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第05話

Penulis: あおはな
last update Terakhir Diperbarui: 2026-01-15 07:43:19

 身体が重い。

 ただの疲れじゃない。

 背中の奥がじわじわと火照るようで、逆に手足の先はどこか冷たく、熱と冷たさが皮膚の下で混じり合いながら、ゆっくりと絡まっていくようだった。

「……はあ……」

 小さく吐き出した息が、思った以上に掠れていた。

 喉が乾いている――けれど、その渇きはただの乾きじゃなく、何かを噛み締めたあとに残るような、じっとりとした痺れを含んでいた。

 胸の奥で鼓動が、まだ静かに、けれど確かに響いていた。

 耳の奥で、じくりとした鈍い音が絡みつき、頭の芯をじわじわと熱くする。

 祖父の遺品を整理しようと、居間の隅に置かれた古びた棚を引き寄せた。

 木の表面はざらつき、角が丸く擦り減っていて、触れる指先に古い木の匂いが移った。

 引き出しを引くと、ぎい、と軋む音が狭い部屋に響き、思わず肩が小さく跳ねた。

 音が、妙に大きく聞こえ、壁や床に反響して、耳の奥にじわりと沈んでいく。

 引き出しの中から出てきたのは、見覚えのない古びた骨董品の数々だった。

 小さな木箱、煤けた紙に包まれた何かの欠片、埃をかぶり、微かに黄ばみを帯びた紙の端が、指先にふれるたび、ざらりとした感触を伝えてくる。

 そして、その奥に――白く尖ったものが、ひっそりと潜んでいた。

 獣の牙のような、けれど何の牙かも分からない、不確かな形をしており、同じように埃にまみれ、長い時間を閉じ込めたように沈んだ色をしていた。

 それを思わず手に取った瞬間、掌の奥に、ひやりとした冷たさがじわりと広がった。

 冷たいのに、じんわりとした感触が皮膚の下へと沈み、そこから細い棘のようなものがじわじわと広がっていくような錯覚を覚える。

 指先がかすかに震え、喉の奥がひゅう、と細く鳴った。

 背筋に、ぞわりと冷たいものが這い上がる。

 背中の奥、肩甲骨の間あたりに、じっと張りつくような視線のようなものが、重たく、ひやりと留まった。

 振り払いたいのに、身体は固まったまま、息が浅く、胸の奥で微かに引っかかる。

「……っ、何の、牙だ……?」

 掠れた声が、喉の奥で引っかかり、息と混じって震えた。

 喉がひりつき、唇が乾いて、舌先がかすかにひりつく。

 どうして、こんなものが――何で、こんなものが、こんなところに。

「……なんなんだよ、これ……」

 思わず零れた声は、自分の耳にさえ遠く、頼りなく響いた。

 それが部屋の空気に溶ける前に、耳の奥で何かがじわりと沈んでいくような気がした。

 知らないうちに、息が浅くなっていた。

 吸い込むたび、胸の奥がざわざわと波打ち、吐き出す息が細く震えた。

 指先が、じっとりと汗ばんでいる。

 牙を握る掌の中で、湿り気が冷たく広がっていく感触があった。

 握りしめた手を開こうとするが、指が固まったまま、思うように動かない。

 熱いのか、冷たいのか、それすら判別がつかないまま、じんわりとした感触が皮膚の奥に残り、そこから細い針のようなものが血管を伝って広がっていく気がした。

 息を吐こうとするたび、胸の奥で何かが引っかかり、浅い呼吸が喉の奥で詰まった。

 背中の奥、肩甲骨のあたりで、じっと張りつくような気配が離れない。

 誰もいない。

 いるはずがない。

 なのに、その気配は、確かにあった。

 誰かが、じっと――後ろから、こちらを見ている。

「……っ」

 振り向こうとしたが、首が動かない。

 背中の奥に張りついた気配が、じっとそこに居座り続けている気がして、喉の奥がひゅう、と細く鳴った。

視線を感じる。

 確かに、誰かが、何かが、後ろから見つめている。

 そんな錯覚が、皮膚の下をじわじわと這い上がってくる。

 浅い呼吸を繰り返すたび、胸の奥がきゅっと縮み、空気が喉を通るたびに、乾いた擦れる音が小さく立った。

 指先が、じんわりと冷たくなっていく。

 手のひらに汗が滲み、指の腹がわずかに震えて、木目のざらつきが不快なほど鮮明に感じられた。

 耳の奥で、じくじくとした鼓動の音がひどく大きく響いていた。

 その音は、自分のものなのに、自分のものじゃないような気がして、余計に不安を煽った。

 ――ぽたん。

「うわっ……!」

 台所の蛇口から水滴が落ちる音が、部屋の隅で唐突に響いた。

 その小さな音が、まるで空間全体を震わせるように、耳の奥で跳ね返る。

 びくり、と肩が跳ね、思わず喉の奥で息が詰まり、唇がわずかに震え、冷たい息がひゅうっと抜け、吐き出すたびに肺の奥が軋むように痛んだ。

 誰もいないはずだ。

 ここには、自分ひとりしかいない。

 この家には、もう――

「……いるわけ、ないだろ……」

 かすれた声が喉の奥で震え、弱々しく唇から零れた。

 けれど、その言葉はあまりにも頼りなく、すぐに空気に飲まれて消えていった。

 息を細く吐き出しながら、窓の外に視線を移した。

 薄い朝の光の中で、森の木立が風に揺れていた。

 葉の隙間、幹の影、何もないはずの景色に、ふと、黒い影が横切ったような気がした。

 胸の奥が、ずくり、と痛んだ。

 呼吸が止まり、目が無意識に見開かれ、視界の隅で何かが動いた気がして、瞬きも忘れて目を凝らすが、影はもうどこにもなかった。

 揺れる枝の影だったのかもしれない。

 風のせいだ、きっと――無理やりそう言い聞かせようとするのに、胸の奥がざわざわと波打ち、息が浅くなる。

「……なんなんだよ、あれは……」

 掠れた声が唇から漏れ、空気に溶けた瞬間だった。

 ――……とうま

 不意に、背後から名前を呼ばれた。

 低く、湿った響きで、耳の奥で震えるような声だった。

 まるで、誰かがすぐ後ろで喉を震わせ、息を吐きかけるようにして呟いたような――ぞわり、と背筋が総毛立ち、指先から血の気が引いていくのが分かった。

 息が喉で詰まり、思わず浅い呼吸が細く、震える音を立てた。

 肩が小さく跳ね、肋骨の奥で鼓動がひとつ、強く、痛みを伴うように跳ねた。

 振り向けない、身体が固まって、首が動かせない。

 ただ、背中の奥――肩甲骨の間あたりに、ひやりと湿った視線のようなものがじっと張りついている。

 息を吸おうとしたのに、うまく入ってこない。

 喉の奥がひゅう、と細い音を立て、胸の奥で、さっきよりも強いざわめきが広がった。

 耳の奥で、その声の残響が小さく残っていた。

 ――とうま

 音の端が濡れていて、低く掠れて、どこか熱を帯びていた。

 それは呼びかけというにはあまりにも重く、まるで喉の奥で飲み込んだ何かが漏れ出たような響きで――

「……やめろ……」

 小さな声が、唇の間から掠れて零れた。

 指先がじんわりと冷たく、膝の上で爪が沈み込むように肌を押した。

 吐き出した息が細く、頼りなく震えて、耳の奥で脈打つ鼓動の音がやけに大きく響いた。

 背中の奥で、誰かがまだじっとこちらを見ている気がした。

 それが誰なのかは、もう分かっている気がしたのに――。

 何もない部屋の静けさが、耳の奥で重たく沈み、じっと積もっていく。

 息をするたび、胸の奥がじわじわと軋み、震えが腹の奥にまで染み込んでいくようだった。

 見間違いだと、そう思いたかった――けれど、そう願うほどに、胸の奥でざわざわと波打つ感覚が、じわじわと消えずに残っていた。

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