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第1427話

Author: 夜月 アヤメ
救出作戦の開始まで、残り三十時間。

修は光莉と曜を呼び出し、三人でリビングに集まって話していた。

空気は重苦しく、修の顔にも余裕はまったくなかった。ただただ、厳しい表情だけが浮かんでいた。

光莉も曜も黙り込んだままで、気まずい沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは、修だった。

「今日呼んだのは、大事な話があるからだ」

「何の話?」曜が尋ねる。

「もし俺が死んだら、暁のことを頼む」

その言葉を聞いた瞬間、曜も光莉も、顔に驚きが広がった。

「修、それってどういう意味?」光莉が声を震わせて言った。「何かあったの?最近ずっと様子がおかしいし、全然会えないし、連絡も取れなかった。それに若子とも連絡がつかない」

何か大きなことが起きている予感はしていたが、誰も真相を教えてくれなかった。

光莉は成之にも連絡を取ろうとしたけれど、彼も何も教えてくれなかった。

救出計画は徹底的な秘密裏に進められていて、修も成之も誰にも漏らさないよう細心の注意を払っていた。少しでも情報が漏れれば全てが水の泡になる。それだけは絶対に避けたい。

修は腕時計に目を落とす。

「三日後、俺から連絡がなかったら、その時は何があったか察してほしい。もし連絡が入ったら、その時も何が起きたか分かるはずだ。だから約束してほしい。もし俺が戻れなかったら、絶対に暁のことを頼む。彼はあなたたちの孫だから」

修は今、暁のことを両親に託すしかなかった。

光莉は震える声で尋ねた。

「これって若子と関係あるの?彼女がいなくなったから、探しに行くのね?」

修は立ち上がり、「母さん、これ以上は言えない。俺から連絡があるまで、ずっと見張りをつけるつもりだ。絶対に後悔するようなことはしないでくれ。そうじゃないと、一生許さないから」

そう言い残して、修はリビングを出ていった。

光莉は何かに気づき、すぐに立ち上がって追いかけた。「修!」

彼女は修の手を掴み、涙で潤んだ目で懇願した。

「何となく分かったわ。お願い、ひとつだけ約束して―どうか、あの子の命だけは奪わないで。彼はあなたのお兄さんでしょう?」

修の目に怒りが浮かぶ。「俺が手を出さなかったら、あいつがみんなを殺す。母さんはそれでいいのか?」

「違う、そうじゃないの」光莉は必死で訴える。「修、私は......」

「母さん、遠藤に連絡しようなんて考える
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Comments (3)
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
そうですよね 殺し屋が好きなんだから 絶対戻らない 若子どうなろうといいのですが 修と暁ちゃんには 幸せなエンディングがいいです
goodnovel comment avatar
barairose88
大丈夫です! 強かで逞しい若子は、さすが殺し屋を愛するだけあって、肝が据わっています。 救われても、彼女自ら元サヤには戻らないと思います。 若子はナナと、修は暁ちゃんと穏やかに過ごすがエンディング!そう思っています。
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
やっぱり行くんだ 暁ちゃん厳重警戒してあげてからだよね 絶対2人に任せるのは反対 面倒見ないで放置する 現に母親帰ってるじゃん 暁ちゃん無事にいて欲しい まだ遠藤の手先いるし 若子奪還は仕方ないけど 元サヤ反対 エンディング別々の人生にして
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