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3.結婚相手にふさわしいのは私なのよ

last update Date de publication: 2025-04-28 08:28:22

「え?啓介が結婚する?嘘でしょ?」

カフェでミルクティーを飲んでいたが、思わずカップを落としそうになった。スマートフォンの画面に表示された友人のメッセージに私は思わず二度見する。

(あの啓介が結婚?なぜ?私が結婚の話をした時は興味がないって言っていたのに…。)

過去の記憶が怒涛のように押し寄せる。啓介は結婚願望がなく、どれだけ真剣に交際を申し込まれても結婚を意識している女性とは距離を置く男だった。どれほど尽くしても努力しても彼を手に入れることは出来ない。何を隠そう私もその被害者の一人なのだから。

会社の経営者で社長で見た目もスマートで多くの女性が狙っていた。啓介のことを色々と知っていくうちに結婚願望がないことが分かり、自分も結婚願望はないと言って近寄った。時間をかけてゆっくりと過ごしていくうちに私の存在の大きさに気づいて結婚を意識してもらおう。付き合って1年以上経ってから何度か結婚の話を持ち出した。

高収入で浮気もせずに一途に愛してくれる誠実な啓介との結婚は理想の未来そのものだった。しかし、その度に啓介は眉間に皺を寄せ「結婚は今の俺には無理だ」と頑なに結婚を拒んできた。

「付き合ったら啓介も変わって結婚を考えてくれるかもしれないと信じていたのに……。」

最終的にはそう言って別れを告げた。その言葉を聞いた啓介は「つらい思いをさせてごめん」と悲しい顔をして言ってきた。それ以上は言葉にせず引き留めない啓介に悔しさと嫌気がさした。

それなのに啓介が結婚?しかも相手は自分ではないどこかの女。

「ふざけないでよ……結婚なんて興味ないって言ってたじゃない。結局、私との結婚を避けたかった口実だったの?」

唇がわなわなと震える。胃の奥から込み上げてくるどす黒い感情。それは、失恋の悲しみとは違う、もっとドロドロとした相手の幸せを許せないという醜い感情だった。

自分がどれだけ頑張っても手に入れられなかったものを、他の誰かがやすやすと掴んだのだとしたら?悔しさ、怒り、屈辱感が心を苛んだ。

啓介のようなハイスペックな男性を逃したことは、私にとってキャリアの失敗と同じくらい許しがたいことだった。彼を自分の物にできなかったことへの不甲斐なさ。そして、啓介に「結婚する気はない」と拒絶された過去が今、最悪の形で突きつけられている。

(相手の女は何者なの?どうやって啓介をその気にさせたっていうの?)

その時、私の脳裏にひとつの邪悪な考えが浮かんだ。

啓介が結婚に嫌悪感を抱いているのは知っている。彼が結婚するというのはきっと何か裏があるに違いない。私と同じように「結婚したい」と圧をかけ彼を追い詰めたというのなら、その女もすぐに啓介に捨てられるだろう。

(啓介を奪いたい。正攻法ではなくとも二人の関係の弱点を突くようなやり方はないだろうか……。)

「相手のことは知っている?」

結婚を教えてくれた友人にメッセージを送りスマホを握りしめ画面を見つめる。返信が来るまでの時間がとてつもなく長く感じられた。数分後、ピコンと通知音がなり心臓が跳ねる。

「それが聞いたことない名前だったんだ。カナさんって言うらしい。結構キャリアウーマンみたいだよ」

その名前には聞き覚えがなかった。啓介の会社関係?それとも全く別の繋がり?どちらにしても自分よりも後から現れて啓介を射止めた女。

凛は席を立ち化粧室へ向かった。鏡に映った自分の顔はひどく歪んでいた。

『カナ……』

その響きを心の中で反芻する。

(カナは一体どんな女なの?どんな風に啓介を落とした?なぜ私ではダメだったの?)

怒りがじわじわと込み上げてくる。それは啓介への怒りであり「カナ」という未知の相手への強い敵対心だった。

(啓介を手に入れたい。このまま終わらせてなるものか。彼の隣にいるのは私であるべきなんだから……!)

鏡の中の自分の目に強い光が宿る。悔しさや怒りとは違う冷たい決意の光。

「カナ……」

まずは情報を集めよう。カナという女について知る必要がある。

啓介との関係は?どんな付き合い方をしている?きっと啓介が結婚を決めるほどの何か特別な理由があるはずだ。でも、結婚という形式を選んだとしても彼の根本にある「自由」へのこだわりは消えていないはずだ。

頭の中で、啓介を取り戻すために様々な思惑が交錯し始める。

啓介が結婚を厭うのは、家族のプレッシャーや責任を嫌うからだ。きっと結婚する女は、啓介にとって都合のいい「形式上の妻」に過ぎない。あの啓介が恋愛感情で縛られるような結婚を選ぶはずがない。……ならば方法はまだある。

(啓介の家族は、彼が一人っ子であるため跡取りを強く望んでいる。そして啓介自身が子供嫌いではない。もし相手が子供を望まないタイプだとしたら……?)

私はニヤリと顔を歪んで笑みを浮かべた。

(諦めるものか。啓介…あなたを取り戻すから。見知らぬ女なんかにあなたを渡さない……)

自分でもゾッとするほど冷ややかに微笑んだ。それはこれから始まる嵐の前の静けさかのように不気味な微笑みだった。

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