Partager

第14話

Auteur: みそ煮
last update Date de publication: 2026-05-09 21:41:59

一時間後。

美容院から夏目家の邸宅へ帰った由利を、メイドが出迎えた。彼女は由利を見て目を丸くした。

「お、お嬢様……!?」

由利の自慢のロングヘアが、肩までバッサリと切られていたのだ。由利は美容院帰りの綺麗な髪に指を通した。

「どうかしら?髪を切ってみたの」

「何というか……すごく変わられましたね」

メイドは驚きで言葉も出ないようだ。

(そういえば、彼女にはいつも世話になっていたわね)

流産で入院していたときも、家族も碧斗も来ない中、彼女だけが見舞いに来てくれた。邸で一人ぼっちだった由利を気遣ってくれたのは、彼女だけだった。

「お嬢様が髪の毛を切られるとは、驚きました……」

「あら、そう?」

彼女はどれだけ由利が自分の髪の毛を誇りに思っていたかを知っていた。いつも顔を赤らめては碧斗に唯一褒められた場所なのよ、と周囲に話していたからだ。

(そういえば、そうだったわね……)

前世を含めると、十年ぶりくらいに髪を切ったことになる。重かった頭がスッキリしたせいか、何だか清々しい気持ちになった。

面倒なヘアケアも、もうしなくていいんだ。そのことを考えると、とても心が楽だった。これからは誰の目も
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第110話

    淳子がいたそのレストランは、実は洋介の知り合いの社長が経営していた。そのため、彼は常連客も同然の存在。淳子はレストランの常連である彼にとって、初めて見る異質な存在だった。特別着飾っているわけでもない美しい女が、見るからに平凡そうな男と共にいる。どう見ても釣り合っていないその姿は、余計に洋介の興味を引いた。「――ちょっと、洋介ったら。何をそんなに見ているのよ?」「……いや、何でもない」洋介は当時、モデルの女性と交際していた。スタイルが良く、美しい恋人だったが、結婚までは考えていなかった。不誠実で最低だと思われるかもしれないが、何かと高価なディナーやプレゼントをねだる女に本気になれるはずがなかった。ただ、見た目が良いから付き合っていただけ。気付けば彼の視線は、目の前にいる恋人ではなく、淳子に固定されていた。「あの女……名前は何て言うんだろうか」不意打ちで見せた彼女の笑顔が、脳裏に焼き付いて離れなかった。料理が出てくるまで待っている時間も、食事を摂っている最中も、彼女のことばかりを考えていた。***その後、洋介は先に恋人を家に送り返した。なぜ一緒に帰れないのかと不満を露わにされたが、既に淳子に夢中になっていた彼にとって、見た目が良いだけの恋人などどうでもいい存在。どうしてもあの子と話したい。ここで見逃してしまったら、二度と会えないかもしれない。そのような思いが彼を突き動かした。彼は食事を終えて店を出ようとする二人に向けて、ある仕掛けをした。洋介は淳子の目の前でわざとらしく、ハンカチを落とした。床に落ちたハンカチに気付いた淳子が、洋介に声をかけた。それが最低な罠だと、彼女は知る由もなかった。「すみません、落としましたよ」「……あぁ、ありがとうございます」偶然を装い、洋介は淳子と話すことに成功した。そして彼は、何とか彼女との関わりを持とうとした。「母から貰った大切なものだったんです。後日お礼をしたいので、名前と連絡先を教えてくださいますか?」「いえ、大したことはしていませんので、気にしないでください」そのまま立ち去ろうとする淳子の腕を、洋介は掴んで引き留めた。すぐ横にいた彼女の恋人が眉をひそめたが、彼は気にしなかった。「それでは私の気が済みません。どうか、連絡先だけでも教えてくださいませんか?」「……」淳子は悩みながらも、彼

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第109話

    後に夏目社長夫人となる淳子(じゅんこ)は、元々一般家庭の生まれで、大企業の御曹司と結婚できるような家柄の人間ではなかった。そもそも彼女には結婚を約束した恋人がいたし、夏目家の御曹司とは接点すらなかった。そんな淳子が一体どのようにして、今の夫と出会い、結婚するに至ったのか。二人が結婚するまでの経緯は、実はかなり複雑だった。淳子は当時、勤めていた会社内で話題を集めていた。二十代前半だった彼女は、芸能人顔負けの輝くほどの美貌を持ち合わせていたからである。一言で言えば、今の紫苑によく似ている。そんな彼女には、婚約していた恋人がいた。恋人との付き合いは学生時代からで、何と七年にも及んでいた。彼はお金持ちでもなく、特別何かに秀でているわけでもなかったが、誰よりも優しい淳子の一番の理解者だった。結婚相手は彼以外にあり得ないと、淳子はそう思っていた。交際七年の記念日を迎えた日、淳子は彼からのプロポーズを受け入れた。あの日は人生で最も幸せな一日となり、数十年の年月が流れた今でもよく覚えている。このまま彼と結婚し、温かい家庭を築いていくのだと信じて疑わなかった。しかし、結婚を間近に、淳子はある不幸に見舞われてしまった。クリスマスの夜、淳子は恋人と共に高級フレンチレストランへと訪れていた。都内でも有名な場所で、芸能人などの富裕層が多く訪れることでも知られている。ワインの入ったグラスを片手に、淳子は微笑んだ。「こんなに良い店を用意してくれるだなんて、嬉しいわ。ありがとう」「この場所が、美しい君に相応しいと思ったんだ」恋人は特別裕福というわけではない。しかし、クリスマスくらいはと愛する彼女のために奮発したのだ。その気持ちを、淳子はしかと受け取った。(もうすぐ籍を入れる予定だし……楽しみだわ)淳子は近いうちに来るであろう恋人との幸せな未来を待ち望んでいた。しかし、魔の手は彼女に刻一刻と差し迫っていた――「式場はどこがいいかしら。ドレスはもう決めてあるのよ」「楽しみだな、君ならきっと何を着ても綺麗だろう」和気あいあいとフレンチのディナーを楽しむ淳子を、遠くからある人物がじっと見つめていた。「……何だ、あそこにいる女は」「初めて見る女性ですね。どこかの社長令嬢でしょうか?」それは、後に淳子の夫となる夏目洋介(なつめようすけ)だった。彼は初めて見る淳子の

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第108話

    その頃、由利が出て行った夏目家では。夜になっても帰ってこない由利に、母親は自身の夫を問い質した。由利は子供の頃から無断外泊も夜遊びもほとんどしたことがないほど真面目な子だった。そんな由利が何の連絡もなく家に帰ってこないのだから、驚くのも当然だろう。しかし、それは娘の身を案じる心配から来るものではない。ただ、夏目家の名前に泥を塗らないでほしいというとても親が娘に抱くようなものではない感情からだった。父は眉をひそめる母に、事の事情を説明した。「……あの子が碧斗君の実家に泊まるですって?どうして急に?」「薄井夫人が由利を誘ったそうだ。夫人は昔から由利を可愛がっていたからな」「だからといって……紫苑や碧斗君は誘わずに由利だけを招くだなんて……明らかに贔屓してるわよね、あの人」最も子供たちを贔屓しているのが自分であるということに、彼女は気付いていなかった。ただ、由利が家からいなくなると家事を手伝う人がいなくなるから困る。今日は雇っている家政婦が休みで家にいないし。「あなた、どうして許可したのよ」「……由利にも、たまにくらい息抜きさせてあげるべきだろう」「息抜き……?何のことを言って……」わけがわからないというような妻を、夫は呆れたような目で見た。この期に及んで、気が付いていないのか。「――これまで由利には、色々と苦労をかけてきたからな」「……」その言葉を最後に、彼は妻から顔を背けた。これ以上、犯した罪に気付かない彼女を視界に入れていたくはなかった。結局父親もまた、心が弱いのだ。気付いていながらも、認めたくはない。そのような感情が見て取れる。母は、そんな父の後ろ姿をただじっと見つめていた。その瞳に宿っているのは、少なくとも夫に対する愛情ではなかった。――一言で言うのならば、憎悪。「何よ……アイツ、ムカつくわ」母は誰にも聞こえないような小さな声でポツリと呟くと、そのまま近くにあったソファに腰を下ろした。ちょうど部屋に飾ってあった結婚式の写真が視界に入る。その一枚の写真に写っている二人は、若い頃の夏目夫妻だった。幸せそうに笑みを浮かべる新郎と、暗い表情の新婦。二人は正反対の表情をしていた。愛し合って結婚したとは思えないほど、新婦の顔色は悪かった。その写真に隠された真実を知っているのは、当の本人たちだけである。彼女は写真を手に取り、口

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第107話

    そして、その日はあっという間にやってきた。「あらぁ、由利ちゃん!久しぶりね、会えて嬉しいわ!」薄井家を訪れた由利を快く出迎えたのは、涼介と碧斗の産みの親である薄井社長夫人だった。ついこの間のパーティーで会ったばかりだというのに、少々大げさな反応である。「夫人……お久しぶりです」「あらあら、どうしたの?お義母さんとは呼んでくれないのかしら?」「お義母さん……お久しぶりです」お義母さん――というと、薄井夫人は嬉しそうに由利に抱き着いた。この方は昔から少々他人に対する距離感がバグっているところがある。由利は息子の妻、義理の娘なので他人ではないかもしれないが、義母が息子の嫁にいきなり抱き着くのはかなり稀だろう。まぁ、由利は彼女のそんなところが好きではあったが。夫人は由利を家に通しながら口を開いた。「涼介が由利ちゃんと会うって聞いてね……ぜひウチに来るよう誘って!ってお願いしたのよ」「あら、お義母さんだったんですね」薄井グループは由利の生家に引けを取らないほどの大企業だ。そのため、当然社長夫妻が住んでいる邸も大きい。由利は今日、この場所に一泊することになっている。碧斗の実家に泊まるのは初めてではないが、一人で……というのは初である。いつも碧斗か紫苑と一緒に泊まりに来ていたから、一人というのは何だか慣れない。邸宅内を歩きながら、夫人が由利に声をかけた。「ところで、紫苑ちゃんは相変わらずかしら?」「え?えぇ……家で療養しています」由利の答えに、夫人はわかりやすく眉をひそめた。そして周囲に聞こえないような小さな声で、ボソッと呟く。「そう……あのご両親にも困ったものね――結婚する経緯がかなり複雑だったのは有名だけれど、娘を偏愛するだなんて……」「………夫人?何か言いました?」理解できなかった由利が聞き返すと、夫人はニコッと笑った。「いいえ、何でもないわ。それより、部屋に案内するわね。由利ちゃんのために特別な部屋を用意したのよ」「まぁ、本当ですか?」夫人のあとをついて行き、由利は邸の二階にある部屋に通された。広い一室に、アンティーク調の家具や天蓋付きの大きなベッドが設置されている。夏目家の由利の質素な部屋とは天と地の差だ。「とっても大きな部屋……!こんな部屋を、いいんですか?」「もちろんよ、実はこの部屋……元々由利ちゃんのために用

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第106話

    由利と涼介は二人並んで近くにあるレストランへ入った。駅の近くにある高級レストランは、涼介が由利のためにと選んだ場所だった。由利は普段、外食なんてほとんどしない。身体が弱くてあまり外出できない紫苑に合わせるため、大体は家で食事を済ませている。もういい年なのだから一人で行ってもいいだろうと思われるかもしれないが、それを許さないのが我が夏目家なのだ。紫苑を置いて一人だけ高価な食事を楽しむなど、母親に知られたら何て言われるか。想像もしたくない。二人は店員に案内された席に、向かい合って座った。「ハワイ旅行は楽しかったか?」「ええ、もちろん。予期せぬ事態は発生したけれど……とても楽しいゴールデンウィークになったわ」由利は笑顔で答えた。久しぶりだったからか、涼介との時間がとても楽しく感じられる。「楽しめたのならよかった。紫苑がついて来ると聞いて心配していたんだが……」「ええ、そうね。紫苑のことは私も心配だったけれど、何とかなったわ」涼介も昔から、由利の妹である紫苑のことはよく知っている。彼女がお転婆で、すぐどこかへ行ってしまう性格だということも。そのせいで、余計な心配をかけてしまっていたようだ。「空港で迷子になっちゃったけど……すぐに見つけられたからよかったわ」「空港で迷子に?紫苑は相変わらずだな……昔と何も変わっていない」涼介は呆れたようにため息を吐いた。彼は由利に対しては必要以上に気にかけてはくれるものの、紫苑のことはあまり良く思っていないようだった。「まぁ……そういう天真爛漫なところがみんなに好かれるんじゃないかしら」「しかし、限度というものがあるだろう」涼介の言っていることはもっともだ。(旅行で色んなことがありすぎたせいか……未だに理解に追い付いていないところがあるわ)紫苑が前世の記憶を持っていたこと、碧斗の気持ちの変化。新婚旅行を通じて、由利の世界は大きく変化した。今世はただ穏やかに過ごすつもりだったのに、こうも予想だにしない事態ばかり起きるとそうもいかなかった。前世の記憶を持つ紫苑がいつ何を仕掛けてくるかわからない。警戒を怠ってはならなかった。(父さんと母さんの抱える秘密も……過ごしているうちに明らかになるんだろうか)由利は死後のループを何よりも恐れていた。しかし、今世では明らかに周辺の状況が変わっている。そのおかげで二度

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第105話

    翌日、由利はある人物に会うため最寄駅に訪れていた。今日はちょうど仕事が休みで、碧斗や両親も家にはいなかった。その隙を狙って、彼女は旅行後最も会いたかったある人と約束をしていた。(似合わないなぁ……でもたまにくらい、こういう服を着てみてもいいよね)由利は近くにあるお店のショーケースに反射している自分を見つめた。いつものカジュアルな服装とは違って、今日は紫苑のような花柄のワンピースを着用している。靴は高めのヒールを履き、少しだけ伸びて肩についた髪の毛をハーフアップにしていた。由利は華やかな紫苑と違って、地味な見た目をしている。そのため、このような格好があまり似合わないのは自分でもよくわかっている。知っていながらも、チャレンジしたのだ。(どうせなら、いつもと違う私を見せたかったし……前世ではできなかった格好もしてみたかったのよね……)それからしばらくすると、駅の前で待っていた由利の元に”彼”がやって来た。「――由利!」「……涼介兄さん!」その姿を見た途端、由利はヒールを鳴らしながら彼に駆け寄った。高いヒールに慣れていないせいか、途中の段差でつまずきそうになってしまった。「キャアッ!」「――おっと」前に倒れそうになった由利を、涼介が受け止めた。「……兄さん」「大丈夫か?由利、そういうところは昔から変わっていないんだな」顔を上げると、微笑んだ涼介が由利を見下ろしていた。その穏やかな表情が、昔よく一緒に遊んだ涼介のものと重なった。「に、兄さん……」涼介は由利を抱きしめたまま、しばらくその華奢な身体を離さなかった。由利は顔を赤くしながらも、何とか彼の身体を押し返した。本当はもう少しそうしていてもよかったけど、人の目がある以上いつまでも抱き合っているわけにはいかなかった。由利は一応既婚者であるため、こんなところが見られてはいけない。今回の外出でも、義理の兄妹という関係を超えるようなことがあってはならない。由利は高鳴る胸を何とか抑えながら、カバンからとあるものを取り出した。「今日は、兄さんにプレゼントがあるのよ」「プレゼント?」由利はハワイ旅行で購入したお土産のTシャツを、涼介に手渡した。「これ……俺に?」「ええ、兄さんのことを思って買ったの」その言葉に、涼介は嬉しそうに笑みを浮かべた。それほど高くない一枚のTシャツに、薄井家

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第5話

    実に二度目の回帰、三度目の生だった。前世と同じ、結婚一年目のあの日に戻ってきたようだった。彼女はそのことに困惑したが、二度目だったせいか、今回は落ち着いて行動することができた。紫苑が亡くなり、碧斗が死んだことにより彼女は回帰した。それは前世と同じだった。ここから推測できることは一つだけ。それは、碧斗の死が彼女の回帰に繋がっているということだ。――碧斗が亡くなったことをきっかけに、私は巻き戻ってきた。なら、碧斗が死ななければ、二度と回帰することはないのではないか。由利がそのような結論に至るまで、そう時間はかからなかった。そのためには紫苑が死なないようにする必要があった。彼女がいなくな

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第4話

    由利は時間が止まったかのように固まり、そのまま動かなくなった。信じられないというような目で妹の紫苑を見つめた。碧斗の子を妊娠?あなたは一体何を言っているの?私の妊娠を祝福していた裏で、ずっとそのことを隠していたの?由利の体が小刻みに震え始める。私はずっと二人に裏切られていたというのか。紫苑はそんな由利を見て、申し訳なさそうに眉を下げた。「ごめんなさい、姉さん……」由利は黙ったまま何も言えなかった。その一言で済むような事態ではないからだ。子供ができたということは、当然体の関係があったわけで。姉の旦那と平然と関係を持つだけではなく、子供まで作ったのか。紫苑が碧斗と不倫していたことを、由

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第3話

    目が覚めると、由利は病院の一室にいた。「無事だったんですね、よかったです」「あなた……」ベッドに横たわる由利の顔を、夏目家のメイドが心配そうに覗き込んだ。また巻き戻ってきたのではないかと思ったが、どうやらそうではないようだ。由利は自身の安否など気にも留めず、メイドに尋ねた。「お腹の子は……」「……」その問いに、メイドは痛々しそうに視線を逸らした。由利は彼女の反応で全てを悟った。――あぁ、流産してしまったんだ。奇跡のように私の元へやって来てくれた子は、産まれることもなく亡くなってしまったのね。悲しくて、悔しくて、やりきれない気持ちになった。由利は病室内を見渡した。流産したと

  • 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー   第2話

    それから碧斗は、毎日のように紫苑のいた病室で泣き続けた。彼女がいなくなり、火葬されたあともずっと。仕事も手に付かなくなるほど毎日のように大声で泣き、隙あらば彼女の痕跡を探した。彼女が生前着ていた服を抱きしめ、服が濡れるまで泣いた。もちろん両親も深い悲しみに暮れていたが、それでも彼の絶望は異常ともいえるほどだった。この世の全てを失ったかのように、真っ暗な部屋で酒を浴びるように飲み続けた。彼女のいない世界なんて、意味がないのだろう。由利はそんな彼をただ見ていることしかできなかった。姉妹ではあるが、紫苑に似ているところなんてほとんどない由利に、彼女の代わりなんて到底務まらないからだ。そして

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status