Masuk***
「皇太子殿下を裏切って、下級騎士と姦通したんですって。」
「まあ!なんて淫乱な。確かになんか冷たい方だとは思っていたよ!
それにあの見た目だもの。白銀の髪に豊満な胸。あの妖艶な青い瞳なんて、いかにも浮気しそうよねえ。 元皇太子妃のリーリエ様って。」あの忌まわしい事件から流れる様に時が過ぎ、今日私は裁判で決められた通り【娼館】に送られる。
「不貞を犯した皇族が罰で娼館送りになるのはまだマシな方だよ!
処刑じゃなかっただけでも良しとしないと」「元皇太子妃がねえ。御愁傷様。」
気づいたら帝国中に私の悪い噂が広まっていた。
これはエドウィン様が意図的に流したものと思われる。 愛するロベリアとわが子の為に。 連日のように行われた裁判で私はいつもの様に自分の無実を主張したが、すでに裁判員の貴族達は買収されていたようだった。 粘り強く主張し続けたが…「私は無実です。」
「そんな男を淫らに誘惑しそうな顔して、嘘を吐くんじゃない。」
中には、私の顔や外見だけで暴言を吐く裁判員まで。
例の下級騎士までもが嘘の証言をした。「リーリエ様に誘われて………」
こんな下劣な男など知らない。
私は不貞行為を犯していないのに、なぜ私だけが責苦を受けるの。 皇族専用席に座るエドウィン様が私を冷ややかに見下ろしていて、すぐ真後ろにはお腹を摩りながら微笑うロベリアの姿が。エドウィン様……。
貴方は本当にもう、私を一欠片《ひとかけら》も愛していないのですね。ロベリア。今貴方はどんな気持ちなの?親友だった私を地獄に突き落として満足?
結局裁判では、どれだけ無実を訴えても誰も私に耳を貸そうとしなかった。 一度植え付けられてしまった【淫乱】という汚名を注ぐ事は、非常に難しくて。 私が身体を許したのはただ一人、エドウィン様だけだ。 だがどんなに違うと言っても、この見た目が災いしてしまう。 疲れ果てた私はそのうち抵抗するのもやめてしまった。皇族や王族に関わる熾烈な女同士の戦い。
歴史的に見てもあらゆる国でこういった事案はいくつも起こってきた。女によって政治が傾き滅んだ国さえもある。 いくら正妻でも、君主に新しい女ができればこういった争いに巻き込まれ、呆気なく命を落とすという事もざらにある。 どんな世界でも男と女がいる限り、愛憎劇は繰り返される。 つまりこれは必然だったのだろう。 娼館送りになる当日、用意された馬車の前に立つ私にエドウィン様は最後まで冷たかった。 早く消えろと言わんばかりの表情。「さっさと馬車を出せ。その淫乱な女の顔を見てると虫唾が走る。」
4年という月日を共に過ごしたのに、エドウィン様の態度はあまりにも無情だった。
もう何も期待などしない。頭を低くして馬車に乗り込もうとすると———。「待って下さい……!リーリエ様!」
ロベリアが泣きそうな顔して真後ろから私を引き止めた。…力が強すぎる!
私はこれまで、リーリエの何を見てきたのだろうか? 兄さんが私を脅しにきたすぐ後、他の女官達からの密告があった。 「告白いたします! ずっと、皇太子妃……ロベリア様に脅されて言えませんでしたが…… 本当は、元皇太子妃のリーリエ様は素晴らしい女性でした。 私達にはいつも優しくしてくれたんです。 ですが私達は……ロベリア様に……言うことを聞かなければクビにすると言われて。 だから、宮廷にリーリエ様に関する悪い噂を流しました。」 「なん、だと?噂?何の?」 それは、リーリエが実際には一度も言ったことがない言葉だったという。 「《エドウィン様が無能》だと。 《彼はできそこないで、仕方なく仕事を手伝っている》と。……まるでリーリエ様が言ったように噂を流せと……」 「《夜を共にするのも面倒臭いし、あれも下手くそだ、》とも。」 「何だと!!」 そんな恥部まで!? 「《私は優秀だ、エドウィン様は無能》。」 そんな……嘘だ。すべてロベリアが? じゃあ、夜の誘いを断ったと思っていたあの全ては? ロベリアが手紙を止めていて、リーリエは知らなかったのか?一人のあの食事も? 「それにロベリア様は、殿下と関係を持つ前に、複数人の男性と寝ていたそうです。 そのおかげで殿下を落とせたと、やけに自慢していたそうですよ。」 嘘だろう?私が初めての相手ではなかったのか!?ロベリア!君は! さらにリーリエ付きだった補佐官も言う。 「いつも、エドウィン様の事をお考えになっていましたよ。」 「仕事の手柄は、全てエドウィン様のものにするようにと。」 出てくるのはリーリエが私のために懸命に働いてくれていた事実と、ロベリアの多くの嘘。
裁判は滞りなく進み、時々ロベリアが馬鹿みたいに反論してきたけれど、皆分かっていた。 “いかに私の揃えた証拠に信憑性があるか”。 いかにロベリアの言っている事が嘘っぽく聞こえるか。 そしてついに彼女は墓穴を掘る———。 「何よ、皆して! リーリエを裏切って不貞を働いたのは、エドウィン様じゃない! 白状します、裁判長! リーリエを嫌って、不倫していたのはエドウィン様です! 彼は喜んで私を抱いてました! 不妊用のワインも、彼が積極的に飲ませていたんです! 皇帝陛下も皇后陛下も、子供が欲しくてリーリエを追い出したんですよ!どうです!?これで、私だけが悪いなんて言えないですよね!! 私は悪くありませんよね!ねえ!」 ———本当に馬鹿なロベリア。 私は彼女が必死に叫ぶのを見て、思わず吹き出してしまいそうになった。 まさか自分のみならず、エドウィン様や両陛下の企みまで暴露してしまうなんて。 長年親友していた、こちらが恥ずかしいわ。 傍聴席のアイザック様が微笑し、一般から選ばれたデリラも、ぐっと拳を掲げてくれる。 「——— 皇太子エドウィン・カディスと皇太子妃ロベリア・モンターニュは、皇室の法を犯し、不貞行為を働きました。 あげく、元皇太子妃に不妊のワインを飲ませ、罪を着せて娼館送りにした! これは皇族に最もあるまじき、重罪です! よって、ここに二人の有罪判決を言い渡します!」 わぁ!っとデリラを始め、傍聴席の貴族や帝国民達が一斉に歓喜の声を上げる。 その時———。 「裁判長、少し宜しでしょうか。」 アイザック様……? 傍聴席のアイザック様が立ち上がり、裁判長に挙手をして訴える。 彼は裁判長に何かを見せたよ
「私———リーリエ・アスターグレンは、皇太子殿下とその妻、ロベリア・モンターニュの二人に罠に嵌められました。 二人は姦通の罪を誤魔化すため、私を罪人に仕立て上げたのです。」 手っ取り早く私の潔白を照明するには、公開裁判が一番だ。 早くに裁判所で手続きをしており、エドウィン達だけでなく、二人の罪を黙認した皇帝達も引き摺り出した。 この裁判で、私は関係者だけでなく、一般からも傍聴者を募る。 事実は、カディスの国民によって広げられるからだ。国民の口は遥かに緩い。瞬く間に私の無実が伝わるだろう。 「な!私達は姦通なんかしていません! この女が在位中も、清い関係でした!」 ———ロベリア。私がもう何者でもないからって、たいした口の利き方ね。 「被告人は静粛に。」 「裁判長、証人を呼んでも?」 「認めましょう。」 今回の裁判長は熟年のベテラン女性で、面識もある。 公正な判断をしてくれるだろう。 さっきまで原告席の私の隣にはアイザック様がいて…… なんの心配もいらないと、手を繋いでくれていた。優しい彼の前で、私は堂々と戦う。 ———証言台に現れたのは、アウトローの魔術師だ。 彼はアイザック様を見てはビクビクと怯えてる。 何をされたのか分からないけれど、とにかく都合がいい。 「私はロベリア様に依頼され……約3年の間、不妊になるよう魔術を施したワインを作っていました。 ロベリア様はそれを、元皇太子妃に飲ませると言っていました。皇太子殿下の子を産ませないようにと……」 「!!」「!?」 エドウィンも、ロベリアも、皇帝達も皆面白いほど顔が青ざめる。 身に覚えがあるみたいでよかった。 「こんなの嘘よ!あの女の作り話です!」
娼館に戻ってから数日後。 いよいよ、リーリエの反逆が始まった。 裁判の準備は順調のようだ。 その前に、リーリエがこっそりロベリアの元へ行って少し怖がらせたいと言う。 心配なので、私は付き添いたいと申し出た。 そうして、目にした彼女の鮮やかな脅迫の瞬間。何の心配もいらなかった。 私は今にも場所を選ばず、逞しい彼女を襲ってしまいそうになる。 あ……違う!私はリーリエのそばにいると、すぐ発情してしまうようだ。気を取り直そう。 「リーリエ様。先に娼館へお帰り下さい。私は少し用があります。」 彼女を転移魔術で戻した後、私は愚かなエドウィンの元へ向かった。 魔術で、エドウィンが暮らす皇太子宮へ音もなく転移して。 「まさか……兄さん?」 実は、私が魔獣退治で忙しい時に…… リーリエにかけておいた防護魔術に、こいつの気配が引っかかったのだ。 大事に至らなかったのは、覚醒したリーリエが徹底抗戦したからだ。 それがなければ、リーリエに手を出したエドウィンは私のかけておいた魔術によって死んでいたはず。 死んでよかったのに。 まったく、リーリエは優しいのだから。女神だな。 まあ、もし本当にエドウィンが彼女に手を出していたら、直に私が殺していたけれど。 彼はガウン姿で、よろよろとベッドから這い出た。 まるで恐ろしいものでも見るよう。そんなエドウィンに、私は容赦なく近づく。 やがて彼の襟元を掴んで、冷酷に告げた。 「私は言ったよな? 必ずリーリエを幸せにしろって。」 ガクガクと彼の唇は面白いほど震えた。 私がいかにすごい魔力を持っているか、知っているんだ、こいつは。 ずっと私を妬んで、つけ回していたから。 「しかし兄さん……!彼女は結婚してからすごく傲慢で、私の仕事を取り上げたりし
何も変わってない。 いやむしろ、艶やか。美しさが増したリーリエが微笑する。 単純な衣服しか着てないのに、それさえ華やかに見える。 「お久しぶりね、ロベリア。 どう?その皇太子妃宮での生活は。 楽しめている?」 「リーリエ!?貴方な、に、どうやって……いや、それより娼館を抜け出して何してるのよ!」 宙に浮いてる?不気味ね……! 隣のアイザック・バロンズは噂の通りいい男だった。 もしかすると、エドウィン様より美形かも。 「貴方よね、娼館に下品なモンターニュ家の騎士達を送ったのは。」 「な……!?なんの、こと……?」 バレたみたいね。でも騎士達は何も言わなかった。あ、でも数人が体調不良で休んでいたわ。 「今のうちに楽しんでおくのね。 裏切り者のロベリア・モンターニュ。 ……すべて、知っているのよ。」 ふわりと微笑をしたリーリエは、髪を靡かせ、アイザック・バロンズと共に闇へと消える。 「リーリエ?ちょっと、リーリエ!?」 何なの……それに、何だかリーリエの雰囲気が違った。 何を?……何を知っているというの? 私は何も悪くない! 皇太子妃の座を奪い、権力を手にした。それの何がいけないのよ! 過去の偉人だって、やっている事じゃない! いやだ。……リーリエが怖いわ!
昔寝た男の中に、アウトローの魔術師がいた。 彼に、リーリエが不妊になるワインを作ってもらう。 絶対にリーリエに子供なんて産ませない! エドウィン様の子を産んで、皇太子妃になるのは私よ! 何も気づかないお馬鹿なリーリエは、黙ってみてなさい。 私が貴方を見下す、その日まで…… そうして、エドウィン様との刺激的な情事を楽しみ、3年後に彼との子供を作った。 リーリエに姦通の罪を着せ、最も惨めで不名誉な娼館送りを提案する。 あんな所に送られたら……リーリエの神経なら三日で精神崩壊確実よね。 ———勝った! 私はあの、孤高の皇太子妃、リーリエ・アスターグレンから、皇太子妃の座を勝ち取り、皇太子の子まで妊娠したのよ! 最高よ! エドウィン様もすっかりリーリエを嫌ってしまったみたい。憎しみすら抱いてそう。 ざまあみろ。いつも高い位置から人を見下ろしているからよ。 たまには下から人を見上げてごらんなさい。 ———で、上手く皇太子妃になれたはずなのに。皇帝陛下達にも認めて貰えたのに。 なんか上手くいかないし、周囲に馬鹿にされるし、……仕事ができない。 え?この仕事量をあの女は一人で?信じられない!私には無理よ! 少しずつエドウィン様が苛立っていくのがわかる。 それに彼が、なぜかリーリエのいる娼館に行っているという情報が入る。 しかも、最近悪い事が二つ。 あの魔術師と、嘘の証言をした下級騎士が消えたというのだ。 自分達の意思で消えたならともかく…… だけど、慌てないで。 ただの娼婦になったリーリエには、何もできない。バレる心配なんてないわ。 けれど想定外だった。 彼女があのアイザック・バロンズだけに買わ
朝目覚めると。扉を開けて部屋に入ってきたロベリアや、他の女官数名が悲鳴をあげた。 私は裸で、隣には………エドウィン様が寝ているものだとばかり。 「きゃあああ!!皇太子妃様、その男は一体誰ですか!!」 「まさか、皇太子妃ともあろう者が不貞行為を犯すなんて………!!」 ロベリア。貴方にはもう来るなと言っておいたのに、なぜその場にいるの? それに人の夫と不貞行為を犯したのは…… 「申し訳ございません、皇太子妃様!! 誘いを断れずに……殿下に触れた私の罪でございます!!」 床にひれ伏す見慣れない男。 証言が狂気じみてる。 こんな男知らない。何も覚えてないのに。 事態は
かつてこの宮廷で法を犯し、皇帝陛下と不貞行為を働いた子爵夫人は重い罰を与えられこの帝国を追放された。 今度もそうであって欲しかったのに。 ロベリアは全てが暴露され、皇帝陛下が事態を把握したはずなのに私の目の前に堂々と立ち、太々しく言った。 彼の子を妊娠した伯爵令嬢ロベリア。 美しい桜色の髪に金色の瞳。 社交界の花と言われる程の美貌の持ち主。 「陛下が特別に赦免《しゃめん》下さるそうです。 皇太子殿下の血を引く子供の母親だからと。 ……許してね?リーリエ。私、エドウィン様を愛してしまったの。 ここにはすでに愛おしい彼の子が宿っているのよ。」 彼女が大事そうに自身の腹を撫で
もう駄目。逃げられない。遂にあの人の逞《たくま》しい手が伸びてきて…… 今夜こそ、私は彼に蕩《とろ》けるほどに……… *** 「リーリエ。頼みがある。 どうか皇太子妃の座を、ロベリアに譲って欲しいのだが。」 「え?……ロベリアですって?」 「そうだ。彼女が私の子を妊娠した。 その子を正式な皇子として認知してやりたいのだ。だから、どうか頼む。」 穏やかな春の午後の事だった。 いつものように執務室で書類作成を手伝っていると、夫のエドウィン様に背中側から唐突にそう突きつけられた。 振り向くと、見慣れた皇太子の夫がそこにいた。 容姿は珍しい鶸色《ひわいろ》の髪に、灰色の瞳
ロベリア!一体何を企んでるの? すぐに追い払おうとしたが、逆に腕を強く掴まれてしまう。 「ロベリ———」 「可哀想なリーリエ。 まさか娼館送りだなんて。 あんな所に送られて、本当に惨めね。 私…………ずっと貴方が嫌いだったの。 いつも偉そうに上から人に物を言ってくる貴方が。単に高貴な家に生まれたというだけで。 感謝してよね?皇太子妃の座は私が継いであ・げ・る。 貴方と違ってエドウィン様に愛されながら、彼の子をたくさん産んであげるから!ふふ!」 イタズラ好きな子供の様に、ロベリアは私の耳元で小さく囁いた。 ………………この女は悪魔だ。 親友だからと、ロベリアには二人き







