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第2話

작가: 八雲詩乃
まさか、こんなに早く承認されるなんて。

若葉は愕然とし、胸が締め付けられる思いがした。前から、自分を追い出したかったということか?

「誰が帰ってきてもいいと言った?」宗介が、ふいに口を開いた。

冷え切った口調、刺すような言葉。電話でいつも聞いていた、あの冷徹な宗介そのものだった。

若葉がよく知る、宗介の姿がそこにはあった。

「昨日、電話で伝えたはず」若葉は宗介の視線を避け、突き刺さるような冷たさに耐えるように答えた。

「俺がいつ認めた?」

「だから、お母さんが病気なの」

「だからどうした?」宗介は冷ややかな目で若葉を見下ろす。「お前の身勝手な私情を、会社が尻拭いするわけがないだろう?」

向けられた視線はこれまで通り、何も映さない凪のように、若葉を徹底的に突き放していた。「自分で会社へ行って処分を受けろ」

処分?

退職届を出した自分に、彼がどんな処分を下せるというのだろう。そう言い返せばしつこく口論になるだけだし、今の彼女には、他に優先すべきもっと大事なことがあった。

「処分のことは会社に行って人事と話をつける。でも今日来たのは、別の用件があったから」

「話があるなら家政婦を通せ」宗介は話を続ける気はないようで、時計に視線をやりながら立ち去る姿勢をとった。

彼が背を向けるのを見て、若葉は単刀直入に切り出した。「今すぐお金が必要なの」

宗介は一瞬だけ立ち止まり、不快げに眉をひそめた。「いくらだ?」

聞いてくれたことに望みを感じ、若葉は少しホッとした。それまでの不安な気持ちも、少し軽くなった。「3400万円」

さらに誤解をされないように、続けて説明を加えた。「母が入院したの。私の貯金を合わせても、あと3400万円足りない」

そう言うと、彼女は夫と呼ばれるその男を、すがるように熱い眼差しで見つめた。

若葉は、彼なら出してくれるだろうと信じていた。仕事の上では厳しい間柄でも、プライベートでは夫婦なのだから。

何より大学時代から知る仲で、プロポーズも彼からだったのだから、少しは大切に思われているはずだ。結婚して3年、これほど尽くしてきた気持ちだって届いているはずだし、宗介にとって3400万円なんて端金のようなものだ。普段着るコートだってそれ以上の価値があるのだから。

だが彼が洩らしたのは承諾ではなく、鼻で笑う低い声と、剥き出しの嫌味だった。「若葉、俺に金をせびるのか?一体何の権利があって?」

その冷たい言葉に、頬に手痛いビンタを受けたようで、若葉の期待は一瞬で打ち砕かれた。

若葉は頭が真っ白になった。

何の権利か?

自分は宗介の妻で、この会社のために何百億も利益をもたらし、資産の半分を得る正当な権利がある――そんなことは言うまでもないはずだ。

だが、宗介のあまりに冷淡で蔑んだ目を前にして、若葉はただプライドが削り取られるのを実感するだけだった。

「借りる、という形でもいい?」

「借りる?お前に何が返せるんだ?」

譲歩しても宗介は追い詰めてくる。若葉は苛立ち、苦し紛れに言った。「じゃあ、自分の給料とボーナスから差し引き処理してくれればいいでしょ!」

「お前の安い月給で、その3400万円をいつまでに返し終えるつもりだ?」宗介の態度は冷徹そのものだった。

悔しさに目が熱くなり、若葉の視界が涙でにじんだ。「宗介、そこまで冷酷になる必要があるの?」

「冷酷?」宗介は冷淡な目で彼女を見下ろした。「自分の立ち位置が理解できていないのはお前の方だ」

理解できていない?婚姻関係にあるのは事実だろう?それとも、他人に劣る関係だと言いたいのか?

言葉が続くより早く、2階から犬の激しい鳴き声が響いた。若葉の心に嫌な予感が走る。

盛沢市へ赴任する前に彼女はコロという犬を飼っていたが、一緒に行けないため家に残していた。当時の家政婦に頼んでいたのだが、すでに別の家政婦に代わっている。だとすれば、コロは……

若葉は言い争いを止め、駆け出した。近づくたびに高まる惨烈な声。若葉は不安で仕方がなかった。

角を曲がると、横たわる犬の姿を見つけた。間違いなくコロだ。しかし目の前の光景に、若葉は悲鳴をあげそうになった。

コロを取り囲んでいるのは涼香と悠人だったからだ。

涼香が腕を組んで立ち尽くす中、悠人がコロの腹に乗っかり、無慈悲に蹴りつけていた。「デブでブス!ママじゃない!」

正気を失いそうな若葉は絶叫した。「何してるの!?」

声を上げても悠人は手を休めず、若葉を一瞥してから冷酷に蹴り続けた。

限界に達した若葉は駆け寄り、悠人を引き剥がすと、ぐったりしたコロを抱き寄せた。弱々しい呼吸が途切れそうだ。

近付いてみて分かった。コロの額には一枚の写真が貼り付けられていた。若葉と宗介のウェディングフォトだ。

写真の宗介の姿はすっかり切り裂かれており、そこには、あどけなく幸せそうに微笑む若葉の姿だけが残されていた。写真の幸せそうな笑顔と、現在のこの酷い有様はあまりに対照的だった。

溢れる感情と怒りに手が震え、若葉は思わず悠人に手を上げようとしてしまった。

すると今まで黙っていた涼香が、悠人をかばって立ちはだかった。「何なの?たかが犬じゃない?子供に対して本気になるわけ?」

「子供?こんなことをする子供が子供と言えますか!」若葉は叫んだ。「子供がこんな野蛮なことをするのも、大人が悪影響を与えているからでしょう!」

その言葉に涼香が顔を真っ赤にして詰め寄った。「誰に対して説教しているの?ここが誰の家か分かっているわけ?」

その鋭い大声を聞いたのか、若葉の懐のコロは恐れるあまり激しく痙攣した。

若葉はコロの頭を優しく撫で、必死に宥める。もはや争う時間はない、まずは病院へ連れて行かねばならない。

若葉が立ち去ろうとすると、涼香が口を開いた。「あなたなんて宗介に全く相応しくないのよ」

単なる嫌味を超えた、露骨な挑発。養妹というより、宗介への恋心が透けて見えた。

若葉はただ冷たく言い放った。「お似合いかどうかはそっちが決めることじゃないです。そもそも結婚を持ち出したのは宗介ですよ」

だが涼香は憤るどころか、得意に満ちた目で微笑んだ。「そう?でも、宗介が誰のためにそれをやったか、何も分かっていないのね」

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