夜は圭介の輪の中から完全に排斥されていたのだ。

数日前の往来での脅迫を思い出し、向かいの個室に座る人々、その中に自分の親友の息子まで含まれていることを考えると、芽衣は頭ががんがんした。

一体、どういうことになっているのか。

……

二人は階下で別れた。芽衣が、ちゃんと食事をとるようにと繰り返し念を押すのを聞き届け、小夜はアトリエ徒花へと戻った。

深夜まで仕事に没頭し、そのままアトリエで眠りに落ちた。

一方、長谷川邸は灯りが消えたまま、圭介も樹も、一晩中帰ってこなかった。

翌日。

小夜が起床し、仕事の準備を始めて間もなく、会社の採用担当から電話が入った。

週末に面接可能なシニアプログラマーが数名いるが、残業してでも面接するか、と尋ねられた。

小夜は二つ返事で了承した。

できるだけ早く後任を見つけたい。そうすれば、一日でも早く芸術デザインの世界に身を投じることができる。

送られてきた履歴書に目を通し、アトリエからさほど遠くない住所の候補者を一人だけ受け入れることにした。採用担当に、午後にカフェで面接するよう調整してもらう。自分もそこで昼食をとれば都合が良かった。

アトリエのあたりは少し辺鄙で、食事をするには不便なのだ。

昼過ぎ、小夜はそちらへ向かい、食事を済ませてから、約束の時間より少し早くカフェに入って待った。

意外なことに、相手は彼女よりも早く来ていた。見たところ、色白の、まだあどけなさの残る青年だった。

その積極的な姿勢に、好感が持てる。

二人は挨拶を交わし、テーブルを挟んで向かい合って座った。

小夜はまず相手の好みを聞いてコーヒーを注文してから、本題に入った。

「では、まず自己紹介をお願いします」

小夜はテーブルの上の履歴書を手に取って目を通していたが、しばらく待っても相手が口を開こうとしない。不思議に思って顔を上げると、相手が自分を呆然と見つめていることに気づいた。

「どうかしましたか?」

自分の顔に、何かついているのだろうか。

すると、青年は顔を真っ赤にして、慌てて言った。

「す、すみません。まさか、面接官の方がこんなにお綺麗な方だなんて、思ってもみなくて……」

少し、見とれてしまったらしい。

小夜は微笑んだ。

「口が上手いのも結構ですが、肝心なのは技術力ですよ」

「は、はい!承知しております!」

青年は耳まで赤く染め、慌てて理性を引き戻すと、三分で自己紹介を終えた。

「風間拓海(かざま たくみ)さん。いいお名前ですね」

先ほどのやり取りで、場の空気は少し和やかになった。

小夜はさりげなく褒めると、履歴書の技術的な点について一通り質問し、さらに現在会社で使われている技術や、管理上の問題点についても尋ねた。

相手はどれもよどみなく答え、いくつかの建設的な意見も述べた。

これで、ほぼ問題ないだろう。小夜が、あといくつか簡単な質問をして終わりにしようと思った、その時。ふと、窓の外に、見慣れた人影が映った。

顔を上げてそちらを見ると、思わず息をのんだ。

圭介と若葉、そして樹が、すぐ外に立ってこちらを見ていた。

拓海は小夜が黙って外を見ているのに気づき、その視線を追うと、再び驚きに目を見張った。

「すごい、絵に描いたような美形の一家ですね」

向こうの男性は端正で、女性は美しく、連れている男の子も同じように整った顔立ちをしている。彼が自然と家族だと思うのも無理はなかった。

向こうもこちらをじっと見ていることに気づき、彼は不思議そうに尋ねた。

「高宮さん、お知り合いですか?」

知り合い、どころの話ではない。

小夜は視線を戻し、話題を逸らして面接を続けようとした、その時。カフェのドアが開いた。

樹が飛ぶように駆け寄ってきて、彼女の前で嬉しそうに叫んだ。

「ママ!」

会わないでいる時は考えないが、いざ顔を見ると、樹は少しママが恋しくなった。それに、数日間ママから隠れていたことに、少し後ろめたさもあった。だから、ママを見つけるなり駆け寄ってきたのだ。

拓海はさらに驚いた。チームリーダーはこんなに若くて綺麗なのに、もう子供がいたのか?

我に返ると、気まずさでいっぱいになった。さっき、この子を他人の子だと勘違いしてしまった。どうして高宮さんは訂正してくれなかったんだ。

それに……

拓海の視線は、後から入ってきた圭介と若葉に注がれ、心の中の疑問はさらに大きくなった。

この人たちは、高宮さんの友人だろうか。

でも、この威圧感のある男性は、明らかにこの子とよく似ている。特に、あの微笑んでいるようで、人の心を見透かすような切れ長の瞳は、見ているだけで背筋が寒くなり、頭が痺れるようだ。

拓海は圭介から視線を逸らした。

圭介は拓海をちらりと見やると、数歩で近づき、微笑みながら小夜に尋ねた。

「仕事中かい?」

そう問いかけながら、彼はテーブルの上の履歴書に手を伸ばした。

小夜は彼を無視し、樹に握られていた手を引き抜くと、テーブルの上の履歴書をさっと取り上げた。

伸ばした手が空を切り、圭介の動きが一瞬止まる。しかし、彼は怒るでもなく、微笑んだままゆっくりと手を引っこめた。

後ろに続いていた若葉がそれを見て、圭-介の隣に歩み寄ると、小夜に手を差し出し、にこやかに言った。

「小夜ちゃん、久しぶりね」
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