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第4話:“初めまして”

Author: Kaya
last update Last Updated: 2026-01-23 05:06:00

朔夜はしばらく私をぼんやりと眺め、やがて我に返ったように険しい顔つきになった。

「ここ……座っても?」

私がそう尋ねると、彼は二秒ほど沈黙し、冷たく返事をする。

「……どうぞ。」

その後も、朔夜は無愛想に視線を逸らした。

私はそれに気づかないふりして、空いた席に静かに腰かけた。

その瞬間、はっきりと感じた――

前方斜めから、鋭い視線が一直線に突き刺さってくる。

――燈だ。

彼女の目は鋭く、刃のように私の存在をなぞり、私の素性を見抜こうとしているかのようだった。

きっと私がどこの誰で、何が目的で朔夜に声をかけたのかを探ってる。

開かれているのは、主に美術品を扱う国際的な大手オークション。

毎年、海外からも有名な投資家やコレクターがこぞって参加する。

朔夜も、鷹司ホールディングスのCEOとなってから、いわゆる『企業のコレクション拡充』や『投資』という名目で欠かさず参加していた。

そして――「月島光咲」。元秘書だった私は今、「謎めいたコレクター」として、軽やかに、悠然とこの場に溶け込んでいた。

 

私がこのオークションに参加できたのは、事前に大手オークションハウスのウェブサイトからバイヤー登録を済ませ、銀行の残高照明を提示し、正規の入札者番号を受け取っていたからだ。

一瞬彼の態度に動揺したが、気持ちが落ち着いてきた今では、慌てることなく振る舞える。

私は“月島光咲”。彼とは全くの初対面の女だ。

「ウィレム・カルフの作品は、やはり素晴らしいですね。」

ふいに声をかけると、朔夜の肩がかすかに揺れた。瞳の奥に一瞬、驚きが走った。

「……詳しいのか?しかし彼の作品は、マイナーな作品ばかりだと言われているが。」

私は微かに笑みを浮かべ、視線を絵画に滑らせながら、淡々と、しかし鋭さを帯びた口調で言った。

「マイナーだからこそ、より特別なんです」

その短い一言で、私の目利きぶりを示すと同時に――

彼の好む芸術を理解していることをほのめかした。

朔夜の視線を感じる。だが、私はあえて彼を見ない。

正面の絵画に集中し、朔夜が声をかけるのをじっと待つ。

「失礼ですが、あなたは――」

「あなた、失礼ですが、お名前は?」

燈が突然朔夜の問いかけを遮って、話に割って入り、冷たい視線を私に向けた。

明らかに警告の意味を帯びていて――まるで、「ここは誰でも座れる場所じゃない」と告げているかのようだった。

「このオークションは、ある程度の著名人や、富裕層しか参加できない決まりがあります。

こう見えて私は、大企業の令嬢たちに精通していますが、あなたのような人は初めて見ました。」 

――それは探りでもあり、同時に、まったく隠されていない敵意でもあった。

(そうね、あなたにとっても私は初対面の女だもの)

私は上品な微笑みを浮かべて、燈に挨拶する。

「“初めまして” ――私は月島光咲と言います。

確かに私は大企業の令嬢ではありませんが、自身で財を築いた資産家です。

覚えてくだされば光栄です。」

握手をしようと手を伸ばすが、燈はただ冷たく一瞥をくれただけで、何の返答もしなかった。

その隠すことのない嫌悪は、まるで――

私を歓迎していない、と宣告しているかのようだった。

燈は、朔夜がCEOを務める家族経営の鷹司ホールディングスで、EA(エグゼクティブ・アシスタント)をしている。

ショートヘアで、目は鋭く、艶やかな美貌。いかにも仕事のできる女といった雰囲気である。

「月島?そんな名前、聞いたことないわ。」

それはそうでしょうね。

何しろ、今こうして私がここに立っているすべては――「他人の人生」を代償にして手に入れたものなのだから。

「運が良かっただけかもしれませんね。」

笑みを浮かべながらも、私の口調には微塵の隙もなかった。

「祖母の遺産がちょうど私の名義で入ったので、それを使って少し投資してみたんです。

まさか、これほど上手くいくとは……ね。」

にこっと笑い、燈をかわした後で朔夜を見る。

しかしすでに彼の視線は私にはなかった。

まるで――死人のように、熱のない視線。

元々、こんな目をする人だった?

私が死んだ後、朔夜はこれまでどうやって過ごしてきたんだろう。

いえ、そんなこと今はどうだっていい。

重要なのは、あの件に、朔夜自身も関わっているかどうか。

もし――あなたが、燈と二人して私を罠に嵌めたのなら。

朔夜。

あなたはもう、高みから誰かを見下ろす資格なんてない。

この手で、あなたを地獄へ引きずり落とす。

世間で、高遠凛音には今だに『横領事件の犯人・事故死』というレッテルが貼り付けられたままだ。

結局私は、罪人として闇に葬られた――。

だからこそ、真実を知るためにも、朔夜のそばに戻らなければならない。

愛のためではない。

ただ、真実のために。

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