Se connecter薄青い光に満たされた管理室で、ツーシームは壁面をゆっくり見回した。
古びているはずなのに、どこにも朽ちた気配がない。機械とも神殿ともつかぬその空間の中心で、荒鷲の金印を持つ少女が、妙に得意げな顔をして立っている。
ツーシームは煙草を指で弾き、気のない声で尋ねた。「こんな僻地に、どうしてこんな場所があるんです?」
少女は、くすりと笑った。
「ふふふ。ここは外の宇宙との関所じゃよ。このコントロールルームがあるからこそ、我らは外敵から身を隠してこられたのだ」
「……へぇ」
あまりにも大きすぎる話に、ツーシームは半歩だけ眉を動かした。
その横で、トロスト技師は機器類へ吸い寄せられるように近づいている。震える指先で端末の縁をなぞり、喉を鳴らした。少女は構わず続けた。
「我ら太古の人類は、他次元宇宙への干渉によって文明崩壊を起こした、と言われておるじゃろう?」
ツーシームは頭をかいた。
「そうだったかな? アタイ、そういう授業は寝てた気がするねぇ」
「実は、あの言い伝えは嘘じゃ」
その一言で、室内の空気が変わった。
少女の瞳には、もはや年齢に見合わぬ古さが宿っている。「かつて人類は、広大な宇宙へ支配を広げすぎた。じゃが、その果てに、さらに先達たる高度文明保持者の怒りへ触れたのだ。人類は滅ぼされた。星も、艦隊も、文明もな」
トロストが、はっと息を呑む。
「では……人類滅亡譚は、外宇宙からの制裁だったと?」
「そういうことじゃ」
少女は静かにうなずいた。
「その時、先達の技術で作られた宇宙の鍵を奪い、その中へ逃げ込んだ者たちがいた。隠し部屋のような閉鎖宇宙へな。それを率いたのがノヴァという男。帝国の皇帝や大貴族たちの先祖は、その一団の末裔というわけだ」
ツーシームは、ようやく少しだけ面白そうな顔をした。
「なるほど。じゃあ、アタイたちの宇宙そのものが、押し入れの奥みたいな隠し部屋ってことかい?」
「まあ、乱暴に言えばそうなるな」
ビッグベアが腕を組んだまま唸る。
「笑えねえ話だな」
少女はさらに奥の制御卓へ歩み寄った。
光る紋様が、彼女の金印に呼応するように微かに脈打っている。「しかも数年前、外界宇宙に住まう先達の高度文明者たちが、今もなお金印の所持者を探しておることが分かった。ゆえに先代の皇帝は、わらわを作り、親類への被害を避けようとしたのじゃ」
「作った?」
ツーシームが目を細める。
「ずいぶん引っかかる言い方だねぇ」
少女は、そこでだけ少し寂しそうに笑った。
「そのままの意味よ。わらわは、先帝の体の一部を受け継いだ機械仕掛けの人形。そして災厄の矢面へ立たされるための器でもあった」
数秒、誰も何も言えなかった。
最初に口を開いたのはトロストだった。「では、パニキア連邦は? あれほど文化も姿も違う連中が、この閉鎖された宇宙に存在しているのです?」
少女は振り返る。
「パニキアの蛮族どもは、初代皇帝がこの部屋を隠すために作り出した生命体だからじゃ。外敵の目を欺くための番犬であり、偽装であり、周辺宙域を埋めるための種でもあった。だから今も、兵器や道具の規格には帝国と通じるものが残っておる」
「……人工生命の文明だってのか」
トロストの声は、半ば呆然としていた。
「さらに初代皇帝たちは、不老を目指して新たな肉体を培養した。ところが、その体たちは自我を持ち、支配を拒んで逃げた。彼らの子孫が、今の人類統合共和国のバイオロイド共というわけじゃ」
ビッグベアが低く呟く。
「帝国も、共和国も、パニキアも、もとは全部つながってるってことか」
「そうじゃ。そして、それを隠すため、昔の帝国は自分たちに都合のいい偽の歴史を作った」
ツーシームは煙を吐き、制御卓の青白い光を眺めた。
「つまり、いま銀河じゅうで信じられてる歴史ってのは、勝者の作った作り話ってわけだ」
「その通り」
少女は制御盤へ手を置く。
「この部屋は今も、外界宇宙との扉を閉じる役目を果たしておる。もしこれを開けば、我らは文明水準の違いすぎる外敵に見つかり、たちまち滅ぼされるであろう」
トロストは顔を青ざめさせた。
「そんなものを、我々はいま目の前にしているのか……」
だが、その隣でツーシームだけは、ひどくつまらなそうに煙草をふかしていた。
やがて彼女は、紫煙の向こうで少女を見ながら、面倒くさそうに肩をすくめる。「で?」
「……何じゃ?」
「世界の秘密がどうとか、人類の祖先がどうとか、そりゃ大層な話ですよ。でもねぇ、アタイにとっちゃ一番大事なのは、明日どう生き延びるかです」
トロストが目をむいた。
「船長! この話の重みが分かっているんですか!?」
「分かってるさ」
ツーシームは淡々と答える。
「重すぎる話ってのはね、たいていその場じゃ役に立たないんだよ」
管理室の機械音だけが、静かに脈打っていた。
宇宙の秘密を前にしても、飲んだくれの海賊は、変わらずならず者のままだった。
その現実感だけが、かえってこの場の空気を奇妙に真実らしく映し出していた。夜明け前の薄闇の中、ノーム人のエジルの手引きで、ツーシームたちはさびれたエーテル鉱区へたどり着いた。 小柄な男だったが、受け答えは妙に落ち着いている。 怯えはある。 だが、頭は回る。 ツーシームはそう見た。 三人はホバークラフトを降りると、鉱区全体が見渡せる高台へよじ登った。 眼下には、細長い塔のようなエーテル油井が何本も立ち、その根元には作業員たちのバラックが、まるで錆びた缶詰のように密集している。 さらに脇には、今にも崩れそうな旧式精製施設までへばりついていた。 ツーシームは、昨日トロストから渡された秘密資料をぱらぱらとめくる。 そして、視線を下へ落としたまま尋ねた。「なぁ、エジル。ここのエーテル、重質系で質はかなり悪いだろ?」「はい」 エジルは小さくうなずく。「なのに、どうして精製施設があんなボロで平気なんだい?」 エジルはしばらく黙ったあと、絞り出すように答えた。「我々労働者が、炉心近くまで入って、直接作業するからです」「はぁ?」 ビッグベアが思わず割り込んだ。「馬鹿か? 精製前のエーテルは放射性物質だぞ! 防護服を着たって、炉心じゃ五分も持たねぇだろ!」 エジルは、怒鳴られても怒らなかった。 むしろ慣れているように、静かに言う。「ええ。大変に危険です。ですが、精製コストを削らなければ利益が出ません。新しい設備を入れるには莫大な金がかかる。ですから、安い命で埋め合わせているのです」 ツーシームの目が細くなる。「安い命、ねぇ」「我々ノーム人には、法で定められた権利が薄いのです」 エジルは乾いた声で続けた。「労働厚生法も、ほとんど適用されません」「……法がどうこう以前に、この星の行政長官も買収されてそうだねぇ」「た、たぶん……」 エジルはそこで急に声を震わせた。「お願いです。みんなを助けてください」 ビッグベアが息を呑む。 だがツーシームは、困ったように頭をかいた。「いやぁ、そんなこと言われてもね。アタイたちは正義の味方なんかじゃない。むしろ、悪党の側の宇宙海賊さ」「ぇ!?」 エジルの目が、まん丸になった。 その顔があまりに露骨で、ツーシームは少しだけ苦笑する。 東の地平線が、わずかに白みはじめていた。 赤茶けた大地の向こうから、冷たい朝が這い上がってくる。 ツーシームはその光を見
聖帝国暦六四五年、旧第五総管区――現ルドミラ教皇国。 首都星ヒンデンブルク、中核都市ニデルの大神殿。 その最奥、香煙すら沈黙しているような聖室にて、サリーム・アル=ハディード教皇は、前教皇エロー枢機卿を密かに呼び出していた。 壁面を埋める聖像群は薄闇の中で青白く浮かび、古代の発光石をはめ込んだ円天井だけが、冷えた光を二人の間へ落としている。 神に最も近いはずの部屋で、いま交わされていたのは祈りではなく、権力の話であった。 教皇は金糸の刺繍が入った長衣の裾を整え、静かに口を開く。「枢機卿、あの聖典改定は、まだ終わらんのかね?」 問われた老枢機卿エローは、目に見えてやつれていた。 頬は落ち、指先はかすかに震えている。彼はしばし沈黙したのち、絞り出すように答えた。「我らルドミラ教は、聖帝国ノヴァに虐げられた民の支持で立っております。中でも信徒の多数を占めるノーム人を、パン一片にも劣る存在などと……どうしても、そのようには書けませぬ」 その声は弱々しかったが、まだ僅かに良心の熱が残っていた。 だが教皇サリームは、怒るでもなく、むしろ穏やかに頷いた。「そうか。では――これを見ても、同じことが言えるかな?」 そう言って、彼は卓上へ数枚の紙束と写真を無造作にばら撒いた。 白い紙片が、冷たい石の机へ音もなく広がる。 老枢機卿の目が、それへ吸い寄せられた。 そこに記されていたのは、彼が教皇位にあった頃、帝国側より受け取った賄賂の詳細。送金記録、口利きの覚書、裏帳簿の複写。 さらに数枚の写真には、当時人気だったモデル達とのホテルでの密会の場面まで、鮮明に切り取られていた。「……こ、これは!?」 老枢機卿は文字通り膝を折った。 顔色は一瞬で土気色に変わり、喉がひくつく。 ルドミラ教では聖職者の独身が尊ばれ、たとえ俗世にあっても一夫一妻が大原則。不義や姦通は重大な背教とされ、火刑さえあり得る。 それを、誰より説いてきた男の過去が、いまこの場で無惨に剥かれていた。 教皇はゆっくり立ち上がると、怯える老人のそばへ歩み寄った。 そして意外なほど優しい手つきで、その肩へ触れる。「余は、枢機卿の見識を高く買っておるのだよ。だからこそ、残念なことにはしたくない」 その声音は柔らかい。 だが、それがかえって恐ろしかった。 刃が首筋へ当たる冷たさ
中古高速船メイラード号は、空間跳躍と通常航行を織り交ぜながら、およそ五日をかけて資源惑星シャンプールへ到達した。 船窓の向こうに見えたその星は、いく筋かの雲をまとってはいるものの、全体としては赤茶けた岩の塊にしか見えなかった。 生気に乏しい。 鉱山惑星という言葉を、そのまま形にしたような景色である。「いかにもって面だねぇ……」 操縦席の後ろで、ツーシームが安煙草をくわえたまま呟く。 管制塔との面倒なやり取りを覚悟していたが、ここがアストレア家の代官の支配地だと伝わるや、交信は驚くほどあっさり終わった。「着陸許可、確認」 操縦を担当していた現地上がりの船員が肩をすくめる。「お貴族さまの名前ってのは、やっぱり便利ですねぇ」 やがてメイラード号は大気圏へ突入し、船体を赤熱させながら降下していく。 窓の外では、乾いた赤い大地がじわじわと迫ってきた。 谷も、丘も、見渡すかぎり岩と砂ばかり。 その中にぽつんと設けられた簡素な宇宙港へ、船は重々しく着陸した。 タラップを降りたツーシームは、周囲を見回して鼻を鳴らす。「ここは見るからに田舎だねぇ」 横からトロスト技師が端末を見ながら応える。「記録によると、ここの人口は三千人らしいですよ」「何! たった三千人だと!?」 巨体のビッグベアが、本気で目を丸くした。 その声が、乾いた港の空気にやけに大きく響く。 トロストは眉をしかめ、訂正する。「いや、正しくは正規民が三千人、だそうです」 その一言で、空気が少しだけ冷えた。 ツーシームは煙草をくわえ直し、頭をかく。「嫌なこと聞いたねぇ……」 正規民が三千人。 ならば、その外側にいる者たちがどれほどいるのか。 数字に出ない労働者、契約外民、流民、ノーム人、債務奴隷まがいの鉱夫――ろくでもない想像がいくつも浮かぶ。 荷物を検疫ゲートへ通していると、こちらへ歩いてくる女がいた。 眼鏡をかけた、よく整った顔立ちの美人である。こんな荒れた鉱山惑星には似つかわしくないほど、身なりもきちんとしていた。「技師のトロスト様、御一行ですね?」 トロストが軽く手を挙げる。「ああ、そうだ。サンブルク商会まで頼む」 今回、アルテミス商会の商会長たるツーシーム本人が表へ出れば、現地に余計な警戒を招くおそれがある。 そのため表向きは、無名の技師トロ
聖帝国暦六四五年十月下旬――。 ユリウスは旗下の貴族たちへ召集をかけ、その艦艇群を惑星ヴァルカンの衛星軌道上へ集結させていた。 輸送船、巡洋艦、旧式駆逐艦、武装商船を改造した補助艦までが、宇宙桟橋の周囲へ幾重にも並ぶ。 まだ寄せ集めの色は濃い。 ゆえに彼は、各家ごとにばらばらな指令系統を一本化し、ようやく一個艦隊らしい形へ整えようとしていたのである。 その最中、アーヴィング大公からの勅使来訪が告げられた。「何かあったのでしょうか?」 老臣グレゴールが眉を寄せる。 疫病、戦況、宮中の政争――不穏な種はいくらでもあった。 だがユリウスは背筋を伸ばし、短く命じる。「失礼の無いように、お通ししろ!」「はっ!」 やがて衛兵たちに先導され、勅使が応接室へ姿を見せた。 ユリウスは上座へ招き、自ら頭を垂れる。 室内は張りつめていた。 だが、側近たちの危惧は杞憂に終わる。 勅使は厳かに巻書を開き、朗々と読み上げた。「アストレア侯爵を、大公国軍の元帥に任じる」 一瞬、空気が止まった。 すぐにユリウスは深く一礼する。「ありがたき幸せ」 差し出された元帥杖と任命証を、彼は恭しく受け取った。 若き辺境侯爵が、ついに大公国軍の最高位へ押し上げられたのである。 任命の儀が終わると、勅使は急に肩の力を抜いた。「いやぁ、お忙しい中、申し訳ない」「いえいえ、遠路はるばるご苦労様です」 勅使ロンメル子爵は、かつてのアストレア家と同じく資源惑星を治める地方領主で、どこか土の匂いを残した男だった。 茶が出されると、彼は苦笑して言う。「私も侯爵様のように出世して、元帥にでもなってみたいものですな」 ユリウスもわずかに笑った。「おおよそ、運が良かったのが大きいですよ」 そんなひとときの後、ロンメル子爵の乗るシャトルは桟橋を離れ、星の闇へ消えていった。 その背を見送りながら、グレゴールはついに目頭を押さえる。「若様……ついに軍の最高峰におなりで、先代様もあの世でお喜びに……ううっ」「爺よ、泣くな」 ユリウスは照れくさそうに顔をしかめ、それでも力強く言った。「僕は、もっと立派になってみせる」 三日後。 六百隻に達した艦隊は、ヴァルカン軌道を離脱。 星系外縁へ進出すると、次々に空間跳躍を敢行し、ルドミラ教皇領への援軍として旅立っていった
帝都ネオ=ベルゼブブ、皇宮地下深く。 幾重もの防音隔壁に閉ざされた秘密の長距離通信室には、淡い青光を放つ極低周波通信モニターが静かに唸っていた。 その前に立つのは、銀髪をきっちり結い上げた女――宰相ローゼンタールである。 冷たい美貌は夜の氷みたいに研ぎ澄まされ、その双眸だけが獲物を見定める猛禽のように鋭かった。 彼女はゆっくり椅子へ腰を下ろし、片肘をついて問う。「……で、パニキアの最果てを知ったであろう者どもを、取り逃がしたと申すのか?」 モニターの向こう、荒い走査線の中に映るのは、禿げ上がった中年男の顔だった。 男は額の汗をぬぐいながら、かすれた声で答える。「は、はい……誠に申し訳ありません」 ローゼンタールは、わずかに口角を上げた。 だがそれは笑みではない。 相手の喉元へ刃をあてたまま、ほんの少しだけ押し込むような表情だった。「人間種殲滅教団の連中も、役立たずよな」 彼女は指先で机を叩く。「毎年、あれほど多大な資金援助を流してやっておるというのに……」 男の喉が、目に見えて上下した。「も、申し訳ありません。ですが、Pウイルスの件は順調でございます」 その瞬間、ローゼンタールの目が細くなる。「……ふふふ」 低く、湿った笑いが通信室へ転がった。 彼女は身をわずかに乗り出し、モニターの向こうを覗き込む。「それくらいは頑張ってもらわねば困る。でなければ、お前の首もずいぶん涼しかろうて」「は、はい! お任せください!」 男はあわててうなずき、額から流れる汗を袖で乱暴に拭った。 そのみじめな姿を眺めていたローゼンタールは、もはや興味を失ったように視線を外す。 細い指が通信機の切断スイッチへ触れた。 ぷつり。 音もなく画面が暗転し、部屋には機械の低い駆動音だけが残った。 しばし沈黙。 やがてローゼンタールは、ひとりごとのように呟く。「さて……もう外は夜か」 彼女はゆっくり立ち上がった。 机上の書類束、暗号鍵、消えたモニター。 そのどれにも未練を見せず、黒い衣の裾を翻す。「新しいノクターン公爵様のご機嫌も取らねばのぉ……」 その声には、忠義も敬意もほとんど感じられなかった。 あるのはただ、権力という猛獣をどう飼いならすか、それだけを考える鋭利な知性である。 秘密通信室の扉が静かに開く。 その先には、
海賊船「モリガン」は、偽装商船「銀の秤」からおよそ二時間遅れでワープを敢行していた。 重力振の共鳴を避けるためである。 もし近接した時間差で同一航路へ飛べば、位相の乱れから航跡を読まれる危険があった。 護衛である以上、影のまま付いてゆく必要があったのだ。 だが、ワープアウトした直後、艦橋の空気が一変する。「なんだあれは!?」 正面スクリーンに映ったのは、「銀の秤」を左右から挟み込む二隻の武装船だった。 朱色の船体。細長い艦首。獲物へ喰らいつく寸前の牙のような電磁砲塔。 ただの警備艇ではない。 その配置、その間合い、その殺気だけで十分だった。 ツーシームは寝起きの気だるさを一瞬で捨て、鋭い声を飛ばす。「砲撃長! 電磁砲、発射用意! 方位F-304、D51!」「了解!」 艦橋に緊張が走る。 だが、すぐ横からトロスト技師が慌てて口を挟んだ。「いやいや、少し様子を見るべきです! ここで撃てば「銀の秤」は助かるでしょうが、戦闘を起こせば連邦の艦艇がすぐ寄ってきます!」 その理屈はもっともだった。 ここは敵地深く。 一発でも派手にやれば、周辺宙域の監視網が目を覚ます。 「モリガン」の秘匿行動も、ユリウスの帰還路も、一気に危うくなる可能性があった。 だがツーシームは、まるで迷わなかった。「いや、乗り込まれてからじゃ遅い。砲撃開始だ!」 その一言で、皆のためらいは消えた。 次の瞬間、「モリガン」前部甲板の電磁砲塔が火を噴く。 加速された徹甲弾が暗黒を裂き、二隻の武装艇の後方へ突き刺さった。 狙いは見事だった。 前面装甲ではなく、防御の薄い機関部側面から後尾寄りを射抜いたのである。「一番艦、命中!」「二番艦、続けて命中!」 朱色の船体が「くの字」に歪み、わずか二秒も耐えられず爆散する。 閃光。破片。噴き出す火球。 二隻の武装艇は、宇宙の藻屑となって四散した。 ツーシームは間髪入れず怒鳴る。「商船『銀の秤』へ打電! 我に構わず逃走すべし!」「了解!」「送信完了しだい急速潜航!」「了解!」 通信が飛ぶ。 そのわずかな間にも、「モリガン」の位相エーテル機関は深い唸りを増していた。 そして次の瞬間、艦体は現実宇宙の輪郭から滑り落ちるように沈み込み、再び異次元の深淵へ姿を消す。 だが同時に、危険な狼煙も上がった