Share

第1087話

Author: 夜月 アヤメ
「......どんな理由があっても、嘘をついたのは俺だ。悪かった」

修の声は、どこか諦めたように沈んでいた。

「お前の言う通り、卑怯だった。どうにかして、お前と二人で話したくて......それしか方法が思いつかなかった。ほんとに、最低だった」

その声を聞いて、若子はふと口をつぐんだ。彼の母が今も行方不明な状況で、今さら過去のことを責めても仕方ない―そんな思いが胸をよぎる。

「もういいよ、それはもう過ぎたこと。今はお母さんを見つけることが一番大事でしょ。私も何か思い出せるかもしれないし、少し考えてみる。何か分かったらすぐ連絡するね」

「......ああ、ありがとう。じゃあ、切るよ。母さん、探しに行く」

修の声が消え、二人は通話を終えた。

若子はスマホを置いて部屋へ戻った。ベッドでは子どもがまだ起きていて、ぱっちりとした瞳でこちらを見ていた。

「......暁、おばあさんいなくなっちゃったんだよ。どうしようね」

誰に言うでもなく呟くように言ったあと、若子はベッドの縁に腰を下ろした。

「こんなことになるなら、あのときもっとちゃんと見ておけばよかった。あの人がどんな人だったか、はっきり覚えておけば......私、ほんとに抜けてた」

ふいに、あることが頭をよぎった。

「......そうだ、あのとき、冴島さんも一緒にいた」

思い出した瞬間、若子はスマホを掴んで、朝に着信があった番号へ急いでかけ直した。

呼び出し音が鳴る......でも、出ない。四十秒以上鳴っても、応答はなかった。

自動で通話が切れ、若子は画面を見つめたまま、少しだけ息をついた。

―忙しいのかもね......

諦めかけたそのとき、再びスマホの着信音が鳴った。

表示された名前を見て、若子はすぐに通話を繋いだ。

「若子?どうしたんだい、こんな時間に......何かあった?」

千景の声には、心配の色が濃くにじんでいた。

「ううん、大丈夫。私自身は何もないよ。ただ、ちょっと聞きたいことがあって」

「なんだ?」

「昨日の夜、レストランで一緒にいた女性のことなんだけど......あの人、私の元姑なの。さっき、元夫から電話があってね、彼女が行方不明になったって。最後に会ったのがそのときで、一緒にいた女の人が怪しいの。だって、監視カメラが全部壊されてたって言うのよ」

「そんなことが
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter
Comments (2)
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
なんでわざわざ ヴィンセントと食事したの言うかな 修とは途中で帰ったのに もうヴィンセントと一緒にいたいなら 他の人とは手を切ろうよ ノラにも曖昧な返事してるし 修母の話はいらないから さっさと話進めて
goodnovel comment avatar
barairose88
いつもいつも呆れるほど、残念に思うのは… なぜ!若子があんな危険なノラに対して無防備なのか… なぜ!絶対的信頼感があるのか… まったく信じられません。 そもそも出会いからして、作為的で、不自然過ぎるでしょう… あの甘言に、あの演技に、気が付かないなんて…あり得ない。 修は、若子と千景のやり取りで、一瞬は心乱すかも… でも今度こそ違う! 若子へ思いはブレずに、冷静に、問題解決に向き合えるはず…そう信じています!
VIEW ALL COMMENTS

Latest chapter

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1095話

    部屋に戻った紀子の体は、冷や汗でぐっしょりと濡れていた。まさか母が、あんなことをしていたなんて。震える手でさっきの写真をもう一度見直す。......あの女性、あれはきっと伊藤さん。こんな扱いを受けてるなんて、一体どれだけの恐怖と痛みに晒されてるの?母は、母は一体どこまで狂ってしまったの―紀子は唾を飲み込み、すぐに自分のスマホから写真と番号のスクショを成之に送信した。【これ、お母さんのスマホから撮った怪しい番号と写真。写真の女性、多分あの伊藤さん】メッセージを送った直後。成之から、すぐに着信があった。彼女が応答しようとした、そのとき―ガチャッ。突然、ドアが開いた。弥生が、無表情でそこに立っていた。紀子は息を呑み、慌ててスマホを背中に隠す。目を見開き、恐怖がその奥に浮かんでいた。「お母さん、どうされたんです?まだお休みじゃなかったんですか?」「あんたの音で目が覚めたの......まだ起きてたの?」弥生はゆっくりと部屋に入ってくる。その一歩一歩が、まるで獣のように重く感じられる。「―さっき、母さんの部屋に入ってきたでしょ?」「えっ......な、何をおっしゃってるんです?私、行ってないですし、きっとお母さん、寝ぼけて夢でも見たんじゃないでしょうか」「......そう?」弥生は冷たい声で返した。「でもね、私のスマホ、本当は画面を下にして置いてたの。なのに、起きたら画面が上になってたのは―どう説明する?」「え、それ......もしかして、お母さんの記憶違いじゃ?そんな小さなことで、私が部屋に入る理由ないじゃないですか」その瞬間。弥生が、紀子の顔をぐっとつかんだ。「私たちは親子なのよ、あんたは絶対に裏切っちゃいけない。母さんと手を組まないと、生きていけないの......何をしたのか、正直に言いなさい!」「お母さん、ほんとに何もしてないです、私......ほんとにっ―」ビンタが飛んだ。パァンという音が、部屋に響き渡った。頬に激痛が走る。「私は母親よ!あんたが何を考えてるか、見抜けないと思ってるの?どうして母さんに、そんなことができるの......」弥生が手を伸ばして命じる。「スマホを出しなさい」紀子は、母のビンタで頭がぐらりと揺れていた。

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1094話

    「でも、それだけ心配だったんでしょうね。だから自分で車を運転して来たんですよ。お母さん、心配しなくても大丈夫です。兄さんに何かあるわけないですから」そう言って笑いかけると、弥生も小さく頷いた。母娘ふたり、ゆっくりと屋敷の中へと入っていく。弥生は玄関で上着を脱ぎ、それをそっと使用人に手渡した。どこか疲れたような表情で、「冷たいお水を持ってきて」と一言。「お母さん、なんだかお疲れのように見えますけど?」「ちょっと踊ってきたから、体がだるくてね......紀子、あんたももう休みなさい。母さんも部屋に戻るわ」「はい。お母さんも、ゆっくりお休みください」紀子は階段を上って自室に入り、ドアを閉めてから鍵をかけた。そしてバスルームに入り、ポケットからスマホを取り出して成之に電話をかける。「紀子、どうだった?母さんの様子に変わったところは?」「兄さん、まずは落ち着いて。お母さんのことは、私の方でなんとかするから。なにか分かったらすぐに連絡するね。伊藤さんの方も、そっちで探してみて。もしそっちで見つかれば一番だし、見つからなくても、こっちでお母さんの話を引き出せるように動く。何かしらの手がかりは見つけてみせる」成之は大きく息を吐いた。「......分かった。紀子、母さんのこと、頼んだぞ」「うん、任せて」電話を切った紀子は、ゆっくりとバスルームを出た。そして静かに、待ちの時間が始まる。―夜半。紀子は冷たい水で顔を洗い、気持ちを引き締めた。そしてそっと部屋の扉を開け、音を立てないように足を運ぶ。目的地は弥生の部屋。ドアの前に立ち、慎重に隙間を開け、中を覗き込む。部屋は真っ暗だった。しかし窓の外には月光が差し込み、かすかに室内の輪郭が浮かんでいた。紀子はスマートフォンの画面をタップし、画面の微かな光だけを頼りに部屋の中へと進む。懐中電灯は使わない。あまりに明るすぎると、弥生を起こしてしまうかもしれないからだ。―そして。ベッドサイドの小さなテーブルの上、うつ伏せに置かれた一台のスマホを発見。紀子は慎重にそれを手に取り、画面を点けた。......画面には指紋認証のロックがかかっていた。ベッドの上、弥生は熟睡していた。その様子を一瞥した紀子は、静かに窓際へと移動し、膝をカーペットにつけ

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1093話

    紀子は笑顔で言った。「お母さん、そんなことおっしゃらないでください」そう言いながら、彼女はそっと母の腕に手を絡めた。まるで、寒い日にそっと寄り添ってくれる小さな湯たんぽのように、あたたかくて優しかった。「お母さんは、いつまでも若々しいです。私には、どう見てもまだ五十代にも見えません」「まあ、あんたって子は、本当に口がうまいわね」弥生は、そのお世辞交じりの言葉に目を細め、明らかに嬉しそうだった。「さあ、早く中に入りましょう。もしまたお腹が痛くなったら大変だから」「はい、じゃあ入りましょうか」そう言って紀子は成之にそっと合図を送った。目線で門の方を示しながら、「今のうちに、早く帰って」と無言で伝える。それを読み取った成之は、自然な流れで口を開いた。「母さん、紀子が大丈夫そうだから、俺はもう帰るよ。今度また顔を出す」弥生は少し名残惜しそうに眉を寄せた。「せっかく来たんだから、もう遅いし、今夜はここに泊まっていったら?」「母さん、明日朝早くから予定があるんだ。ここからだと職場が遠いから、今日は戻るよ。二人とも、早めに休んで」「......そう。じゃあ仕方ないわね。体、大事にしなさいよ。あんた、前に働きすぎて入院したことあるでしょう。なんでもかんでも自分でやらずに、部下に任せることも覚えるのよ、いい?」「今はもう、そのへんはちゃんと考えてやってるよ。見てのとおり、元気そのものだろ?」弥生は成之の手を軽く取り、優しくぽんぽんと叩いた。「ええ、本当に。うちの息子は逞しいし、娘も優しいし......ただ......長男だけは早くに逝っちゃったのが、今でも悔やまれるわ。でも......あんたたちがいてくれて、本当によかった」その瞬間、彼女の表情にかすかな悲しみが浮かんだ。すかさず紀子が話題を切り替える。「お母さん、中に入りましょう?」「そうね、入りましょう」弥生は玄関の方へ向き直ると、成之に声をかけた。「道中、気をつけてね。家に着いたら、母さんに連絡するのよ?無事着いたって」「分かった。じゃあ、行ってくる」成之は短く別れを告げて車に乗り込み、そのまま屋敷を後にした。その様子を見届けた後、紀子は母の腕にそっと手を回し、にこっと笑って言った。「お母さん、さっきの『夜のお

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1092話

    成之は、紀子の問いに答えなかった。けれど、その眼差しがすべてを語っていた―彼は、あの女性を本気で想っている。「兄さん、ほんとに......ほんとに私、お母さんに何も余計なこと言ってないの。誓ってもいい。伊藤さんの悪口なんて、ひと言だって口にしてないよ。お母さんが花に頼んで調べさせたときだって、私は花に、絶対におばあちゃんに変なこと言うなって、きつく釘を刺したの。花も口を滑らせたりしてない。だから......信じて」彼の焦りようを見るかぎり、やっぱりお母さんが関わってるに違いない。花が何も話してなかったとしても、あのお母さんのことだ。裏で手を回して、すでに何かを掴んでいた可能性は十分ある。いくら昔のこととはいえ、母さんは未だに根に持っていて......まさか、今さらこんな仕打ちをしてくるなんて。「紀子、お前も知ってるだろ。母さんが恨みを持ったら―光莉は、無事じゃ済まない。少しでも心当たりがあるなら、頼む、教えてくれ」成之は妹のことを信じていた。けれど、母のことは信じられなかった。「兄さん......私だって、今どこにいるか分からないけど......電話してみる」「......母さんは、お前の電話には出ないんだ」「じゃあ、どうすれば......?兄さん、いっそ持ってるコネ全部使って探してみてよ。見つかるよ、絶対。だから、そんなに焦らないで......」「紀子......焦るなって、どうやって言うんだよ」半生をかけて、ようやく愛せた女だ。そう簡単に落ち着いていられるはずがない。ちょうどそのとき―一台の車が静かに門の前で停まった。兄妹は同時に振り向く。車はゆっくりと門を通り抜け、彼らのすぐそばで止まった。運転手が降りて後部座席のドアを開けると、そこから現れたのは―まるで何事もなかったかのような顔で、優雅に車を降りてくる女。身にまとったオーラは冷たく、涼やかで、まさしく「あの人」だった。成之が来ていたのを目にして、弥生は驚きと嬉しさが入り混じったような顔を見せた。「成之、こんな夜更けに......どうしたの?」その瞬間、成之の表情が一変する。次の瞬間には彼女に駆け寄っていた。「母さん―!」「お母さん」紀子が一歩前に出て、成之の腕をそっと引っ張った。「ちょっと体調が悪くて、ちょうどその時に兄

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1091話

    ビュン!振り上げられた鞭が空を裂き―バチンッ!!「―ああっ!!」鋭い音と共に、光莉の背に赤い線が走った。皮膚が裂け、血が滲む。闇の中、彼女の悲鳴が痛々しく響き渡った。......成之は今日、光莉に何度も電話をかけていた。だけど彼女は一度も出なかった。なんだか胸騒ぎがする。何か、良からぬことが起きたような―そんな直感が拭えない。そこで彼は人を使って調べさせた。調査の矛先が藤沢家に向けられたとき、ようやく手がかりを掴んだ。どうやら光莉が行方不明になったらしい。成之は即座に警戒モードに入り、人を使って彼女の行方を探させ始めた。同時に、藤沢家の動向も洗い出した。その結果、藤沢家が一つの腕時計を追っているという情報を掴んだ。その腕時計は、世界に数十本しか存在しない限定品で、国外の所有者を除けば、B国では所持者が極端に少ない。成之はその情報を元に持ち主を一人ずつ洗っていった。ところが―その中の一人が、自分の母だった。彼はすぐに母に電話をかけた。しかし、どれだけコールしても応答はなかった。メッセージもすべて既読無視。痺れを切らした成之は、自らハンドルを握り、母の元へと車を飛ばした。到着した別荘は、既に明かりが落ちていた。成之はクラクションを何度も鳴らし続けた。その音に気づいたのか、ようやく門が開いた。紀子が、寝巻きに上着を引っかけて外へ出てきた。車を降りてくる成之の顔を見て、彼女は一瞬怯んだ。「兄さん、こんな時間にどうしたの?」鉄のように冷たい顔をした成之が、一気に距離を詰めて紀子の腕を掴んだ。「母さん、家にいるのか?」「いないよ。最近はすごく忙しくしてて、ずっと外に出てる」「何で忙しいか、知ってるか?」その声には、いつもの兄とは違う重みがあった。紀子の表情に不安の色が浮かぶ。「......いったい、何があったの?兄さん」「先に答えろ。母さん、最近は何してる?」成之の声はさらに鋭くなった。紀子は思わずビクッとし、慌てて言葉を返す。「細かいことまでは知らないけど......なんか、仕事のこととか、投資とか言ってた」その「投資」という言葉を聞いた瞬間、成之の中で全てが繋がった。光莉の失踪―絶対に、母が関わってる。「本当に、何があったの?お願い、兄さん....

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1090話

    「それは高峯がしたことです。私には関係ありません......私だって、あの人に無理やり......どうして、私を責められるんですか?」光莉の声は、震えていた。納得がいかない気持ちが胸の中で渦巻いていた。―なぜ、こういう女性たちは、男の過ちを男にではなく、女にぶつけてくるのか。「あんたが無理やりされたって?じゃあ、どうして抵抗しなかったの?本当に嫌なら、誰があんたを無理やりにできたっていうの?あんたはあの伊藤支店長よ、藤沢家の人間。遠藤高峯に何ができるっていうの?」「......抵抗は、しました。でも......彼には、触れさせたくありませんでした。おっしゃる通り、私は藤沢家の者です。ですが、もしこのことが家に知られたら......きっと高峯と藤沢家は全面対決になります......私はそれを望まなかった。ただ、それだけなんです」「それだけ?」弥生の目が細くなる。「......ですから、私は藤沢家には何も話していません。自分で、なんとかするつもりでした」その時、彼のことを信じた。成之が、「もう高峯には話をつけた」と言ってくれた。もう大丈夫―そう思った。もう二度と、彼に関わることはないと。実際、それから高峯からの連絡は途絶えた。ようやく解放された気がして、光莉は胸を撫で下ろしたばかりだった。......まさか、こんなことになるなんて。「ふふっ、なるほどね。つまり、あんたは被害者ぶってるわけね?自分が傷ついて、苦しんで、それでも家のために黙っていた―そう言いたいのね?」弥生の声は、冷たくて、どこか小馬鹿にしているようだった。その口調が、たまらなく不快だった。けれど光莉は、ぐっと堪えて言った。「......間違っていますか?私が苦しまなかったと思っていらっしゃるんですか?私は、高峯の初恋でした。それなのに......彼に捨てられて、それから何年も経って......今度は家庭を持った私に、彼がまた迫ってきたんです。脅されて、強引に、何度も―あなたも女性ですよね?どうして......どうして、そんなふうに私を責めるんですか?」「女だからって、間違いを責められないと思ってるの?そんな都合のいい盾、私は認めないわよ。うちの娘だって、女よ。でもね、あの子は自分が女だからって、それを言い訳にしたことなんて一度もない。

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status