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第2話 ​

作者: 怠け王様​
翌朝、目を覚ますと、隣には誰もいない。

雅史はもう出かけた。

身支度を整えて、一階へと降りた。

海に面したこの屋敷は、見晴らしが素晴らしい。

ここへ移り住んだばかりの頃は、胸が高鳴っていた。

ようやく苦労が報われ、雅史と二人で落ち着ける場所を手に入れたのだと信じていた。

だけど後になって気づいた。ここは思い描いていたような夢のお城ではない。

私を閉じ込め、縛りつけるための鳥かごに過ぎないのだと。

起業したばかりの頃、雅史と私はとても仲が良く、ラブラブだった。

仕事の計画を話し合い、これからの夢を語り合ったものだ。

けれど、会社が大きくなるにつれて、彼は変わっていった。

ある日、彼は一晩中帰ってこなかった。

そして私のスマホに、彼と見知らぬ女のプライベートな写真が届いた。

その後、彼は取り乱して床に膝をつき、許してくれと泣きついてきた。

お酒の勢いで間違いを犯した、ほんの一時の気の迷いだった、と。

私は胸が張り裂けそうなほど泣いた。

それでも結局、もう一度だけやり直す機会を与えてしまった。

だがそれ以来、雅史が顔を出す飲み会やパーティーは増える一方だった。

彼はもう何者でもない若者ではなく、誰もが「塚崎社長」と呼ぶ名士になっていた。

名誉やお金を手に入れることは、それだけ誘惑が増えることを意味している。

だから、再び雅史と別の女のプライベートな写真が送られてきた時、彼はただ眉をぴくりと動かし、気のない様子で言った。

「この界隈じゃよくあることだ。慣れてくれ。

それに、あいつらとはただの体だけの関係だ。

俺が本当に愛してるのは君だけだ、馬鹿だな」

私は屋敷にあるありとあらゆる物を叩き壊した。

けれど雅史は、取り乱す私を冷めた目で見つめるだけだった。

「気が済んだら、また来る」

私は膝を抱え、声を上げて泣きじゃくった。

雅史は私を愛しているのだろうか。

きっと、そうなのだろう。

私たちは二人とも貧しい生まれで、幼い頃からずっと一緒に育ってきた。

誰よりもお互いの気持ちが分かり、傷を舐め合ってきた仲だ。

大学に合格した年、私の学費を工面するために、雅史は命の危険も顧みず、違法な賭け試合にまで手を染めた。

体中に傷だらけの彼を見て、私は涙を流した。

それなのに彼は気にする様子もなく、私の頭を撫でてくれた。

「平気さ、かすり傷だ。

蛍は頭がいいんだから、俺は死んでも大学に通わせてやる」

けれど今の雅史は、すっかり変わってしまった。

かつての彼の面影さえ、思い出せなくなりそうなほどに。

だから私は、大人しく従うことを覚え、気を揉まないように努めた。

都合の良い愛人として生きる。

そうすれば、きっと心も痛まないはずだから。

ふと我に返り、リビングのテーブルに飾られたジャスミンの花束に目を留めた。

胸の奥がわずかに揺れた。

雅史から花を贈られるなんて、ずいぶん久しぶりだ。

それでも、私が一番好きなのがジャスミンだということを、まだ覚えていてくれたらしい。

そこへ、突然インターホンが鳴り響いた。

はっと我に返り、急いで玄関へ向かった。

扉を開けると、そこには奈々が立っている。美しくメイクを施した彼女の肌は、雪のように白い。

彼女は口元を歪めた。

「武藤蛍さんね?少しお話ししたいの」

私は不意を突かれたが、小さく頷いた。

彼女は勝ち誇った足取りで中へ踏み込み、遠慮なく屋敷を見回した。

私はその後ろ姿に向かって、単刀直入に尋ねた。

「私に何の用かしら」

奈々は何かに目を留めたらしく、しばらく呆然としたまま返事をしなかった。

彼女の視線を追ってみた。

そこにあったのは、テーブルの上に置かれたジャスミンの花束だ。

彼女はくすっと笑った。

「そのお花、雅史にもらったの?」

「用件があるなら早く言って」

奈々の目には、嘲るような光が宿っている。

「なるほどね……社長である彼なら、どうしてあんな安っぽいおまけの花をわざわざ持ち帰ったのかしらって、不思議に思ってたのよ」

胸が締めつけられた。

「どういうこと?」

彼女は花束に一瞥をくれ、そっけない調子で言った。

「そのお花ね、昨日雅史が私と一緒に花屋で注文した時についてきた、ただのおまけよ。

彼は私のために999本の赤いバラを頼んでくれてね、その際に花屋がサービスで小さなジャスミンの花束を添えてくれたの。

その時は、雅史がそこらへんに捨てるだろうと思ってたわ。だって、私たちのような身分の者が、タダの物なんてありがたがるはずがないでしょう?

それなのに彼がわざわざ受け取るから、誰に渡すつもりかしらって気になってたの。まさかここにあるなんてね」

奈々は鼻で笑い、私の目をじっと見つめた。

「雅史が武藤さんにあげたのって、私が要らないって弾いたおまけだったのね。

彼にとって武藤さんって、一体どんな存在なのかしら?」

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