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第3話

Author: 福満
パシッ!

彩花が、またもや柚の頬を叩いた。

「まだ反省してないわけ?ずっと蛍をいじめておいて、1ヶ月前には崖から突き落としたのに!あの子にもしものことがあったら、本当のご両親たちに顔向けできないじゃない」

彩花は声を詰まらせ、泣き出した。

すると、蛍がか細い声でなだめ始める。「お母さん、泣かないで。お父さんとお母さんが、私のこと大切にしてくれてることは分かってるから。だから、お姉ちゃんが私を傷つけて、私の死を望んだとしても、お姉ちゃんのせいにしないであげて」

「なんていい子なの……でも、蛍。死ぬなんて縁起でもないことは言わないで。柚があなたに腎臓をくれさえすれば、蛍は元気に長生きできるんだから」

ずっと黙っていた大野勇太(おおの ゆうた)も、辛そうな顔をしてうなずいた。「ああ、そうだぞ。蛍」

彩花に叩かれたせいで、柚の口の中は切れ、頬も熱く焼けるような痛みを感じていた。

しかし、誰も柚のことなど気にも留めない。

まるでこの3人家族の温かな風景の中に、柚という存在は最初からいなかったかのようだ。

ここまで嫌うなら、なぜ自分を生んだのだろう?

柚は口元の血をぬぐい、悲しげに笑った。

「お姉ちゃん。私が病気で苦しんでいるのがそんなに面白い?私は、もうこんなに辛い思いをしてるんだから、これ以上ひどいことはしないでよ……」と蛍が声を震わせていった。

勇太は眉をひそめる。

彩花も奥歯を噛み締めた。「本当、なんて子なの!」

再び手を振り上げ、柚を叩こうとする。

しかし、それを慎吾が掴んだ。

慎吾は蛍を優しくなだめると、勇太たちに蛍を連れて外へ出ているように言った。

しかし、柚は期待など抱いていなかった。

慎吾は自分のために、彩花を止めたのではない。蛍のために、腎臓を摘出するまでは自分に何かあってはいけないと思ってのことからだろう。

慎吾が皮肉っぽく吐き捨てる。「柚。前は俺たちの前で、いい顔してたくせに、今じゃ猫をかぶることすらやめたのか?」

「答えは分かってるくせに、なんで、あえて私に聞くの?」

柚は猫をかぶらなくなったのではない。

ただ、彼らに何の期待も抱かなくなっただけのこと。

誰もが自分の言葉には耳を傾けず、ただの言い訳だと決めつけるのだから。

哀れな犬のように、彼らに縋り付くのはもうやめた。

慎吾が不機嫌そうに眉を寄せる。「まだ反省してないみたいだな。もう目が覚めたんだ、さっさと手術の準備をしろ」

「うん」

柚の体力は極限まで消耗されており、歩くのもままならなかった。

待ちきれなかった慎吾は柚を引きずるように歩いた。柚は何度も地面に倒れそうになる。

ここは西村グループの私立病院だった。

ほどなくして、宮崎若葉(みやざき わかば)という女性医師が現れ、診察を始めた。

慎吾が若葉に言う。「蛍の状態はかなりまずいんだ。妻はどうなってもいいから、早くこいつの腎臓を蛍に移植してくれ」

「承知いたしました」

若葉は柚の診察を終えると、すぐさま検査結果の書類を慎吾に差し出した。

「検査結果は特に問題ありません。あと3日も安静にすれば、移植手術を行えるでしょう」

柚はそれを聞いていても、驚きはしなかった。

以前、慎吾に腎臓を提供した際の執刀医は若葉だった。

そしてあの日、腎臓を提供したのは蛍だと言い、全てを塗り替えたのも若葉だ。

これまで何度、慎吾に本当のことを伝えたか分からないが、彼は一切聞いてくれなかった。

慎吾が指先を白くさせるほど、検査結果を握りしめる。「こいつの腎臓は二つ、あるんだよな?」

「ええ、もちろんです」

若葉に動揺が走った。

しかし慎吾はただ柚のことだけを睨みつけており、若葉が動揺したことには全く気づいていなかった。

慎吾は検査結果を、そのまま柚の頭に投げつける。

「一つしかないなんて言って、また俺を騙したんだな?」

紙の端が柚の顔にあたり、切り傷ができた。

傷を触りながら、柚は枯れた声でつぶやく。「嘘じゃないよ。別の医者に検査させれば、すぐ本当かどうか分かると思うよ」

その言葉を聞いた若葉の顔色が、一瞬にして真っ青に変わった。

しかし、若葉が釈明する必要はなかった。なぜなら、慎吾が先に怒鳴ったから。

「ここは西村家の病院だ。誰が俺を騙せるって?俺を裏切り続けてきたのはお前だけだ。もう二度とお前の醜い言い訳になんか聞かないからな」

「好きにすれば?」

今まで誤解されたときには、柚は喉が裂けるほど叫んで必死に誤解を解こうとしてきた。

だが今は、体も心も疲弊し、誤解を解こうとする気力さえ残っていない。

慎吾が毒づく。「蛍のために腎臓を提供できることに感謝するんだな。そうでなきゃ、あの無人島で一生を終えてたところだぞ?」

「そうかもね」

あのまま死ぬのと、今の状況……果たしてどちらがいいのか。

慎吾は怒りを露わにしたまま、部屋を出て行った。

ドアが閉まる音がしても、柚はいつものように自分のどこが悪かったのかと己を責めたり、慎吾の機嫌をとろうとしたりすることはなかった。

自分を愛してくれない人間に、何を求めるというのだ?

柚は代行業者に電話をかけた。

「今から送る住所に行ってもらえますか?玄関はパスコードで開きますので。

中に入ったら、ビデオ通話にしてください。そうしたら、こちらが指示したものはすべてをゴミとして処分してください」

その後、柚は代行業者に自分と慎吾二人のために買った物、慎吾との思い出が詰まったアルバムなど、全て処分させた。

さらに植木屋も呼び、庭を埋め尽くしていたラベンダーもすべて抜かせる。

ラベンダーの花言葉は「愛情を待つ」、そんな花、もういらない。

自分に関する痕跡を一切残したくなかった。

撤去作業が終わる頃、柚の病室に慌てた様子の慎吾が戻ってきた。

「柚!なぜラベンダーをすべて抜かせたんだ?それに、思い出の品やペアグッズまで全部ゴミに出すなんて。お前はずっと大切にしていたんじゃないのか?」

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