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第5話

Auteur: ASAMI
last update Date de publication: 2026-06-30 08:40:00

「……ねぇ、あの子、本当に盗作したらしいよ」

「嘘でしょ?最低。よくそんな不届きなことできるよね」

翌朝。

大学の門をくぐった瞬間から、世界は反転していた。

廊下を行き交う生徒たちの口からこぼれ落ちる、容赦のない囁き声。

向けられる視線はどれも冷たくて、好奇と嫌悪に満ちている。

噂は一夜にして校内を駆け巡り、私に弁明の機会など最初から与えられていなかった。

「ちょっと説明してもらえる?」

人気のない渡り廊下に呼び出され、行く手を阻まれる。

目の前に立ちはだかるのは、腕を組んで傲慢に見下ろしてくる西園寺玲奈。

そしてその背後には、彫刻のような顔を激しく強張らせた神崎蓮が立っている。

私は一歩も引かず、玲奈の目をまっすぐに見据えた。

「私は盗作なんてしてないわ。どうしてあなたがそんなことを主張できるのか、むしろそっちの方が理解に苦しむんだけど」

毅然と言い放った私に、玲奈は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに哀れむようなわざとらしい失笑を漏らした。

「まだそんな見苦しい言い訳をするつもり?偶然にしては、曲の核心部分のフレーズが私が作ったものと酷似しすぎているのよ。自分の実力不足を、他人の才能を盗むことで補おうだなんて、本当に惨めね」

言葉のナイフが、容赦無く突き刺さる。

だが、それ以上に私の胸を抉ったのは、隣に立つ蓮の一言だった。

「おまえ、本当に恥さらしだな」

「蓮……?」

「周囲から疑いの目を向けられている、その事実だけでおまえの音楽は終わっているんだ。これ以上、神崎家の名を汚すな」

いつの間にか、私たちの周りには大勢の野次馬が集まっていた。

何十人もの冷ややかな視線が、私を罪人として縛り付ける。

「私はやってない」

「往生際が悪いぞ。言い訳するな」

「ふうん。そんなに頑ななのは、このノートに何か秘密があるからかしら?」

玲奈が私の鞄から、強引に一冊のノートを抜き取った。

それは、私が血の滲むような思いで音楽を書き留めてきた、大事な楽譜だった。

「返して……っ!」

「こんな、他人のアイデアを盗み合わせただけの一文の価値もない楽譜なんて」

玲奈がニヤリと笑った瞬間、バサリと鈍い音がした。

白い紙が宙を舞う。

階段の吹き抜けの空間へ、バラバラと引き裂かれながら落ちていく、黒い音符たち。

私の三年間が、私の魂の叫びが、無残に汚されていく。

「やめて!!」

気がついた時には、身体が勝手に動いていた。

パシィンーー!

乾いた高い音が、静まり返った廊下に激しく響き渡った。

玲奈の白い頬が、瞬時に赤く腫れ上がっていく。

玲奈は呆然とし、その場にへたり込んだ。

「……最低」

「逆上して暴力を振るうなんて、本当にあいつ、終わってるな」

周囲の罵声が大きくなる。

違う、私はただ、自分の全てを守りたかっただけなのに。

「触るな」

地鳴りのような低い声とともに、私の手首が強引に掴み上げられた。

骨が軋むほどの強い力。

蓮が、玲奈を庇うように私の前に立ちはだかっていた。

「おまえ、何様だ。これ以上、問題を大きくしてどうするつもりだ」

「私は……」

反論しようとする私の声を無視し、蓮は私を誰もいない旧校舎の廊下の奥へと引きずっていった。

乱暴に腕を振り払われ、私は壁に背中を打ちつける。

「……なんで、玲奈の言うことばかり信じるの?私の話は一度も聞いてくれないのに」

やっとの思いで絞り出した声は、情けないほどに震えていた。

一瞬でも、彼が私のことを修羅場から連れ出して助けてくれたのかと思った自分が惨めだった。

蓮はポケットからチェルシーピンクの紙切れを取り出すと、私の足元へ投げ捨てた。

……小切手。

「これで、おまえのゴミのような楽譜など、百冊は買えるだろう」

言葉が出ない私を見下ろし、蓮は吐き捨てるように言った。

「覚えておけ。あいつが不快に思うものは、おまえの音楽も含め、全てゴミだ」

世界から、すべての音が消え去った。

足元に落ちた小切手を見つめながら、私の胸の奥で、カチリと何かが完全に凍りつく音がした。

私はゆっくり顔をあげ、かつて愛した婚約者の瞳を、これまでで最も冷ややかな目で見つめ返した。

「……彼女のために、そこまでやるのね、神崎蓮」

その困惑と、芯の通った衝撃を含んだ私の静かな一言に、蓮の身体が微かに強張ったのを、私は見逃さなかった。

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