Masuk園外学習で、大変な目に遭い、長時間警察に話を聞かれ、疲れたのだろう。 車に乗り込み、飯野が運転をし始めて少し。 恭はあっという間に眠ってしまった。 音羽と恭の手をしっかりと掴み、離すまいとぎゅっと握る寝姿は本当の親子のようで。 バックミラーでその様子を見た飯野は、恭が起きてしまわないように慎重に、安全運転を心がけた。 車を走らせ、数時間。 最初は起きていた音羽だったが、次第に音羽も車の心地良い揺れに眠気がやって来てしまった。 昨夜、明け方まで伏見と抱き合っていた事が寝不足の原因だろう。 音羽がこくり、こくりと船を漕ぎ始めると、伏見は恭をひょいと自分の膝に抱き上げると音羽を抱き寄せた。 「音羽。到着にはまだ時間がかかる。少し寝た方がいい」 「だけど、蓮夜……」 「恭は俺が見ておくから、少し眠った方がいい」 「ん……。ありがとうございます、蓮夜……」 素直に頷く音羽の頭を撫でつつ、伏見は恭をしっかりと抱き直す。 そして、飯野の心地良い運転に揺られて、伏見も目を閉じた。 「伏見様、伏見様」 「──っ」 体を揺さぶられる振動に、伏見ははっと目を覚ますと、腰に手を伸ばした。 腰に隠し持っている拳銃のヒヤリとした感触に、一瞬で頭の中が冴え、そのから手を離す。 「飯野さん……すみません、眠っていたんですね……」 「ええ、奥様もぐっすりと」 にこやかに飯野が答える。 彼は、運転席から出て後部座席のドアを開け、伏見を起こしてくれたようだった。 伏見はいつの間にか眠っていて、ドアに寄りかかっていたらしい。 外から飯野がドアを開けてくれた際に体が傾いたが、慌てて支えてくれたのだろうと言う事が分かる。 (しまったな……。こんな無防備に眠るなんて……) 音羽や組員以外の前でこんな風に無防備に眠った事など、伏見は今まで1度だって無かった。 それだけ、飯野を信用してしまっていると言う事なのだろうか、と伏見は頭を抱えたくなってしまった。 伏見は飯野に礼を告げ、腕の中で気持ちよさそうに眠る恭を優しく揺さぶった。 「恭、恭。お家に着いたよ」 「──ん」 伏見に優しく揺さぶられ、恭のまつ毛がふるりと震える。 「ん……お父さん?」 「──ああ、お父さんだよ、恭。……だけど、恭のお父さんでいられる魔法の時間が終わってしまったんだ」 「え
法では捌けない──。 それを聞いた瞬間、音羽の頭の中は真っ白になる。 法で捌けないって、どうして。 「そ、その……誘拐犯が、証言したんですよね……?なら、警察にその事を伝えて……」 「……」 音羽の言葉に、伏見は困ったような表情になる。 そして、言いにくそうに口を開いた。 「悪い、音羽。俺たちの家業は警察とは相容れない。……報復するなら自分たちで、だ」 「──っ」 そうだ。 確かに、そうだった。 伏見の家は、世間一般的に言えば裏稼業。 色々と制限を受ける家業だ。 そんな家の人が警察に被害届を出せるはずも、警察と協力する事も、できやしない。 「だから、俺たちは独自に動いて、自分たちのやり方で相手に報復するしかないんだ」 伏見の言葉に、音羽はこくり、と喉を鳴らす。 「……裕衣が恭ちゃんに手を出した事、それは間違いないんですよね……?」 ぽつり、と零した音羽に伏見ははっきりと頷いた。 「ああ。それは間違いない」 「──なら、蓮夜達のやり方で、報復します。司法で裁けないのであれば、自分の手でやらないと……。そうしないと、裕衣はまた恭ちゃんを狙うかもしれない……」 「分かった。そうしよう。部下にもそう伝える」 「ありがとうございます、蓮夜」 音羽は自分を優しく見つめている伏見にぎゅっと抱きつく。 きっと今頃、恭は翔や光希と一緒に夢の中だろう。 友達と楽しく目一杯遊び、友達と一緒に眠る。 そんな経験を、今まで恭はした事があるだろうか。 初めて恭と会った時の事を思い出した音羽は、きっとないだろう、と独りごちる。 恐らく友人と遊ぶのも。 園外学習に両親が着いて来てくれた事だってない。 恭は、樹の子供でもあるのに──。 それを考えると、音羽の胸は酷く痛んだ。 「……蓮夜、裕衣への報復ってどうしたらいいですか?どうやったら、恭ちゃんが経験した恐怖や胸の痛みを、裕衣にも与えられますか……!」 「──音羽」 伏見は真っ直ぐ自分を見つめる音羽の目を見返し、そっと前髪を指先で払った。 目を逸らさず、音羽と視線を合わせたまま伏見ははっきりと答えた。 「そうだな……。俺たちのやり方での報復は──」 伏見は、自分達ならどうやるか。 それをゆっくりと音羽に伝えていった。 ◇ 翌日、朝。 「お母さん、お父さん!おはようご
◇ 空が白んできた頃。 ようやく伏見の昂りも落ち着いたのか、音羽の隣にぽすり、と倒れ込んできた。 「悪い、無理をさせ過ぎたな……」 肩で息をし、息も絶え絶えな音羽を抱き寄せた伏見は頬に口付ける。 素肌の体同士で寄り添い、足を絡め合う。 キスのし過ぎでぽってりと赤くなった音羽の唇に伏見は軽くキスを落とすとゆっくりベッドから起き上がった。 「水を持ってくる。少し待っていてくれ。その後、誘拐犯について話す」 「……ん、ありがとうございます、蓮夜」 音羽の甘い声が伏見の背を追うようにかかる。 とろりと甘さを含んだ音羽の声に、伏見は再び腰が重くなったが手早くバスローブを羽織ると邪な感情を無視して寝室を出た。 音羽のためにキッチンの冷蔵庫から水を取り出して持ってきた伏見は、ベッドの上にシーツを手繰り寄せて起き上がっている音羽の隣に腰を下ろす。 ぎしり、とベッドが軋む音が静かな寝室に響いた。 「蓮夜、ありがとうございます……」 音羽が震える手で伏見から水を受け取ろうとしたが、震えているのを見た伏見は水が入ったペットボトルの蓋を開け、自分の口に含んだ。 「──え、んむっ」 伏見がペットボトルを煽った事に驚いた音羽だったが、すぐに口を塞がれ伏見から水を流し込まれる。 冷たい水が自分の喉を落ち、熱を持ってぼんやりとしていた思考が徐々にはっきりとしていくような気がした。 唇を離した伏見を無意識に追ってしまった音羽に、伏見は目を細め、笑う。 「まだ飲むか?」 「……ん、もっと」 「分かった」 小さく口を開けて待つ音羽が堪らなく可愛く、伏見はもう一度ペットボトルの中身を口に含むと音羽に唇を重ねる。 今度は水を飲ませた後、何度も唇を擦り合わせ、次第にキスを深くして行く。 薄っすらと開いた音羽の唇の隙間から伏見は舌を潜り込ませると、音羽の咥内を存分に舌先で堪能する。 舌を絡め、音羽の舌を自分の咥内に引き入れるとちゅう、と音を立てて吸った後、解放する。 「──はっ」 「音羽……」 音羽の頬にかかった髪の毛を指で避けてやりながら、指の甲で頬を撫でる。 すると音羽がすり、と頬を擦り寄せてきて。 伏見の腰は再びずくり、と重くなった。 「……あの誘拐犯、だがな」 「……んっ、ぅ……」 伏見はひょい、と音羽を自分の膝の上に抱き上げ、音羽が
浴室に、音羽の甘ったるい嬌声が響く。 「やっ、やだぁ……っ!蓮夜っ」 「ほら……。俺に怪我がないか見てくれるんだろ?早くちゃんと確認して」 「な、ならっ、指動かさないでっ!」 ぐすぐす、と泣き声のような掠れた声が音羽から漏れる。 浴室に入ってから、伏見はまるで襲いかかるように音羽の体を貪っていた。 ボディーソープを手のひらで泡立て、音羽の全身を伏見の大きな手のひらが這い回り、至る所を刺激する。 胸や、足の間、背中や脇腹、太ももなど。 音羽の体に、伏見が触れていない場所など1つもないほどにたっぷり時間をかけて「洗われて」いた。 もう、何度伏見の指で、舌先で絶頂させられたか音羽には分からなかった。 伏見にしがみつく事に必死になり、伏見の傷など見る余裕なんて音羽にはない。 むしろ、音羽が伏見の背中に刻む爪痕の怪我の方が多いし、痛いのではないか──。 快楽にぼんやりとする頭でそんな事を考えた音羽に、伏見は意識を逸らすな、とばかりに突然自身を突き入れた。 どちゅん、と体を貫く衝撃に音羽の体はびくりと大きく跳ねた。 「──ぅあっ」 「……はっ、……しっかり掴まっていろ」 「やっ、待って蓮夜……っ、足が浮いてっ」 「しがみついてろ」 「──あっ!」 待って、と懇願する音羽の声など聞こえていないとばかりに伏見は律動を開始する。 普段より激しい腰使いに、音羽は自分が落ちてしまわないように必死に伏見にしがみついた。 いつもは音羽が辛くならないよう、達し過ぎて辛くならないように気を使う伏見だったが、今日の伏見の抱き方はとても荒く、激しい。 まるで昂る感情を全て音羽にぶつけるように腰を打ち付ける。 肌を打つ音と、耳を塞いでしまいたくなるほど酷い水音に、音羽は真っ赤になってしまった。 「──出すぞっ」 「──っ!」 声にならない声を上げ、喉を反らす音羽。 目の前に現れた音羽の真っ白な喉に、伏見はたまらず噛み付いた。 そのまま音羽の中に最後の一滴まで出し切るように、腟内に塗り込むようにぐりぐりと腰を押し付けられ、音羽は断続的に体を震わせ降りてこられない快感に涙を零した。 「──寝室に行く」 「えっ、あ……っ、待って蓮夜っ、もう……!」 達しすぎて息も絶え絶えとなった音羽。 もう無理だ、と必死に伏見に訴えるが、伏見の瞳はギラギラ
深夜、1時過ぎ。 0時を少し超えたくらいまでは、子供達の笑い声がまだ聞こえていた。 だが、暫くしたら子供達の遊ぶ声も消え、既に眠ったのだろう、と言うのが分かる。 少し前まではまだ向かい側の部屋に電気が着いているのが見えたが、それも今はもう消えて暗くなっている。 「──もう、みんな眠ってしまったのね」 音羽は1人で過ごす別荘の中でぽつりと呟く。 リビングのテレビを付けているから静かではない。 だが、窓を締め切り、カーテンも締め切ってしまっていると広い空間に1人。 とても寂しく思えてしまって。 「蓮夜、大丈夫かな……」 音羽がぽつり、と呟いた瞬間。 外から車のエンジン音が聞こえてきた。 「──帰ってきた!?」 音羽が立ち上がり、パタパタと裏口に向かう。 すると、静かにドアを開ける音が聞こえ、歩いてくる足音が聞こえた。 電車ロックの解除音が聞こえ、扉を開けて入ってきたのは伏見で。 音羽は満面の笑みで伏見を出迎えた。 「蓮夜、お帰りなさい」 「──音羽?起きてくれてたのか?」 伏見は疲れたような様子だったが、音羽の顔を見るなり表情が明るくなる。 「ええ、蓮夜が帰ってくるの待ってたんです。大丈夫だった?お疲れ様」 「ありがとう」 ふ、と音羽が伏見の顔から下に視線を下ろした時。 伏見が着ている薄い水色のワイシャツに、赤黒い染みが付着しているのが見えた。 それは、血液にも見えて──。 それを目にした瞬間、音羽の顔は真っ青になる。 「れ、蓮夜……っ!怪我を……!?」 「──え?ああ、これは違う。俺の血じゃないから大丈夫だ」 慌てる音羽に、伏見はけろりと答える。 そして血を音羽に見せないようにワイシャツを手早く脱ぐと、くしゃくしゃに丸めてくず入れに捨ててしまった。 「ほ、本当ですか?本当にどこにも怪我をしていない?」 おろおろと伏見の顔を見上げる音羽に、伏見はイタズラを思いついたように口角をにんまりと上げた。 「ああ、そんなに気になるなら音羽が俺の体を隅々まで確認してくれ。どこにも怪我なないかって」 こう言ったら、音羽は真っ赤になって「馬鹿!」と言うだろうか。 そんな返答を予想していた伏見だったが、伏見の予想を音羽は裏切った。 「分かりました!怪我がないか、確認します!」 「──は?」 ◇ 場所は、浴室前
◇ 夕食は、翔と光希の家族と一緒にとった。 バーベキューの準備を音羽も恭も手伝い、飯野が食材を切ってくれる。 皆で談笑しつつご飯を食べ、あちらの家族は軽くお酒を飲む事にしたようだ。 「玉櫛さんの奥さん、ビールでも飲みますか?」 「私は大丈夫です」 有難いお誘いだが、音羽はごめんなさい、と断る。 伏見が恭のために誘拐犯に会いに行ってくれているのだ。 そんな中、自分だけお酒を飲んで楽しむなんて事、出来ない。 音羽はソフトドリンクで。 翔と光希の両親は昼間の恐怖を忘れるようにアルコールを沢山飲んでいた。 「……大分、酔いました……」 「我々は、そろそろ……」 アルコールで真っ赤になった顔で、音羽に話しかける両親。 音羽は微笑みつつ「分かりました」と告げるとキャンプ用の椅子から立ち上がった。 そして、庭先で遊んでいる恭に話しかける。 「恭ちゃん」 「お母さん!」 たたた、と走ってくる恭に音羽は頬が緩む。 「恭ちゃん、もう遅いし別荘に戻ろうか?」 「えっと……、その……」 もじもじとしている恭に、音羽は首を傾げる。 もしかして、まだ遊びたいのだろうか。 音羽は恭の手を取って、その場にしゃがみ込んだ。 「どうしたの?もしかして、まだ翔くんや光希くんと遊びたいかな?」 「──っ!は、はい。その……遊び足りなくて……」 まだ遊びたいの、駄目?と言うように見つめてくる恭に、音羽はそのあまりの可愛さに微笑んでしまう。 そうしていると、恭の後から翔と光希もたたた、と駆けてきて音羽の前にやって来た。 「恭くんのお母さん、僕たちまだ遊びたくて……。もうちょっと遊んでもいいですか?」 キラキラと期待が籠った目を向けられてしまい、音羽はそのお願いをバッサリ断る事が出来なかった。 「そうね、いいわよ」 「わぁっ!本当ですか!?やったあ!」 「恭くん、遊ぼう!」 お互い、手を繋いで嬉しそうにはしゃぐ恭と翔、光希。 その3人を優しく見つめていると、音羽の所に翔と光希の両親がやって来た。 「玉櫛さんの奥さん。もしよければ、恭くんを私たちの別荘で遊ばせますよ。もう夜中だし、外で遊ぶのは難しいので……。出来れば、今日は3人で眠らせてあげたいな、と思っていて……」 昼間の事件があったからだろう。 怖い思いをした3人だからこそ、一緒に
あまりの衝撃に、音羽の口がはくはくと動く。 だが、何の声も出せずにいると音羽の頭を抱え込んでいた伏見がそっと体を起こし、苦しげな声で音羽に囁く。 「息をしろ、音羽。……そう、吸って……吐いて。大丈夫、だ……体から力を抜け……」 「──うっ、うう……っ、苦し……っ」 「大丈夫だから、……泣くなっ」 伏見は苦しげに喘ぐ音羽に唇を落とす。 顔中に口付けを落とされている間、伏見は無理に動き出す事もせずにじっと待っていてくれた。 段々と苦しさに慣れてきた音羽は、ようやく息が整い始め、小さく息を吐き出す。 「ご、ごめんなさい蓮夜……。もう大丈夫、です……。動いて大丈夫
律子達が医務室で手当てを受けている間。 音羽は、カウンセリング室で伏見のカウンセリングを受けていた。 「気分は?気持ちが不安定になっていたりはしないか?」 「だ、大丈夫です伏見先生。びっくりはしましたが……」 「それなら、良い。……ここから軽作業場が良く見える。いきなりあんな騒ぎが起きて驚いた」 音羽の言葉に、伏見は緩く口元を笑みの形に変えた後、表情を引き締め、そう続けた。 「この部屋から見えたんですね。だからあんなに早く駆けつけて……!だ、だけど伏見先生!いくら先生が男性で、力が強くとも、あんな風に暴れている人に近付いたら危ないです!女性だからと言って、その……ここは、刑務所
「恩を売っておけ」と男が言った。 それは、女性の頼みを男が聞き入れたと言う事だ。 (きっと若は、あの子の事を調べてくれるだろう。……それに、自分達にとって有益な人間なら、上手く利用しようとするはず) 利用。 それは良くない言葉ではあるが、利用価値がある限り、酷い事にはならない。 (あの子も……あの子の子供も……どうにか助けてやれればいいんだが……) 女性は、短い間しか音羽とは関わっていない。 だが、それだけの間柄とは言え、音羽の境遇はあまりにも可哀想だ。 音羽が、自分達と同じような人間なら、そこまで気にならなかっただろう。 だが、音羽はどこからどう見ても善良な一般人だ。
◇ 玉櫛ホールディングス。 ビルの目の前にある小さな公園。 そこにやって来ていた音羽と、伏見。 ベンチに座る音羽の隣に、伏見がゆったりと座っていた。 刑務所に居る時の伏見は、何というか今目の前にいる伏見と比べて柔らかい雰囲気で、太陽の下にいても何ら違和感など無かった。 だが、今音羽の目の前に居る伏見は太陽の明るい日差しはどこか似合わない。 全身が真っ黒だからだろうか。 音羽はそう考えたが、それだけじゃないような気がする。 刑務所に居た頃の伏見と、今の伏見では全身から醸し出される雰囲気がまるで違う。 どこか夜を感じさせるような伏見の雰囲気──空気間、とでも言うのだろうか。