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第4話

Author: Lovely Pearly
キラナは気が気ではなかった。この忌々しいコルセットはまるで拷問だ。馬車が砂利道の凹凸を越えるたび、ボーンが容赦なく肋骨に食い込んでくる。背もたれに寄りかかってだらしなく脱力したい。

前世でタクシーや配車サービスの車に乗っていたときのように、足を座席の上に投げ出したい。だがそんなことができるはずもなかった。スマホを取り出して動画でも眺め、この気まずさをやり過ごすという手段もない。

結局キラナにできることは一つしかなかった。夫を観察することだ。

丹念に手入れされた長い睫毛の陰から、こっそりと視線を送る。信じられないほど美しい、と喉の奥で息を呑む。

かっこよすぎる。

こんなに近い距離で――わずかな足元の隙間を挟んだだけの距離で見ると、カイルの美貌はもはや人間離れしていた。

完璧主義の彫刻家が彫り上げたような顎の輪郭、すっと通った鼻筋、戦場の陽射しに焼けた健康的な褐色の肌は、首都の青白い貴族たちとは一線を画している。

元のヴァレリアーナは、これほどの極上の男を一体どうやったら粗末に扱えるのだろう。

よりによって、色白で繊細な王子アーサーを追いかけていたなんて。家には、野性的で威圧感こそあるものの、本当は優しいカイルがいたというのに。

彼女の審美眼はどうかしている。キラナは内心毒づいた。元のヴァレリアーナのセンスには本気で呆れる。

歴戦の軍人としての鋭い勘で、カイルは自分が見つめられていることに気づいた。

普段の妻の視線には嘲りが滲んでいたが、今回は違う。敵意はなく、あるのはただ、賞賛のようなものだろうか。

カイルが思い切って視線を上げると、まじまじと自分を見つめる妻と目が合った。

二人の目が合った。キラナは現場を押さえられた泥棒のように、びくっと身を震わせた。慌てて顔を背け、軽い咳払いでごまかしながら自分の靴先へ視線を落とす。見惚れていたのを見透かされた羞恥で頬が熱くなった。

カイルは眉をひそめ、妻の態度の変化について考え続けていた。

ヴァレリアーナは一体どうしてしまったんだ。熱でもあるのか?それとも必死に怒りを堪えているだけか?

再び沈黙が場を支配する。だが先ほどよりさらに気まずい沈黙だった。

キラナはもう夫の顔を見る勇気が持てず、視線を膝の上で組んだカイルの手へと落とした。大きくて骨ばった、剣ダコだらけの手だ。

しかしふと目を凝らすと、右手の人差し指と親指の間に何かがあるのに気づく。滲んだばかりの赤い染み。血だ。

その傷は新しいもののようだった。先ほど無我夢中で馬を駆ったとき、手綱で擦れたのかもしれない。皮膚が裂け、ひりひりと痛むのか、黒い軍用ズボンにまで染みが広がっている。

カイル自身はまるで気にしていない様子だった。痛みなど、彼にとってはとうに取るに足らないものなのだろう。だがキラナにとっては、その傷はひどく胸をざわつかせるものだった。

小説の結末で全身ボロボロになっていたカイルの姿が、脳裏によみがえる。

だめだ。

心の中で強く思う。

こんな小さなことから彼を守っていかなければ。この傷を放っておけば化膿するかもしれない。最悪の場合、腕を切り落とすことだってあり得る。

頭で考えるより先に、キラナは体を動かし、カイルの隣の座席へと移った。

突然の動きにカイルはびくりとし、筋肉を反射的に強張らせた。まるでつねられるか、殴られるかと身構えたかのようだった。

しかし彼女は、ただ黙って彼の手を見つめているだけだった。

「その手……」キラナが小さく言った。

カイルは彼女の視線を追った。

「ただの擦り傷だ。気にする必要は――」

言い終わるより早く、彼女の柔らかな手が彼の肌に触れた。その温かい感触は電流のように駆け抜け、彼の荒れた手とは対照的だった。

カイルは反射的に手を引こうとする。

「動かないで」

キラナは命じるように言った。だがその口調は叱責というより、心配性な母親の小言に近かった。

「血がズボンにまで垂れてるじゃない。傷口が汚れるわ」

「大丈夫だ。屋敷に着いてから処置すれば済むことだ」カイルが硬い声で反論した。

「屋敷まではあと一時間よ。それじゃ遅いわ。化膿でもしたら大変」

キラナは頑として引かなかった。両手でカイルの手を包み込み、逃げ場を与えない。

彼女は右手をドレスの裾に隠したポケットへ差し入れ、真っ白で清潔な絹のハンカチを取り出した。

金糸でV&Aの文字が刺繍されている。自分とアーサーの頭文字だ。

片想いの証であり、王子には受け取ってもらえなかったものだ。

元のヴァレリアーナが、兵士の年収に相当する額を費やし、思いのたけを込めて刺繍したものだ。

カイルはそれを見覚えていた。胸に鈍い痛みが走った。

「別のハンカチを」

カイルは冷たく言った。Aの文字に向けられた視線には不快感が滲んでいた。

「……それは君が王子に贈った大切な品だろう。俺の血で汚さない方が良い」

キラナはその悪趣味な頭文字をしばらく見つめた。

「そうね。昔の私にとっては宝物だったみたい。でも今の私にとっては、ただの高級な雑巾よ」キラナは呟くように付け加えた。

カイルは内心苦笑した。

当然だろう。愛の証を汚すことなど彼女にできるはずがない。

「それに、このままじゃ大きすぎて巻きにくいし」キラナは何でもないことのように続けた。

次の瞬間、ビリッ、と布の裂ける乾いた音が響いた。

カイルは目を見開き、座席から飛び上がりそうになった。目の前で彼女は表情一つ変えずに絹のハンカチを真っ二つに引き裂き、VとAの文字を無造作に分断した。

「よし、これでちょうどいい大きさ」

キラナは満足そうに呟いた。Aの文字が入った半分は使用済みのティッシュのように馬車の床へと放り捨て、もう片方の清潔な布切れを、真剣な顔でカイルの手へと巻きつけていく。

カイルは固まった。視線が、床に無残に転がるAの残骸と、自分の傷に布を巻く妻の間を行き来する。

「君……それを破いたのか?」

声が詰まった。

「ん?」

キラナが顔を上げてちらりと見る。

「そうよ。何か問題でも?巻き方、雑だったかしら?」

「それはアーサー王子へ贈るものだったはずだ。先月、金糸が一本切れただけで三日三晩泣いていただろう」

カイルはゆっくりと言った。妻がまだ正気なのか疑うように。

キラナは最後の結び目を作り終えると、カイルの手をぽんぽんと軽く叩いた。

「それは昔の話でしょ、カイル」

何でもないことのように答えたが、その心臓はこの役を演じる緊張で早鐘のように打ち鳴っていた。彼女は夫の目をまっすぐに見つめる。

「今は、私の夫の手についた傷のほうが、他の男のイニシャルよりずっと大事なの」

カイルは黙り込んだ。血の染みた絹の包帯と、大仕事を終えた直後のように背もたれへゆったりと身を預けた妻の顔を交互に見つめる。理性が警鐘を鳴らしていた。人間はこんなに急には変わらない。何か企んでいるに違いない。

「……何が目当てだ」

カイルは低い声で尋ねた。警戒を隠さない口調だった。

「新しい宝石?新しいドレス?それとも俺を駐屯地に寝泊まりさせて、顔を合わせずに済むようにしたいと?」

その問いはキラナの胸に刺さった。過去の評判があまりにも悪すぎるせいで、ほんの些細な親切さえ何かの取引だと思われてしまう。

キラナは長く息を吐いた。信頼って、本当に得難いものなのね。一度失ってしまえば、そう簡単には取り戻せない。

「宝石なんていらない」

キラナは静かに言い、窓の外、公爵邸へと続く道へと視線を移した。

「駐屯地に寝泊まりしてほしいわけでもないわ」

もう一度カイルを見つめ、小さく、けれど確かに本物の笑みを浮かべる。

「あなたに怪我なんてしてほしくないだけ。それだけよ。妻が夫を気遣うのに、理由なんて必要?」

カイルは言葉を失った。これまで自分を納得させてきた理屈が、すべて崩れていく。ゆっくりと布を巻いた手を引き寄せ、まるで守るように胸へと抱き込んだ。絹から伝わる温もりがじわりと広がり、不思議なことに、ずっと凍りついていたはずの心まで温めていくようだった。

残りの道のりは、それまでとは違う沈黙の中で過ぎていった。

カイルはもう窓の外を見ていなかった。手に巻かれた布をただ静かに見つめ、時折、疲れから舟をこぎ始めた隣の妻へと視線を投げる。

いつの間にか、カイルは彼女の方へわずかに肩を寄せていた。ほんの少しだけ。そうしておけば、もし妻の頭が傾いても、硬い木の壁ではなく自分の広い肩が受け止められるからだ。

もちろん、体面を気にする公爵がそんなことを認めるはずもなかった。

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