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8 . 左の塔

last update 公開日: 2026-02-17 17:00:00

 房がある塔は円形で漏斗状になっている。

 その囚人たちの建物から内廊下で、左右それぞれに別な塔がある。

 漏斗状の囚人の塔を支えるように、左右は直立した建物だ。

 外壁には固く閉じられた正門があり、高く、越えることは出来ない。その外壁は闇の中に存在する三つの塔、『城』を囲っている。

 正門から見て右の塔は囚人たちの食堂やリネン置き場。人形である彼らにとって、大それた入浴は必要ない。房に備え付けの水道だけで事なきを得るが、必要に応じて使用できるシャワー室もある。

 自害の心配がない人形の体は、実に人間ほど管理に手間はかからない。

 正門から向かって左の塔が、管理人である翡翠の執務室がある場所だ。

 左塔へ続く内廊下に向かう翡翠と自分に、皆の視線が集まるのを涼は感じていた。

 これから何が始まるのかも、まだぼんやりしていて把握していないのが現状だった。

「こっちだ」

 重い錠前を外し、中へ入る。その中にも鉄の扉に南京錠。木製のドアに鍵を差し込む。

 何枚ものドアを抜けてようやく左塔の中に入る。

 その時、涼は初めて窓を見た。

 窓の外には中庭があり、外壁、その先の漆黒の世界だ。

「ここは……死後の世界なの ? 」

「そうだ。死後、罪を清算する監獄だ」

「地獄じゃなくて ? 」

 翡翠は答えなかった。

 通されたのは執務室。

 机と資料。質のいい万年筆もあるが、使っている感じはしない。

 ソファに座るよう促される。

 どこを見ても生活感の無い部屋だった。寝室は別なのだろうかと思ったが、すぐにソファの凹みにムラがある事に気付く。

 恐らくここで翡翠は寝ている。

 この神経質そうな男が、である。

 真っ白いカーテンのそばには小さな観葉植物があった。

 翡翠は手袋をしたままそっと水差しを手に取ると観葉植物の鉢に少しだけ流し込む。

「さて。ここについての話を始めよう。

 来て早々、君の取り合いがあったと聞いたが ? 」

「あれは…… ! 俺に興味を示した奴から、京が守ってくれたんだ。フェンランって人も。そばに居てくれた」

「……。意外だな。京もフェンランも、他人に興味を示すタイプではないが……」

 それこそ涼には分からない話である。

「他に質問したいことは ? 」

「ある。あれなんだったの ? 」

 翡翠の問に、涼は用意していた質問をぶつける。

「あれ、とは ? 」

「俺を庭園屋上から放り投げたの 」

 翡翠は難しい顔をすると、真っ直ぐに涼を見つめる。

「簡潔に言えば、ここに来るための手解きだ。

  まず、死んだら生きた人間と同じ場所にはいれない。特に君は『死の日』を繰り返していた地縛霊のようなものだ 」

「……。いつも、柵を越えてから思い出すんだ。「俺、死んでたんだ」って。でも、気付くとまた朝になってて、あの日を繰り返して……。

 でも、そこにあなたが来た時、違和感があった。いつもと何かが違うって感覚があった。あれは何…… ? 」

「それは君の「あの日」の記憶の中で、俺は本来いない者だからだ」

「……なんで俺をここに連れてきたの ? 」

 涼が恨めしそうに翡翠を睨む。

 身体を両手で抱き、ぶるぶると震える。

 まるで自分が生きていることが穢らわしいと言わんばかりに。

「君には『城』の説明からした方が良さそうだな」

 そういうと翡翠は棚から、この『城』を模したドールハウスをローテーブルに置いた。

「この中心の塔が囚人房。今俺たちがいるのが左塔の最上階。さて、この部屋の下には何があると思う ? 」

「何……が………… ? 」

 裏を返せば何かがあるということだろうか。

「そう。この『城』を俺一人が作ったとは思わないだろう ? 

 先に案内しよう」

 翡翠が立ち上がり涼を待つ。

 涼は全く理解してないうちにあちこち案内され、疲労の色が出てきた。

「今ここに来たばっかじゃん」

「その目で見た方がいい。

 それに、この塔に囚人が足を踏み入れるのは、ほとんどがこの時だけだ」

 涼はふてぶてしく立ち上がると、ドアのそばで自分を待っている翡翠の妙な雰囲気に意識が向いた。

「どうかしたか ? 」

「いや、なんでもないです」

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  • 強制狂葬 狂眼ドール   これにてFin〜ありがとうございました

    読了してくださった方、支えてくださった担当さんとXでのリポストなど、全ての方に御礼申し上げます。大変ありがとうございましたm(_ _)m制作小話『強制狂葬 狂眼ドール』の制作について、サスペンスや流血描写を自分の作品上、切っては切れないスパイスになっていて……しかし時代は規制の厳しい年齢制限の時代 ! 何とか打開策はないかと考えたのが、身体を人形の体にする ! 血は出ない ! 修理できる ! 監禁やデスゲーム要素も異界の刑場という事にしてリアル感より気味の悪さを押し出そうと模索しました。強制狂葬、というタイトルの中で「誰が強制的に狂った葬りを受けたのか」は、主人公 涼の他のキャラもある意味当てはまります。しかし他にも……。脱獄という言葉を皮切りにストーリーは進行し、やがて涼は監獄に適応しようとし、それが全てを歪ませてしまう。けれど、最初の歪みはフェンランの存在でもあります。最古の女囚の正体ですね。フェンランを語る上での冥花の存在。あれは……つまり違法な物ですがこれも出すわけに行きませんから、冥界に咲く花を加工する──そうして狂眼ドールの世界は全てはが比喩で作りました。人間が自分の罪を清算するとはなんなのか。どうすれば清算したと言えるのか。それはきっと刑罰を受ければいいとイコールではない。そんなお話でした。これにて連載終了となりますm(*_ _)m長い間ありがとうございました !! では新作でお会いできればと思います!!

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