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第4話

Auteur: 魚ちゃん
夕月はそのままさらに三十分待ち続けたが、ついに胸の痛みに耐えきれず、ゆっくりと立ち上がって出口へ向かった。

カチャ。ドアが開く。

隼平と千世が、ふざけ合いながら出てきた。

「本当にイタズラ好きだな」隼平が笑みを浮かべる。

夕月は振り返り、この目に刺さるような光景を見つめ、手にしたスマホをぎゅっと握りしめた。

隼平は彼女に気づくと、その笑顔をすっと消す。

「金が欲しいなら、経理の手続きが終わるまで待て」声は冷たく、さっきまで千世に向けていた柔らかさは欠片もない。

夕月は深く息を吸い、静かに頷くと踵を返した。

エレベーターを待っていると、再び二人の声が耳に入る。

「やだ、このバッグ欲しいってずっと思ってたの。たった320万円だよ?隼平さん、ケチケチしないでいいでしょ?」

隼平は少し呆れたように、「わかった、わかった……お前の言うとおりだ」

夕月は無意識に唇を噛み、胸の痛む箇所を押さえた。

320万円のバッグを即決で買う男が、正妻である自分には経理の手続きを待てと言う。

彼女の口元にかすかな苦笑が浮かび、首を横に振った。

……

夜が降りる頃、夕月は荷物をまとめて部屋の隅に置いた。玄関から、突然物音が響く。

隼平が酒の匂いを漂わせて入ってきた。

少し迷った末に、夕月は口を開く。「あのお金、経理はいつ通してくれるの?」

彼女の身体は日に日に弱っている。もう時間の猶予はない。

隼平は彼女を見下ろし、鼻で笑った。「そんなに金に困ってるのか?金がなきゃ死ぬとでも?」

「そうよ」夕月は頷く。

「だからいつくれるの?くれないなら、本当に死ぬ」

男の顔がたちまち曇り、周囲に重苦しい空気が立ち込めた。思わず背筋が凍りつくような威圧感だった。

「夕月、やっと本性を見せたな。やっぱり頭に金しかない女だったか」

その背丈の影が彼女をすっぽり覆い、息が詰まるような威圧感が迫る。夕月は掌を握りしめ、淡々と返した。「そうね。隼平だって困ってないでしょ?少なくとも私は、あんたと一緒に苦しい時期も過ごしたわ。結婚もした。その私が、少しぐらい金を使ったっていいじゃない」

ドンッ。

隼平の拳が、夕月の背後のワイン棚にめり込む。

「夕月、そんな見栄っ張りな女、地獄に落ちろ!」

男の目が赤く充血している。

夕月の心臓は、まるで見えない手に鷲掴みにされたように痛み、息ができない。

隼平は彼女の奥に潜む痛みに気づかぬまま、うつむき自嘲する。「三年前の時点で気づくべきだった。お前は最初から金しか信じない。俺は一体何を期待してたんだ?」

夕月の顔は血の気を失い、その言葉に合わせるように口を開く。「そうね。別に今日が初対面でもないし、あんたは……」

「金さえあれば、何だってするんだろ?」

言葉の途中で、男が遮った。その瞳には妙な炎が宿っている。「じゃあ金をやる。俺に付き合え、いいな?」

そう言うなり、隼平は夕月の顎をつかみ、強く唇を噛みついた。彼女の悲鳴は、すべて塞がれる。

夕月は必死に抵抗するが、両手は固く押さえ込まれて動かない。

指先が肌に触れた瞬間、彼女は思い切り男の舌先に噛みついた。

隼平が反射的に息を吐き、その隙に夕月は全力で突き飛ばし、床に倒れ込み胸を押さえる。

隼平は舌の裏を舐め、怒鳴りかけたが、夕月の様子に一瞬戸惑う。しかし口から出たのは「また芝居か?」

夕月の額にはびっしりと汗がにじみ、力なくつぶやく。「……痛い、救急車……」

隼平は眉間に皺を寄せ、スマホを取り出したその時着信音が鳴った。

千世からだ。

隼平は夕月を一瞥し、苛立たしげに舌打ちしながらも通話に出る。

「隼平さん、お願い!早く助けて!」
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