로그인「…え、部屋が開いていたって」美紀に正直に借りたお金が無くなってしまったことを伝え、再び謝罪した桜。美紀はそれよりも、玄関のドアが夜中に開いていたことの方を問題にした。今朝は商品の搬入が多く、話ができないまま昼の休憩になってしまった。2人にお昼を食べるよう昭仁が言ってくれて、店番を代わってくれた。「空き巣…かもしれない。私、出かける時、ちゃんと鍵を閉めたか怪しくて…」「…だとしたらそんな部屋に帰るのは危険だよ?…それに、警察に通報しないと」「そう、だよね。でも…警察ってあんまり好きじゃなくて…」子供の頃…父親に叩かれて放り出され、何度か交番に行ったことがあった。小さな田舎町のこと…私がどこの家の娘かわかっている警察官は、ろくに話も聞かず、すぐに父親のもとに私を返した。「…つらかったね…」美紀は思い出話をする桜の手を握り、なくなったお金のことを責めたりはしなかった。だからこそ…より強く恐れた。もしも、お金がなくなったこと、そして鍵が開いていたことに…父親が関与していたら…「…そうですねぇ、この純米大吟醸は飲みやすくて人気がありますよ」昼休憩を終え、2人で店に戻ったところで…桜は凍りつく。「…そう?味見とかできないの?…飲み比べてみないと、買えないよなぁ」「あぁ、いいですよ!3種類まで、飲み比べのサービスをしていますから」昭仁がグラスを用意しようとこちらに来て、美紀が気を利かせて専用のグラスを差し出した。「…だめです」「ん?…なんか言った?桜ちゃん」こちらを見る2人に、桜はゆっくり顔を向ける。それは驚くほどの、恐怖に歪んだ表情だったのだろう。「…まさか、桜ちゃん…」美紀がハッとしたように言った言葉に、うなずくのがやっとだった。「おぉい…まだかよ?この店は客を待たせて平気なのかぁ…?」大きな声で言いながら、せわしなく冷蔵庫のドアを開けしめする父親。桜は意を決して、2人にそこにいるよう制止し、店に出ていった。「…何しに来たの」「おぉ、桜…やっと見つけたよ!」明るい陽射しに浮かび上がる父親の顔は、もう…知っている顔ですらない。朽ち果て歪みきって…欲望と憎悪に満ちた危険な男の顔。「お引き取りください」「なんだよ…しばらくぶりに会った父親じゃねぇか。冷たくすんなよ」肩に掛けようとした手を瞬間的に払い、ドアを開けてもう一
結局…別れることはできなかった。自分の意志の弱さに呆れる。こんなこと、美紀ちゃんに言ったら嫌われてしまう…龍之介に乗せられたタクシーがアパートに到着し、ドライバーにお礼を言って降りる。…料金は龍之介が先に支払ってくれた。半分以上お釣りとして返してもらえるはずなのに、笑顔だけを向けるドライバーは世渡り上手だと思う。チップということは…わかってる。でも、たくさん払わせて…龍之介に申し訳ない。「あ…れ?今帰りなんだね?」部屋に向かう途中で坂上と鉢合わせた。…なんというか、罪悪感。「はい。…えへへ…」「夜遊びだな?若い子はいいね!」すれ違い様に頭をポンっと撫で、坂上は続けた。「久しぶりにご飯でも行こうよ!…あ、変な気はないから安心して」襟元に輝く弁護士バッチを見せ、軽やかな笑顔を見せた。「そうですね。あの定食屋さんにでもまた…」安くて美味しかったのに…あれから足を運べなかったのは、坂上に出くわしたら気まずいと思っていたからだ。…そうだ。美紀ちゃんや昭仁さんに紹介しよう。弁護士さんの知り合いがいたら、きっと心強いだろう。出勤する坂上を見送り、桜は自分の部屋のドアを開けた。殺風景な部屋に足を踏み入れ…ここを出た一昨日の夜を思う。龍之介に、1度だけ抱かれて…お金を返して、すべてを終わりにするはずだった。けれど…龍之介の気持ちは思いのほか強くて、拒否しきれなかった。「毎日連絡をする、だって…」上着を脱がせたクマのぬいぐるみ、龍之介は、ネックレスも無くなって…よくいるただのぬいぐるみとしてそこにいる。遅くなっても返信は必ずするって…週末は一緒にいようって…そんなことできるの?「あ、そうだった…」肩に掛けてもらった上着がふわりと香った。紙袋に入れて持っていった上着ではなく、龍之介はホテルの部屋を出る時、自分の上着を羽織らせてくれたのだ。「この格好で…坂上さんと話しちゃった」龍之介との逢瀬のあとだとバレたのではないかと勝手に頬が赤くなる。「…ご飯食べて、仕事に行こう」自分に言い聞かせ、羽織っていた上着をクマの龍之介に着せた。「おはよう!桜ちゃんっ」元気に挨拶をしてくれる美紀に返事を返しながら…その目が見れない。けれど、嘘をついたり誤魔化したりしたくはなかった。商品の搬入が始まるわずかな間に、美紀を店の片隅に誘う。「あの
こんなに女を離せなくなるとは、自分でも意外だった。桃色に染まる肌に触れて火がついて…無理をさせてはいけないと思いながら、つい抱きしめる。夜が明けて、日が高くなって…届けさせた食事を食べる暇も惜しく、桜に触れていたかった。「…そうだ」それなのに、桜は俺の手をスルリと抜け、ベッドを下りる。「あれ…持ってきたはずなのに…」「…なんだ、どうした?」リビングに置いた自分のバッグを探り、眉を下げる桜。離れた熱が恋しくて、自分から彼女に近づいた。「お金を…返そうと思って」「まだそんなこと言ってるのか…」バッグに入れた細い腕を引き抜き、そのまま後ろから抱きしめる。ソファに座り、膝に桜を座らせて。「…置いて来ちゃったみたい。…もう私…なんてバカなんだろう…!」「運命だと思えよ。俺とは、別れられない運命…」薄く笑えば、恨めしい表情で振り向いて、俺の首元に顔を埋める。その猫のような様子が可愛くて、口づけが、また始まった。「連絡は欠かさない。遅くなっても必ず返信する。週末は、一緒にいよう」結局、桜が仕事に行く日の早朝まで引き止めてしまった。仕事なんてせずに、ここで俺の帰りを待っていてくれたらどれほど嬉しいか…桜のことを思えば言えないことを胸にしまい込み、彼女の手を離す。「あの…私、少し大人になったのかな」恥ずかしそうに言う桜。もう一度伸びてしまう己の手を止められない…「大人だな。うん…快感を知って、色気が出てきた」抱き寄せる俺の手をかわし、桜は困ったような笑みを浮かべる。「もうおしまいです…仕事、行けなくなっちゃう」そう言いながら俺の手と自分の細い指を絡ませる桜。…まさかこの後、彼女の運命が…またも大きく揺さぶられることになるとは、龍之介もまったく予想できずにいた。「…よう、ずいぶん長いことシケ込んでたじゃん」舎弟を数人連れた蔵之介と、屋敷に入ったところでで鉢合わせた。横目で俺を見たあいつは、俺がどこから帰ったのか、知っているようだ。「お前は?…櫻川の後か?」「あぁ。瑠里が抜けた穴を麗香が必死に埋めようとしてっから、ちょっと様子を見に行ってやった」売り上げを持ち逃げしたNo.1ホステス、瑠里。蔵之介は珍しく愉快そうに、俺の腕を小突く。「…もうすぐ嫁になる女だろ?帰ったんなら、あんたが見てやれよ」「櫻川は麗香に任せてる」
繰り返すキスが止まらなかった。食べられてしまいそうな激しいキスは、荒い呼吸を繰り返す龍之介を獣に変えてしまったかのよう…服も下着も…手慣れた様子で呆気なく脱がされてしまった。触れる指先が敏感な突起を擦るたび、抑えきれない甘い声が漏れる。「もう…限界…」ごめんな、と言いながらそっと足を開かれた時…言いしれぬ緊張が走った。それは、本当に龍之介自身を受け入れる事ができるのか、という不安。自分の体に…彼が入ってくる、という感覚がわからない。そんな話を聞かせてくれる友達などいなかった…自分にどんな変化が起きるのか、桜の体は無意識に固くなる。「怖いか、桜…」淡い明かりの中でもわかる…とろけるほどの、甘い表情。「怖い…です。痛く…しないで」「しないから…。俺に任せろ…な?」素直に不安を伝える桜に、甘い表情がさらにとろける。何度目かわからないキスが、桜を求めてきて…「…全部、脱いでください」「あ…?」龍之介はまだ、シャツを羽織っていた。その黒いシャツのボタンに手をかける。「桜…俺の胸には…」「知ってます…百合の花が咲いてる」それを隠すためにシャツを脱ぎあぐねていた?すでに下半身はつながる直前なのに、進めずにいたとしたら…微笑ましい。彼の首に腕を絡ませ、引き寄せる。「それごと…愛してしまったんです。百合の花を胸に刻んだあなたを…」「…桜、」許しを得たかのように、突き立てたモノが潤みをかき分けてくる。「…あ、っ…」不安で、漏れた声だった。「大丈夫だ…ゆっくり、な…?」迎えに来た唇が、ナカに進むリズムに合わせて口づけてくれる。それはいっそう甘くて、優しく官能的で、桜のこわばる体から力を奪った。「…入ったぞ、キッツいな…」「え…い、痛い?」「バカ…むちゃくちゃキモチいい…」下腹部に初めて感じる違和感。これが龍之介とひとつになった証しだと思うと、心から喜びが湧き上がってくる。「龍之介…愛してます」「りゅう…のすけ?」「あ、ごめんなさい」呼び捨てにして不愉快にさせたのかと思った。自分でも驚いた…龍之介、なんて…「…いいから、龍之介って、呼んでくれ」熱い吐息を漏らして…ナカを満たしていたモノを動かす龍之介。…初めて聞く淫らな水音に、桜の呼吸も早くなる。「りゅ…のすけ…」挿し込まれ…抜かれ…また、挿し込まれ…何かが高ま
そんな笑顔が、一瞬で凍りついた。「桜ちゃん…ヤッホ!」背にしたソファから覗く赤い髪…麗香だ。「ごめんね、龍之介に無理を言って、待ってる間だけって…時間をもらったの。ほら、クラブ櫻川のこともあるし、組のことでもいろいろとね」「いえ…忙しいのに、すみませんでした」すぐ後ろにいる龍之介を少し振り返りながら、麗香に頭を下げた。「じゃあ、お前はもう行けよ」「早速邪魔者扱い…?まったく、婚約者のくせに冷たいんだから!」明るい言葉に悪気は感じない。…けれど、少し前ならこんな言い方をしただろうか。桜はそっと麗香の表情を見た。桜に笑顔で手を振り、ドアの外に消えた麗香。「ごめんな。櫻川のNo.1ホステスが売り上げを持ち逃げして消えちまってな」「え、そんなこと、あるんですか?」「あぁ、よくある話だ。…麗香は若いうちからそういう世界を父親に任されてきたから、危ない嬢を見極めるのは得意だったんだがな」麗香の座っていた席に、水滴がついた琥珀色の飲み物。これは多分ウイスキーの水割りだ。お酒を飲みながら、そんなトラブルの対処について相談するの?…納得できない気持ちが、桜の心を固くした。「あの…これ、お借りしていたものです」まずは大きな紙袋を差し出した。「…なんだよ」「なんだよって、う…上着ですよ。防犯のために借りていたものと、お怪我をされて会えない時に、寂しさを、紛らわせてた…」差し出すものの、一向に伸びてこない龍之介の手。桜は立ち上がり、クローゼットのハンガーに掛けようと、広い室内を歩き回った。…が、それがどこにあるのかわからず、見当違いの場所を開けては閉めて…を繰り返す。「…何やってんだ?」「…は、ハンガーに掛けておかないと、シワになるので…」ふと…リビングルームの先に、ドアの開いた部屋が見えた。…ベッドルーム?桜の足がそちらに向いた瞬間…「キャ…ッ!」後ろから大きな影が近づいてきてきて、あっという間に横抱きにされた。「クローゼットを探してるなら、ベッドルームだ」足を踏み入れると、ふわりと灯る…淡い明かり。龍之介はそっとベッドに桜を寝かせ、紙袋を奪った。「これは、お前にやったものだ。返してもらおうなんて、思ってねぇよ」「でも…」紙袋をベッドの下に置き、桜の横に、上体を起こして横たわる龍之介。その表情は、あまりに優しく、あまりに愛
「桜ちゃん、今日…予定通り大丈夫?」「…うん。もちろん」美紀が確認したのは、旅行先で提案してくれたことだ。それは…龍之介に出してもらった入居費用の残金を、美紀に借りて全額返し、縁を切ること…せっかくの美紀の好意だ。もう後戻りはできない。こんなことでもなければ、自分だけの意思で龍之介とは離れられない。だからありがたい。…これでいいんだ。…大丈夫。お互いに、自分の道を行くだけ。出会ったのが…奇跡なんだから。仕事を終え、昭仁に挨拶した後、2人は一緒に店を出た。現金を持ってきてくれた美紀は、大金を扱ったことがないという桜の不安を聞いて、部屋まで一緒に行ってくれるという。「良かったらそのまま泊まっていかない?」寒い季節は過ぎた。掛け布団が無くても大丈夫だろう。「そう?それじゃ、そうさせてもらおうかなぁ」「夕飯は私が作るから、スーパーに寄っていこう!…料理、結構好きなんだ」美紀の希望を聞いて、豆腐ハンバーグと芋煮、そしてマカロニサラダを作ることになった。「狭い部屋だよ?…たいして家具もなくて、なんか恥ずかしいけど…」美紀を招き入れ、部屋のドアをしっかり施錠する。「これ、先に渡すね。引き出しに入れとく?」封筒に入った現金の厚みを見て、気持ちが引き締まるのを感じる。…これを渡して、もう会わないと言って、これまでのお礼を言うんだ。それだけで、龍之介とのすべてが終わる。「…ありがとう美紀ちゃん。本当に…ありが…」悲しくないと言い聞かせたのに、涙が溢れる。美紀は何も言わずに、ハンカチを差し出してくれた。作ってごちそうするはずが…泣きやめず、一緒に料理をすることになった。…泣くな、とは言わない美紀。その優しさに感謝しながら、眠るまでの時間を一緒に過ごして…早めに床についた。「それじゃ、私は帰るからね?」翌朝…ロールパンをホットドック風にして、簡単な野菜サラダとカフェオレを振る舞ったのは、美紀への感謝の気持ちから。「本当にありがとう。明後日お店に行ったら、また報告する」「うん。それじゃ、お店でね?」連休を取らせてもらっている桜。その休みを利用して、龍之介に連絡するつもりだ。見送りはいらないと言う美紀に甘え、玄関先で別れた。1人になった部屋で…現金をしまった引き出しを見つめる。昨夜…泣きながら考えた。龍之介に、今の気持ちを