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第四十四話

Author: 麻木香豆
last update Last Updated: 2025-08-13 08:20:32

 数日後、清太郎と共に担任へ弁当屋でバイトをしていることを報告する藍里。

 担任は清太郎の働いている弁当屋で、仕事もうまくいっているというと、そうか、それなら大丈夫かと言うだけであった。

 藍里と清太郎が教室に戻った。するとクラスメイト三人衆が2人に駆け寄る。

「何か酷いことされた? 言われた?」

「大丈夫。バイト頑張れってくらい」

「そうかー。でも宮部くんと同じところで働けるならいいよねぇ」

 3人は藍里を椅子に座らせる。

「こないだよー、藍里が病み上がりっつーのに。俺がいなかったらどうなってたんだろうか」

「そうよね。無理しないでね、藍里ちゃん。あの担任のことはもう無視の無視!」

 優香は声がデカく清太郎から声小さくしろ、と怒られてテヘヘと笑った。

 するとなつみは雑誌を持ってきた。

「2人きりだったら何しれてたかわからないよ。藍里ちゃん可愛いから。さぁ、気持ち切り替えてー。藍里ちゃんは何が好きなのある? 芸能人とか歌手とかキャラとか」

「……えっと」

 表紙が綾人だった。隣にはダブル主演の尊タケルもいるが藍里はまじまじと綾人を見てしまう。清太郎はすぐ取り上げた。

「ちょ、宮部くんなにするのよー。あ、さっきさぁ綾人見てたよね? まさか好きだったりする?」

 なつみは清太郎から雑誌を返してもらおうと必死だ。藍里は立ち上がって代わりに雑誌を手に取った。そしてそれを見る。

 自分の父親である綾人、そして数ページめくるとインタビュー記事と映画の娘役オーディションのことも書いてある。

「やっぱり好きなの、綾人のこと……」

 藍里は反応しない。その姿を清太郎は見る。オーディションは岐阜、愛知、三重それぞれで行われる、選ばれれば綾人演じる主人公の娘役として映画に出演できて芸能活動とすることができる。

 選ばれなくても各事務所からのスカウトで芸能活動ができると書いてあった。そこには昔藍里が所属していた事務所の名前もあった。

「……藍里?」

 清太郎は自分の腕に藍里がぎゅっと右手で掴んでいた。

「な、なんでもない。どっちかと言えばこの隣の尊タケルのほうが私は好き」

 藍里は嘘をついた。

「へー、結構おじさんとか好きなんだ。意外な藍里」

「まぁね……」

「てか絶対オーディションとか受けたら一発合格だよ、藍里」

「無理無理、オーディションだなんて。特技とかないし」

 清太郎はそうい
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