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16.幻のドールアイ

last update Veröffentlichungsdatum: 19.02.2026 17:00:00

「はは……やっぱり気になる ? よね。京は

 ライターを貰ったんだっけ ? 」

「あぁ。まぁね。お互いプライバシーは大事だよな。悪ぃ。じゃあ別の質問にしようかな。

 俺がお前の手に触った時、変な感じがした。なんか全部どうでもいいっていうか、無関心……とは違うな……。強いていえば……気分爽快 ? スッキリしたな。

 あ、勘違いすんなよ。俺の好みは清純系の美少女だから」

「勘違いはしてないよ。

 えっと、それは確かに俺のせいだけど。順を追って話すと……」

 涼は脳内をフル回転させる。

「俺、昔から……変な力があってさ」

「……霊界で言うのも悪ぃけど、スピリチュアルとか神様とかマジで興味ねェんだよな」

「俺も好きで持ってる力じゃないし、スピリチュアルでも無いよ。

 とにかく、相手の気分を好転させることが出来るんだ」

「それって、ノイローゼが消えるとか ? 」

    やはり京は飲み込みが早い 。嘘など一発でお見通しだろうそれは同房の涼にとってデメリットにしかならない。全てを話す決意をする。

「そこまで重大な人と関わったことないからなぁ。

    俺、元々他人の感情が見えるんだ。それで今まで生きてきた。最も、俺が出会った連中はロクな大人じゃ無かったけど」

「はは。それは俺も一緒だな」

 京はしょうもなさそうに笑う。

 涼も気にせず続けた。

「最初は母親の連れて来た男が毎回色が違うことに気付いた。似たもの同士っていうか、母が連れてくる男って大抵同じ色を纏ってたから。

 それで俺、今は人のストレスとか悩みを吸い取れるようになったみたい。

『核』に欲しいものを聞かれた時、この能力なら、盗まれる心配ないから安心だなって。

 高価な武器を持ったところで使えないしさ」

「ふーん。ストレスと悩みねぇ。

 もぅ一回触ってもいい ? 」

「いいよ。でも、『核』の奴、予想より強いアップデートしてきたせいで、吸いすぎるとすげぇ酔うんだ」

「はぁ ? ここでゲロ吐かれても……俺困るんだけど」

「いや、その……酔うって言うか、フラッフラのふわっふわになるんだ」

「マジで !? あ、だからさっきあんな状態で戻って来たのかよ ! スピリチュアルでキマる意味が分かんねぇ ! 」

 涼が差し出した手を京が再び握る。

 京の中に渦巻いていた邪念。

 あわよくば涼が何を『核』に願ったのかきいてやろうという意欲や、どうにか飼い慣らして自分に有益に駒として使えないかという算段。

 全てがすっと、憑き物が落ちたように考えられなくなり、純粋に涼の特異な能力を考え始める。

 目の前の涼は先程より酷くはないが、くたっと椅子に凭れ、小さな唇から何度も甘い吐息が音を立てて漏れている。

 京は次第にクリアになっていく頭の中で、自分が涼に触れるのは危険だと考える。

 角しかない強烈な趣味趣向の京にとって、癒しなど、一番不必要な存在なのだ。

 しかし、この力が囚人たちにとって大きく影響をもたらす力であることも事実だ。

 ここは涼の力を外に向けさせた方がいいと考える。

 そして、翡翠の存在だ。

 翡翠が涼を独り占めしようとする度、囚人からは不満の声が上がるだろう。

『一日、リラクゼーションに涼を使うなんてズルくねぇか ? 』

 必ずこの日は来るだろう。

「ふ……くく !! あははは ! 面白ぇ ! 」

「面白い ? うぅ、頭クラクラする……」

「面白ぇよ。せっかくだし、人の為になることしようぜ」

「……ん。そのつもりだけど……」

 京は素直に従う涼の姿を見て更に可笑しくて仕方がない。

 あの翡翠が癒しを与える涼に執着するのは、つまり精神は摩耗しているということだからだ。

「なぁ。絶対内緒にしろよ ? 

 この『城』から出る方法があるんだ」

「へぇ。何それ。面白そうじゃん」

 京は涼を手招きすると、高い塀のある場所まで辿り着く。

 コンクリートで作られた背の高い壁にネズミ返しのような形状の有刺鉄線がこれでもかと言うほど張られている。

 その一角。

 エントランスから城を出て、正面の壁だけは鉄格子の門があった。その格子から外を見る。

「真っ暗。死後の世界って感じ」

「事実そうだしな。城がなかったらここで彷徨うのか、どこかに繋がるのかもわかんねぇけど。ここに閉じ込められてるより、『城』を拠点に、この門の先も自由に行けたらいいのにって思うんだよな」

「でも逃げ場所なんて無さそうだけど」

 半信半疑で外の漆黒の世界を見つめる涼に、京がおもむろに話し出した。

「元々、ここの管理人は生きた人間だったらしい 」

 思わず涼はドキリとする。

「ふーん……。俺たちみたいな……『人形』じゃないのか ? 」

「そう。それでさ。管理人は網膜スキャンセンサーを『城』全体のパスキーにしてたんだよ。

 ここにその機械がある。門だけは今も動いてやがんだ。管理人の両目があればここは開く事が出来るってのによ。

 ある日、管理人は囚人の一人に目玉を無理矢理奪われた」

「え…… ? でも……そんなの、使えないよね ? 」

「普通はそう。その囚人は仲間に依頼して、管理人の目玉を、俺たちみたいな人形の眼に加工したんだってさ」

「人間の目玉だろ ? 可能とは思えない。

 でもその瞳があれば、この『城』から抜け出せるの ? 」

「多分ね。そのドールアイには特殊な術がかかってるらしい。

 でも問題もあってさ。その瞳を手に入れた囚人が、別な囚人に隙をつかれて、片目を盗られちゃったとかなんとか」

「片目だろ ? それじゃ抜け出せないのに ? 訳がわかんない」

「だな。両眼が揃わないと出れない。

 元々持ってた奴も、盗んだのが誰かも……分からないままなんだってさ。

 牢の鍵は夜だけは閉まる。昼は開きっぱなしだからここまでは来れる。翡翠の部屋がある塔も全部アナログの鍵に変わったけれど、城自体から抜け出す最後の砦が、たった一つ生きてるこの城門の網膜スキャンシステム。

 俺さぁ。どうしても初代管理人のドールアイが欲しいわけ」

「待って。って事は……その……初代管理人から目玉を強奪した『人形』と、そいつからこっそり片目を盗んだ『人形』の二人は…………まだ俺たちの中にいるのか ? 」

   一人は翡翠だ。翡翠が今は片眼を管理している。しかし言う訳にもいかず、涼は大きく生唾を飲み込むだけ。

「そういう事になるな」

 そういうと、京は自分の笑みを浮かべた薄い唇で口角の大きな口を、涼に向かってガパッと開けて見せた。

 京の口内。

 薄ピンク色の艶かしい粘膜質な肉壁と悪戯そうな笑み。牙のような鋭い八重歯のインパクト。それら全ての情報が頭から消え失せる程の衝撃的な物が見え隠れしていた。

 京の舌の上には、一つの球体が乗っていた。

 キャンディでは無い。

 その白い球体には瞳孔が付いている。唾液の瑞々しさが相まって生々しくヌルりと涼を見据える眼球。

「どうだ ? 

 脱獄に興味あるか ? 」

『幻のドールアイの片方の持ち主』は、京だった。

 これは京か翡翠、どちらかを選ばなければならないということになる。

    庭園の香りが消えた。頭上に光る罪の時計盤の紫がより焦燥感を不気味に煽る。

 涼は一度カラカラになった口を閉じて、平静を保とうとする。

「やべぇよ。それ見せちゃダメなやつだろ ? 早く隠した方がいいよ」

 遠ざけたい。

 今はまだ何も判断ができない。

 感情の色も見たくもない。

 涼は一度、ガーデンチェアまで戻り、目をギュッと閉じた。

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