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第1292話

Auteur: ラクオン
正当彼女が気分よくしていたその時、手首がふいに掴まれた。

彼女はその束縛を振りほどこうと、不満げにもがいた。何度試しても抜け出せず、ついに苛立ちが募る。思わず目を開けて確かめようとした瞬間――視界に飛び込んできたのは、微笑を浮かべながらもどこか底知れない、エメラルドのように深く輝く緑の瞳だった。

そして、彼の薄い唇がそっと開き、彼女を羞らせる言葉が吐き出された。

「香りん、君、越境してるよ」

紀香は視線を下に落とした。

布団で隔てた境界線を、自分が越えてしまっていることに気づく。

今や清孝の側にいるどころか、まるでタコのように足まで絡めていた。

つまり、さっき彼女が触っていたものは夢の中のものではなく、彼の筋肉だったのだ。

「……」

この瞬間、彼女が望むのはただ逃げ出すことだけだった。

だが男に拘束されていた。

「香りん、俺が越境したら減点されるけど、君が越境したらどうするんだ?」

「……」

紀香は清孝に言い負かされ、しかも自分が理屈で負けている。

最後には開き直るしかなかった。

「ルールは私が決めたの、私が決めるのよ」

清孝は「君の言う通りにするよ」と低く答えた。

「……」

紀香は仕方なく口を開いた。

「私は何でもするけど、あなたは私のルールを守らなきゃダメ」

「わかった」清孝は笑った。「独裁ってやつだな」

紀香は手足で彼を押した。

「何度言わせるの、今はまだ私に触っちゃダメって」

清孝は言った。

「もう少し、話の分かる人間になれないのか」

「なれない」

「……」

清孝は少し呆れたように、「はいはい、君の勝ちだ」と言った。

「放して」

「放さない」

「……」

紀香の罪深い手が彼の腰元へ伸びていった。

その時だった。

冷ややかな声が響き、珍しく揶揄が混じっていた。

「朝っぱらから元気だな、そんなに情熱的で」

紀香は清孝を睨んだ。彼の怪我を気にしていなければ、もっと力を入れていたところだ。

「数えるわよ、三!」

清孝は手を放した。

紀香は急いで洗面所に駆け込んだ。

由樹は病床の前に二歩進み、立ち止まって彼を上下に視線で測った。

どこか笑みを含んで。

清孝は機嫌がよく、冗談を言った。

「珍しいな、お前の顔に表情があるなんて」

由樹は何も返さず、手を伸ばして診察を始めた。

清孝は尋ねた
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