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進撃(いや喜劇…いやいや悲劇!?)の学会7

Author: 相沢蒼依
last update publish date: 2026-10-22 07:16:41

とても眠れる状態じゃなかった。

ツインの部屋で御堂先輩と一緒に泊まることに関しては、歩の厳しい監視の目があるため、身の安全は保障されている。

「タケシ先生、いろいろあって疲れてるだろ? 俺はそこにある椅子で寝るから、気にしないで寝なよ」

いつものおちゃらけた笑顔でベッドを進呈してくれた恋人には悪いけど、医者としての自分の駄目さ加減を再認識させられたせいで、体は寝たがっているのに、頭が妙に冴えたままだった。

現在は宿泊しているフロアの一番奥まったところにある非常口を背に、横にある窓から見える景色をぼんやりしながら眺めている。ひとりにしてくれと歩に頼んでいたこともあり、今日の出来事を反芻するには楽だった。

『ハハッ……。残念なが、ら片想い、なんだ。永遠に叶うこと、のないもの……さ』

刺された患者の言葉を聞いてから、ちょっと前まで片想いしていた自分を重ねてしまった。本来ならそんなことを気にせず、一刻も早く応急処置を施さなければならないというのにだ。

『見目麗し、い君でも、片想いをするもの、なのか』

どんなに自分の見た目が良くたって、片想いする相手の好みじゃなけりゃ意味がない。そ
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    俯かせていた顔を思いきって上げたら、小さく笑う歩と目が合った。「強がってるタケシ先生もいいけど、お手上げ状態なタケシ先生も大好きだよ」 「なんだよ、それは」 「自分の心に、嘘をつくのはかまわない。だけど俺の前では素直でいて欲しい。タケシ先生に嘘をつかれると、俺は悲しいんだからな」(恋人のお願いを、きかないわけにはいかないじゃないか――)「歩、俺は――」 「うん」 じわりと歪んでいく視界の先にいる歩の顔が、水の中にいるような状態になった。鼻をすする音がフロアに響く。その音に情けなさを感じながら、ぽつぽつと口を開いた。「俺ひとりきりだったら、さっきの患者を見殺しにしていたかもしれない……」 「どうして、そんな状況になるんだよ。だってタケシ先生は医者なのに。いつもなら冷静に対処しているだろ?」 痛いところを突いてくる恋人に、思いっきり視線を逸らしながら言葉を繋げる。「刺された痛みに顔を歪ませた患者の声を聞いたら、治療の手が止まってしまったんだ」 俺を抱きとめていた片手が、俯いた顔を強引に上げさせる。無理やり合わせる歩の目から、視線が逸らせなかった。「タケシ先生の手を止めるなんて、相当つらいことを言ってきたんじゃないのか?」 「歩……」 「俺の病気を治そうと、必死になった姿を見てるからわかる。救える命が目の前にあったら、絶対に助ける医者なんだもん。諦めるなんてことはしないだろ?」 言いながら、頬に伝った涙を拭ってくれた。「お前がいるから、乗り越えられていると思ってた。今が幸せだったから、昔のことなんて全然思い出さなかったのに」 「昔のこと?」 「手遅れの恋――」 それを告げた瞬間、歩の目が大きく見開かれた。「アイツのことが……桃瀬を好きな気持ちがまだあるんじゃ」 「そうじゃない、違うんだ!」 歩に誤解されたくなかったのもあり、静かにしなきゃいけない場所と時間帯だというのに、大きな声をあげてしまった。「タケシ先生……」 沈みきった歩の声が、胸に突き刺さる感じで聞こえた。「桃瀬を想う気持ちがあるとかじゃなくて、なんていうか……そうだな、古傷と表現したらわかりやすいかもしれない。古傷が疼く感じがしたんだ」 「ずっと桃瀬に片想いをしていたタケシ先生だから、きっと浅い傷から深い傷まで、たくさんありそうな気がする」 「そうかも

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    とても眠れる状態じゃなかった。 ツインの部屋で御堂先輩と一緒に泊まることに関しては、歩の厳しい監視の目があるため、身の安全は保障されている。「タケシ先生、いろいろあって疲れてるだろ? 俺はそこにある椅子で寝るから、気にしないで寝なよ」 いつものおちゃらけた笑顔でベッドを進呈してくれた恋人には悪いけど、医者としての自分の駄目さ加減を再認識させられたせいで、体は寝たがっているのに、頭が妙に冴えたままだった。 現在は宿泊しているフロアの一番奥まったところにある非常口を背に、横にある窓から見える景色をぼんやりしながら眺めている。ひとりにしてくれと歩に頼んでいたこともあり、今日の出来事を反芻するには楽だった。『ハハッ……。残念なが、ら片想い、なんだ。永遠に叶うこと、のないもの……さ』 刺された患者の言葉を聞いてから、ちょっと前まで片想いしていた自分を重ねてしまった。本来ならそんなことを気にせず、一刻も早く応急処置を施さなければならないというのにだ。『見目麗し、い君でも、片想いをするもの、なのか』 どんなに自分の見た目が良くたって、片想いする相手の好みじゃなけりゃ意味がない。そのことを伝えかけて、言うのをやめた。言ったところで、その恋はもう終わっているのだから。『だったら俺の気持ち、がわかるだ、ろ? 最期の望みを聞いては……くれ、ないか。少しでも彼の存在を感じなが、ら死にたぃんだっ』 自分が医者じゃなくただの通行人だったなら、患者の望みをきいていたかもしれない。いや、素直に聞いていたと思う。 見るからに瀕死の重傷に見える患者の願いを叶えてあげなければと、なにもせずにそのまま見過ごしていただろう。好きな人の存在を傍に感じながら死ねるなら、俺だって死にたい.「だけど俺は医者なんだ。どんな患者でも、助けなきゃいけない立場なのに……」 静まり返ったフロアに、低い声が響いた。言い聞かせるようなそれは、呪文のように自分の耳に返ってきた。『お前、自分の心の弱さを、こんなタイミングで晒してる場合じゃないだろ。素人が見ても、危ない状態だっていうのがわかるだろ?』 ズシリと胸にのしかかった御堂先輩のセリフは、俺のいいわけを簡単に封じるものだった。それだけじゃなく――。『周防が今みたいに患者に寄り添って、治療がしたい気持ちもわからなくはない。だがな今は緊急事態、そ

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    (うぅ~まだか、まだなのか……) あの後コンビニに赴き、お菓子や夕ご飯を買って用意されていた部屋に向かった。 スマホをいじったりテレビを見たりして時間を潰していたが、タケシ先生のことが気になりすぎて、内容がまったく頭に入ってこない始末――。 お酒が入るといつもより愛想が良くなるので、もしかすると誰かに言い寄られている可能性だってある。だってタケシ先生ほどのイケメンを放っておく女は、まずいないと思われる。 恋人がいないとわかった途端に擦り寄って、少しでも仲良くなるべく積極的に話しかけるだろう。 しかも傍にはあの御堂がいる。俺の目が届かないのをいいことに、ここぞとばかりに迫っているかもしれない。 どんどん膨らんでいく、ありえそうな妄想で頭が押しつぶされそうになっているうちに、ベッドの上でウトウトしてしまった。 どれくらいの時間が経ったのか――扉を激しくノックする音で目がぱっと覚めた。 急いで飛び起きて鍵を解除してドアを開けたら、着ているスーツが血まみれになっているタケシ先生と御堂が並んで立っているではないか。「ちょっ、どうしたんだよふたりとも!」 俺の問いかけを無視したまま、さっさと中に入っていくタケシ先生。らしくないその様子を見ていたら、御堂も中に入ってきた。「宴会の帰り道で、通り魔に襲われてケガをしている通行人に遭遇した。そのせいでこの有様になったんだ」 扉を閉めてタケシ先生のあとに続いた御堂が、丁寧に説明してくれたのはいい。タケシ先生と俺のためにこの部屋を用意していた御堂が、どうしてここに入るなり、着ているスーツをポイポイ脱いでいくんだ?「王領寺くん、どうした? 不満そうな顔して」 「どうしたなんて……。御堂さんが何で、ここにいるのかなと思いまして」 ジト目で質問に答えた俺を見て、してやったりな顔をした御堂が憎たらしくて仕方ない。「だって最初から周防とここに泊まろうと思って、リザーブしておいたんだ。君が来ることなんて知らなかったし」 「あぶねー! やっぱりタケシ先生に手を出そうと、ちゃっかり企んでいたんじゃないか!」 キーッと怒ってみせたら、御堂のヤツは苦笑いを浮かべながら、まぁまぁというジェスチャーを両手でした。 俺がギャーギャー騒いだら「うるさいぞバカ犬!」ってすぐに怒鳴ってくるはずのタケシ先生が妙に静かなことが、さら

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    めくるめく大人のお医者さんごっこの妄想を無理やりに打ち消して、ホテルのキーと御堂の顔を交互に見比べてみる。「飲み会で帰りが遅くなるから、周防の部屋を予約しておいたんだ。王領寺くんは、そこで待っていてもらえるかな? 飲み会が終わったら、周防を部屋まで送り届けてあげる」 「わかりました。その代わり、タケシ先生に指一本触らないでくださいね!」 鍵を受け取りながら告げてやると、二枚目が台無しになるような変な笑みを浮かべた。その微妙すぎるほほ笑みに、嫌な予感しかしない。「心の底から勉強が大好きな周防を可愛がるべく、教授たちがここぞとばかりに取り囲んでいるだろうし、俺としてもそんな鉄壁を乗り越えられるような、できた人間じゃない。絶対に手が出せない環境だと思うよ。だから安心してくれ」 「はあ……」 「ちなみに王領寺くんは、どうやって周防と恋人同士になったのかな?」 しげしげと自分を見つめる御堂から、思いっきり顔を背けてしまった。余計なことを喋ったなら間違いなく、タケシ先生に叱られるであろうと察知したからである。「王領寺くんってば、すっごくつれないなぁ。俺がせっかくホテルの一室を予約しただけじゃなく、飲み会の雰囲気まで教えてあげたというのに」 「うっ……」 痛い場所を的確に突いてくるところなんて、タケシ先生にそっくりじゃないか。もしかして類友なんだろうか。「これはもう、周防を俺の部屋に連れて行っちゃおうかなぁ」 「それはやめてください!」 背けていた顔を、思わず御堂に向けてしまった。すると逃がさないようにするためなのか、いきなり顎を掴まれた。(至近距離で見つめ合う男同士なんて、傍から見たら絶対に可笑しいだろ) 嫌そうに眉根を寄せて御堂を睨んでやったがなんのその、ニヤけながら更に顔を寄せる。「素直に教えてくれたら、解放してあげるよ。とっとと口を割った方が、身のためだと思うけどね」 「……わかりました。教えますから手を放してください」『このバカ犬っ!』なんていうタケシ先生の怒号が頭の中で響いたが、背に腹は代えられなかった。しぶしぶ了承した俺を見つめながら、向かい合うように椅子に腰かけ、テーブルに頬杖をついた御堂の様子は楽しそうにしか見えない。「済まないね。どうにもふたりの馴れ初めが気になっちゃってさ。うんと年下の王領寺くんが周防と付き合ったのが

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    300人ほどの人数が余裕で集まれそうな、大広間で行われた学会会場。金屏風に丸テーブルがあったなら、まんま結婚式会場だなと内心苦笑しながら、暗闇の中で説明されるモニターの画面に見入った。 俺としては真面目に勉強したい一心でここに来ているというのに、隣にいる御堂先輩がやたらとちょっかい出してくるのが、すっごくウザい! 教授に招かれたとはいえ本来なら入れない身分だったので、末席の壁際の席に座っていた。 逃げ場のないそこを狙い澄まして、容赦なく体に触れてくる。この行為に対して、平手打ちや回し蹴りなどお見舞いしたいところだが、静かに勉強をする場なのでそんなことができなかった。 歩がこの場にいないのと反撃ができないのをいいことに、それを逆手を取るなんて――「御堂先輩、いい加減にしてください。医者として、真面目に勉強しに来てるんでしょう?」 声をできるだけ押し殺しつつ、腰を撫で擦っている手の甲を強く抓って持ち上げてやった。「真面目だよ。周防の感じる部分を探すのに、必死になってる」 何を言ってるんだという顔をして、にっこり微笑みかけてきた。呆れて摘まんでいた手を離すと、笑いながら抓られた手の甲を擦っている姿からは、まったく反省の色が見えない。「研修医のときよりも色気が増して綺麗になったのは、自分よりもうんと年下の恋人がいるからだってわかったんだけどさ。たまには経験豊富な年上と経験してみるのも、オツなものだと思うんだ」 「すみませーん。アイツの相手をするので手が空きません」 「手じゃなくてここだろ」 俺がモニターにガン見しているのをいいことに、躊躇なくお尻に触れた。迷うことなくその手を、ぎゅっと握りしめてやる。さっきからこういうやり取りばかりで、勉強に集中できやしない。 御堂先輩には悪いけど、黙ったままではいられない。この場に誘ってくれた教授や歩に、顔向けできなくなってしまうからね。反撃させてもらいますよ。 さっき握りしめた手を使い、勢いよく挙手してやった。「なっ!?」 「すみませーん。今のところについて、彼から質問があるそうですっ」 元気ハツラツと言わんばかりに声を張り上げたら、掴んでいる手を素早く引き抜き、やられたと小さく呟いた御堂先輩。 俺の顔を恨めしげに睨みながら立ち上がると、頭を掻きながら口を開く。「えっとですね、限られた時間を使う

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    イヤな不安ほど的中するものはない――「久しぶり~! とは言っても1ヵ月半ぶりの再会だけどな」 待ち合わせ場所に現れたスーツ姿の男は、タケシ先生の姿を見た途端に、微笑みの貴公子みたいな、イケメンすぎる笑顔を振りまいた。 研修医時代に指導をした人だと聞いていたから、てっきりものすごく年上だと思ったのに、童顔のせいか、タケシ先生と兄弟と紹介されても、違和感がない感じがした。「1ヵ月半ぶりでもお久しぶりです。御堂先輩」 「相変わらず、可愛くない返事しやがって」 言いながら隣にいる俺に、視線を飛ばした。俺とたいして背の高さが変わらないため、びしばしと視線が顔に突き刺さること、この上ない。「はじめまして。看護学生の王領寺 歩と申します。今日はワガママ言って、タケシ先生について来ました」 訊ねられる前に自分から口を開いてみたら、その行動に驚いたのか、タケシ先生がまじまじと俺を見つめてくる。 ふたりの視線を受けて、逃げ出したいほどの衝動に駆られたけど、ここで怯んじゃダメなことくらいわかっていた。 なんてったってコイツは、愛しのタケシ先生の唇を奪ったヤツ。ここは俺が、しっかり守らないといけない!「周防ってば俺が手を出せないように、小さな番犬を連れてきたのかよ?」 御堂はくっくっくと小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべ、あからさまに俺を見下す。「……榊原教授はどうしたんですか?」 御堂の質問をスルーし、えらく真面目な顔を作りこんで話しかけるタケシ先生。こういう雰囲気を漂わせたときは、俺でもなかなか触れることができない。「教授には先にホテルに行ってもらった。学会のリハがあるし、出席者同士の積もる話があるから、邪魔しないようにしないとさ」 タケシ先生の質問に答えているくせに、視線はずっと俺にロックオンしたまま。まるで値踏みをするかのようなそれに、思わず怯みそうになってしまった。「大人の男よりも、若い男に走ったってわけか。なんか意外……」 「なにがですか?」 「見た目はしっかりしてる割に、心の内が弱い周防には、包容力のあるヤツが似合いだと思っていたのに。これじゃあ、張り合えないじゃないか」(――張り合えない、だと!?) 御堂の言葉にカッとなって、言い返そうとしたら、タケシ先生の右手が俺の口元を覆った。「小さな番犬の無駄吠えを防ぐために、周防自ら口

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