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7. 京の罪状

Penulis: 神木セイユ
last update Terakhir Diperbarui: 2026-02-16 17:00:00

 ペコラの長い腕から繰り出されるナイフ。目で追うのも難しい驚異的なスピード。

 ところが何回も何回も斬り掛かるが、京は黒のレザーパンツのポケットに手を突っ込んだままひょいひょいと交わし続ける。

 更にその視線はナイフという恐ろしい獲物を見ていない。薄ら笑いを浮かべて、ペコラの怒りに満ちた顔色を伺っている。

「強い……」

 ペコラには躊躇いがない。

 現実の世界であんなナイフの振り回し方をするのは、相手の生死を問わない異常者だけだ。人間は知らず知らずのうちに攻撃は躊躇い傷になりがちだ。心の奥底にある、少しの罪悪感がそうさせる。

 だがここは人形たちの世界。加えて壊れても修理されるという事もタチが悪い。

 死ぬほどの痛みを感じても死ぬことを許されないのだ。

 それだと言うのに、京の余裕ぶりはペコラより異常に見えた。

「ちっ ! 逃げんじゃねぇ !! オラァ !! 」

 ヒュパッ ! 

 突き出された銀色の切っ先が遂に、京の顔に迫る。

 その隙だ。

 大きく利き手を伸ばしたペコラの腕に、京は脱いだジャケットを叩き付けるように打ち付ける。その黒い布は反動でペコラの腕にギュルリと巻き付き、京が思い切り自分側へ引き倒す。

「ぐっ ! 」

 ペコラが体勢を大きく崩しかけるが腕だけだ。長い足を京のそばに差し込むと、前のめりに倒れることだけは何とか避ける。

 京の狙いはこのタイミングだった。

 そして、その攻撃が来ることをペコラは何度も観て知ってはいたはずなのだ。

 だが実際に対峙すると、そこまで反応が追いつかなくなるのだ。

 京はペコラの胸元に潜り込むと、一瞬だけ腕を巻き付けるような動きを見せ、すぐに背面へスルリと抜けて行く。

 その両手には小さな灯火。

 ライターが握られていた。

 火はペコラの長い髪──毛先と、首に巻いたスカーフに着火。一気に燃え上がる。

『ひぇぇぇっ ! いつ見てもやべぇ』

『今の動きでなんであんなに燃える ?! 』

『おーい、水の用意出来てるかー ? 』

 そんな声が聞こえてくる。

 目の前で慌てて藻掻き火を消そうとするペコラを見下ろす京を大きく見て、涼は察した。

 笑みを浮かべたままの京の眼光はまるで玩具を見る子供のようなのだ。

「京は……京の罪は……『放火』…… ? 」

 思わず口に出てしまった涼に、隣にいたフェンランが視線を逸らす。

「探らないことだね。

 じゃ、あたしは戻るから。京と上手くおやりなさいな、涼」

「ありがとうフェンラン」

 女たちが消え、ペコラも仲間に抱えられ退場。

 京はペコラからぶん盗ったナイフを手に有刺鉄線を越えると、涼にそのナイフを強引に持たせてきた。

「う、重 ! 」

「ベルトが着いてんだろ。腰に巻いとけよ。丸腰より良いだろ ? 」

「京が欲しかったんじゃないの ? 」

「え ? 全然。俺、刃物とか興味無いし」

 興味の問題ではないだろう。京なりに涼を庇護する為まずは武力を与えた。

「あ、ありがとう。でもペコラってやつが取り返すのに俺と勝負 ! とか言われても困るんだけど……」

「いや、そんときゃお前も体張って頑張れ。応援するわ」

 京はケラケラと無責任に笑いだけだ。

「それより、そろそろ決まったか ? 翡翠さんに頼む物」

「全っ然……」

「深く考えんな。俺はこれ」

 そう言い、先程使ったライターを見せる。

「ガスがなくなったら新しいの貰える。減りを気にせず使えて便利だぜ」

 丸焦げになる寸前だったペコラを思い出し、涼は複雑そうな顔をする 。

「何で火なんだ…… ? 」

 普通に考えればナイフの方が護身用には持ってこいなはずだ。翡翠もボヤ騒ぎを起こされては困るはずだ。

 京は火付けの為だけにライターを要求したのだろうかと腑に落ちない。涼の様子を見て京もそれを察した。

「なぁ、フェンランって、すげぇヘビースモーカーだと思わない ? 」

「え ? あぁ、そういえばずっと吸ってたような」

「実際に口を付ける回数は少ねぇけど、煙管の種火は常に絶やさないんだよ。ここじゃ火が手に入んねぇからさ」

 この言葉でピンとくる。

 京は火を売っている。

「なるほど……。そういう事か ! 」

 二人揃って階段を登り房へ戻る 。

「飯は出るし、服は標準装備。全て『城』が用意してくれる。服は不便はねぇんだけど、イメチェンってのは出来ねえ。死んだ時の姿や服装が『城』が与えてきやがる。

 だから珍しいパーツや、服、嗜好品は高く売れる」

「そうなると、益々何を頼めばいいのか……」

 時刻を確認しようと、天井の大時計を見上げる。そして涼はようやく時計が不自然な事に気付く。

「…… ? あれ ? 今、何時だ ? あれは時計だろ ? 」

 時刻はここへ来た時とほぼ変わっていないように見えた。

「ん。あれはまぁ。気にすんな」

 不思議な物を見たようにぼんやりとする涼の横顔を京はじっと見つめる。

 邪心。

 それが涼からは感じない。

 人を恨まない者はいないが、ここへ来る者は歪んだ性格の者も多く居る。

 フェンランと同じく、涼が自死でここへ来た事を京も目敏く感じていた。

 そこへ革靴の音が『城』に響き渡る。

 囚人ならこんなに響かない。だがその男は汚れひとつ無い革靴だ。その音を聞きつけると、囚人のドールたちは一斉にお喋りをやめて頭を下げる。

 音の主が涼の牢へ来ると止まった。

 翡翠だ。

 涼を一瞥し、今度は呆れたように京を見やった。

「今度はペコラを焼いたそうだな」

「まあね」

 ペコラが涼を欲しがった事を京は言おうともしなかった。翡翠も慣れた様子だ。

「俺に絡んできたんだ。ファイアーダンスがしたかったんだろうな」

「全く……。

 一ノ瀬  涼。付いてこい」

「は、はい」

 涼が緊張したように立ち上がる。それを見た京が茶々を入れた。

「涼、翡翠さんに願い事いっぱい吹っかけちゃえ !」

 そう言ってクスクスと笑う。

 周囲の牢からは翡翠様、と呼ぶ声がいくつもこだましている。

 それを京は軽口を叩いて翡翠に絡んでいた。間に挟まれた気分になり、涼は生唾を飲み翡翠の後へ続いた。

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