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第2話

Author: 清水澪
私が彼と距離を取り、その場を立ち去ろうとしたとき。

不意に玲奈が車から飛び出してきて、なりふり構わず私の腕を強く引っ張った。

「修也さんは本当にいい人なんです。私もここ数年、すごくお世話になりました。

ですから、結婚したらどうか修也さんを大切にしてあげてくださいね」

私を睨みつける彼女の目は、抑えきれない悔しさに満ちている。

その白々しい言葉にひどい嫌悪感を覚え、胃がムカムカしてくる。

私はうっとうしく思い、彼女の手をパッと振り払った。

すると、玲奈はその勢いを利用して、自らの頬を思いきりビンタしたのだ。

修也の立つ位置から見れば、まるで私が彼女を殴ったかのように映る。

案の定、修也は大股で歩み寄り、玲奈を庇うように自分の背後へと隠した。

そして、赤く腫れ上がった彼女の頬を心配そうに見つめる。

再び私へ顔を向けた彼の目には、ありありと怒りが宿っていた。

「婚姻届を出したくないと言いながら、他人に八つ当たりする気か?」

玲奈を連れて去ろうとした修也は、ふと足を止め、冷たい視線を私に向けて言い放った。

「明日香、亡くなったお前のご両親が今のお前を見たら、さぞかし失望するだろうな」

弁解の言葉が喉まで出かかったが、私はそれをグッと飲み込んだ。

呆然とその場に立ち尽くしていると、走り去る車の巻き上げた砂埃が目に入った。

スマホの通知音が鳴り、私はようやく我に返った。

【神崎様。2回目の頭部CTの結果が出ましたが、あまり芳しくない状況です】

……

主治医から診断書を受け取った後、私は道端のベンチに長時間座り込んでいた。

進行した脳腫瘍。

「今すぐ手術をすれば、まだ間に合います」

医師の言葉が、何度も頭の中でリフレインしている。

10年前の津波の際、私の両親は修也を助けようとして命を落とした。

それに伴い、神崎グループも破産を宣告された。

私がここまで生きてこられたのも、百合子が恩返しのために私を瀬名家へ引き取ってくれたからだ。

手元にある貯金では、1回分の手術費用すら到底賄えなかった。

散々悩んだ末、やはり修也の会社へ行ってみることにした。

修也のオフィスのドアは大きく開け放たれ、中では玲奈が彼のデスクに飾られた花をいじっている。

足を踏み入れようとした私は、思わず動きを止めた。

修也とずっと一緒に過ごしてきた私だからこそ知っている。彼は本来、花など好きではないということを。

けれど、玲奈が贈ったものなら、自分の好みすら変えてしまうらしい。

顔を上げた修也の視線が私を捉えた。彼は軽く背筋を伸ばし、先ほどまで浮かべていた穏やかな表情をスッと消し去った。

「ここへ何をしに来た?」

「少しお金を貸してもらえないかしら? 後で必ず返すから」

私は要件を隠すことなく口にした。どうしても、まだ生きたかったから。

「神崎さん。ご両親が亡くなられてからずっと瀬名家に居候して、生活費も全部瀬名家のお金で賄っているそうですね。

その上まだお金を借りに来るなんて、少し図々しすぎませんか?

もしかして修也さんと結婚したいのも、ただお金目当てなんですか?」

玲奈は不満げな口調で、挑発的な視線を私に向けてきた。

私は彼女の喚き声など無視して、ただ真っ直ぐに修也を見つめた。

修也は意図的に私の視線を避け、冷ややかな声で言った。

「玲奈の言う通りだ。

金のことは自分で何とかしろ。結婚さえすれば、お前の両親への恩は完全に返したことになる」

強く握りしめていた拳の力が、ゆっくりと抜けていく。その態度に、私の心はすっかり冷え切ってしまった。

デスクの下では、修也と玲奈が指を絡め合わせて手をつないでいる。

彼の指には、私の父が死の間際に残した指輪がはめられたままだ。

「結婚を待つ必要なんてないわ」

私はかすれた声で口を開いた。

修也は一瞬だけ怪訝な顔をしたが、すぐに鼻を鳴らした。

「そうやって脅す以外に、お前は何ができる? お前の親が俺の命を救ったからといって、なぜ俺がそこまで縛られなきゃならないんだ?」

完全に苛立った彼は、会社の警備員を呼んで私を追い出させた。

まるで私への当てつけのように、私が追い出された直後、彼はそのまま、玲奈のために2億円もする豪華なクルーザーを買い与えた。

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