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第4話……ヴァルカン急襲作戦

last update publish date: 2026-06-05 02:05:27

――それから数時間後。

 惑星ヴァルカンの灰色の雲を突き破り、黒き海賊船モリガンが稲妻とともに姿を現した。

 空気との摩擦で船体が赤く焼け、尾を引くプラズマ光が空を裂く。

 制動装置が壊れた様、まるで獲物に飛びかかる飛竜のように――急降下。

「減速制御、限界値ぎりぎり!」

「いいから続けな、ビッグベア!」

 操舵席で副長の低い声が響く中、ツーシームは冷笑を浮かべた。

 モリガンは宇宙港の上空数百メートルでようやく制動。

 防御重力場を展開し、港全体を覆うように上空を支配する。

 その威圧的な重低音が空気を震わせ、空港施設の窓ガラスを爆散させた。

「宇宙港管制塔、応答なし!」

「そりゃあそうさ。最初から沈黙してもらうつもりだ」

 ツーシームは立ち上がり、操舵席横のスクリーンに映る港の全景を見下ろす。

 逃げ惑う係員、混乱する使役ロボット、そして滑走路で沈黙する小型警備艇。

 そこへ、海賊船の影が覆いかぶさる。

「降下部隊、出せ。獲物を逃がすな」

「了解!」

 艦腹のハッチが開き、突撃ポッドが次々と射出された。

 火を引く金属弾頭が降下し、着地と同時に分離。

 内部から飛び出すのは、黒い装甲服の海賊兵たち。

 各々がプラズマ式の突撃銃を構え、宇宙港湾の主要施設を手際よく制圧していく。

「第1班、補給タンク確保! 第2班、通信指令室の掌握完了!」

 極周波無線に報告が飛び交い、赤い警報灯が港を染めた。

 大方の防衛部隊は投降。警備ドローンは次々と撃墜され、管制塔は火柱を上げる。

 モリガン艦橋の窓越しに、その光景を見下ろすツーシーム。

 彼女は腰の剣の鞘を軽く叩き、満足げに息を吐いた。

「いいねぇ。やっぱり正面から潰すのが一番手っ取り早い」

「宇宙港、完全制圧。残敵、散発的抵抗のみ」

 地上のビッグベアの報告に、ツーシームは頷いた。

「よし、港は取った。これでクロイツの退路はない。次は本命だ。クロイツの犬どもに、“ご挨拶”を届けてやろうじゃないか」

 艦内の空気が一変する。

 わずか十数分――それだけで辺境惑星とはいえ、アストレア子爵家が誇る宇宙港が完全に沈黙したのだ。

 その様子を、後方の観測窓から見ていたユリウスは息を呑んだ。

「……たった、十分かそこらで……?」

 信じられない光景だった。

 誰もが無秩序な盗賊と思っていた海賊たちが、まるで訓練された軍隊のように動き、一糸乱れぬ連携で制圧を終わらせていた。

 隣で老家臣グレゴールも、ただその光景を見つめていた。

「……これは、戦争ですな。だが――子爵様の兵よりも統率が取れている」

 ユリウスは言葉を失い、艦橋に立つツーシームの背中を見た。

 薄い煙が漂う中、安煙草を咥えた女は、ただ静かに笑っていた。

◇◇◇◇◇

――数時間前、アストレア子爵家館。

「報告! 第九宙域を哨戒中の巡視艦隊が――消息を絶ちました!」

 部下の声が執務室に飛び込み、クロイツ準男爵は思わず椅子を蹴り飛ばした。

「なに!? 全滅だと!? あの艦隊を沈めるだと……馬鹿を言うな!」

 報告兵は顔を引きつらせながら、震える手でデータパッドを差し出した。

「映像が……残っておりました。これです」

 ホログラムが起動し、淡い光が室内を照らす。

 そこに映し出されたのは、虚空に現れた黒い艦影。

 一瞬の閃光、そして4隻の巡視艦が串刺しになるように沈黙していく光景だった。

 通信士の声が記録の中から途切れ途切れに響く。

『回避不能――っ、敵艦……側面に――!』

 映像が途切れる。室内に、沈黙が落ちた。

 クロイツは額に汗を浮かべ、唇をかすかに震わせる。

「……たった一隻で……四隻を、瞬く間に……?」

 彼の背筋を冷たいものが走った。

 それは怒りでも屈辱でもなく、純粋な恐怖だった。

「馬鹿な……あの女海賊の船は、せいぜい旧式の武装艇のはずだ。あんな動き――あり得ん! 空間の概念を超えている!」

 側に控える副官が口を開く。

「準男爵閣下、まさかとは思いますが……伝説の“重力視覚”を持つ者が、現れたとか――」

「黙れ!」

 クロイツは怒鳴り、机を叩きつけた。

「そんな馬鹿げた古の怪談を信じるものか! 現実的に考えろ!」

 だが、怒声の裏にあったのは、どうしようもない不安だった。

 そのとき、警報音が執務室の壁一面に鳴り響いた。

「報告! 敵艦、惑星ヴァルカンの衛星軌道上に侵入! 現在、大気圏内降下中!」

「なっ……!? もう来たのか!?」

 側近の武官が青ざめた顔で叫ぶ。

「ま、まさか、戦闘後の補給も整備もせずに……!?」

「ありえん! そんな無茶な――」

 クロイツは言葉を失った。

 窓の外、灰色の雲を裂いて、黒き艦影が降下してくる。

 雷鳴のような重力音が空気を震わせ、館の窓ガラスが細かく揺れた。

「……すぐの反撃など、ありえんと思っていた……」

 自分でも気づかぬほど小さな声で、準男爵は呟いた。

 その三十分後、邸全体に激震がともいえる報告が舞い込む。

 モリガンが主要居住区画の上空を制圧し、宇宙港を占拠したのだ。

「全兵、配置につけ! 館を死守せよ!」

 クロイツは怒鳴り、無理やり声を張り上げた。

 だが、その指先は小刻みに震えていた。

 外の空を見上げると、飛竜の紋章が光を反射していた。

 まるで天から裁きを下す神話の獣のように。

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