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第3話 ボクの家

Author: 甲賀流
last update publish date: 2026-10-02 11:09:00

「【竜翼】!」

 ボクがそう唱えると、背中から左右に大きな竜の翼が伸びていく。

 久しぶりに出したなぁ。

 普段は重たいから仕舞ってるんだけど、今はそんなこと言ってられない。

「ば、化け物かよっ!」

「化け物じゃないよ。ボクも人間だって」

「そんな人間いるわけねぇだろ!」

 男は両手に持った銃をこっちへ向けた。

 さっきの雷を飛ばしてきたものとは少し形が違うけど、多分あれも同じように玉を飛ばすものだ。

 それが二つ。

 ボクだけなら避けてもいい。

 でも今は腕の中にこの子がいる。

 だったら――。

 バンバンバンッ――!

 音と一緒に大量の玉が飛んできたので、ボクは左の翼をぐるっと前へ回した。

 カキンッ、カンッ――。

 翼に当たった玉が弾かれ、そのまま地面へ転がっていく。

「え……?」

 腕の中から小さな声が聞こえた。

「大丈夫?」

「は、はいっ! それより、シルバーさん……その翼……」

「これ? 重たいから普段は出してないんだ」

「そういう問題なんですか!?」

 なんかびっくりしてる。

 でも説明してる場合じゃない。

「くそっ! なんで効かねぇんだよ!」

 男はまだ撃ち続けている。

 ボクの翼には効かないみたいだけど、このままずっとここにいたら何も終わらない。

 それなら、こっちから行くしかないよね。

 ただし左の翼はダメだ。

 今、この子を守ってるから。

「【炎竜の翼・右翼】!」

「ひっ……!」

 右の翼だけが一気に炎へ包まれる。

 左まで燃やしちゃったら腕の中の女の子まで危ないからね。

 これならいける。

「ちょ、待てっ! 来んなっ!」

 再び銃口がこちらへ向いたところで、地面を思い切り蹴った。

 ドンッ――!

 一瞬で男との距離が縮まる。

 何発か玉が飛んできたけど、そのまま翼や鱗に弾かれた。

 さっき他の人を殴った時もかなり飛んでいったし、人間は思っていたよりずっと弱い。

 だから今度は直接翼をぶつけるんじゃなく、男のすぐ横を通り抜ける。

「うわぁぁぁっ!!」

 それでも右の翼から出ている炎に巻き込まれ、男はその場を転げ回った。

 うん。

 これでもちょっと強かったかも。

「あれ?」

 さっき地面に落ちていた飛行物体が、いつの間にかまた浮かび上がっている。

 壊れたんじゃなかったのかな?

“画面戻ったああああ!”

“レナちゃん無事!?”

“いる! シルバーが抱えてる!”

“待って翼生えてない?”

“しかも右だけ燃えてるんだが”

“左の翼でレナちゃん守ってたってこと?”

“何者だよこいつ”

“とりあえず、レナちゃん助けてくれてありがとうシルバー”

 男が動かなくなったところで、ボクはようやく腕の中の女の子を地面へ降ろした。

「はいっ!」

「あ、ありがとうございます……」

 ふぅ。

 さすがにちょっと疲れた。

 背中もずっしり重たいし、もう翼はいいかな。

 そう思ったところで、体を覆っていた鱗と翼が消えていく。

 すると、さっき倒した男が目に入った。

「うぅ……痛ぇ……」

 服も肌もかなり焼けている。

 やっぱりちょっとやりすぎたみたいだ。

「水取ってくるね」

「えっ?」

「この人、火傷してるから」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 湖へ向かおうとしたところで止められた。

 振り返ると、彼女は男の近くに落ちていた二つの銃を足先で遠くへ蹴っている。

 それからもう一度男の様子を確認して、

「……はい。これなら大丈夫だと思います」

「何が?」

「い、いえ。治すなら先に武器を離した方がいいかなって……」

「あぁ!」

 なるほど。

 治した後にまた撃たれたら困るもんね。

「君、頭いいね!」

「普通だと思いますけど……」

 そうなのか。

 地上ではこれが普通なのかな?

 とりあえず湖まで行き、両手いっぱいに水をすくう。

 ここの水は怪我を治してくれる。

 父さんからそう聞いてはいたけど、ボク自身はあんまり怪我をしないから使うこともほとんどなかった。

「ほら、これで治るかな」

 男の火傷しているところへ水をかける。

 ジュウウ――。

「おお……」

 赤く焼けていた肌がみるみる元へ戻っていく。

 やっぱりすごい。

「こんなに治るんだね」

「……シルバーさん。この水を知らなかったんですか?」

「怪我したことあんまりないから」

「……そ、そうなんですね」

 なんだか変な顔をされた。

 でも治ったならいいよね。

 そんな話をしていると、

「玲奈様っ!」

 遠くから大きな声が聞こえてきた。

 見ると数人の人間がこっちへ走ってきている。

 みんな武器を持っていた。

 あ。

 また戦うのかな?

「救援の方ですっ!」

 隣の女の子がそう言ったので、構えようとした体の力を抜いた。

 どうやら敵じゃないらしい。

「ご無事ですか!」

「はいっ! 私は大丈夫です!」

 駆け寄ってきた人達は、まず彼女の姿を確認した。

「玲奈様、ご無事ですか!」

「はいっ! 私は大丈夫です!」

 そのうちの一人がホッと息を吐いた後、今度はボクの方を見る。

「君が、玲奈様を助けてくれた子だね」

「ボク?」

「配信で見ていた。ありがとう。本当に助かった」

「うん!」

 どうやら、この人達もあの飛んでいる物体から見ていたらしい。

 それから何人かが、倒れている男達の方へ向かっていく。

「……龍王会か」

 一人が男の仮面を見て、低い声を漏らした。

「こいつら、48層まで来られる連中だったのか……」

「すみません。私が、ここならモンスターも出ないからって、一人で配信したいってお願いしたんです」

「……いえ。それでも、もっと近くで待機するべきでした」

 なんだか二人とも謝っている。

 でも玲奈は怪我もしてないし、もう大丈夫なんじゃないかな?

「まずは三人を拘束します。詳しい話は戻ってから確認しましょう」

「お願いします」

 それから倒れていた男達は、救援に来た人達によって次々と運ばれていった。

 さっきボクにお礼を言ってくれた人も、男達を運ぶ前にもう一度こっちを向いて、

「本当にありがとう」

 と言ってくれた。

 なんだ。

 やっぱり悪い人ばかりじゃないんだね。

「あっ、そうだ。配信……!」

 女の子は慌てて飛行物体へ向き直る。

「皆さん、ご心配をおかけしました! 私は無事です。それと救援の方も到着したので、今日の配信はここで終わりにしますね!」

“よかったああああ”

“マジで生きててよかった”

“シルバーありがとう”

“シルバー様ありがとう”

“ところでシルバー何者?”

“それな”

“レナちゃん今度絶対シルバー呼んで”

「では皆さん、ありがとうございましたっ!」

 そう言った直後、飛行物体の光が消えた。

 これで終わったのかな?

 ……そういえば。

「あのさ」

「はい?」

「ずっと気になってたんだけど、シルバーって誰?」

「……え?」

 彼女は目をぱちくりさせた後、

「シルバーさんのことですよ?」

 そう言ってボクを指差した。

「ボク?」

「はい。視聴者さんが銀色の髪を見てそう呼び始めたみたいで……私もつい」

「へぇー」

 シルバーってこの髪の色のことなのかな?

「でもボクにはちゃんと名前があるよ。リュウっていうんだ」

「リュウさん……」

「うん!」

「あ……私もちゃんと名乗ってませんでしたね」

 彼女は改めてボクの方へ向き直る。

「東条玲奈です。助けてくれて、本当にありがとうございました」

「玲奈?」

「はい。できれば玲奈って呼んでください」

「分かった。玲奈!」

「……はいっ」

 なんだか嬉しそうに笑っている。

 名前で呼んだだけなのに。

「じゃあ、私もリュウくんって呼んでいいですか?」

「もちろん!」

「リュウくん」

 おぉ。

 人間に名前を呼ばれるのって、なんか変な感じだ。

 父さん以外にはほとんど呼ばれたことないもんね。

「ところでリュウくんは、この後どうするんですか?」

「どうするって?」

「帰る場所とか……。救援の人達と一緒に地上まで来ますか?」

「ううん。ボクは家に帰るよ」

「あ、そうなんですね。ちなみにどの辺に……?」

「94層」

「…………え?」

「94層だよ。ボクの家、そこにあるから」

「きゅ、94層……?」

 玲奈は今日一番と言ってもいいくらい、大きく目を見開いたのだった。

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