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第475話

Author: 森の小鹿
謙造は佳乃の剣幕に面食らい、少し言葉を失ってしまったが、少しして落ち着きを取り戻した後、ゆっくりと話し始めた。

「栗原社長は昔から表に出たがらない人で、彼の立場について外では話さないようにと言われてたから、黙ってたんだよ。それで、どうしたんだ?もしかして、会ったのか?」

「会うどころじゃないわ!」

佳乃はまだ怒りが収まらず、病院で起きたことをかなり自分に都合よく脚色しながら、父親にぶちまけた。

謙造は普段から佳乃に甘く、彼女が何をしても、たいていは娘の肩を持ってきた。

だから今回も、父親が自分の味方をしてくれると思っていた佳乃。

ところが話を聞き終えた途端、謙造の声色が一変する。

「佳乃、お前、何をしてるんだ!よりによって、栗原社長を敵に回すなんて!

俺が甘やかしすぎたみたいだな……少し考えれば分かるだろう?あの特別病棟は、誰でも簡単に使える場所じゃないんだ。それなのに、栗原社長の知人を追い出そうとしただと?」

謙造は苛立ったように歩き回りながら、さらに続けた。

「栗原社長は、うちにとって大恩人なんだ。昔、金融危機でうちの物件が大量に売れ残って、資金繰りが危なくなっ
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    謙造は佳乃の剣幕に面食らい、少し言葉を失ってしまったが、少しして落ち着きを取り戻した後、ゆっくりと話し始めた。「栗原社長は昔から表に出たがらない人で、彼の立場について外では話さないようにと言われてたから、黙ってたんだよ。それで、どうしたんだ?もしかして、会ったのか?」「会うどころじゃないわ!」佳乃はまだ怒りが収まらず、病院で起きたことをかなり自分に都合よく脚色しながら、父親にぶちまけた。謙造は普段から佳乃に甘く、彼女が何をしても、たいていは娘の肩を持ってきた。だから今回も、父親が自分の味方をしてくれると思っていた佳乃。ところが話を聞き終えた途端、謙造の声色が一変する。「佳乃、お前、何をしてるんだ!よりによって、栗原社長を敵に回すなんて!俺が甘やかしすぎたみたいだな……少し考えれば分かるだろう?あの特別病棟は、誰でも簡単に使える場所じゃないんだ。それなのに、栗原社長の知人を追い出そうとしただと?」謙造は苛立ったように歩き回りながら、さらに続けた。「栗原社長は、うちにとって大恩人なんだ。昔、金融危機でうちの物件が大量に売れ残って、資金繰りが危なくなったことがあっただろう。あのとき助けてくれたのが栗原社長なんだよ。仁哉さんがいなかったら、今のうちはなかったかもしれないんだぞ!佳乃、本当に何を考えてるんだ……今すぐ家に帰ってきて、3日間外出禁止だ。俺の許可なしに一歩も出るな!」謙造は一方的に叱りつけ、最後には外出禁止まで言い渡した。生まれてからずっと不自由なく育ち、父親からこれほど厳しく叱られたことなどほとんどない佳乃は、反論しようとしたが、その前に怒った謙造に、電話を切られてしまった。佳乃は怒りでどうにかなりそうだったが、同時に仁哉への興味も一気に膨らんだ。すぐに人脈を使い、仁哉について徹底的に調べさせる。そして調べてみて、佳乃はさらに驚いた。仁哉は、美紀の元夫だったのだから。佳乃が普段付き合っているのは、潮咲市の人間のため、深津市の名家同士の込み入った事情には、そこまで詳しくない。そのため、チャリティーパーティー騒動のことも、断片的に耳にした程度で、深く調べてはいなかった。だが改めて調べてみると、仁哉、奈緒、美紀、充の関係は想像以上に複雑だった。しかも、少し前に青木家を揺るがしたあの一連の騒

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    佳乃の足がぴたりと止まった。その場に縫い留められたように、動けなくなる。長年ちやほやされて育ってきた佳乃は、プライドが高く、人に頭を下げることなどほとんどなかった。今さら謝れと言われても、簡単にできるはずがない。健二はそんな佳乃を見て、額に冷や汗を浮かべた。何度も目配せするが、佳乃は動こうとしない。仕方なく、健二は仁哉に愛想笑いを向けた。「栗原社長……佳乃ちゃんもまだ若く、少し考えが足りなかっただけでして。お祖父様のことを心配するあまり、つい感情的になってしまったのでしょう。本人もきっと反省しています。どうか庄野家のお顔を立てて、この場は……」「長谷川院長」仁哉が静かに遮った。声は淡々としていたが、有無を言わせない響きがある。「彼女は今、僕の友人にひどく失礼なことを言いました。本人の口から謝ってもらいたい。それだけです。無理な要求ではないですよね?」その言葉が雷のように響き、健二の顔が引きつった。仁哉の立場を、誰よりもよく知っている。栗原家は表立って権勢を誇るような家ではないが、その実力も人脈も、頂点に近い。不動産で財を築いた庄野家とは、そもそもの格が違うのだ。健二はすぐに佳乃へ向き直り、声を荒らげる。「佳乃ちゃん、何をしてるんですか!栗原社長のおっしゃることが聞こえなかったんですか?すぐに謝罪しなさい!」佳乃は唇を強く噛み、爪が掌に食い込むほど拳を握り締めた。物心ついてからというもの、どこに行ってもちやほやされて生きてきたのだ。こんなふうに人前で恥をかかされたことなど、一度もない。佳乃は奈緒を憎々しげに睨んだ。それでも謝罪の言葉は出ず、代わりに脅すような口調になる。「私が持っているのは、S級リゾート開発プロジェクトなのに、それでも本気で私に謝れっておっしゃるんですか?」仁哉は冷たく笑った。「それとこれとは別の話です。今は、君がこちらに失礼なことをした。だから謝ってください」仁哉の圧に、佳乃の身体がわずかに震えた。悔しさで顔を赤くしながら、ようやく絞り出す。「ご……ごめんなさい」仁哉は容赦しない。「声が小さいですね。聞こえません」佳乃の目に涙が浮かぶ。「申し訳ありませんでした!私が失礼なことを言いました。どうか許してください!」言い終えるなり、佳乃はもう耐えられなかったのか、勢いよく

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    そこへ、仁哉が料理を運んできた。美味しそうな香りが病室いっぱいに広がり、その場の3人の視線を一気に引きつける。「できたよ」仁哉は料理を小さなダイニングテーブルへ並べると、すぐ奈緒のそばへ来た。「奈緒さん、具合はどう?少しはよくなった?」奈緒は頷いた。「うん、だいぶ楽になった」「よかった」仁哉はそれ以上聞かず、蘭と琴葉にも声をかける。テーブルには、身体に優しそうな家庭料理が並んでいた。仁哉が一品ずつ説明する。「肉じゃがに、味噌汁、あとは茄子の浅漬けに小松菜のおひたし。あとは、エビの炒め物も作ってみた」どれも彩りがよく、食欲をそそる。奈緒は並んだ料理を見ながら、胸の奥がなんとも言えない気持ちになった。仁哉の優しさは、押しつけがましくない。いつの間にか必要なことをしてくれているのだ。こういう人と付き合う女性は、きっと幸せだろう。美紀は一度は仁哉と結婚したのに、その幸せに気づけなかった。こんな人と夫婦になれたなら、本当はきっと、とても穏やかな毎日を送れたはずなのに。奈緒がそんなことを考えていると、蘭が先に感嘆の声を上げた。「仁哉くん、すごいじゃない!仕事ができるだけじゃなくて、料理までこんなに上手なの?琴葉、いったいどうやって育てたの?どうしたらこんな息子になるのよ」琴葉が得意そうに笑う。「この子が6歳の時から自分で料理させてたの。作らなかったら食べられないって言って。男の子だからって、何にもできないのは駄目でしょう?それに、勉強だけできる人間にもしたくなかったし。だから、家事も仕事も何でもできるくらいじゃないと、将来お嫁さんも来ないわよって、ずっと言って育ててきたの」ところが、そこで琴葉の口調が急に沈んだ。「それなのに……こんなにちゃんと育てたのに、結局あんな相手と結婚して、家の中までめちゃくちゃになって……ほんと、何だったのかしらね……」琴葉のため息とともに、それまで和やかだった空気が止まった。息苦しささえ覚えるような重苦しい空気が流れる。奈緒も箸を持つ手を止める。何か慰めの言葉をかけたかったが、すぐには浮かばない。仁哉もスープをよそう手を止め、眉をひそめる。「母さん、今その話する?」琴葉はため息をつきながら、料理を自分のお皿に取った。「ちょっと思い出しただけよ。

  • 我が子より他人の子?産後ワンオペ妻の離婚   第6話

    それから、蛍は奈緒が傷つくのを心配して、充から返信ひとつないことは、結局言い出せなかった。そして、奈緒が退院するまで、充は結局、姿を見せなかった。退院後、二人は黎と香織を連れて、碧瀾郷へと引っ越した。そこは、奈緒が半年前に入手した、リノベーション済みのマンションの一室だった。蛍の家はその真向かいの部屋で、隣同士に住むのは大学時代からの二人の夢だったのだ。だから半年前、蛍の向かいの部屋が売りに出されたと聞いて、奈緒は迷わず購入した。部屋には家具や家電が揃っていたが、まだどこか殺風景だった。蛍はすぐに自分の家から布団やポットなどの日用品を運んできた。奈緒は買い物リストを

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    「産後の回復がかなり遅れていますね。出産時に出血が多かったですし、低血糖で倒れやすい状態です。しっかり栄養をとって、気持ちをあまり高ぶらせないようにしてください」診察が終わっても、奈緒はまだ眠ったままだった。医師は病室で蛍に病状を説明した。隣で聞いていた香織が、ため息をついた。「奥様は産後の肥立ちが悪くて……最初の2週間はお乳が張って痛くて食事が喉を通らなかったんです。その後は赤ちゃんが夜泣き続きで……それでも奥様は自分で母乳をあげていたから、夜もまとまって眠れていませんでした。昼間は仕事もしていて、体が回復する暇もなかったんですよ」それを聞いて、蛍は怒り心頭になりそうだった。

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    一方、音を聞きつけた恵が慌てふためいて部屋から飛び出してきて、声を張り上げた。「地震です!地震が来たんですよね?」そして、香織もギャンギャン泣いている赤ちゃんを抱っこしていたけど、その音を聞いて、裸足のままバッグを掴んで外へ飛び出し、靴を履くのも忘れてしまうほどだった。……しかし、二人がリビングに駆け込むと、いつもは冷静な奈緒が、狂ったように大切にしていた置物を次々と床に叩きつけていた。その光景に、二人はあっけにとられた。それを見て恵が慌てて駆け寄り、止めに入った。「奥様、おやめください!ちゃんと話し合ってください、奥様!」香織も泣きやまない赤ちゃんをあやしながら、

  • 我が子より他人の子?産後ワンオペ妻の離婚   第3話

    一方、奈緒は会場を出るとアクセルを踏み込み、二人の新居である水鏡ヶ丘の家へと車を走らせた。そして、ドアを開けると、昔からいる使用人の井上恵(いのうえ めぐみ)と、奈緒が雇ったベビーシッターの黒崎香織(くろさき かおり)が、一緒になって赤ちゃんをあやしていた。二人は、奈緒の顔が真っ青なのを見て、ぎょっとした。「奥様、どうかなさいましたか?」そう言われ奈緒は、なんとか笑顔を作って答えた。「なんでもないの。お腹が空いちゃって。温かいうどんかなんかを作ってくれる?」そして、香織から赤ちゃんを受け取ると、奈緒の荒れ果てた心は、そのあどけない寝顔を見てようやく落ち着きを取り戻した。

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