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俺の弟

Auteur: をち。
last update Dernière mise à jour: 2025-05-17 16:28:46
その日は一晩公爵家に泊まり、朝早くまた学園に戻ることになった。

寮に戻るつもりだったのだが、父上や母上に「久しぶりに戻ったのだからゆっくりしていけ」と請われたのと、なにより執事のバードが「アスナを従者にするのならば、最低限アスナに教えておかねばならぬことがございます!」と譲らなかったのだ。

「さあ、まいりましょうか?あなたは従魔。眠る必要はございませんよね?」

「…………お手柔らかに」

アスナはドナドナされる仔牛のような表情で、いい笑顔のバードに引きずられていった。

せいぜい頑張ってくれ!

残された俺は、父上と母上と久しぶりの公爵家の食事に舌鼓を打った。

「さあ、これも食べなさい。アスカの好物だろう?」

と父上が手づから牛肉を取り分けてくれる。

触れたとたんスッとナイフの刃が通り、スルスルと気持ちよく切り取られていく。

我が家の肉はとても柔らかいのだ。

俺はこれが普通だと思っていたから、学園の肉料理を食べて驚いた。

味はともかく、食感がまるでゴムを噛んでいるようだったからだ。

とにかく、ウチの味に慣れていた俺にとって食べられたものではなかった。

噛んでも噛んでも消えないので、最後は無理やりに吞み下している。

公爵家の肉は、口に入れるとほろりとほどけ、噛む必要がないくらいなのに。

「ありがとうございます。……ああ、美味い」

思わず幸せなため息が漏れた。

この味だ。学園のあれば食事ではない。餌だ。

これこそが食事というもの!

「ああ、久しぶりに満足のいくものを食べた気が致します」

と心からの笑みを浮かべる。

するとそれを聞きとがめた母上が、心配そうな表情に。

「アスカちゃん、学園できちんとお食事している?そんなにひどいの?」

「……食べてはおりますよ?機械的に噛み下して飲み込めばいいのです。ここの食事が特別なのです。どこも同じようなものでしょう」

そううそぶけば、絶句してしまった。

お嬢様育ちの母上にはショックだったようだ。

母上と父上が居た頃は、皆がこぞって父上と母上に忖度し、特別席にせっせとシェフに作らせた食事を運ばせていたという。一般の生徒が食べるようなものを食べたことなどないのだろう。

俺もそうしようと思えばできなくもない。

だが、有象無象に捕まるのも面倒なので、周りを排除し、一番早くできる「本日のメニュー」とやらでさっさと食事を済ませることにしている。ただそれ
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