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Love too late:壊したくない距離感5

Auteur: 相沢蒼依
last update Date de publication: 2026-06-26 05:58:00

***

次の日。ぶらりとひとり廊下を歩いて、桃瀬が遠くを眺めたあの窓際に立ってみた。窓からの景色は、グラウンドが広がる校庭のみと思っていたのに、よく見ると木々の隙間から少し離れた所にある、有名私立中学校の校舎が、しっかりと見えることに気がついた。その様子がまるで、桃瀬の気持ちを隠しているように感じてしまった。

「いいヤツだけに、かなり複雑な気分だ……」

昨日たくさんかわした桃瀬との会話で、イヤというほど人の良さがわかった。それなのになんだって、同性を好きになるのかな。

思わず眉根を寄せて、はーっと深いため息をつく。

(顔と性格が完璧すぎるヤツだから、神様がちょっとイタズラして、そこら辺をいじったとか?)

もう一度ため息をついてから、重い足取りで教室に戻ると、扉の前で誰かとぶつかってしまった。

「悪いっ、ぼーっとしていて」

教室を出ようとしていたヤツに道を譲るべく、頭を下げて謝りながら体を退けたら、いきなり左腕を掴まれる。

「周防っ!」

相手は桃瀬で、その表情はすごく真剣な顔だった。

「な、なんだ?」

まるで鬼気迫る勢いという感じにキョどり、唇の端を引きつらせる。

「学ラン脱げ」

「は!?」

唐突に告げられた言葉に固まった。困惑してあたふたしている俺に、クラスの誰かが笑いながら、大きな声で教えてくれる。

「周防諦めろ。桃瀬のオカン機能が発動したら、誰にも止められないから」

(――オカン機能ってなんだよ、それ?)

「脱がないなら、俺が脱がしてやる。じっとしてろ」

「ちょっ、ちょっと待てって!」

これじゃあ昨日の、妄想の続きみたいじゃないか。

俺が待てと言ってるのに、桃瀬は手際よくボタンを器用に外して、さっさと学ランを脱がした。

「ほら、これはなんだ?」

目の前に突き出されたのは、さっきなにかに引っ掛けてしまった、外れかけの左袖のボタンだった。

「そんなの家に帰ったら、親に直してもらうし、いいよ」

「ダメだ! 制服の乱れは、心の乱れだからな」

風紀委員長が言いそうなセリフを言い放ち、素早く自分の席に座ると、カバンからソーイングセットを取り出す。

(どうしてコイツ、男子のクセして、ソーイングセットなんて持ってるんだ?)

俺の学ランから力任せにボタンを外して、器用に縫い付けていく姿は、まるで母親のよう。

その様子を扉の前で顔を引きつらせ、じっと見ていると、クラスの誰かが俺の肩を優しく叩いて、さらに詳しく教えてくれる。

「周防、驚いたろ。これがウチのクラスの名物、女子よりも料理上手で、いろんな裁縫もこなしちゃう、イケメンで乙女な委員長様だ。跪いたほうがいいぞ」

唖然としてる間に、桃瀬の手によってボタンがキレイに縫い付けられ、満面の笑みを浮かべた桃瀬が「ほらよ」と言いながら、俺の肩に学ランをかけた。

「ありがと、おまえってすごいな」

「そんなことないって。なんかそういうのすぐに直さないと、気が済まないっていうか」

「普通の男子は、ソーイングセットなんて持ち歩かない。これも、お姉さんの教育か?」

学ランをいそいそ着て、ボタンをはめながら訊ねてみる。

「ああ。でも料理や裁縫は、母親から教わった」

(そんなの当たり前だといわんばかりに、笑いながら告げられてもな。教えられるまま言われるまま素直に従って、育てられたというワケか)

「桃瀬、おまえはお姉さんの都合のいい弟として、教育されたんだな」

「えっ!?」

「じゃあ聞くけどさ、お姉さんはおまえができること、全部完璧にやれるのか?」

俺からの質問で、顎に手を当てて考えはじめた桃瀬。やがて――。

「今まで姉ちゃんにこれくらいできないと、一人前の男になれないって言われたんだ。だから、きちんとやらなくちゃと思って」

桃瀬は純真で真っ直ぐな性格だから、騙されていても気がつかないワケか。羨ましいというべきか、かわいそうというべきか。

困った顔した桃瀬に俺は、ぽんぽんと優しく肩を叩いてやった。

「落ち込むな桃瀬。お姉さんはなにもできないということで、嫁にいけないというリスクを背負ったと思う。早く結婚して、見返してやればいい」

「うっ、周防ぅ~」

ウソ泣きした桃瀬にひしっと抱きつかれ、一瞬ドキッとした。だけど素直で純粋なコイツを守っていかなきゃ――そんな感情が湧きあがり、桃瀬の大きな背中を優しく撫でてやる。

ドキッとしたのは桃瀬の美貌のせいで、邪な感情からではない。友達として助けていけたらなって、このときは考えていた。

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    (うぅ~まだか、まだなのか……) あの後コンビニに赴き、お菓子や夕ご飯を買って用意されていた部屋に向かった。 スマホをいじったりテレビを見たりして時間を潰していたが、タケシ先生のことが気になりすぎて、内容がまったく頭に入ってこない始末――。 お酒が入るといつもより愛想が良くなるので、もしかすると誰かに言い寄られている可能性だってある。だってタケシ先生ほどのイケメンを放っておく女は、まずいないと思われる。 恋人がいないとわかった途端に擦り寄って、少しでも仲良くなるべく積極的に話しかけるだろう。 しかも傍にはあの御堂がいる。俺の目が届かないのをいいことに、ここぞとばかりに迫っているかもしれない。 どんどん膨らんでいく、ありえそうな妄想で頭が押しつぶされそうになっているうちに、ベッドの上でウトウトしてしまった。 どれくらいの時間が経ったのか――扉を激しくノックする音で目がぱっと覚めた。 急いで飛び起きて鍵を解除してドアを開けたら、着ているスーツが血まみれになっているタケシ先生と御堂が並んで立っているではないか。「ちょっ、どうしたんだよふたりとも!」 俺の問いかけを無視したまま、さっさと中に入っていくタケシ先生。らしくないその様子を見ていたら、御堂も中に入ってきた。「宴会の帰り道で、通り魔に襲われてケガをしている通行人に遭遇した。そのせいでこの有様になったんだ」 扉を閉めてタケシ先生のあとに続いた御堂が、丁寧に説明してくれたのはいい。タケシ先生と俺のためにこの部屋を用意していた御堂が、どうしてここに入るなり、着ているスーツをポイポイ脱いでいくんだ?「王領寺くん、どうした? 不満そうな顔して」 「どうしたなんて……。御堂さんが何で、ここにいるのかなと思いまして」 ジト目で質問に答えた俺を見て、してやったりな顔をした御堂が憎たらしくて仕方ない。「だって最初から周防とここに泊まろうと思って、リザーブしておいたんだ。君が来ることなんて知らなかったし」 「あぶねー! やっぱりタケシ先生に手を出そうと、ちゃっかり企んでいたんじゃないか!」 キーッと怒ってみせたら、御堂のヤツは苦笑いを浮かべながら、まぁまぁというジェスチャーを両手でした。 俺がギャーギャー騒いだら「うるさいぞバカ犬!」ってすぐに怒鳴ってくるはずのタケシ先生が妙に静かなことが、さら

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