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第770話

Author: かんもく
以前、誰かに尾行されたことがあったので、蓮は警戒心を強めた。

彼はバッグから携帯を取り出し、涼太に電話をかけた。

この携帯は涼太からもらったもので、子供用にカスタマイズされており、彼のプライベート番号が登録されている。

蓮は自分が尾行されていることを涼太に伝えると、涼太はすぐにボディーガードを手配して、蓮が車を降りる場所で待機させた。

その後ろを追いかけていた黒いセダンは、蓮が車を降りた後、彼のすぐ横をすれ違って行った。

まるでただの通り道のように、尾行とは思えない。

「一人で来たのか?どうしてボディーガードを連れて来なかった?」涼太は彼の手を取って、ビルの中に入った。

涼太はレラと一緒に会社の練習室で練習していた。

「もうすぐ新年だから、ボディーガードのおじさんたちに休暇を与えたんだ」蓮は答えた。

「ママが知ったら、きっと心配するだろう」涼太は少し考えた後、彼に言った。「君を尾行してるのは、おそらく今ボディーガードがいないことを知っているから、あんな大胆なことをしているんだ。だから、君に二人のボディーガードをつけるよ。アメリカに行く前に、何も問題が起きないようにしないと」

蓮はボディーガードに付きまとわれるのが好きではなかった。でも、今ママが蒼の世話でかなり疲れていることを考えると、もし自分に何かあったら、ママがどれだけ悲しむかを考えたら、しょうがないと感じた。

彼は頷き、承諾した。

「レラは今日、ダンスを覚えたんだけど、うまく踊れなかったかも。もし後で彼女がどうだったか聞いてきたら、褒めてあげてね?」涼太は気遣いを込めて言った。

蓮は無関心に頷いた。

彼は考えていた。自分を尾行しているのは一体誰が指示したことなのか。

まさか直美か?でも今の直美は縮こまって、出てこようとしない。

それともすみれか?墓の件も彼女がやったし、彼女は蒼が死ぬことを望んでいたし、きっと自分と妹が死ぬことも望んでいるはずだ。

どうして奏は彼女に手を出さないのだろう?彼は何を考えているのか?

昨晩、ママが蒼を抱えて彼の元へ行った。そして今朝、アメリカに行くことを決めた。きっとあの人のところで、何か理不尽なことがあったのだろう。

クズ男は本当にクズだ!

蓮は心の中で怒りがこみ上げてきた。彼は、クズ男がママを幸せにしてくれることを望んでいた自分が、なんて愚
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