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87.王子たちの“戦い”

last update Last Updated: 2025-07-28 17:22:17

朝食を終え、食器が下げられ始めた頃、ルシアンの声が食堂に響いた。その声はいつもより一段と明るく、まるで何か楽しい企みでもあるかのような響きを持っていた。

「アゼルと葵がキスをしたって、本当?」

ルシアンは、にこやかにどこか含みのある目でアゼルを見つめて尋ねた。その言葉に、私は思わずスプーンを落としそうになった。食堂にいた皆の視線が、一斉に私とアゼルに集まるのを感じ、顔がみるみるうちに熱くなっていく。

アゼルはそんな私をちらりと見てから、ふっと不敵な笑みを浮かべた。

「ああ、本当だ。高熱で意識が朦朧としていた俺に、看病する葵が薬や水を何度も飲ませてくれたんだ」

アゼルは、わざと強調するように「何度も」と言葉を重ねる。

「何度もはしていない!!」

私は思わず叫んだ。実際は、薬を飲ませた時と回復して目を覚ました時の二回だけだ。

「へー、葵は何度もしたことは否定するけど、キスしたことは否定しないんだね」

ルシアンは、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべ私を見てくる。彼の視線は、私の顔から首筋、そして肩へとゆっくりと滑っていく。その視線に私は身動きが取れなくなる。顔はもう、真っ赤に染まっているだろう。

「でも、僕

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