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第417話

Author: 楽恩
「承諾したわ」

「そうか」

京極夏美は心の中で歯ぎしりをした。

あの嫌な女が察しが悪くて、どうしても母親に近づこうとするなら、もう遠慮しないんだ。

藤原家を逃した時、どんなことがあっても、京極佐夜子という藤原家よりも価値のある大船を絶対に逃さないんだ。

……

電話を切った瞬間、河崎来依が寄ってきて、聞いた。「そんなに笑って、何かいいことでもあったの?」

「京極先生が手助けをしてくれるって」

私は携帯を置きながら言った。「明日、一緒に晩餐会に行くことになったの」

「やっぱりいいことだ!」

河崎来依も一緒に喜んだ。「どうやって国内での名声を作ろうかと考えてたんだよね。賞を持って行って商談するのも悪くはないけど、なんとなくそれじゃ意味がない気がして」

「そうそう。あれこれ言っても、結局はお金をかけて注文する人は、格を求めてるだけだし、自分から行くと、逆に軽く見られちゃう」

仕事の話になると、河崎来依はいつも理路整然と分析する。「京極佐夜子はいいチャンスだよ。彼女の隣に立ってるだけで、自己紹介なんて必要なく、周りが勝手にあなたを知ろうとするから」

私も同意した。「私もそう思ってる」

本来なら、月末の授賞式が終わってから、その機会を使って国内市場に足場を築こうと思っていた。

でも、今のところ、そんなに待つ必要はないようだった。

……

翌日の午後、私は早めに準備を始め、精巧なメイクをして、口元の傷をほぼ隠した。

そして、Daveがデザインしたオフショルダーのマーメイドスカートに着替えた。見た目はシンプルだけど、何度も見るうちに細部が引き寄せられるデザインだった。

その後、河崎来依と粥ちゃんと一緒に階下へ降りた。

昨晩、私は粥ちゃんと話して、私は晩餐会に行き、河崎来依は粥ちゃんを新しくオープンしたウルトラマンテーマレストランに連れて行くことになっていた。

ただ、棟から出た瞬間、見覚えのある車を見かけた。

車には、これまた見覚えのある人物が寄りかかっていた。

江川宏は高級スーツを着て、長い指先で点火したタバコを持ちながら、頭を少し下げていたが、その上位者のオーラを隠しきれなかった。

「叔父の奥さん!粥ちゃんがあなたを思ってるよ!」

ここ数日、小さな子供は堂々と、「みんなお姉さんって呼んでるから、河崎来依と私は誰が誰か分からなくなる」
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