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第611話

作者: フカモリ
信行が口を開くより早く、渚が畳み掛けるように言った。

「過去は過去だよ。もう昔には戻れない。それに、私だって彼女に負けてるとは限らないし」

渚が自分と真琴を天秤にかけた瞬間、無表情だった信行の顔つきがサッと陰った。

険しい怒気が顔を覆う。

バサッと手元の書類をデスクに投げ捨て、氷のように冷たい視線を彼女へ向けた。

「俺とあいつの付き合いが何年になると思ってる?お前は俺の何だ。どの口が彼女と自分を比べてるんだ。少しは自分の立場をわきまえろ」

本来、信行は女性に対してひどい言葉をぶつけるような男ではない。

相手がよほどしつこく付き纏ってこない限りは、紳士的に振る舞う余裕を持っている。

だが、今の渚はまさにその「よほどしつこい」部類に入っていた。

「立場をわきまえろ」と言われ、渚は屈辱に顔を歪ませた。

両手は強く握り込まれ、小刻みに震えている。怒りのあまり、爪が手のひらに食い込んでいた。

それでも必死に感情を押し殺し、平静を装って取り繕う。

「……誤解しないで。誰かと比べるつもりなんてないから。私はただ、あなたに前を向いてほしくて……」

渚の言葉を遮り、信行はデスク
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