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35

Auteur: 相沢蒼依
last update Dernière mise à jour: 2025-10-02 11:39:08

☆☆彡.。

父上の住む魔王城に到着したのが、制限時間が残り2時間だった。

頼みごとをする時間が限られているゆえに、このまま父上にお目通りが叶わなかったら、無理にでも押し入るつもりだった。しかしながらほかに来客がいなかったのか、すんなりと逢うことができてしまい、思いっきり肩透かしを食らってしまった。

「お久しぶりです、父上」

謁見の間に通された俺は、所定の位置にて片膝をつき、深く頭を垂れた。そんな俺を玉座から見下ろす父上の姿は、何百年前に顔を合わせた頃となにも変わりない。

「怠惰の悪魔よ、久しぶりだな。我の生誕祭をしてもまったく顔を出さなかったのに、今さらどうした?」

「理由を言わずとも、父上ならわかっているのではないですか? 予知の力がおありなのですから」

自分にはない能力を、たくさん備えている父上。反発や反論するだけ無駄なので、さっさと要件を済ませようと試みる。

「予知の力があっても、自らそれを口にするのは、つまらないことだとは思わないのか?」

「俺の口から回答を聞き、答え合わせをしたほうが楽しいかもしれませんね」

下げた頭をあげて答えると、父上は満足げにほほ笑む。俺が持ってきた面倒ごとは父上にとって、いい暇つぶしになるのかもしれない。

「わかっているではないか。それで何用だ?」

「俺の眷属になった者と、コイツが死んだ原因になった人間の転生をお願いしたいのです」

持っていた小袋を両手で差し出し、父上に見せた。

「おまえの眷属をわざわざ元の人間に戻して転生させるなんて、なにかあったのか?」

「それは――」

「悪魔のおまえが、人間ごときに心を動かされるような、なにか深い出来事があったというのか?」

訊ねられた口調は厳しいものではなく、どこか優しさを感じさせるものだったので、臆することなく答えることができる。

「コイツは……ハサンは地位や名誉を欲しない、とても珍しい人間でした」

「この世に数多の人間がいる。すべての者が、おまえの言ったものをを欲するとは限らない。愛の足りないものは愛を欲し、親に見捨てられたものは親を欲する」

「ハサンは天使の翼を欲しました」

「……それがどうした?」

妙な間のあとで訊ねられた。しかもほほ笑みを消し去り、真顔で聞かれたゆえに、変に緊張してしまう。

答えのわかっている父上を説得するには、どうしたらいいのか、正直わからなくな
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    ☆☆彡.。「ちょっと学パパ、私の相談もなしに、美咲をウチのお母さんにいきなり預けるって、一体どういうことなのか、わかるように説明してもらえる?」 午後10時半に学が仕事から帰ると、妻の美羽が腰に手を当てながら玄関にて尋問した。明らかに怒っている様子は、間違いなくお腹のコに悪いであろうと学は瞬間的に察し、なんとか早くこの場を収拾しなければと考える。「えっと、美穂おばさんから連絡あったんだ?」「ものすごく喜んで、連絡くれたわ。かわいい美咲を1日一人占めできるって、大喜び状態よ。女の子しか育てたことのないお母さんが、よく食べよく動きよく喋る、三歳の男のコの美咲のパワフルさにやられて、あとから間違いなく後悔すると思うのよね」「ウチのお袋は仕事で、どうしても無理だったんだよな」 持っていたカバンを意味なく胸に抱きしめ、おどおどする学に、美羽の小言が続く。「どうしてお母さんに、美咲の面倒を見てなんて頼んだの?」「美咲の子育てや俺の世話でここのところ忙しくて、あの日にゆっくりさせてあげられなかったなと思ったんだ。スケジュール表を見て、あとからあの日だったことに気づいて、毎年後悔してた。今年は運よく、あの日に気づくことができたんだ」「あの日?」 学の口から連呼される言葉で、不思議そうに目を瞬かせた美羽は、『あの日』というワードをあえて口ずさみ、学が母親に美咲を預ける日にちについて、思考を巡らせた瞬間、やっと気づいた。「あ……、もしかして一人目が亡くなった日」「前の旦那さんとのコだけど、美羽にとっては大事な子どものことなんだし、その日くらい亡くなったコを思い出してあげて、ゆっくりできればいいなと思ったんだ。特に今は身重なんだから、大事にしなきゃいけない」「学くん……」 慣れない子育てにすっかり翻弄されて、自分のことよりも子どもを優先しながら学の世話をし、毎日があっという間に過ぎ去っている美羽は、その日をすっかり忘れていた。「俺がもっと家のことを手伝えたらいいのに、その日は会議があって、どうしても仕事が休めそうになくてさ。それで美穂おばさんに頼んだってわけ」 気まずそうに後頭部を掻きながら事実を告げる学に、美羽は淡々と語る。「疲れた顔してお母さんの前に突然現れた学くんが、『美穂お母さんに頼みがあるんです』って、天使の翼をはためかせながら涙目で頼みごと

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    てのひらの中で暴れるそれを、どうしたものかと考えながら握りしめたそのとき。「ハサン、なにやってんだ。それはおまえの餌になるというのに」 大きな翼をはためかせた人物が、バルコニーに降り立つ。月明かりに照らされたから、そのシルエットがハッキリと浮かびあがった。 頭には大きな角を生やし、僕と同じ浅黒い肌をしているからか、金髪がやけに目立つ。瞳は明るい茶色をしていたことと話しかけられた声で、覚えのあるそれに導かれるように話しかける。「も、もしかしてあのときの男の子……」「実際は、この姿をしていたんだがな」 見る人によって変化するという言葉どおりの姿に、唖然としてしまった。胸の中にいるマリカを隠すように抱きしめる。「ハサン、なぜその女の魂を手に持ってるんだ」「それは……。なんとなくです」「おまえが俺と同じ姿になったことで、餌も同じになったんだぞ」「餌?」 僕が首を傾げると、彼は嬉しそうにほほ笑む。「俺たちの餌は、人間の魂さ。だがどんな人間でも善の心を持っているから、そこのブラックボックスにぶち込んで、善の心をなくしてもらうわけ」 そう言った彼の足元に、ブラックボックスが現れた。腰を落として手を伸ばすと蓋が自動的に開き、無造作に中へ手を突っ込む。するとそこから、灰色になった玉が取り出された。「これ、ヨダレが滴るほどに美味いぞ。その女の魂をさっさと手放して、おまえも味わってみろ」 言いながら口にひょいと放り込む。茶色の瞳が赤く染まり、彼の持つ禍々しさが一層色濃くなった。だから自分がおこなっていたことがわかってしまった。「僕は今まで貴方のために、人の命を奪っていたんですね?」「俺は怠惰の悪魔さ。その女のように生命力のない人間なら、近づいただけで命を奪うことができる。だがそれ以外の大勢の人間の命を奪うのは、どう考えても疲れるだろ」「生命力がない……。つまり僕の存在が、マリカを死なせた?」 てのひらに感じるマリカの魂が、より一層暴れる。僕の手から逃れるように暴れる様子に、胸がキリキリ痛んだ。「ハサンおまえは、俺の眷属になったんだからな。悪魔として、弱い人間を狩るのは当然のことだろう?」 目の前が涙で滲む。僕が迎えに来なければ、マリカは死なずに済んだのに――。「うわあぁあぁああっ!」 手にしたマリカの魂を口に放り込む。そのことに迷いはなか

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