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第5話 いざ地上へ

Author: 甲賀流
last update publish date: 2026-10-07 21:40:57

 95層へ行く。

 そう決めて立ち上がったところで、一つだけ気になった。

「あ」

「どうしたの?」

「父さん、帰ってきたらどうしよう」

「え?」

「ボクがいなかったら、どこ行ったってなるんじゃないかなって」

「あぁ……そっか」

 玲奈も父さんが使っていた場所の方を見る。

 地上には行ってみたい。

 でも、父さんが帰ってきた時に何も言わずボクだけいなくなってるのは嫌だな。

「あ、玲奈」

「ん?」

「地上に行っても、ここに帰ってこられる?」

「うん。リュウくんの転移結晶に94層が残ってるんだよね?」

「残ってるよ」

「だったら大丈夫だと思う。地上からでも転移できるよ」

「そっか!」

 それなら帰ってくればいい。

 でも父さんが先に帰ってきたら、ボクがどこにいるか分からない。

「じゃあ書いておこう」

「書く?」

「うん。地上に行ったって」

 父さんが使っていたところから紙と書くものを持ってくる。

 昔、字を教えてもらってた時によく使ったやつだ。

「……なんて書こう」

 とりあえず書いてみる。

『父さんへ。

 ボク、地上に行ってきます。

 玲奈っていう女の子と一緒です。』

 そこまで書いて、手が止まった。

「玲奈」

「どうしたの?」

「これじゃ父さん、どこに行けばいいか分からないよね?」

「あ」

 玲奈も紙を見る。

「私と一緒ってだけじゃ分からないね」

「玲奈ってどこにいるの?」

「普段はハンター養成学校にいるよ」

「ハンター……ようせい?」

「養成学校」

「何それ?」

「えっ」

 玲奈が目をぱちくりさせた。

「知らない?」

「知らないよ」

「あ……そっか。そうだよね」

 なんで玲奈が困ってるんだろう。

「ハンターになりたい人が、勉強したり訓練したりするところだよ」

「へぇー」

 そんなところがあるのか。

「玲奈もハンターになりたいの?」

「うん。そのために通ってるの」

「じゃあそこ書く」

 聞いた通りに続きを書いていく。

『最初は玲奈のいるハンター養成学校ってところに行きます。

 帰ってきたら探しに来てね。

 リュウ』

「できた」

「……うん」

 玲奈が紙を見ながら少し笑った。

「何?」

「なんでもない。ちゃんと伝わると思うよ」

「そっか」

 なら大丈夫だ。

 父さんが帰ってきたら絶対見るところに紙を置く。

「よし」

 これで行ける。

「玲奈」

「うん」

「95層行こっか」

 転移結晶を取り出す。

「手」

「あ……うん」

 玲奈の手を握って、結晶を掲げた。

「転移結晶! 95層へ!」

 ***

 景色が変わった。

「ここが……95層」

「うん。多分」

「多分なの?」

「ボクも初めて来たから」

「そっか……」

 辺りを見回す。

 今まで見てきた階層と比べて、ずいぶん静かだ。

 モンスターの鳴き声も聞こえない。

「父さーん!」

 とりあえず呼んでみる。

 返事はない。

「父さん! ボク来たよー!」

 もう一度呼んでみたけど、やっぱり何も返ってこなかった。

「いないのかな」

「……少し見てみよっか」

「うん」

 玲奈と一緒に辺りを歩く。

 少し進んだところで、置かれている道具の中に見覚えのあるものがあった。

「あ」

「どうしたの?」

「これ父さんのだ」

 94層にも置いてあったのと同じ箱。

 その横にも、父さんがよく使っていた道具がいくつか残っている。

「じゃあ、お父さんはここに来てたんだね」

「うん」

 父さんのなら、他にも何かあるかもしれない。

 箱の近くへ行ってみる。

「……あれ?」

 上に何か置いてある。

 一つだけ、封筒。

 表には文字が書かれていた。

『リュウへ』

「……ボクだ」

 すぐに手に取る。

 この字も知ってる。

 父さんの字だ。

「玲奈」

「うん」

「開けるね」

「うん。私はここにいるから」

 玲奈はそれ以上近づいてこなかった。

 その場に座って封筒を開けると、中には一枚の紙が入っている。

『リュウへ。

 これを読んでるってことは、自分から外に出たいって思ったんだな。

 ちゃんと約束守ったじゃん。

 もし父さんがまだ帰ってなかったら、予定よりちょっと遅れてる。

 まぁ、何かあったのかもしれない。

 でも、すぐ父さんを探しに来なくていい。

 せっかく外に出たいって思えたんだ。

 まずは地上を見てこい。

 人もいっぱいいるし、美味いもんもいっぱいある。

 お前が知らないものなんて、たぶん山ほどある。

 好きに見てこい。

 それでも父さんのことが気になるなら、ハンターになって調べてみろ。

 父さんも前に、ハンターとしてダンジョンを調べてた。

 1081。

 その時の記録が残ってるはずだ。

 番号は下に書いておく。

 地上で分かる奴に見せればいい。

 じゃあ、いってらっしゃい。

 父さんより』

「……父さん」

 最初からもう一度読む。

『ちゃんと約束守ったじゃん』

 父さんなら本当に言いそうだ。

 なんか、ちょっと笑いそうになった。

 でも、その下。

『もし父さんがまだ帰ってなかったら、予定よりちょっと遅れてる』

 そこだけは笑えなかった。

「リュウくん?」

「父さん、何かあったのかな」

「……手紙に書いてあるの?」

「うん」

 でも、すぐ探しに来なくていいとも書いてある。

 父さんなら自分で何とかするのかな。

 ……分からない。

「あ、それと」

 下の方を見る。

「1081って書いてある」

「1081?」

「ダンジョンだって。父さん、そこで調査してたみたい」

 そのすぐ下には長い数字が並んでいる。

「これ何?」

「見てもいい?」

「うん」

 玲奈が横から紙を覗き込む。

「……調査記録の番号だと思う」

「これ見たら父さんのこと分かる?」

「そこまでは分からないけど、何か記録は残ってると思うよ」

「地上で分かる人に見せろって」

「だったらパパに聞いてみよう」

「玲奈の父さん?」

「うん。ハンターのことなら私よりずっと詳しいから」

「へぇー」

 玲奈の父さん。

 さっきスマホで大きい声を出してた人だよね。

 どんな人なんだろう。

「それに、リュウくん」

「ん?」

「ハンターにも興味あるんでしょ?」

「あるよ」

 手紙をもう一度見る。

「父さんもハンターだったんだね」

 そんなこと、今まで聞いたことなかった。

「ハンターって強い?」

「強い人はすごく強いよ」

「父さんより?」

「えっ。そこは私にも分からないけど……」

「そっか」

 じゃあ見てみないと分からない。

 それに、父さんが何をしてたのかも知りたい。

 手紙を畳んで封筒へ戻す。

「玲奈」

「ん?」

「地上行こっか」

「……うん!」

 玲奈が嬉しそうに笑った。

「父さんも見てこいって言ってるし」

 知らない食べ物もある。学校ってところもあって、そこにハンターもいる。

 それに、玲奈だっている。

 なんか、さっきより地上へ行くのが楽しみになってきた。

 それからボクは一度94層へ戻って、持っていくものを集める。

 転移結晶と父さんの手紙。あとは食べ物を少し。

「リュウくん、本当にそれだけでいいの?」

「何が?」

「服とか……他にも色々あると思うんだけど」

「これ着てるよ?」

「……うん。地上で揃えよっか」

「?」

 また玲奈が一人で納得している。足りなかったら戻ってくればいいよね。

 最後に父さんへの書き置きを見る。

 うん。ちゃんと置いてあるね。もし今日帰ってきても、これなら分かる。

「よし」

 玲奈のところへ戻ると、今度は彼女が転移結晶を持っていた。

「それで地上に行くの?」

「うん」

「地上に出てから、どこに行くの?」

「まずは学校、かな」

「ハンター養成学校?」

「そう。そこならパパもいるから、手紙のこともすぐ聞けるよ」

「ほんと?」

「うん」

 ダンジョンじゃない場所へ行くのは初めてだ。

 どんなところなんだろう。

「じゃあ玲奈」

「うん?」

「今度は案内して」

「もちろん」

 玲奈が手を差し出してくる。

 その手を握った。

「……父さん」

「え?」

「行ってくるねって」

「あ……うん」

 書き置きにも書いたけど、なんとなくもう一回言いたくなった。

 玲奈もボクの手を握り返す。

「それじゃあ行くよ、リュウくん」

「うん!」

 玲奈が転移結晶を掲げ、ボクたちは外に出た。

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