Share

8.本当は愛していた?(ロバート視点)

last update Huling Na-update: 2025-07-24 20:07:47

「エミリアーナ! カリナを逃したのか?」

 僕は急いでエミリアーナの部屋に向かい問い詰めた。

 産婆はカリナの行方を頑なに吐かなかったが、隠し通路の方に血の跡が続いていた。

 エミリアーナは赤いベロアのソファーに腰掛け足を組み、グラスを傾けながら赤ワインを飲んでいた。

 随分と長い時間飲んでいるのか、彼女からむせ返るような強い酒の匂いがした。

 彼女は僕の問いかけに慌てるそぶりもなく、唇の端をあげてニヤリと笑った。

「カリナを逃したのは産婆ですわ。ただ、カリナに騙された事を認識させ長い通路を抜けた先で獣の餌になる絶望を与えてみたいと考えたことはありますが⋯⋯」

「⋯⋯!!」

 僕は目の前の悪魔のような女の言動に絶句した。

(カリナには心を許して、別れを惜しんでいるように見えたのに⋯⋯)

「ロバートも私に隠れてカリナを愛でる部屋を作っていたようですね。それでは彼女は自分の不幸に気がつけませんわ。実は私は彼女が大嫌いなんです。この私に烏滸がましくも同情しているのですよ。だから、教えてやったのです。あなたの方がずっと可哀想よって!」

「僕は生まれた赤子に何かあった時の為に、カリナを残して置こうと思っただけだ。僕はいつも国の為に動いている」

 カリナを生かすリスクは理解していた。髪色、目の色だけでなく顔立ちも彼女に似て来たら疑惑の目を持たれないとも限らない。だから、わざわざ僕しか入れない彼女を隠す部屋を作った。

「国の為? 良いでしょう、そういう事にしといてあげますわ。子も生まれた事だし、離婚しましょう。最初から男の子を産むなんてカリナは本当に良い子でしたわ」

「離婚?」

 エミリアーナの元からの計画には離婚も含まれたのだろう。

 飲み過ぎているせいか目が座っているが、口調はしっかりしている。彼女は淡々と用意していたように言葉を紡いだ。

「生まれた赤子の名はエミリアンにしましょう。私の代わりに人質として使ってくださいな。カリナを探しても無駄だと思いますよ。あの子、骨まで美味しそうだし跡形もなく獣に食べられているでしょう」

 一瞬カリナに想いを寄せたように見えたが、心底楽しそうに高笑いをするエミリアーナをみて僕は離婚を決意した。

 隠し通路を抜けた先の荒野を捜索範囲を広げてカリナを探し続けた。

 しかし、本当に骨まで食べられたのかと思える程に彼女の姿は見つからなかった。

 カリナを失って空虚な日々が続いた。

「愛している、カリナ⋯⋯」

 毎日のように彼女のいた部屋を訪れベッドを撫でながら呟いていると、本当は自分が彼女を愛していたような錯覚に陥る。

 いつも彼女が腰掛けていたベッドは冷たくなっていた。ここで、僕は彼女と愛し合う恋人のような夫婦のような時間を過ごした。

 ただ国王になる為だけに生きて来た自分にとっては、不思議な時間だった。

 カリナに名前を呼ばせたのは、彼女が王である僕ではなく僕自身を求めていたからだ。

 (そんな女に出会える人生が僕にあったなんて⋯⋯)

 カリナとの時間は思い起こせば夢のようだ。僕の名前を宝物のように呼び、小さな手で遠慮がちに触れてくる。愛おしく可愛い僕だけのカリナ。彼女を失った事を認められず、彼女への渇望は日に日に強くなっていった。

 乗り気になれなかったが、オリタリア帝国に赴かねばならなかった。

 そこで、僕はいるはずのない間違えるはずもない探し求めた彼女を見た。

 透けてしまいそうなくらい白い肌に、どこか浮世離れした澄んだ紫色の瞳。

 彼女が人間なのだと自分だけが知っている気がした。

「カリナ!」

 夢にまで見た彼女との迎合。

 しかし僕の期待とは真逆の表情を彼女はしている。

(怯えているな、でもこれもまた、実に良い表情だ)

 彼女の精神を自分が支配している事実に嗜虐心を煽られた。

 久しぶりに会えたことに歓喜していたのに、邪魔者が入った。

ランスロット・アイリー公爵だ。

 彼が現れた瞬間から、カリナは彼だけを見つめていた。

 自分の主人を忘れた彼女に苛立っていると、ランスロット・アイリーはありえない事を言い出した。

 (カリナとランスロット・アイリー公爵が婚約?)

 そもそも、カリナがスペンサー王国にいることさえ不可解なのに、あのランスロット・アイリーと婚約するなんて信じられなかった。

 優秀過ぎるがゆえに、若くして公爵になった彼はオリタリア皇帝から絶大な信頼を得ている。今日の会談も彼に皇帝が代理を任せているほどだ。

 彼と結婚されてしまったら、僕はカリナを取り戻すことができなくなってしまう。

 僕は婚約が解消になるように、家柄が釣り合わない事やカリナの親戚の面倒さを説明した。

 僕はカリナを必要としていたが、彼女と結婚する気はなかった。

 彼女と結婚するメリットがない上に、乞食のような彼女の叔母が王族の親戚になる。

 もしかしたらアイリー公爵は僕がカリナにしたように結婚をチラつかせ、彼女を囲い込もうとしているのかもしれない。

 彼は冷酷な人物だと聞くし、彼女も僕と一緒にいた方が幸せなはずだ。

 事実、彼女と僕は長い間甘い時間を過ごして来た。

 こちらにはエミリアンという人質もいる。

(エミリアンを餌にカリナを取り戻せないだろうか⋯⋯)

 また、囲って毎晩愛でてやれば、彼女はすぐに僕に縋ってくるだろう。

 とにかく、彼女と2人きりで話す機会を作れないか伺っていると、会談が始まってしまった。

 オリタリア帝国の皇太子が結婚するということで、各国のトップが一箇所に集まっているのを利用し開催される会談。

 その会談の中心になっているのは、ランスロット・アイリーだ。

 もう、彼が皇帝なのではないかと勘違いする程の威圧感。

 当たり前のように、各国のトップを見下ろす1段上の席に彼が腰掛ける。

 普段、国を治めている連中もなぜか彼の前では威厳が削がれてる感じがした。

 彼が爵位を継いだ1年前から、オリタリア帝国はより力を強めた。

 こちらの情報が全て漏れているのではないかというくらい、外交が抜群に上手い。

 それゆえ、高齢の皇帝は内政だけでなく国際的なやりとりを彼に任せるようになった。

 自分なら力を持つ彼を危険視するが、カイゼル・オリタリア皇帝は彼に全幅の信頼を寄せている。

 「会談を始める前に皆様にお知らせしたい事があります。ヘンゼル皇太子殿下と我が妹レベッカ・アイリーの結婚式の5日後、私も結婚式を挙げる事となりました。宜しければ皆様を招待させてください」

 会議場がどよめきに包まれると共に、祝いの言葉が飛び交う。

 ヘンゼル皇太子の結婚式から1週間は会談や祝いの舞踏会などで国賓が帝国に留まる。

(まさか、カリナと本当に結婚する気なのか?)

「おめでたいですな。アイリー公爵夫人になられる方は一体どなたなのですか?」

 レンデス国王の言葉に、ランスロット・アイリーの琥珀色の瞳がキラリと光る。

「スペンサー王国出身のカリナ・ブロア男爵令嬢です」

 一斉に皆が僕を見る。

 おそらく皆、心の中で同じことを思っているのだろう。

(『小国の下級貴族令嬢が大帝国の公爵に嫁入り?』)

「カリナ嬢は前王妃の侍女をしていた令嬢でして⋯⋯」

 「カリナは僕の女だ」と主張したかったが、口から出て来たのは全く別の言葉だった。

「王妃の侍女になるとは優秀な方なんでしょうね」

「アイリー公爵の心を射止めるのだから、さぞや美しい天女のような方なのでしょう」

 皆が口々にカリナを語り苛立ちが止まらなかった。

 カリナは優秀ではなく、簡単に騙せる単純で愚かな女だ。

 でも、その愚かさが愛おしい。

 確かに彼女は、この世の者ではないような不思議な儚い美しさを持っている。

 ずっと僕だけが楽しんできた彼女を譲るつもりはない。

 その後の会合の内容は殆ど上の空だった。

 議場を出ると、先程カリナを案内した赤髪のメイドがいた。

 ランスロット・アイリーを見つけるなり、メイドは駆け寄り小声で耳打ちをする。

「アイリー公爵殿下、カリナ様がお倒れになりました」

 メイドの言葉を聞いて足早に何処かに向かうランスロット・アイリーをこっそりつけた。

 いつも無表情の彼が明らかに焦った顔をして、ある部屋に入って行った。

(よし、カリナの部屋が分かった)

 カリナが僕たちの時間を思い出すように、愛を語ってやれば良い。

 彼女に大帝国の公爵夫人など務まるわけが無い。

 人の悪意にも気が付けない彼女はきっと苦労する。

 僕の機嫌だけをとって暮らした方が彼女も幸せなはずだ。

 僕は後で部屋に行って、2人きりになりカリナに何を話そうか企んだ。

Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App

Pinakabagong kabanata

  • 契約夫無双〜冷血公爵様は妻の願いを全て叶えます〜   9.真実を告げる時

     身を捩っても抜け出せないくらいの強い力でロバートが抱きしめてくる。「ロバート国王陛下、おやめください。今の私は婚約者がいる身です」 自分の発言に、なぜランスロット様が私なんかを婚約者にしたのか気がついてしまった。 彼は私を愛しているから婚約者にしたのではなく、私の事情を知り同情しロバートから守る為に婚約者にしたのだ。 彼の優しさに気がつき明らかに彼に惹かれ始め、一緒になれると心が浮ついていた。 心が急速に沈んでいく。 よく考えれば、私なんかをランスロット様のような方が愛してくれる訳がない。 「ランスロット・アイリーと結婚⋯⋯仮に本当に彼と結婚したとして、君にアイリー公爵夫人が務まるのか? オリタリア帝国の貴族令嬢やご夫人方を纏めあげ監督しなければない立場だぞ」「私はオリタリア帝国でお役に立てるように頑張ります⋯⋯だから、陛下は私を放っておいてください」 手で思いっきり彼の胸を押し返そうとしても、ビクともしない。「また、寝ながら泣いていたのか⋯⋯可哀想に。涙の跡が頬に残っているぞ。オリタリア帝国の貴族は人前で泣いてはならぬらしい。僕は君の泣き顔が愛おしいがな」 彼はまた私の言葉がまるで聞こえないように、自分のしたい事をし始めた。 涙の跡にそっと口づけされ、恐怖で体が硬直する。「もっと、見せてくれ君の泣き顔を」 顎を右手の人差し指で上げられ、目を合わせさせられる。 愛おしいと言いながら、私の心臓を凍らせるような冷たいブルーサファイアの瞳。 私は思わず目を逸らした。「陛下にもう私を見て欲しくもありません。陛下はいつも私の質問に応えてくれませんよね」「まさか、いつも従順だった君が拗ねるとこが見られるとはな。では、質問に応えてやろう。エミリアンを取り出した産婆は今、地下牢にいる。君が僕とスペンサー王国に戻るなら、牢から出してやるぞ」 私を救ってくれた恩人が地下牢にいる。(本当に? 殺してない?) 監禁されていた時は全ての疑いから目を逸らしていた。 しかし

  • 契約夫無双〜冷血公爵様は妻の願いを全て叶えます〜   8.本当は愛していた?(ロバート視点)

    「エミリアーナ! カリナを逃したのか?」 僕は急いでエミリアーナの部屋に向かい問い詰めた。 産婆はカリナの行方を頑なに吐かなかったが、隠し通路の方に血の跡が続いていた。  エミリアーナは赤いベロアのソファーに腰掛け足を組み、グラスを傾けながら赤ワインを飲んでいた。 随分と長い時間飲んでいるのか、彼女からむせ返るような強い酒の匂いがした。 彼女は僕の問いかけに慌てるそぶりもなく、唇の端をあげてニヤリと笑った。 「カリナを逃したのは産婆ですわ。ただ、カリナに騙された事を認識させ長い通路を抜けた先で獣の餌になる絶望を与えてみたいと考えたことはありますが⋯⋯」「⋯⋯!!」 僕は目の前の悪魔のような女の言動に絶句した。(カリナには心を許して、別れを惜しんでいるように見えたのに⋯⋯)「ロバートも私に隠れてカリナを愛でる部屋を作っていたようですね。それでは彼女は自分の不幸に気がつけませんわ。実は私は彼女が大嫌いなんです。この私に烏滸がましくも同情しているのですよ。だから、教えてやったのです。あなたの方がずっと可哀想よって!」「僕は生まれた赤子に何かあった時の為に、カリナを残して置こうと思っただけだ。僕はいつも国の為に動いている」 カリナを生かすリスクは理解していた。髪色、目の色だけでなく顔立ちも彼女に似て来たら疑惑の目を持たれないとも限らない。だから、わざわざ僕しか入れない彼女を隠す部屋を作った。「国の為? 良いでしょう、そういう事にしといてあげますわ。子も生まれた事だし、離婚しましょう。最初から男の子を産むなんてカリナは本当に良い子でしたわ」「離婚?」 エミリアーナの元からの計画には離婚も含まれたのだろう。 飲み過ぎているせいか目が座っているが、口調はしっかりしている。彼女は淡々と用意していたように言葉を紡いだ。「生まれた赤子の名はエミリアンにしましょう。私の代わりに人質として使ってくださいな。カリナを探しても無駄だと思いますよ。あの子、骨まで美味しそうだし跡形もなく獣に食べられているでしょう」 一瞬カリナに

  • 契約夫無双〜冷血公爵様は妻の願いを全て叶えます〜   7.彼女は僕のもの(ロバート視点)

     ロバート・スペンサーは、カリナとの馴れ初めを思い出していた。 彼女は彼にとって唯一王でもない自分を求めてくれる必要な存在だった。 スペンサー王国の地下資源を狙い、いつ戦争を仕掛けてくるか分からないサマルディー王国。 2カ国は話し合いで解決できないくらい多くの問題でぶつかり合ってきた。 貴族たちからのすすめもあり、人質としてエミリアーナ・サマルディー王女を娶る事に決めた。 当時22歳のエミリアーナ・サマルディーの初対面の印象はあまり良いものではなかった。 彼女は贅沢を好み、暇さえあれば宝石を買い漁った。 臣下にはキツくあたり、スペンサー王国の貴族と友好関係を築こうともしない。 政略結婚とはいえ、彼女と夫婦を続けなければならない事を思うとため息が漏れた。  一大行事である国婚を終え、深夜に王妃の寝室に行くとエミリアーナは中が透けて見えそうな夜着を着てベッドに横たわっていた。 まだ、今日の最後の行事である初夜が残っていると思うとため息が漏れた。「ロバート、面倒に思うなら何もしなくても良いのですよ。するだけ無駄ですから⋯⋯」「するだけ無駄とは、もしかして不妊の王女をサマルディー王国は送り込んで来たのか?」「正解ですわ。勘はよろしいけれど、大切な事実に気がつくのが遅すぎますわね。その少しの遅れが命取りですわよ」 エミリアーナはベッド横の引き出しから小瓶を取り出して、ベッドに赤いサラっとした液体を垂らした。「馬の血です。初夜が滞りなく行われ、私が純潔を失った証が必要ですから。まあ、私はとっくに純潔など失ってますわ。そもそも幼い頃に受けた暴行が原因でこのような体になったのですから⋯⋯」 エミリアーナは周囲の人間を深淵に引き摺り込むような暗い瞳をしていた。 王女に暴行? 一体誰が⋯⋯何がサマルディー王国で起こっているのだろう。「なぜ、今、種明かしをしているのだ? 待てど暮らせど跡継ぎができない事で我が国が混乱することを見越して、そなたが嫁いで来たのであろう?」 サマルディー王国が一夫多妻制をとっているのに対

  • 契約夫無双〜冷血公爵様は妻の願いを全て叶えます〜   6.エミリアーナ様と私

     カリナは夢の中にいた。 幸せだった時の記憶を夢の中で手繰り寄せるのが彼女の蘇生術だった。 目の前には下女に過ぎなかった自分を侍女に取り立ててくれた、エミリアーナが微笑みながら自分を見ている。 『カリナ、本物を見極める力をつけるのよ』 エミリアーナが目の前に沢山の金色の宝石を並べる。 『さあ、この中でイエローダイヤモンドはどれでしょう』 『えっと、こちらの石でしょうか?』 とても透明感があり、高級そうに見えた右から2番目の宝石を指差す。 『それは宝石の中で最も歴史が深いと言われる琥珀よ。摩擦によって静電気を帯びる性質を持っているから幸運の石とも呼ばれるの。イエローダイヤモンドはその隣にある石』 『どの石も、とても綺麗に見えます』 彼女の言葉にエミリアーナは、「カリナらしい」と言って笑った。『カリナ、よく聞いて。宝石の区別がつかないと貴族としては本物を知らないと馬鹿にされるわ。左からシトリン、琥珀、イエローダイヤモンド、ゴールデンベリル、トパーズ、イエローサファイア⋯⋯』 エミリアーナはその後もそれぞれの宝石の特徴を、石言葉と共に細やかにカリナに説明した。彼女は宝石の並び位置を入れ替えて、カリナに再び質問をする。『カリナ、では、琥珀はどれでしょう?』『え、えっと⋯⋯』 カリナはエミリアーナが丁寧に時間を掛けて説明してくれたのに、ここで間違った答えを出すわけにはいかないと緊張して固まってしまった。 カリナの手にエミリアーナはそっと琥珀を握らせた。 黄金に輝く見た目とは異なり驚くような軽さだ。『琥珀は宝石の中で最も軽い石。よく目を凝らしても分からないなら触れてみなさい。自分には理解できないと目を逸らしていてはダメよ』 真剣な目で語り掛けてくるエミリアーナの姿にカリナは感動を覚えた。 記憶にある限り自分にこれ程、丁寧に向き合ってくれた人はいない。『エミリアーナ様、私なんかの無知の為に貴重なお時間を割いて頂きありがとうございます』『私なんか? 聞き捨てならないわね。あなたは私の侍

  • 契約夫無双〜冷血公爵様は妻の願いを全て叶えます〜   5.自分が気持ち悪い

    「ただ、名門アイリー公爵家ともなると、結婚相手の選定は難しくなるはずだと余計なお節介を口にしてしまいました」 私は初めて人間らしく狼狽えるロバートを見た。 彼はいつも何を考えているか分からなくて私を不安にさせた。 そのせいで私は彼を逆らえない巨大な存在のように感じていた。(自分の失言に狼狽える、普通の男だわ⋯⋯)「選定? 家の為の結婚をしなければならないと考えた事はありません。アイリー公爵家と縁を持ちたい家門は多いですが、こちらは必要としてませんので。将来的に我が妹がオリタリア帝国の皇后になりますが、ロバート国王は我が家門の心配を? それともオリタリア帝国の行く末を心配なさってるのでしょうか」 淡々と語るランスロット様の言葉の通りだ。 アイリー公爵家はオリタリア帝国の皇家より歴史が深い伝統のある名家だ。 その上、レベッカ様は次期皇太子妃に内定している。 カイゼル・オリタリア皇帝陛下は近々譲位する事を考えているともっぱらの噂だから、レベッカ様が帝国の女性最高地位である皇后に即位する日も近い。 富と権力を持ち平和と安寧を築いているオリタリア帝国のアイリー公爵家に対して、ロバートの物言いは的外れで失礼だ。「し、支度金を用意できないのではないかと心配しているのです。カリナの両親は亡くなっていて、預けられた親戚の叔母の家は貧しく借金まみれです。カリナも王宮での給与は全て借金返済に回してました」 私は自分のプライベートな事情をロバートに知られていることに驚いた。「支度金? お金の話をするのは下品だというのが父上からの教えなのです。オリタリア帝国とスペンサー王国では常識が違うのでしょうか?」 ランスロット様がほくそ笑む。 威圧感、飄々とした態度。 彼を前にするとロバートが私を自由にできる国王ではなく、どこにでもいる男に見える。「いえ⋯⋯ただ、カリナはその⋯⋯僕と⋯⋯」「いい加減、私の妻になる女性を恋人のように呼ぶのはやめて頂けませんでしょうか。辛抱強いと自負しておりましたが、流石に我慢の限界かもしれません」 瞬間、

  • 契約夫無双〜冷血公爵様は妻の願いを全て叶えます〜   4.私を陥れた男との再会

     私はヘンゼル皇太子とレベッカ様と共にオリタリア帝国の皇宮に向かった。 ここが世界の中心であると、遠くスペンサー王国内でしか生きていない私でも知っている。「ここが、皇宮⋯⋯」 世界中の富と権力が集結しているのが一目で分かる。 オリタリア帝国はその領土だけでもスペンサー王国の10倍以上の規模だ。 その上、世界のリーダーと言っても過言ではない程、政治経済の中心になっていた。 アイリー公爵邸もスペンサー王国の王宮並みに豪華で驚いたが、皇宮の豪華絢爛とした荘厳さと建築技術の繊細さに私は見入ってしまった。  皇宮の内部に入ると全面大理石の床には埃1つ落ちていなかった。(私なんかが歩いても良いのかしら⋯⋯)「レベッカ、今から父上に挨拶に行こう」 ヘンゼル皇太子はレベッカ様に微笑みながら語りかける。 彼の全身から彼女が好きで堪らないという気持ちが伝わってくる。「はい。カイゼル皇帝陛下とお会いするのは久しぶりで少し緊張しますわ」 レベッカ様はヘンゼル皇太子の前では演技をしているように見えた。 彼女は緊張など全くしていないのに、ヘンゼル皇太子が喜ぶ言葉を選んでいる。 庭師のケント様といる時の彼女は、心臓の音がこちらまで聞こえそうなくらい緊張して昂っていた。「ふふっ、父上は恐ろしい逸話を沢山持った方だからな。でも、父上もそなたを気に入っているし、余もいるから緊張などしなくても大丈夫だ」 周囲の目も憚らず、ヘンゼル皇太子はレベッカ様を抱き寄せた。 レベッカ様は感情を失ったような琥珀色の瞳を、そっとまつ毛を伏せて隠すように目を閉じた。「セーラ、中庭で待っていてくれる? あなたに付く下女を後で紹介するから」「はい。畏まりました」  2人は仲睦まじそうに話しながら去っていった。 オリタリア帝国では侍女になる私の世話をする下女までつくらしい。(いいご身分ねカリナ⋯⋯) 産んだ子の世話もせず、逃げてきた先で厚遇を受ける自分に呆れた。 

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status