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第1088話

Author: 夜月 アヤメ
スマホの向こうで、修は数秒間沈黙した。

何かを言いかけたようだったが、結局そのまま黙り込んでしまう。

それを感じ取った若子は、すぐに口を開いた。

「修、今はお母さんを見つけるのが一番大事。話は、それからにしよ」

今の彼との関係なんて、今はどうでもいい。若子はそう思っていた。

「......分かった。じゃあ、探しに行ってくる。若子も、休んで」

「うん」

そう答えると、若子はすぐに通話を切った。

少しでも助けになれたことに、若子は胸を撫で下ろす。そして、心の中で千景への感謝が自然と湧いてきた。

すぐに電話しようかとも思ったが、もう遅い時間だった。邪魔になってもいけないと思い直し、代わりにメッセージを送った。

「ありがとう。さっき修に伝えたよ。とても助かった」

ほどなくして、千景から返信が届いた。

「気にしないで」

若子は続けて送る。

「おやすみ、ゆっくり休んでね」

「うん、君も」

ベッドに横たわり、若子はそっと子どもを抱きしめた。

その小さな体を感じながら、目を細めて囁いた。

「......大丈夫だよ、おばあさんはきっと、無事だから」

......

バシャッ!

いきなり冷水が頭からぶっかけられ、光莉はビクリと体を震わせた。そのまま、がばっと目を見開く。

荒く息をつきながら、周囲を見回す。そこは冷たい鉄製の倉庫だった。壁も床も金属むき出しで、あちこちにガラクタが積まれている。明かりは一つだけ。黄ばんだ電球が、チカチカと頼りなく瞬いていた。

必死に思い出そうとする。いったい、何が起こったのか。

―たしか、取引先を送ってる途中だった。車を停めたのは、人っ子一人いない郊外の道。すると、突然その人が「ここでいい」と言い出した。

光莉は車を止め、後を追って外に出た。ただ、早く乗り込んでくれればいいのに......そう思って。

だが、その瞬間だった。背後から何かが振り下ろされ、後頭部に鈍い衝撃。

気づいた時には、もうここにいた。

ズキズキと痛む頭を押さえながら、光莉はうっすらと目を開ける。

ギイィ―

軋む音と共に、鉄の扉が開いた。

入ってきたのは、ヒールの音を響かせながら歩く一人の女。ゆっくりと姿を現したその人は、まるで上流階級の夫人のような雰囲気だった。

照明がいくつか追加で点灯し、光莉の目の前が明るくなる。

そこに
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