共有

第799話

作者: シガちゃん
「大丈夫ですよ。説明しなくても」由奈は心愛の言葉を遮るように、柔らかな笑みを浮かべた。「兄の気持ちなら、私は最初から分かっていましたから」

「……え?」

心愛が目を瞬かせる。

由奈は楽しそうに続けた。「だから、もう私が間に入って何かする必要はなさそうですね。2人の気持ちがちゃんと通じ合って、本当によかったです」

心愛は少し困ったように首を傾げた。「なんだか……私、あなたたち兄妹の思惑に、まんまと乗せられた気がするんですけど……」

「そう思っても、もう遅いですよ」由奈は笑いながら心愛の隣へ歩み寄る。「それに、父ももう古澤さんのことを認めてくれていますから」

その言葉に、心愛は思わず目を見開いた。「……え?」

智宏も驚いたように由奈を見る。「父さんにも、このことを話したのか?」

「うん。だって、お父さんがどう思っているのか知りたかったから」由奈は悪びれる様子もなく答える。「それに、前から約束していたんですよ。いつか、お義姉さんを連れて帰るって」

「お、お義姉さんって……」心愛の頬が赤くなる。「そ、それは……少し早すぎないかな……?」

付き合い始めたばかりなのに――

この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 徒に過ごした六年間――去り際に君の愛を知る   第799話

    「大丈夫ですよ。説明しなくても」由奈は心愛の言葉を遮るように、柔らかな笑みを浮かべた。「兄の気持ちなら、私は最初から分かっていましたから」「……え?」心愛が目を瞬かせる。由奈は楽しそうに続けた。「だから、もう私が間に入って何かする必要はなさそうですね。2人の気持ちがちゃんと通じ合って、本当によかったです」心愛は少し困ったように首を傾げた。「なんだか……私、あなたたち兄妹の思惑に、まんまと乗せられた気がするんですけど……」「そう思っても、もう遅いですよ」由奈は笑いながら心愛の隣へ歩み寄る。「それに、父ももう古澤さんのことを認めてくれていますから」その言葉に、心愛は思わず目を見開いた。「……え?」智宏も驚いたように由奈を見る。「父さんにも、このことを話したのか?」「うん。だって、お父さんがどう思っているのか知りたかったから」由奈は悪びれる様子もなく答える。「それに、前から約束していたんですよ。いつか、お義姉さんを連れて帰るって」「お、お義姉さんって……」心愛の頬が赤くなる。「そ、それは……少し早すぎないかな……?」付き合い始めたばかりなのに――もう恋人の家族に会う話まで進んでいるなんて、心愛には少し心の準備が追いつかなかった。その様子に気づいた由奈は、すぐに言葉を添える。「あ、違いますよ。急かしているわけじゃありませんから。兄と古澤さんは、まだ始まったばかりです。これから少しずつ、お互いのことを知っていけばいいと思っています」智宏も、どこか不安そうな表情を浮かべる心愛へ視線を向けた。「大丈夫ですよ。家族に会うタイミングは、古澤さんが決めればいい。僕は、何よりあなたの気持ちを大切にしたいから」その言葉を聞いて、心愛の胸にあった緊張が少しずつほどけていく。智宏が、自分の気持ちを何より優先してくれている。そのことが、何より嬉しかった。心愛は小さく息を吐き、静かに頷いた。……休暇を終えた一行は、再びタラハシーへ戻った。由奈はこの期間に撮った写真をすべてSNSに投稿した。そこには彼女と祐一だけでなく、智宏と心愛の姿も写っていた。国内ではすでに深夜になっている時間帯だったが、最初に「いいね」を押したのは、なんと紬だった。いつもの紬なら、由奈の投稿に必ずコメントを残していた。けれど今回は、ただ「いいね

  • 徒に過ごした六年間――去り際に君の愛を知る   第798話

    心愛は陽菜をお手洗いまで案内すると、そのまま戻ろうとした。その時、陽菜が彼女を呼び止めた。心愛は足を止め、振り返る。どうやら、呼び止められることは予想していたらしい。表情に驚きはなかった。「古澤さんって、中道さんのこと、好きなんですよね?」陽菜は単刀直入に尋ねた。心愛が答えるより先に、彼女は続ける。「私は中道さんに一目惚れしました。東山先輩から、彼には彼女がいないって聞いたんです。だから、この機会を掴みたいと思いました。あなたたちはまだ付き合っていないんですよね?だったら、私にもチャンスはあるでしょう?」心愛は静かに目を伏せ、そして小さく頷いた。「もちろん、あなたが挑戦するのは自由だと思います」そこで一度言葉を止める。「でも私……」心愛は陽菜の目をまっすぐ見た。「譲るつもりはまったくないから」陽菜の笑顔がわずかに固まった。「頑張って」心愛はそう言って、励ますように小さく拳を握る仕草を見せると、静かに離れていった。残された陽菜は、しばらくその場から動けなかった。曲がり角まで来たところで、心愛は足を止めた。先ほど自分が口にした、あまりにも大胆な言葉を思い返し、急に恥ずかしくなる。……あれは、相手を傷つける言い方じゃなかったよね?そう思った瞬間、突然、目の前に人影が近づいた。智宏だ。心愛が反応する間もなく、その身体は智宏の胸の中へ引き寄せられる。彼はそのまま彼女の腰に腕を回した。心愛の心臓が大きく跳ねる。慌てて離れようとしたが、抱きしめる腕はむしろ強くなった。「誤解しないでください。僕は、あの女性と親しいわけではありません」頭上から、智宏の低い声が響く。心愛が顔を上げると、彼と目が合った。その真剣な眼差しを受け、頬が熱くなる。「ご、誤解してませんよ」「本当に?」智宏の目がわずかに見開かれる。顔にどこか嬉しそうな笑みが浮かんでいた。それでも、腕は離さない。心愛は乾いた唇をそっと舐め、視線を落とした。「だって……中道さんは、口が上手くて、誰にでも気軽に声をかけるような人には見えないから」「そうですか……あなたにとって、僕は一途な人なんですね」智宏は少し身を屈め、声をさらに低くする。「だから、彼女には譲らないって言ったんですか」その言葉を聞いて、心愛の耳まで一気に赤く染まった。「き……聞こえ

  • 徒に過ごした六年間――去り際に君の愛を知る   第797話

    「俺は、智宏さんの代わりに、古澤さんの気持ちを確かめようとしているんだ」祐一はそう言いながら、由奈の両手をそっと握った。「確かめる?」由奈は不満そうに彼を睨む。「それって、古澤さんに対して失礼なんじゃないの?もし本当に、兄があの女性に気があるって誤解したら――」「智宏さんと古澤さんは、まだ正式に付き合っているわけじゃない。でも、お互いに好意があるのは明らかだ」祐一は落ち着いた口調で続けた。「もし、たった1人の女性が現れただけで古澤さんが諦めてしまうなら――2人が本当に夫婦になった後、同じようなことが起きた時、彼女はどうする?智宏さんはいずれ中道家を背負う立場になる。その時、彼の周囲に女性が寄ってくることは避けられない。そのたびに不安になって、相手に譲るようでは……将来、智宏さんの妻として家を支えることはできない。それに、智宏さんの妻になれば、周囲からの注目や、根も葉もない噂にさらされることもある。その時、由奈がずっと彼女を守ってあげることはできないだろ?」由奈は言葉を失った。祐一の言うことは、確かに一理ある。ただ――由奈は目を細め、彼をじっと見つめた。「じゃあ、あなたほどの立場なら……長門先生以外の女性が寄ってきてもおかしくないよね?」「寄ってこないさ。だって、俺が最低な男だから」「……」由奈は呆然とした。「海都市で、俺が結婚して離婚したことを知らない人間はいない。昔は浮気騒動や隠し子騒ぎまであった。そのうえ今は、元妻のことをまだ引きずっているって噂まである」祐一は腕を組みながら、まるで他人事のように話す。「これだけ悪い噂があれば、誰も近づいてこないさ。それに、俺は智宏さんとは違う。彼は恋愛経験ゼロで、未婚の独身男だ。俺よりよっぽど狙われやすいだろ」由奈は返す言葉がなかった。ここは、怒るべきなのか。それとも、突っ込むべきなのか。反応に困る。やがて、由奈は小さく咳払いをして、一歩後ろへ下がった。「そ、そんな話をされても、あなたのことが可哀想なんて思ってないからね!」そう言い残すと、由奈は慌てて家の中へ戻っていった。その場に残された祐一は、苦笑するしかなかった。……屋内では。陽菜はずっと智宏に話題を振り続けていた。「東山先輩がね」、「楓さんがね」と律や楓の話を交えながら、

  • 徒に過ごした六年間――去り際に君の愛を知る   第796話

    陽菜は律から聞いた情報をもとに、智宏の予定を調べ、フォートデールまで追いかけてきた。それだけではない。ホテルを予約する前から、智宏が泊まりそうな場所について、情報を探っていた。もちろん、ホテル側が宿泊客の情報を簡単に明かすはずはない。だが、陽菜は律から、智宏が裕福な家庭の出身だと聞いたことがある。彼のような人間なら、きっと高級ホテルか別荘に泊まると思い、色々調べた結果、祐一が予約した別荘エリアにたどり着いた。智宏なら、きっとそこを選ぶに違いない。そう確信して、陽菜は予約を入れた。彼女は実に運がよかった。それから2日後、彼女は「散策」と称して周辺の別荘を一軒ずつ見て回り、ついに智宏を見つけ出してしまった。玄関のチャイムが鳴り、由奈は不思議そうに外へ出た。そこに立っていたのは、見知らぬ若い女性だった。何か用事があるのだろうと思い、由奈はそのまま扉を開ける。陽菜は由奈の姿を見ると、一瞬だけ驚いた顔をした。だが、すぐに律から聞いた話を思い出す。――智宏は妹と一緒に旅行している。そう思うと、彼女はほっとしたように笑顔を浮かべた。「あなたが中道さんの妹さんですよね?初めまして。私、大橋陽菜といいます。東山律先輩の後輩です!」「東山律」という名前を聞き、由奈は少しだけ警戒を解いた。「そうですか……今日は何かご用ですか?」「私、中道さんに会いに来たんです」そう言いながら、陽菜はすでに庭へ足を踏み入れていた。由奈の戸惑いには気づいているのかいないのか、そのまま話を続ける。「東山先輩から、中道さんがフォートデールで休暇中って聞いていたんですけど、本当にいらっしゃったんですね!私もちょうど旅行中なので、すごい偶然だと思って……もしよかったら、皆さんと一緒に観光してもいいですか?」由奈の口元がわずかに引きつる。そして、状況を理解した。――この女性は、兄を狙っているのだと。その時。「あ、中道さん!」家の中から智宏が出てくると、陽菜は嬉しそうな笑顔で彼のもとへ歩み寄った。そして何かに気づいたように、すぐに表情を整える。さっきまでの積極的な態度を隠し、控えめに声をかけた。「お久しぶりです。東山先輩から、こちらでバカンスを楽しんでいると聞いていたんです。まさか本当にお会いできるなんて、すごい偶然ですね」少し間を置い

  • 徒に過ごした六年間――去り際に君の愛を知る   第795話

    フォートデールで過ごした数日間、4人はそれぞれ楽しい時間を満喫していた。ある時はプライベートビーチでダイビングや日光浴を楽しみ、またある時はオアシス公園でカヤックに乗り、手付かずの自然が残る景色を堪能した。その後も美術館を巡ったり、オーラス大通り沿いのギャラリーを訪れたり、個性的なテーマレストランを食べ歩いたりと、充実した日々を過ごした。何日も遊び続けたあと、ようやく心身ともにゆっくり休める時間が訪れた。朝、由奈と祐一が部屋を出ると、オーブンから漂ってくる香ばしい甘い香りに気づき、キッチンへ向かった。大理石のテーブルに調理器具や材料などが並べられていた。心愛は手袋をはめ、オーブンから焼きたての黄金色のエッグタルトを取り出しているところだった。「すごくいい匂いですね!」由奈は嬉しそうにテーブルへ駆け寄った。「古澤さんはエッグタルトまで作れるんですか?」「ええ、まあ。暇だったから、ネットで作り方を調べて、パイ生地のエッグタルトを作ってみたんです。でも……失敗してないかな?あまり上手くできてない気がして」心愛は少しうつむきながら、不安そうにため息をついた。すると由奈はすぐに彼女のそばへ行き、励ますように声をかけた。「そんなことないですよ!これだけできているんだから、十分すごいです。早速、味見してもいいですか?」「もちろんです!」心愛がそう返事すると、由奈は皿にエッグタルトを一つ取り分け、一口食べる。「美味しい!甘さもちょうどいいです!」由奈は満足そうに頷いた。その様子を少し離れたところで見ていた祐一は、腕を組みながら小さく笑った。「そういえば、兄は?」そこでようやく由奈は、智宏の姿がないことに気づいた。心愛の動きが止まる。「中道さんなら……たぶん、まだ寝てるんじゃないかな」「それもそうですね。ここ数日、私たちの面倒を見てくれてたし、かなり疲れてるんじゃないかな」「それなら、一番疲れているのは、俺じゃないか?」祐一はテーブルにもたれかかり、不満そうなふりをして言った。たとえ相手が義理の兄でも、そこは負けるつもりはないらしい。由奈は彼の隣へ歩み寄ると、苦笑しながら答えた。「はいはい、それもそうね。祐一が一番頑張ったんだから、ありがとう」「どういたしまして」心愛は思わず固まってしまった。――絶対に自

  • 徒に過ごした六年間――去り際に君の愛を知る   第794話

    智宏は本を読みながら、淡々とした口調でそう言った。まるで「これを使う?」と日用品でも貸すかのような自然さだった。心愛は、驚いたように彼を見つめた。本当に好きな女性相手に、これほど冷静でいられるのだろうかと、考えずにはいられなかった。「すみません。少し先走ってしまいましたね」智宏は視線を落とし、本を閉じた。指先で表紙をなぞりながら、静かに続ける。「先に聞くべきでした。あなたの返事を」心愛は言葉に詰まった。落ち着かない視線が行き場を失い、膝の上をさまよう。「……今、返事を出さないといけないんですか?」「……僕は軽い気持ちで女性に近づくつもりはありません」智宏はまっすぐ彼女を見た。「あなたの返事次第で、肩を貸すことはできないかもしれません」心愛は目を見開いた。しばらく呆然と彼を見つめたあと、とうとう堪えきれずに吹き出し、慌てて顔を背ける。「池上さんが、あなたは今まで彼女がいなかったって言ってたけど……本当だったんですね」もし智宏が女性慣れした人間なら、こんなにも不器用なはずがない。智宏は薄い唇をわずかに引き結び、低く答えた。「……はい。彼女はいませんでした」心愛は髪を後ろへ払ってから、そっと彼の方へ顔を向けた。「じゃあ……昨日言ってたこと、本気なんですね?」探るような声音。指先は無意識に髪の先を弄んでいた。智宏は顔を上げる。静かな瞳が、美しい彼女の顔をまっすぐ捉えた。そこに迷いも、誤魔化しもない。「はい。恋愛に関して、冗談を言うつもりはありません」「そうですか……実は、私も――」その瞬間、飛行機が大きく揺れた。続けるはずだった言葉は途切れ、突然の浮遊感に心愛の顔から血の気が引く。恐怖に駆られた彼女は、反射的に智宏の手を掴んだ。智宏は彼女の震えに気づくと、ごく自然な動作でその手を握り返す。「大丈夫です、落ち着いてください」機内アナウンスが流れた。現在、強い気流に入り、このあともしばらく揺れが続くという。心愛は気づいていなかった。自分が今、智宏の手を強く握りしめていることに。ただ、一刻も早くこの揺れが収まってほしいと、それだけを願っていた。すると突然、智宏の手が彼女の後頭部へ回り、そっと引き寄せる。「……え?」心愛は驚いて固まった。「僕を見てください」彼の顔が近い。言葉を交わす

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status