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10.涼の願い

last update Date de publication: 2026-02-19 11:00:00

 翡翠が椅子から立ち上がる。

「それじゃあ、終わったら執務室においで」

「分かりました」

 翡翠が静かに扉を閉めたあと、革靴の足音が遠ざかって行く。

「……」

 緊張が走る。

 涼にとって、この異常な世界で生きる術を今、一時の判断で決めなければならない。

 一度深く深呼吸をし、『核』に向かって言葉をかける。

「貴方は会話はできる ? 」

『お答え出来る範囲だけです』

 中性的な声。

 機械でもなく、人のような抑揚も無い。不可思議な声質。

「質問とかしてもいい ? 」

『答えられる範囲のみになります。これは皆、共通の条件です』

「分かったじゃあ……。ここから出るにはどうしたらいいの ? 」

 突然の確信。

 だが『核』は暫く処理時間を費やし返答を出した。

『悔い改め背負うことです。ここはそういう場所です』

「そういうことじゃなくて……。俺は無になりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……」

『苦楽は囚人によって感じ方が違います』

 涼は『核』の返答が、どこかやり取りになっていない気がした。プログラムされたような、決まり文句のようなものに聞こえてならない。

「なんで俺が呼ばれたの ? ここって日本人だけ ? 」

『外国人もいらっしゃいます。言語は共通で、『城』にいる限り自動翻訳されています。

 一ノ瀬  涼様のご招待は更生の余地ありとみなし、リストの中からピックアップいたしました』

「俺は……そういうんじゃなくて、全て0にしたかったんだ。生まれ変わったり現実逃避したい訳じゃないんだ。

 無になりたかっただけなんだ ! どうして俺を殺さないんだよ !! 」

 ここまで来た涼のストレスが爆発してしまった。

『お答えできかねます』

 『核』はさらりと言い放つ。

 コレに感情などないのだ

 受け入れるしかない。

 そして考える。自分が活かせること。

    しかし、そんなものが自分にあったとしたら、生前も自死など選ばなかったかもしれない。

 否、母親からの虐待。

 強制的な性と暴力。

 それを考えれば、今はいくらかマシなはずだ。

 フェンランが言っていた。女達は絶対に身体を売ることをしない。少なくともフェンランを囲う女たちはそうして、ここで生き延びている。

 京もフェンランもそうだが、感情が見えなかったら涼は早々に地雷を踏んだかもしれない。アクの強い者たちだ。これからもそんな者との出会いがあるだろうと考えていた。

「じゃあ、お願い事の話なんだけど……」

『一つだけ叶える事が出来ます』

「魔法使いになりたいとかできる ? 」

『魔法の種類は多岐にわたります。故に一つの願いとはみなされません』

「俺が生まれつき、他人の感情を視ることが出来るのは知ってる? 」

『把握しております』

「知ってるのは貴方だけ ? 」

『管理人の翡翠様も存じ上げております』

 翡翠が気楽に囚人にお喋りするとは考えられないと涼は思う。

「じゃあ。お願いだけど。

 この『感情を視る能力』をさ、もっといい感じにパワーアップして欲しいんだ」

『いい感じ、とは ? 』

「ここで生きるのに役に立つそうな感じにだよ。統計とかない ? より視やすくとか……いや、もう視えてはいるから……。もっと、この『城』で、他人と争わないで済むように生きてたいんだよね。そういうのない ?

    『城』に都合のいい感じでいいからさ」

『理解しました。

 では『感情視認能力の強化』を始めます』

「え !? いや、本当にそれでいいと思うっ !? 」

『城に必要な能力です』

「そう…… ?

    う、うわっ !! 」

 突然の強烈な閃光。

 思わず目を閉じ顔を背ける。

「────っ  ! 」

 無音。

 涼は少しずつ瞼を開き核を確認する。

『城』は浮いたまま、元の淡いグリーンの発光体に戻っていた。

 手の平を広げてジッと見つめる。球体関節の付いた人形の指。何も変化を感じられなかったが、誰かに会ってみなければ確認もできない。

 涼は恐る恐る核から離れると、翡翠の執務室への一本道を歩いた。

『……尚、能力の進化につきましては、一切の責任を負いませんのでご了承ください』

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  • 強制狂葬 狂眼ドール   これにてFin〜ありがとうございました

    読了してくださった方、支えてくださった担当さんとXでのリポストなど、全ての方に御礼申し上げます。大変ありがとうございましたm(_ _)m制作小話『強制狂葬 狂眼ドール』の制作について、サスペンスや流血描写を自分の作品上、切っては切れないスパイスになっていて……しかし時代は規制の厳しい年齢制限の時代 ! 何とか打開策はないかと考えたのが、身体を人形の体にする ! 血は出ない ! 修理できる ! 監禁やデスゲーム要素も異界の刑場という事にしてリアル感より気味の悪さを押し出そうと模索しました。強制狂葬、というタイトルの中で「誰が強制的に狂った葬りを受けたのか」は、主人公 涼の他のキャラもある意味当てはまります。しかし他にも……。脱獄という言葉を皮切りにストーリーは進行し、やがて涼は監獄に適応しようとし、それが全てを歪ませてしまう。けれど、最初の歪みはフェンランの存在でもあります。最古の女囚の正体ですね。フェンランを語る上での冥花の存在。あれは……つまり違法な物ですがこれも出すわけに行きませんから、冥界に咲く花を加工する──そうして狂眼ドールの世界は全てはが比喩で作りました。人間が自分の罪を清算するとはなんなのか。どうすれば清算したと言えるのか。それはきっと刑罰を受ければいいとイコールではない。そんなお話でした。これにて連載終了となりますm(*_ _)m長い間ありがとうございました !! では新作でお会いできればと思います!!

  • 強制狂葬 狂眼ドール   18.エピローグ

     京の足音は黒いブーツのゴム底を床に擦りながら歩く音だ。 ズザ……ズザ…… 無言で暗い囚人塔を歩く。誰もいなくなった『城』の内部。カビ臭く、湿度が高い。大きな声で喚く者も、賭けで盛り上がる男たちも、今はもういない。全て外の闇へ巣立って行った。 半分は輪廻転生を叶えるだろう。中でも辿り着けず意気消沈してしまう者も。皆、覚悟の上で出て行った。 今、『城』は大時計が出る前。これから翡翠が完全に『核』へ変貌したら、再びこの天井には藤紫色の大時計が現れるだろう。そしてまたいつか囚人から生贄が選ばれ、時が来たら鐘の音が響き、生贄の眼は狂ったように変色していくのだ。 京は一人、食堂への渡り廊下へ向かう。「…… ! 」 食堂の明かりはついていた。「陳さん……残ったって聞いてた。まじかよ……すげぇ。すげぇよ」「……」 陳は相変わらず口を開かない。しかし京をじっと見つめたあと、トレイに銀の皿とスプーンをカンッと置き差し出した。「はは。こんな状況でも腹は減るもんなぁ……」 トレイに乗ったものは豆カレーとライス。 いつだったか。涼が楽しそうに豆カレーを毎日食べる男の話をしていた記憶がある。 あの時、涼に「生贄に選ばれている」と伝える事が出来ていれば……しかし、京自身あとから聞いた話。不可能だったことは分かっている。 後悔はいつまでも込み上げるものだ。 椅子に座ろうとした時、長テーブルの上に食事の乗ったトレイが他にもある事に気付く。 誰も居ない席。 京はすぐにそれが何か気付いた。 トレイの横に写真立てがあった。中にあるのは写真ではなく絵だったが、恐らく陳が自分で描いたものだ。必死で、何度も描いては消しを繰り返しながら。ようやく描けた愛妻の絵を遺影に使い、誰もいない時に食事を供えていたようだ。

  • 強制狂葬 狂眼ドール   17.藤紫の継承

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  • 強制狂葬 狂眼ドール   16.最後の一口

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  • 強制狂葬 狂眼ドール   14.フローライト

    「この石が、『核』の本体だよ」「即身仏……には見えないね。ミイラどころかただの生き埋めだね」「『城』が外法で建ててんなら即身仏も何もねぇだろ。呪物になっただけじゃねぇかよ。元々が呪いの城なんだよ。翡翠に殺されて云々じゃねぇ」「そうかもね。なんの準備もない者がなんの修行もなく出来るはずがないんだ。そもそも法律で禁止されてるはずだよ」「それで ? これ、どうすりゃいいんだよ。壊すのか ? 蛍石って燃える ? 」「お前はなんでも燃やそうとするな。発光するとか割れるという事は聞いた事はあるが……呪いを解くイコール壊す、では無いかもしれん」 どうしたものかと慌てふためく側で、涼がジッと出入口を見たまま固まっていた。「涼 ? どうした ? 」「……やばいかも……」 そのうち、足音が近付いて来るのが分かった。バタバタと何人もの物音は大きな騒音となって執務室へ向かっていた。「どうする !? 」「これが本体ならとりあえず ! 」 涼が石に手を伸ばす。「馬鹿 ! やめろ ! 」 何が起きるか分からないものを素手で掴もうとした涼を、誰も止めることはできなかったら。「う、うわぁぁぁっ !! 」「涼 ! 」 カツンと音を立てて涼の指先に石が触れた途端、両眼が狂った様にギョロギョロと動き出す。「くそ、どうなってんだ」「すぐに離して ! 涼 ! 石を離すんだよ ! 」「は……剥がれない ! 」 目の前の何かを払い除ける仕草をしながら涼はもがいたまま尻餅をついてしまった。 そこへプライドと翡翠がやってきた。後には囚人達がゾロゾロと身を乗り出してついてきていた。「呪いの物と分かっていながら何故荒らした !! 」 翡翠が涼に掴みかかる。「涼、『核』への生贄に選ばれて

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  • 強制狂葬 狂眼ドール   26.羽化する城

     京はこの時、止めたかった。 涼が何か変わってしまう気がして。しかし涼の意思も、ブレードの意思も情報として自分にも必要なことは理解した。「まじかよ……何が起きるか分からねぇぞ。 お前もブレードのそれも、多分ただのドールアイじゃない」「……そうだね」 涼の気持ちは変わらない。覚悟を決めている。「人が来ねぇように見ててやる。でも無理はするな」「そう。ありがとう」 京は少し離れると、鏡を向いたままの涼を眺めた。

  • 強制狂葬 狂眼ドール   22.修理拒否の意思

    「ブ、ブレード !! 」涼は最後の力を振り絞りどうにか芋虫のように倒れ込み、燃え上がるブレードに近付いた。「燃えちゃう ! 燃えちゃうよ ! 」「……手は……残ってるか ? 」「 ??? 」半泣きの状態で残っている左腕を差し出す。「これを……」ブレードは眼帯を取ると、そこに隠していた物を涼に握らせた。「これは…… !! 」それはブレード

  • 強制狂葬 狂眼ドール   20.点火

    「見たか !? ここにいる者たち全員 ! 武器だ ! 俺達には持ち込みを許されていない、武器がある !  涼と同じだ ! あいつも『城』の癌細胞 !! 『核』の判断間違いか、騙してここへ持ち込んだやつだ ! 許されるか、そんな事 ! 」『た、確かに銃やミサイルなんて、頼んでも持ち込めないもんな』 『でもペコラのナイフは ? 今は涼が持ってるけど、あれも武器だろ ? 』 『そんな事したら、陳さんの包丁もカウントされんだろうが』 『よく分からんが、ありゃ駄目だろ』「お前も悪だな。何が軍人だ。戦争で

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