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第99話

作者: ASAMI
last update 公開日: 2026-09-17 07:05:23

リハーサルが終わり、静まり返ったホールの楽屋。

姿見の鏡の前でドレスに着替える私の肩に、ケビンが背後からそっと両手を回してきた。

鏡越しに目が合う。

彼の瞳には、熱っぽいほどの愛着と、それを上回る深い焦燥が揺らめいていた。

「素晴らしい演奏だったよ、音羽。明日の本番、君の完璧な音色を世界に示す時だ」

「ありがとう、ケビン……」

「……少し疲れているようだね。明日のコンサートが終わったら、しばらく二人だけで静かな島へ渡ろう。誰も君を惑わせない、僕たちだけの場所へ」

耳元で囁かれる言葉。ケビンの語る「静かな島」という言葉が、どこか甘い毒のように私の胸を刺す。

それは守るための避難所ではなく、彼の手の中に私を永久に閉じ込めるための楽園のように聞こえた。

「ケビン……私、少し風に当たってくるわ」

「音羽?」

「すぐ戻るわ。一人で頭を冷やしたいの」

ケビンが遮ろうと伸ばした手をすり抜け、私は逃げるように楽屋のドアを開けた。

ホールの搬入口を出ると、夜の冷たい空気がほてった頬を激しく撫でた。

街灯の光が途切れる建物の影へ足を進めた時、ふと、闇の中から誰かの気配を感じて足が止まった。

「……誰?」
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