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第3話

Author: Lovely Pearly
アーサーは次の辛辣な一言を放とうとしていたが、その動きがふいに止まった。目を見開いている。

一方、カイルは視界の端でその変化を捉え、瞬時に緊張した。妻は何をするつもりだ。焦りが胸をよぎる。靴でも投げつける気か。それともエレナに唾でも吐きかけるつもりか。

しかし、カイルの予想は大きく外れていた。キラナは膨らんだ赤いドレスの両脇を両手でつまむと、右足を優雅に一歩後ろへ引いた。そして憎らしいコルセットのせいで多少ぎこちなくはあったが、それでも流れるような所作で膝を折り、深く頭を垂れる。

カーテシーだった。貴族女性特有の礼だが、その深さは通常の礼儀の範疇をはるかに超えている。顎が胸につくほど深く頭を下げていた。

「私……」

キラナの声が響いた。かすかに震えてはいるが、はっきりと聞き取れる。かつて特有だったあの甲高さはどこにもなかった。

「私も、お詫びいたします。せっかくの宴の雰囲気を壊してしまいました」

その場が一瞬で凍りついた。針が一本落ちても、その音が聞こえそうなほど静まり返っていた。光景を目にした貴族たちは皆呆然と立ち尽くし、貴婦人たちの扇子の動きが止まった。

アーサーは真昼に亡霊でも見たかのような顔だ。エレナでさえ泣くのを忘れ、小さな口を開けたまま固まっている。

ヴァレリアーナが?あの鼻持ちならない傲慢な女が、謝罪だと?しかも夫と並んで頭を下げている。

キラナの隣で、まだ頭を下げたままのカイルがわずかに首を傾けた。いつも冷静な灰色の瞳が激しく揺れている。信じられないものを見るように、妻のつむじを見つめていた。

これは夢か?それとも妻に何かが取り憑いたのか?もしくは、ここへ来る途中どこかに頭でもぶつけたのか。

「ヴァレリアーナ……お前……」

アーサーは言葉に詰まった。用意していたはずの辛辣な台詞は跡形もなく消え去っている。予想外に白旗を揚げてきた相手に、どう応じればいいのか分からずにいた。

キラナは彼の返答を待たなかった。ゆっくりと体を起こし、カイルと同時に立ち上がる。二人が身を起こしたとき、キラナはカイルのこめかみに浮かぶ冷や汗をちらりと見た。

ここに長居はできない。この改心した女の芝居は、アーサーがもう一度突っかかってくるか、あるいは空腹のあまりお腹が盛大に鳴りでもすれば、たちまち崩れてしまう。

今すぐこの場を離れなければ。キラナの手が再び動き、カイルの逞しい腕に素早く絡みついた。指をしっかりと巻きつける。

見上げるようにカイルを見つめ、わざと瞳を潤ませてみせた。実際は砂ぼこりのせいで目が乾いていただけだが、タイミングとしては申し分なかった。

「カイル……」

彼女は囁いた。カイルにも周囲の人々にも十分聞こえる声で。

「帰りましょう。ここにいると、悪意のこもった目で見られてばかりで……怖いの」

カイルの中で何かが音を立てて崩れ去った。怖いという言葉が彼女の紅い唇からこぼれた瞬間、敵の砲弾よりも強烈な破壊力で彼を打ちのめした。

頭の中が真っ白になる。妻が人に見られるのを恐れている?

彼女といえば、常に人々の注目を心から楽しんでいたはずだ。視線が集まれば集まるほど、自分がこの世の女王にでもなったかのように振る舞っていたのに。

それなのに今、腕にしがみついている手は紛れもなく震えていた。緑の瞳は脆く、庇護を乞うようにこちらを見つめている。

「……っ」

カイルは口を開いたが絶句した。戦略の専門家が語彙をすべて失っていた。

カイルの背後には、茶色の髪に銀縁眼鏡をかけた長身の男が立っていた。ルーカス。士官学校時代からカイルに忠実に仕える副官であり、無二の親友でもある。

普段は飄々としていたずらっぽい笑みを絶やさないルーカスの眼鏡は、今は片側にずり落ちていた。驚きのあまりいつもの余裕をすっかり忘れている。ちょうどカイルの馬を引いてここへ駆けつけたところで、目の前の光景に自分の正気を疑い始めていた。

あれが奥様か?俺が先週、犬の名前を間違えただけで花瓶を頭に投げつけてきたあの人が、今、怖いと言ったのか?

ルーカスの内心はちょっとしたパニック状態だった。世界の終わりが近いんじゃないか。

「カイル?」

キラナがもう一度呼びかけた。子供が大人に飴をねだるように袖を軽く引く。

「行きましょ……」

その甘えた口調に、カイルの意識が現実へと引き戻された。大きく咳払いをし、散り散りになった威厳をかき集めようとする。無表情な仮面を被り直したものの、耳の先だけがわずかに赤らんでいた。

「こほんっ、ああ」

カイルはぎこちなく言った。もう一度アーサーへ目をやり、小さく頷く。

「妻の体調が優れませんので、先に失礼させていただきます、殿下」

彫像のように立ち尽くしたままのアーサーが答えるより早く、カイルは踵を返した。歩幅は大きく足取りは確かだ。だがすぐに、重いドレスに苦戦しながら小刻みな歩幅でついてくるキラナに気づく。いつの間にか、カイルは妻のペースに合わせて歩調を緩めていた。

よし、うまくいった。キラナは心の中でこっそり快哉を叫んだ。

人垣を離れ、戸惑いながら道を空ける貴族たちの間を通り抜けていく。キラナはずっとカイルの腕に絡みついたまま、軍服越しに伝わる引き締まった二の腕の感触を味わっていた。

はあ、この腕、いい感じ。よその旦那様はやっぱり違うわね。って、忘れてた。これ、私の旦那様だったわ。キラナは思わず内心で吹き出した。

ルーカスは足早に、少し離れた場所で控える二頭の軍馬と、紋章を刻んだ馬車のもとへ向かう。カイルとキラナが近づくと、ルーカスは慌てて眼鏡を直し、恭しく一礼した。だがその目には疑念がありありと浮かんでいる。

まるでキラナのドレスの下に、何か物騒なものでも隠れていないか確かめるかのようだった。

「カイル様、奥様」ルーカスが声をかけた。「馬車の準備はできております」

カイルは小さく頷いたが、キラナに絡められた腕を振りほどこうとはしなかった。それどころか、無意識のうちに肘を少し曲げ、彼女が腕を組んだままでいられるようにしていた。

「まっすぐ屋敷へ戻る。裏門を使い、人目を避けろ」カイルが命じた。

「かしこまりました」

ルーカスが馬車の扉を開ける。いつもの彼女なら、誰の手も借りず高慢に乗り込むか、使用人に踏み台になるよう命じるかのどちらかだった。

しかし今、彼女はその高い車体の前で足を止めていた。視線が、踏み段と何重にも重なった自分の裾との間を行き来する。

うわ、こんなテントみたいなドレスでどうやって乗るのよ!

心の中でぼやきながら、キラナはカイルを振り返った。

「カイル?」

まだどこか呆然としながらも警戒を解かず、カイルは戸惑った様子で彼女を見た。

「どうした?」

「手を貸して」

キラナは手を差し出した。

ルーカスの顔がさらに青ざめた。息を殺し、いつものように癇癪が爆発するのを待った。だが、怒声はいつまで経っても降ってこなかった。

カイルは一瞬押し黙り、差し出された細い手をじっと見つめた。これまで遠くから眺めることしかできず、触れようとしても大抵は乱暴に払いのけられてきた、その手を。

ためらいながらも、優しい手つきでカイルはその手を取った。大きくごつごつとした、剣ダコのある分厚い掌が、キラナの小さな手を包み込む。触れた場所から、じんわりとした温もりが広がっていった。

カイルはドレスの裾が引っかからないよう気を配りながら、慎重にキラナを馬車の段へと導いた。彼女が座席に落ち着くまで扉を支え続けた。

「ふふ。ありがとう」キラナは心から、甘やかな笑みを浮かべて言った。

カイルは扉の前で丸三秒固まった。妻が初めて自分に向けてくれた、心からの笑みだった。嘲りでも冷笑でもない。ただの素直な笑顔だった。

「カイル様?」

ルーカスの静かな呼びかけが、放心状態のカイルを引き戻す。カイルはびくりとして慌てて馬車に乗り込み、キラナの向かいに腰を下ろした。扉が閉まる。

「出せ!」ルーカスが御者に向かって叫んだ。

馬車の車輪が回り始め、世界一気まずい夫婦を乗せて王宮を後にする。緩やかに揺れる豪奢な車室の中に、息が詰まるような沈黙が満ちていった。

カイルは背筋をぴんと伸ばしたまま、敵の尋問を受けているかのように硬く座っていた。両手を膝の上でぎゅっと組み、視線はまっすぐ前を見据え、向かいで自分の足を揉みながら何やらぶつぶつ呟く妻を、見ないよう懸命に堪えている。

「あー、痛い……もう、勘弁してよ」

カイルの心の奥底、その一番深いところで、見知らぬ温かな感情が静かに芽生えていた。

妻が別の男を追うのではなく、自分と一緒に家へ帰ることを選んだのは、これが初めてだったからだ。

この女、一体どうしたんだ。

カイルの内心が波立つ。

こんなに素直な態度をとって、一体何を企んでいる。まさか、じわじわと俺を殺す新しい作戦か。

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