-⑳秘密の部屋にて- 光明と結愛は先日、義弘の秘密の図書室、いや、書斎に仕掛けたドローンの映像をじっと見ていた。普段義弘以外出入りする事がない空間、勿論ずっと同じ映像が続いている。義弘が来ない限り当たり前の事なのだが2人は飽きてきていた。しかし、結愛は光明が自分の為に頑張ってくれていると思い余計な事かと発言を控えていた。その時だ、映像に義弘の姿が現れ、秘密の書斎で彼はパソコンに向かっていた。電源を入れ分厚い本を何冊も持ち寄り何やら真剣に調べものをしている、よくよく考えたら義弘は普段から知識やうんちくを会話に色々と差し込んでくる事が多かった事を結愛が思い出した。結愛「親父って思ったより勤勉だったんだな・・・。」 光明「感心している場合かよ。」 結愛「悪い悪い(わりいわりい)、何の資料を見ているか見えるか?」 光明「やってみるわ。」 光明は映像を解析し、義弘の手元を拡大した。ただ何冊もの書籍は全て義弘の陰になってしまっているので内容は全く見えない。なのでパソコンの内容を見えないかと色々とやってみたが全然確認できなかった。 光明の横で結愛は現場のドローンから送られる生の映像を見ていた。そこにも義弘が現れた。パソコンと分厚い本を数冊持ってきて調べものをしている。光明に操作方法を教えてもらい結愛は義弘の手元を探ろうとした。やたらと分厚い本が5~6冊、また比較的薄い本が1~2冊ある。結愛「あれは・・・。」 光明「ん?どうした?」 結愛「あの本なんだけどよ・・・。」 光明「どれどれ・・・。」 光明は自分が見ていた映像を一時停止し、結愛の操作していたパソコンのマウスに手を伸ばした。マウスにしては柔らかい物に手が当たった。結愛「お・・・、おい・・・。」 光明「ん?」 マウスの上で2人の右手が綺麗に重なっている。光明は慌てて手を離した。2人とも顔が赤くなっていた。光明「悪い、すまねぇ。」 結愛「まぁ、良いけどよ。」 それから暫く2人とも心臓の鼓動がバクバクと鳴っていた、本題に戻るのに何故か時間がかかる。 その間に映像の中の義弘はパソコンが並ぶ机の端っこにあるプリンターの方に移動していった、大きめの紙数枚に何かを印刷している様だ。その間に結愛はパソコンの前の書籍を見た。各教科ごとの大学入学共通テスト(旧:大学入試センター試験)の過去問題集と高等学
-㉑義弘のやり方- 結愛は誰にも気づかれないようにしつつも海斗に連絡していた、やはり時には兄貴を頼りたくなるもんだという事なのだろうか。誰かに相談したそうな素振りを全く見せていなかったので皆が勝手に強い人間なんだと勘違いしてしまっていたのではなかろうか。結愛「兄貴・・・。」 海斗「ん?」 結愛「今話せないか?」 海斗「勿論大丈夫だ。」 結愛「実はよ・・・。」 結愛は最近思っていることを海斗に打ち明けた、主に先日義弘の書斎で見かけた書類や書籍類についてだった。以前もこんな事があった様な無かった様な・・・。 義弘が彼なりに教育について真剣に考えてるのではなかろうかと思い始めた、それが故にしばらくは学校でも家でも可能な限り義弘の様子を観察しようと企んだ。結愛「以前、中学受験の過去問や資料を大量に調べて親父なりにプリントにまとめていただろ?デジャヴ的なものを感じてんだよ。」 海斗「確か親父の秘密の書斎・・・、だっけ?えっと・・・、そこで見かけたってやつか。」 結愛「あん時さ、物凄い量のプリントを押し付けられた事を思い出してよ、少し辛かったなー・・・、なんて。」 海斗「分かるわ、これからこの学校もあんな感じになるのかな。」 結愛「俺嫌なんだけど、皆を巻き込んじゃってあんな事したくねぇ。」 海斗「毎日毎日テストが夜遅くまでで寝る間も無かったな。」 結愛「俺普通の学校生活を送りたかっただけなのに・・・。」 海斗「だから取り戻そうや、俺たちの高校生活を。」 結愛「ああ・・・、うん・・・。」 海斗は別に相談する事が結愛にはあるのではないかと思えて仕方なかった、しかし今はやめておこう、最強になって学校生活を取り戻すことに集中するんだ。 一方、光明は秘密の書斎に仕掛けたドローンの映像をずっと見ていた。義弘が過去問を調べ尽くしていたあの時以来動きは全くない。代り映えのない退屈な映像が続く、ビルの管理人の仕事ってこんな感じなのかなって想像した。その時校内のスピーカーから声がした、義弘だ。すると結愛が耳を押さえながら入って来た、続いて伊津見も。義弘「皆さん、深夜の学園でいかがお過ごしでしょうか、理事長の貝塚義弘です。今から私自ら大学入試に向けた特別授業を開講しようと考えています、受講希望者は2階の特別教室までお越しください。」 伊津見「うるせぇな、
のためだ。-㉒伊津見の経験- 4組の伊津見は義弘による深夜の特別授業に強制参加することになり、筆記用具片手に渋々特別教室へと向かった。左耳には光明に渡された無線機、そして胸元に小型マイクを身につけスパイとして参加する。特別教室に入ると分厚い資料を配布し終えた義弘が教卓のすぐ近くに座っていた。ノートパソコンを教室に設置されたプロジェクターに接続して黒板代わりに使うのだろうか、大きなスクリーンを広げていた。伊津見達が教室に入ると義弘が歓迎の言葉をかけた。義弘「深夜の特別授業へようこそ、ここでは私自ら過去数年分の大学入試センター試験、及び大学入学共通テストの過去問を調べ上げ関連づけた資料を一緒に見ながら学んでいくものです。『かなり充実した』内容になっているはずなので存分に学んでいって欲しいです。席は決まってませんので見やすい所に自由に座ってくださいね。」 珍しい位に柔らかな笑顔で出迎えられた生徒たちは少しゾクゾクとした気分となっていた、日ごろのイメージと真逆だからだ。しかし各席に配布されている資料の厚さがこれから行われる授業の厳しさを物語っていた。義弘「各席に配っているのが私自ら調べ上げ、資料と紐づけたお手製のプリントです、最初から試験を解けと言われても無理なものは無理、解けないものは解けないものです。ですので解答・解説や資料を見ながら一緒に勉強していきましょう。元々白黒表記になっている問題や資料の写真は見やすくカラー表記にしてみましたのでお役に立てて頂ければ幸いです、勿論そちらは差し上げますのでご自由にお持ち帰りください。お役に立てて頂ければ幸いです。 私はこの授業の為に眠気覚ましのブラックガムをドカ食いしましたので、徹底的に勉強できたらと思います。それでは1教科目の国語から始めていきましょう。」 授業が始まった。一斉に分厚い資料を開いていく。5年前のセンター試験の過去問の大問①が現れた、義弘は生徒たちに小問や問題文を読み聞かせていく。義弘の声は優しさに満ち溢れ皆聞き入っていた。 授業が順々と進んでいく、皆重要な場所を赤ペンや蛍光ペンでチェックしていき通常の学校の授業の様に生徒たちは集中していった。義弘の解説は思った以上に分かりやすくそこにいた全員が次のクラス決めの摸試の時、ダークホースになってもおかしくない程になっていった。 学園が朝日に照らさ
-㉓猛暑の殺人- 暑い日が続いていた、そんな中守たちは相変わらず朝から晩まで勉強漬けの毎日を過ごしていた。義弘の指示が故に冷房は切られており、窓が閉め切られていた。ただ流石にこれにより死者が出てしまえばこれはこれで教育委員会等に訴えられてもおかしくない状況だ、義弘から教師・講師全員に通達が伝えられ冷房がやっと起動した。生徒全員ほっとしながら授業に集中し机に向かう、義弘も人の子だという事だ。 そんな中、黒服がダンボール箱を抱え各教室にやって来た。 守や結愛達がいる2年1組には黒服長の羽田が来た。羽田「しゃ・・・、ゔゔん、失礼。理事長先生からお茶の支給品が来た。各自1本ずつ持つように。冷え冷えでうまいぞ、結愛お嬢様もおひとついかがでしょうか?」 結愛「お父様からですの?」 羽田「そうでございます、ご・・・、ゔゔん、申し訳ございません。お父様からでございます。」 結愛「個人的にはコーラが良かったのですが。」 羽田「ご存じの通り、ご主・・・、いやお父様は炭酸入りのソフトドリンクはあまり飲まれませんので。」 結愛「やはりお父様とは好みが合わないみたい、それにしても珍しいですわね。羽田さんがそんなに噛むなんて、何かありましたの?」 羽田「先日の侵入者の事なのですが。」 結愛「黒服さんに紛れていた方ですの?」 羽田「はい、こちらをご覧いただけますでしょうか。」 羽田は指名手配犯のビラを結愛に見せた。結愛「これ、書き込んでも?」 羽田「どうぞ。」 結愛はマジックでサングラスを書き足していった。どう見ても先日ふらついていた『黒服』だ。結愛「間違いないですわね。」 羽田「はい、かいちょ・・・、いやおじい様を狙った侵入者ですね。」 結愛「おじい様が無事で何よりですわ、それと・・・。」 羽田「はい?」 結愛「そんなに無理して言い直さなくてもよろしくてよ。」 羽田「申し訳ございません、日ごろからお父様に言われているもので。」 琢磨「羽田さんも大変ですね。」 羽田「面目ない。」 このお茶の支給は夏の間続いた。生徒たちはこのありがたい贈り物を素直に受け取っていた。 数日経ったある日のこと、いつもの通り生徒達がお茶を飲んでいると3組の教室から男女の悲鳴が轟いた。その3組の教室から伊津見が凄い形相で走って来て慌てて1組の教室に入った。伊津見
-㉔猛暑の捜査- 一斉捜査が始まり、黒服が学校中をうろついていた。 しばらくして黒服の1人が3組の教室に入って来た。黒服「黒服長、よろしいでしょうか?」 羽田「三田(さんだ)か、どうした。」 三田「西條が見つかりました、ただ・・・。」 羽田「ん?」 三田は西條を3組の教室に入れた、体中をぐるぐる巻きに縛られている。羽田「西條、何があったんだ。」 西條「実はここにお茶を運ぼうとした時に後ろから電撃のようなものを突き付けられて気付けばこんなことに。」 三田「1階の掃除用具入れにこの状態で閉じ込められていたんです。」 羽田「という事は西條は無実・・・、因みに犯人の顔は覚えているか?」 西條「すみません、後ろから襲われたので見えてなくて・・・。」 羽田「分かった、ほどいてやるからゆっくり休め。」 西條「はっ、すみません。」 三田は西條を連れて控室に向かった、西條はぐったりとしていてまだ少し体が重そうだった。ただ羽田や結愛の役に立てなかった事を悔いていて少し涙目になっていた、申し訳ないと言わんばかりに。 すれ違うように結愛達が息を切らしながら教室に戻って来た。結愛「羽田さん、西條さんは見つかりましたの?」 羽田「見つかりましたが、西條は被害者だったようです。1階の掃除用具入れにぐるぐる巻きで閉じ込められてました、犯人の顔も覚えて無い様でして。」 結愛「そうですか・・・、もしかしたら例の指名手配犯の可能性もあり得ますわね。」 羽田「取り敢えず警察を呼びます、生徒の皆さんは各組の教室に戻ってください。さぁ、お嬢様も。」 結愛「はい、お願いしますわ。」 羽田は急いでインカムを外線に繋ぐように指示を出し110番通報した。 30分、いや1時間以上は待ったのだが警察のパトカーは全く学園にやって来ない、静寂が辺りを包み皆息をするのがやっとの状態だった。その時、葬儀屋の寝台車が2台出入口に停車し亡くなった2人の遺体を運んでいった。以前4組の生徒が銃殺された時の様にてきぱきと作業を行い葬儀屋は去って行った。 しばらくして羽田が教室に戻って来た、警察がなかなか来ないので三田が相談をもちかけたのだ。三田「黒服長、変ではないですか?葬儀屋はすぐに来るのに警察が全然来ないだなんて。」 羽田「海斗坊ちゃんと結愛お嬢様に相談してみよう。」 三田「ご
-㉕歪んだ権力- どう見ても羽田の方が気が気でない様な感じなのだが通話の向こうの警官は驚くほど冷静だった。警官「分かりました、貝塚学園にす・・・ガチャ!」 羽田「ん?!」 海斗「切・・・、ら・・・、れた・・・。」 結愛「どうゆう事?」 羽田「恐れ入ります、信じたくはないのですが警察内で何かしらの権力での圧力がかけられているのかと・・・。」 結愛「ま・・・さ・・・か・・・。」 海斗「お父様ということですか?」 羽田「下手したらの話ですが・・・。」 一方、羽田の嫌な予感が的中したらしく、警察署には義弘の姿があった。警察署長の部屋で威張って座っている。 署長と警視庁の警視総監はとなりで正座させられていた。ずっとブルブルと震えている。義弘「署長、私に逆らってパトカーを走らせたらどうなるか分かっておるよな?」 警視総監「当然です、貝塚社長に逆らえるものなどこの国にはおりません。謝って逆らいでもしたら末代の恥でございます。」 警視総監の家は4人家族で暮らしている、残り30年分残っている住宅ローンを義弘が一括で支払い貝塚財閥が全権を握っている様な有り得ない状況となってしまっていた。義弘はこの権力を行使して貝塚学園からの通報は全て無視するようにと指示を出していた、警視総監がローン代を義弘に返さない限り日本の警察は義弘の思い通りとなっている。殺人が多数発生することを予測して先に手を回していたという事だ。 結愛と海斗の2人は思った、『アレ』を使う時が来たのだと。いくら何でも殺人事件が2度も起こっているのに警察が動いていないのはやはりおかしすぎる、相当な権力という名の圧力を持ってでもないと実現しない話だ。 しかし、誰もが不審に思わない訳がない、特に貝塚財閥に莫大な投資をしている人間は。2人は乃木先生に相談すべく彼女を探しに行こうとしていた。その時、学園の出入口に1台のミニバンが停まった。羽田達黒服が近づいて事情聴取しようとしていた。 ミニバンの運転席が開き、長袖の作業着姿の男性が1人降りてきた。とめどなく流れる汗を首にかけたタオルでずっと拭いている。こんな暑いときに長袖なんてよく着るなとその場の全員が思った。(※今更ですが黒服にも夏用に半袖の制服があります。)男性「暑い暑い、公恵(きみえ)に言われて来てみたけどこんなに暑いならやめておくべきだった
-㉖大株主の心の広さ- 結愛は『あのチケット』を握りしめて走ってやって来た、そして乃木先生に向かって頭を下げた。結愛「乃木先生、お願いします!このチケットをお父様に渡して使わせて下さい!」 乃木「お嬢様、頭を上げて下さい。その私の父ならここにおりますよ。」 結愛「えっ・・・?!」 幸太郎「こんにちは、娘がいつも大変お世話になっております。」 幸太郎は優しく微笑んだ、結愛はギョッとしたがすぐに冷静になった。この人が自分達、いやこの学校の救世主だと思うと待ち望んでいた人が現れたと涙が溢れた。海斗は落ち着かせなきゃと結愛と肩を組んだ。結愛「あに・・・、お兄様。」 海斗「今はそんなの気にすんな、取り敢えず落ち着け。申し訳ありません、少し席を外してもよろしいでしょうか。」 幸太郎「勿論、どうぞ。」 暫くして気持ちを落ち着かせた結愛を連れて海斗が戻って来た、2人の手には『あのチケット』が握りしめられている。2人とも震えていた、しかしこの学校を何とかしなきゃという正義感が強くなり震えはすぐに止まった。幸太郎「現状を知りたい、黒服さん、事件現場にご案内をお願いできますか?」 羽田「かしこまりました、こちらでございます。」 幸太郎「因みに黒服さん、お名前は?」 羽田「羽田と申します。」 幸太郎「羽田さん、今の僕には貴方が頼りです。お手伝いをお願いできませんか?」 羽田「全力を尽くします。」 全員が事件現場に到着した、遺体は葬儀屋が運び出した後だった。それ以外はそのままだったので事件の悲惨さを物語っていた。即座に事件の酷さを察知した幸太郎は自ら110番通報した、同じ内容だったので警察側はすぐに通話をを切った。現状を知った瞬間、幸太郎は頭に血が上ろうとしていて冷静さを保つことが困難になっていた。咄嗟に別の所に連絡を入れ始めた、相手はあの博だった。博(電話)「もしもし、ああ幸太郎さんじゃないか、珍しいな。」 幸太郎「博さん、今どこにいる?」 博「ハワイにいるんだが、ただ事じゃなさそうだな。」 幸太郎は事件について彼が知っていることの全てを打ち明けた。博「わしの孫達がそこにいるんじゃないか?」 結愛「じ・・・、じいちゃん、俺親父の事信用出来ねぇ、あれを使うからな。」 幸太郎はチケットを渡そうとした結愛を静止し、大事に持
-㉗重要人物- どうやったのか1日もしないうちに博はハワイから戻って来た、そして息つく間もなく事件現場を確認しに学園へと赴いた。学校の出入口で幸太郎が博を出迎えた、羽田の案内で事件現場の2年3組へと向かう。博「これは酷いな・・・。」幸太郎「どう思う?」博「あの計画を進める時が来たかも知れん。」幸太郎「ただ、私たちだけでは力不足だ。特にあの2人が出てきた時は。」博「ああ、義弘派閥の2人か。あいつらが動けば面倒だな。」幸太郎「やはりあの人の力を借りるしかないな、私が電話してみたら会ってくれるみたいだ。改めてもう1度電話しようと思うのだが。」博「私もあの人と話したい、スピーカーにお願いできるか?それと相談に行く時は私も行こう。」 一方、光明は犯行の証拠となる映像が残っているのではないかと各箇所に設置した監視カメラやドローンを確認していた。事件が起きた数分前の映像を見てみると侵入者と思われる黒服が西條に後ろからスタンガンを突き付け気絶させている所が映っていた、西條が配ろうとしていたお茶のダンボールを奪い取るとその中の数本に透明な液体を注射器で注入しているのが見える。注射器で空いた小さい穴を見つからないようにグルーガンで器用に埋め箱に戻した様だ、その映像を西條に見てもらうべく光明は西條の眠る保健室に向かった。 保健室では圭が付きっきりで看病をしていた。西條はぐっすりと眠っている。光明「この人が侵入者にやられた黒服さん?」圭「うん、少し熱があるけどぐっすり眠ってるみたい。どうしたの?」光明「ドローンと監視カメラの映像を確認してもらおうと思ったんだけど、後の方がいいな。」圭「今はゆっくり寝かせてあげよう。」 その時、西條が目を覚ました。西條「痛たたたたた・・・、えっと、君たちは?」圭「気が付きましたか、私2年1組の赤城です。」光明「2年3組の伊達光明です。」西條「私は西條だ、ずっと看病してくれてたのか?」圭「西條さんずっと寝てましたから殆ど何もしてませんけど。」西條「いや助かるよ、ありがとう
-140 部下から先輩へ- 異世界と言っても神によって日本に限りなく近づけられた世界で、同じ様な拉麺屋台なので学生時代にバイト経験があったせいか寄巻部長はお手伝いをそつなくこなしていた。寄巻「拉麺の大盛りと叉焼丼が各々3人前で、ありがとうございます。注文通します!!大3丼3、④番テーブル様です!!」シューゴ「ありがとうございます!!おあと、⑦番テーブルお願いします!!」寄巻「はい、了解です!!」 寄巻の登場により一気に回転率が上がったシューゴの1号車は、今までで1番の売り上げを誇っていた。嬉しい忙しさにシューゴも汗が止まらない、熱くなってきたせいか寄巻はTシャツに着替えている。 数時間後、今いるポイントでの販売を終えシューゴが片付けている横で手伝いのお礼としてもらった冷えたコーラを片手に寄巻が座り込んでいた。シューゴ「寄巻さんだっけ?あんた・・・、初めてでは無さそうだね。」寄巻「数十年も前も話ですが、あっちの世界で拉麵屋のバイトをしていた事があったのでそれでですよ。」 いつも以上に美味く感じる冷えたコーラを一気に煽ると、寄巻はこれからどうしようかと黄昏ながら一息ついた。渚は隣に座り寄巻自身が1番悩んでいる事を聞いた。渚「部長・・・、家とかどうします?」寄巻「吉村・・・、さん・・・。こっちの世界では違うからもう部長と呼ばなくていいんだよ?それに君の方がこの世界での先輩じゃないか、お勉強させて下さい。」 寄巻は久々に再会した部下に深々と頭を下げた、渚は焦った様子で宥めた。渚「よして下さいよ。取り敢えず不動産屋さんに行ってみましょう、即入居可能なアパートか何かがあるかも知れません。」シューゴ「おーい、寄巻さんにまた後で話があるから連れて来て貰えるか?」 シューゴの呼びかけに軽く頷いた渚は寄巻を連れて『瞬間移動』し、ネフェテルサ王国にある不動産屋に到着した。以前渚もお世話になったお店だ。 寄巻は『瞬間移動』に少々驚きながらも目の前のお店に入ろうとした渚を引き止めた。不動産屋で契約出来たとしてもお金が・・・。渚「そうでしょうね、でも安心して下さい。部ちょ・・・、寄巻さんも神様にあったんでしょ?」寄巻「それはどういう事だ?「論より証拠」って言うじゃないか、分かりやすい形で見せて欲しいんだが。」渚「では、場所を移しましょう。」 渚は再び『
-139 懐かしき再会- その眩しい光は渚にとって少し懐かしさを感じる物だった、ただ花火か何かかなと気にせずすぐに仕事に戻った。今いるポイントで開店してから2時間以上が経過したが客足の波は落ち着く事を知らない。 2台の屋台で2人が忙しくしている中、渚の目の前に『瞬間移動』で娘の光がやって来た。スキルの仕様に慣れたのか着地は完璧だ。光「お母さん、売れてんじゃん。忙しそうだね。」渚「何言ってんだい、そう思うなら少しは手伝ってちょうだい。」光「いいけど、あたしは高いよ。」渚「もう・・・、分かったから早く早く。」 注文が次々とやって来ている為、調理と皿洗いで忙しそうなのでせめて接客をと配膳とレジを中心とした仕事を手伝う事にした。2号車の2人の汗が半端じゃない位に流れている頃、少し離れた場所から女性の叫び声がしていた。先程眩しく光った方向だ。女性①「大変!!人が倒れているわ!!誰か、誰か!!」 大事だと思った屋台の3人も、そこで食事をしていたお客たちも一斉にそちらの方向へと向かった。一応、火は消してある。男性①「この辺りでは見かけない服装だな、外界のやつか?」女性②「頬や肩を叩いても気付かないわよ、死んでるんじゃないの?」男性②「(日本語)ん・・・、んん・・・。何処だここは、俺は今まで何していたっけ。」 どうやら男性が話しているのは日本語らしいのだが、まだ神による翻訳機能が発動していないらしい。男性①「(異世界語)こいつ・・・、何言ってんだ?やっぱり外界の奴らしいな。」男性②「(日本語)ここは・・・?この人たちは何を言っているんだ?」 しかし光の時と同様にその問題はすぐに解決され、光達が現場に到着した時には雰囲気は少し和やかな物になっていた。すぐに対応した神が翻訳機能を発動させ、男性は皆に今自分がいる場所などを聞いていた。ただ、男性の声に覚えがある光はまさかと思いながら群衆を掻き分け中心にいる男性を見て驚愕した。光「や・・・、やっぱり!!」男性②「その声は吉村か?!何故吉村がここにいるんだ?!」渚「あんた・・・、ウチの娘に偉そうじゃないか?」 光は男性に少し喧嘩腰になっている渚を宥める様に話した。光「母さん、この人は向こうの世界にいた私の上司の寄巻さんっていうの。」渚「え・・・、上司の・・・、方・・・、なのかい?」寄巻「そう、今
-138 事件後の屋台では- 事件が発覚してから1週間後、人事部長がバルファイ王国警察に逮捕され、お詫びとして受け取った温泉旅行から帰って来て笑顔を見せるヒドゥラの姿が渚の屋台の席にあった。渚「良かったですね、これで安心して働けるんじゃないですか?」ヒドゥラ「あれもこれも店主さんのお陰です。」渚「何を言っているんですか、私は何もしていませんよ。」ヒドゥラ「いえいえ、ここで拉麺を食べてなかったら社長に会う事は無かったんですから。」 その時、渚が屋台を設営している駐車場の前を1組の男女が歩いていた、貝塚夫妻だ。結愛「良い匂いだな、折角の昼休みだ。俺らも食っていくか?」光明「いいな、俺も腹が減っちったもん。」結愛「よいしょっと・・・、ヒドゥラさん、ここ良いですか?」 夫妻は前回と同じ席に着き、拉麺と叉焼丼を注文した。その時渚は既視感と違和感を半々で感じていた。渚「あれ?この前来たおばあちゃんと同じセリフな様な・・・。」結愛「き・・・、気のせいですよ、店主さん。やだなぁ・・・、嗚呼お腹空いた。」 結愛は光と渚が親子だという事を知らない、それと同様に渚は結愛と光が友人だという事を知らない。まぁ、この事に関してはまたいずれ・・・。 貝塚夫妻は以前とは逆に麺を硬めにとお願いした、前回は老夫婦に変身していたので仕方なく柔らかめにしていたが好みと言う意味では我慢出来なかったのだ。次こそは絶対硬めで食べると堅く決意していた、別に駄洒落ではない。 結愛達が注文した拉麺がテーブルに並び、3人共幸せそうに食べていた。やはり同様に転生した日本人が作ったが故に結愛と光明は何処か懐かしさを感じている。ヒドゥラ「おば・・・、理事長も拉麺とか召し上がるんですね。毎日高級料理ばかり食べているのかと思っていました。」結愛「何を仰っているのですか、私はドレスコードのある様な堅苦しい高級料理よりむしろ拉麺の方が好きでしてね。それと貴女、先程私の事・・・。」ヒドゥラ「て、店主さーん、白ご飯お代わりー。」渚「上手く胡麻化しちゃって、あいよ。」 数時間後、渚は屋台の片づけをして次の現場へと向かう事にした。実はシューゴに新たな地図を渡されていたのだが、2か所目のポイントを変更したというのだ。そこでは屋台を2台並べて販売する予定だと言っていた。 指定されたポイントはダンラルタ
-137 人事部長の悪事- 夫婦は重い頭を上げヒドゥラにソファを勧めた、先程の入り口前にいた女性にお茶を頼むとゆっくりと話し始めた。夫人「初めまして、普段は学園にいるからお会いするのは初めてですね。私は貝塚結愛、この貝塚財閥の代表取締役社長です。隣は主人で副社長の光明です。」光明「初めまして、これからよろしく。」ヒドゥラ「しゃ・・・、社長・・・。そうとはつい知らずペラペラと、申し訳ありません。」結愛「何を仰いますやら、貴重なお話を頂きありがとうございます。」 実は最近の異動で人事部長が変わってから、やたらと人件費が削減されているので怪しいと思っていたのだ。削減された人件費の割には利益が昨年に比べて悪すぎると思っていた折、ヒドゥラの話を聞いた結愛は人事部長が怪しいと踏み、部の社員数人にスパイを頼み込んで調べていた。光明の作った超小型監視カメラを数台仕掛けて証拠を押さえてある。 調べによると金に困った人事部長が独断でありとあらゆる部署から人員を削り、余分に出た利益を書類を書き換えた上で自らの口座へと横流ししていたのだ。結愛「今回発覚した事件により貴女を含め大多数の社員に迷惑を掛けてしまった事は決して許されない事実です。人事部長は私の権限で以前の者に戻し、迷惑を掛けた皆さんには賠償金を支払った上で私達夫婦からお詫びの温泉旅行をプレゼントさせて頂きます。」光明「そしてヒドゥラさん、貴重なお話を聞かせて下さった事により我々にご協力下さいました。我々からの感謝の気持ちもそうなのですが、業務に対する責任感を感じる態度へと敬意を表し今の部署での管理職の職位を与え、勿論貴女にもお詫びの温泉旅行をプレゼント致します。」 ヒドゥラは今までの苦労が報われたと涙を流すと、全身を震わせ崩れ落ちた。2人に感謝の気持ちを伝えると自らの部署に戻り暫くの間泣いていたという。 問題の人事部長についての調査なのだが、以前から魔学校の入学センター長を兼任しているアーク・ワイズマンのリンガルス警部に結愛が直々にお願いしていた。そしてこういう事もあろうかと様々な魔術をリンガルスから学んでもいたのだ、屋台で使用した『変身』もその1つである。そのお陰でネクロマンサーとなり、多くの魔術が使える様になった結愛は魔法使い特有の念話も使える様になっていた(光は『作成』スキルで作ったが)。結愛(念話
-136 優しく頼もしき老夫婦- 先程まで抱えていた悩みなどどうでも良くなってしまったと周りに思わせてしまう位の笑顔で拉麺と銀シャリを楽しむラミア、その表情に安堵したのか渚は屋台の業務に戻る事にした。でもその表情には何処かまだ疲労感がある、そこで冷蔵庫からとあるものを取り出してヒドゥラに渡した。ヒドゥラ「あの・・・、頼んでいませんけど。」渚「いいんですよ、疲れている時は甘い物です。貴女この後も頑張らなきゃなんでしょ。」 ヒドゥラは手渡されたプリンを食後の楽しみにすると、より一層笑みがこぼれた。ヒドゥラ「ありがとうございます。」 その数分前、渚が屋台を構える駐車場の前を1組の男女が通りかかり、その内の女性が小声で男性に一言ぼそっと呟くと、2人は頷き合いその場を離れた。 それから数分後、ヒドゥラがプリンを楽しんでいる時に1組の老夫婦が屋台を訪れ席に座った。老夫人「よっこらしょ・・・、お姉さんここ良いかね?」ヒドゥラ「勿論どうぞ。」ご主人「ありがとうよ、昼間にやってる拉麺屋台なんて珍しいから食べてみたくてね。」ヒドゥラ「美味しいですよ、お2人も是非。」老夫人「嬉しいねぇ。店員さぁ~ん、拉麺2つね。歯が悪いから麺は柔らかめにしてもらえるかい?」渚「はい、少々お待ちを。」 渚が老夫婦の拉麵を作り始めると夫人がヒドゥラを見てお茶を啜り、声を掛けてきた。老夫人「そう言えばこの辺りでラミアを見かけるなんて珍しいね。」ヒドゥラ「あ、これ・・・。普段は魔法で足に変化させて人の姿で働いているんです。」ご主人「それにしてもお姉さんどこか疲れているね、何かあったのかい?」 老夫婦の柔らかで優しい笑顔により安心したのか、先程渚に語った会社における自らの現状をもう1度語った。老夫婦は親身になってヒドゥラの話を聞き、時に涙を流しつつまるでそのラミアが自分達の孫娘であるかの様に優しく手を握り頭を撫でた。 ヒドゥラは涙を流し老夫婦に感謝を告げると、手を振りながらその場を後にして会社へと戻って行った。 老夫人がご主人に向かって頷くと、残った拉麵を完食してすぐお勘定を払ってその場を去っていった。渚「ありがとうございました、またどうぞ!!」 老夫婦が去ってからは昼の2時半頃までお客が絶えず、ずっと皿洗いと調理を繰り返していた。正直こんなに大変とは思わなかったと感
-135 大企業の事実- 以前の職場で噂されているとは知らない2号車の渚はシューゴに手渡された地図で指定された販売ポイントの駐車場に到着した、シューゴとは逆回りでこの後渚にとって懐かしきダンラルタ王国の採掘場での販売をも予定している。渚「この辺りだね・・・、よし。」 本来はとある職場の職員が使う駐車場で、管理人とシューゴが特別に月極契約している端の⑮番の白線内にバックで止める。何があってもすぐに対応できる様に「必ず駐車はバックで」と言うのがシューゴとのお約束だった。 渚は運転席から降車し、少し辺りを見てみる事にした。渚「ここはどこの駐車場なのかね・・・。」 駐車場から数十メートル歩いた所に大きな建物が2つ並んでいた、1つは大企業の本社ビルで最低でも20階以上はありそうだ。また、隣接する建物は15階建てのものらしく横に大きく広がっている。2つの建物は数か所の渡り廊下で繋がっていて窓の向こうから行き来する人々がちらほらと見えている。渚「大きいね・・・、何ていう建物なんだい?」 入口らしき門が見えたのでその左側に書かれている文字をじっくりと読んでみた、見覚えのある文字がそこにある。渚「「貝塚学園高等魔学校 貝塚財閥バルファイ王国支社」ね・・・、貝塚財閥ってあの貝塚財閥かい?!確か向こうの世界で教育系統に力を入れているって聞いた事があるけどこっちの世界にお目見えするとはね、こんな所で屋台をするのかい?贅沢だねぇ・・・、ありがたやありがたや。」 渚はハンカチで汗を拭いながら軽バンへと戻り営業の準備を始めた、屋台キットを展開しスープの入った寸胴を火にかける。暫くしてスープの香りが漂い始めると先程の建物から昼休みを知らせるチャイムが聞こえて来た。すると女性が1人、疲れ切った様子で屋台へとやって来た。へとへとになりながら渚が差し出した椅子へと座る、お冷を手渡すと砂漠を彷徨っていたかの様に一気に喉を潤した。目にはクマがあり、酷い寝不足らしい。聞くと人件費の削減でかなりの人数を減らされ毎日酷い残業らしく、今日みたいに昼休みを過ごせない日もあるそうだ。せめて今日の昼休みくらいは美味しい物をとスープの匂いに誘われてやって来た。女性「えっと・・・、拉麺を1杯お願いします。麺は硬めで。」 疲れ切った表情で渚に伝えると懐から手帳を出し、午後からの仕事の確認をし始めた。渚
-134 懐かしの味- 常連さんの注文に応じ、新メニューである「特製・渚の辛辛焼きそば」を作り始めた1号車の担当・シューゴ。まずは豚キムチを作っていくのだがここで必ずお客さんに聴いて欲しい事があるそうだ。シューゴ「辛さはどれくらいがお好みですか?」 判断基準の為、ラミネートされた用紙を渚から手渡されていたのでそれをブロキントに見せる。辛さは5段階まで表示されており、それに応じて各々の辛さのキムチを使用する事になる。キムチはこの調理用に全て渚が特製で漬けていたのだが、シューゴには5種類とも試食する度胸が無かった。最高の5辛のキムチは色が尋常じゃない位に黒く、恐怖心をあおる様に唐辛子の匂いがやって来る。5辛以上の辛さを求められた場合は5辛の物に特製ペーストを加えて作る。 因みに最初のお客さんには1辛を勧める様にと伝えられており、1辛のキムチは多めに作られていた。シューゴ「最初は1辛をお勧めさせて頂いているのですが。」ブロキント「せやね・・・、丁度刺激が欲しかったんで敢えて3辛でお願いできまっか?」シューゴ「3辛で・・・、分かりました。お好みで辛さ調節できますのでね。」 3辛用のキムチを加え調理にかかる、後で炒めなおすので最初は軽く火を通す程度に。一度皿にあけ少し硬めに茹でていた麺をソースと辣油で炒め先程の豚キムチを加え一気に煽る。それを見た瞬間、ブロキントが何か思い出したかの様な表情をして聞いた。ブロキント「店主はん・・・、それまさか赤江 渚はんのレシピちゃいますのん?」シューゴ「はい、なので「渚の」が付いているんです。」ブロキント「渚はんって、ホンマにあの渚はんなんですか?」シューゴ「ど・・・、どうされたんです?」ブロキント「いやね、以前ここで事務と調理の仕事をしとった人がおったんですけどね、その人と同じ作り方やなぁと思っとったんです。」 そういうと幸せそうに、そしてどこか懐かしそうに微笑みながら調理を眺めていた。シューゴ「渚さん・・・、多分今日中にこの場に来るはずですよ。実は今日からウチの2号車としてデビューする事になったんで。」ブロキント「ほんまでっか?!ほな夕飯に渚はんの作った拉麺を食べてみます!!」シューゴ「ふふふ・・・、お楽しみに。さぁ、出来ましたよ。」 皿に炒めた麺を盛り付け辛子マヨネーズを振りかけて出来上がり、お客の
-133 お仕事開始- 夜明け前、弟・レンカルドの経営する飲食店の調理場を借り、毎日継ぎ足して使っている秘伝の醤油ダレをシューゴが仕込んでいた。 自らの舌で選び抜いた素材と独自に調合したスパイス、そして黄金比をやっとの思いで見つけ出し配合した調味料を沸騰させない様にゆっくりと火入れしていく。 幾度となく納得のいくまで味見を繰り返し、完成しかけたタレに煮込み前の叉焼を入れ肉の脂を混じらせつつ双方を仕上げていった。 シューゴ「これは味見・・・、味のチェック・・・。」 出来たばかりの叉焼を1口、十分納得のいく味付けと全体的にトロトロの食感が織りなす絶妙なハーモニーを口いっぱいに頬張って首を縦に振った。その味に堪らなくなってしまっていたのか数秒後には白飯に手を出していた、こうなると予想していたレンカルドが気を利かせて用意してくれていたのだ。シューゴ「うん・・・、これは仕事終わりにビールだな。」 数切れ程タッパーに残し楽しみに取っておき、屋台2台分の準備をし始めた。そう、これからは屋台が2台だから味付けの責任も2倍だ。 2台分の醬油ダレ、叉焼、そしてその他の具材を用意し終えた頃に裏の勝手口から渚が声を掛けた。渚「おはようございます、良い匂いですね。」シューゴ「おはようございます、宜しければ味の確認も兼ねて出来立てを如何ですか?」 そう言って1口サイズに切った叉焼を小皿に乗せて渡すと渚は目を輝かせながらパクついた、目を閉じてその味を堪能する。シューゴ「その表情だとお口に合ったみたいですね。」渚「これビールの肴としての叉焼単品や叉焼丼でも売れるんじゃないですか?折角辛子マヨネーズも持っていくのでそれをかけて。」シューゴ「そのアイデア・・・、採用しても良いですか?」 シューゴは調理場に渚を残しパソコンのある部屋に向かい、急ぎ電源をつけた。どうやらメニュー表や注文用のメモの改定と魔力計算機(レジ)のボタン設定を即座に行っている様だ、因みに値段は原価等を考慮して即席で決定した。渚「シューゴさん、いくら何でも早すぎないかい?私でも焦りますよ。」シューゴ「いや、折角のアイデアです。是非採用させて下さい、容器はまたいずれ作りますので今日は取り敢えず今ある分でお願いします。」渚「了解しました。」 新メニューが即席で誕生した所で屋台への積み込みだ、忘れ物
-132 出来立ての屋台と焼きそば- 秘伝の醬油ダレとスープ、そして叉焼を含む営業用の商売道具を説明の為に一通り外に止めてあった新しい屋台に積むと一緒に積んでいた丼を1つ取り出し拉麺の作り方説明し始めた。シューゴ「まず最初に注文を取ってメモに書き、丼の底にゆっくりとこの醬油ダレを入れて頂きます。次に箸で溶かしながらスープを入れていくのですが、それと同時並行で別の鍋にて麺を茹でていきます。各硬さに対応する茹で時間はメモしてありますのでこれを見ながらやって見て下さい。」 茹で上がった麺を取り出し上下に振って湯切りする、これがきっちり出来ていないと折角のスープの味がゆで汁で薄くなってしまう。シューゴ「予め切ってある叉焼などの具材を乗せて完成です、提供する時に必ずお箸を一緒にして下さい。」 経費の削減の為、今回の屋台では割り箸ではなく洗って使う塗り箸を用意してある。しかし希望する客がいれば割り箸を提供する。 お箸と割り箸を入れている引き出しの真下にドリンク用の冷蔵庫が設置されていた、中ではグラスも冷やせる様になっており、固定して運ぶ為に移動中割れる心配がない。 この屋台には魔力計算機(レジ)が標準装備されており、各ボタンに値段が登録されているので記憶する必要が無い。トッピングや白飯、またドリンクのオーダーにも対応出来る様にもなっている。 因みに注文用のメモには各商品の名前が記載されていて、「正」の字を書けばいいだけになっているので大助かりである。各席の厨房側にメモを挟めるようにピンが付いていて、すぐに調理にかかれるシステムだ。 渚がメモをじっくり読み込んでいると「特製・辛辛焼きそば」の文字が。渚「シューゴさん、これ・・・。」 渚がメモ用紙の「特製・辛辛焼きそば」の箇所を指差しながら聞くと、シューゴは懐から看板らしき板を取り出した。シューゴ「そうそう・・・、これは私からの開店祝いです。それとこれからは渚さんにお教え頂いたあの焼きそばを新メニューとして取り入れる事にしました。」 シューゴがプレゼントの看板を裏返すと、全体的に黒の背景に赤い文字で「新メニュー 特製・渚の辛辛焼きそば」と書かれていた。右下には唐辛子や辛子マヨネーズの絵が描かれている。渚「いつの間に・・・、それに私の名前入りで・・・、良いんですか?」シューゴ「勿論です、渚さんの拘りのお