Share

4.預かる

Author: 桜立風
last update publish date: 2026-02-03 09:50:07

「い…いえ、友達に、連絡をして…」

「どうやって連絡をする?」

「あ、直接訪ねます」

言ってから、お金がないと言ったばかりだと気づいた。

「下手な嘘はつくな。行くところがないなら…一緒に来てもらう」

手首を掴まれ、部屋の外へ出る。

広い廊下には、見たことのある絵画や複雑な模様が描かれた骨董品が、バランスよく飾られていた。

龍之介はある部屋の前で立ち止まり、ドアをノックした。…瞬間、甲高い女性の笑い声と「…誰?」という男の声がする。

「…俺だ。昨日拾った女だが、こっちで預かるから、そのつもりで…」

言葉を遮るように、ガチャ…っとドアが開き、半裸の男が出てくる。ドアの端にいたせいで、桜には部屋の中が見えた。

大きなベッドに、横たわる女性。

そしてこの男は、昨日「蔵」って呼ばれた人だ。

「…なんでその子にこだわるわけ?」

「別にこだわってねぇ。

…ただ、Black Roseの従業員は22までの女って決めたはずだ。この子は23、それから、自分の意思で働くと決めた子以外は取らねぇってことになったろ」

「ふーん…」

すると、中にいる女性から「まだぁ…?」という艶めかしい声があがった。

「…るせぇなっ!話をしてる時に声をかけんなって言ってんだろっ」

半裸の男は明らかにイラついた表情になり、部屋の中に入っていった。

…次の瞬間、晒した肌を服で隠した女性がドアの外に出てくる。

「蔵のバカっ!もう誘ったって来てあげないんだからっ!」

機嫌を損ね、女は追い出されたらしい。

蔵と呼ばれた男の背中に描かれた龍も、イラついた表情をしているように見える。

「蔵…訳アリの女じゃねぇだろうな」

「龍には関係ねぇだろ」

うんざりした様子で出てきた男に釘を刺す龍之介。面白くなさそうな男の視線は、桜にも下りてきた。

「あの…龍之介さんには、少しだけお世話になりますけど、すぐに自立するので…」

目が合ったので、そう言ってみた。

それに、あの風俗店を取り仕切るこの男に話を通してもらえるなら、店長から逃げ隠れしなくてすむ。

用心するのが父親だけなら、助かるのだ。

「すぐに自立?そんなもん…させてもらえるのかねぇ…」

男は腕を組み、桜に流し目を注ぐ。

「それに龍之介さん?まさか、自己紹介したのか?…この男が?」

笑っちゃうねぇ、というわりに、男の目は笑っていない。

龍之介はそんな様子を気にすることなく「話は通したからな」と言って桜の背中を押した。

「…待てや…」

肩に大きな手がかかり、桜は男の方を向かされた。腰を折ってゆっくり桜と目線を合わせ…

「俺は西門蔵之介。西龍会、若頭補佐…龍之介の弟だ」

肩に置いた手が後頭部に回され、わずかに引き寄せられた…と思った瞬間、奪い取るような龍之介の手が肩にまわる。

西門蔵之介が西龍会の若頭補佐だとすると…龍之介が若頭ということ。

2人は敵対しているように見えたけれど…

その理由はまだ、桜には想像出来なかった。

入る時は通らなかった大きな門扉に向かい、堂々と正面玄関を出ていくつもりらしい龍之介。

「靴か…」

昨日はスリッパで逃げ出した。それも…途中で脱げてしまった。

「私のを履かせてやりなさいな」

後ろから落ち着いた女性の声が聞こえた。振り向くと…いつの間にか女性の後ろに数人、強面の男たちが控えている。

「お嬢さん、昨夜…蔵之介から話は聞きましたよ。…このまま龍之介についていくということがどういうことか、わかってる?」

おもちゃになること…

でも、この人は昨夜、そんなことを求めて来なかった。

「あの…」

「…うちの敷地で怪我をしたお嬢さんです。少し面倒を見たら、俺はここへ帰るので、それまで待っててください」

桜には何も言わせないようにかわりに答え、龍之介は足元に置いた靴に足を入れるよう促してくる。

「…戻れるの?」

落ち着いた女性の声に、心配が乗っているのがわかる。きっと母親だろう。あの蔵之介同様、整った顔立ちが際立っていて、3人はどことなく似ている。

女性に問われたのは自分だと勘違いした桜は、振り向いて「はい」と返事をする。その瞬間…龍之介が重厚なドアを開けた。

「行くのは俺のもうひとつの家だ。マンション自体俺のものだから、気兼ねなく過ごせるだろう」

車で20分ほどの距離を移動し、都内一等地に建つマンションに到着した。

…あの風俗店があったエリアとは程遠い、お洒落で清潔な街の雰囲気に心が和む。

案内された部屋は、20畳ほどのLDKと2部屋…といった2人暮らし用と思われる広さ。

白い布がかけられているが、家具はそろっているようだ。…どことなく、誰かが住んでいた雰囲気。

「…家具も何もかも、全部好みのものに変えたらいい」

締め切ったカーテンを開き、龍之介は窓を開けた。

「買い物はすべてネットですませろ。受け取りは下のコンシェルまで。俺が1日1回受け取ってやる」

ノートパソコンを1台持ってきて、唖然とする桜と目が合った龍之介。

「…傷の様子、見せてみな」

一瞬、まじまじと目の奥を見つめられた気がしたものの、深く考えずに一番ひどい膝の傷を見せた。

やかて、いつの間に頼んだのか…デリバリーがやってきた。

届けられたのはピザとコーラ。

「あったかいうちに食いたいだろ?」

「だから…自分でやるので龍之介さん先に食べてください」

「全部の傷を見せろ。1カ所だけ治りが悪かったら困る」

揉めているのは…腰より少し下の、太腿の外側の傷について。

場所的にスェットのズボンをまるっと脱がなければならず…桜はそうすることに、抵抗があった。

「自分で見て報告するってばっ!」

消毒液と薬、包帯を奪って、別室へ逃げる桜。昨夜は夜の相手をさせられるものだと、完全に諦めていたので平気だったが…今は違う。

もしかしたら龍之介という人は、自分を手籠めにすることなく、純粋に助けてくれるだけの…心優しき極道なのではないか。

そう思ったら、際どい場所の傷なんて、とても恥ずかしくて見せられない。

「…昨日と同じ感じでした。…まだ」

ピザもコーラも手つかずのまま…龍之介は革張りのソファに座ってタバコをくゆらせていた。

「…早く食え」

ニコリともせず言われて…とっさに胸元を押さえた。ドキドキと不安な音を鳴らす心臓。

…桜は不機嫌な男が苦手だ。

男と2人きりでいて、相手が不機嫌になると、必ずといっていいほど襲われる感覚。

「…どうした?」

「なん…でもないです」

言ったそばから…桜はその場に座り込んでしまった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   54.家政婦として

    「はじめまして。滝川桜と申します」鹿威し《ししおどし》の特徴的な音にビクッとしてしまう。……深く頭を下げた桜の隣には、龍之介、そして麗香がいる。「……家政婦か」「はい。うちのゴタゴタに巻き込んでしまったお嬢さんです。今外へ出すのは危険なんで、うちで働きながら時がすぎるのを待つことに」龍之介が説明したのを合図に、麗香が桜に頭を上げるよう小声で伝えた。テーブルのない広い和室。龍之介や蔵之介によく似た男性が、腕を組んでこちらを見ている。切れ長の鋭い目、高い鼻……年齢相応の渋みまで加わって、桜はこんなに美しい中年男性を見るのは初めてだと思っていた。「桜さん、と言ったか」「は、はい」「うちがどんな家業かはご存知か」桜はコクンとうなずきながら答える。「存じております。……今回、私の父親もご迷惑をかけておりまして」「そうか。私の信条として、外の世界の方はうちにはあまり関わらない方がいいとしてきた。……だが、何やら事情がありそうだな」そこへ、シャッと襖を開ける音。「組長、ただいま戻りました」背後から聞こえる声は、蔵之介だ。「この子のことは、俺に任せてください。屋敷にいる間も、晴れてここを出てからも」視線を落とした目の端に、龍之介と麗香の指先が映る。2人とも、ギュッと拳を作った。「いいだろう。……ただ、」組長は蔵之介に返事をして、改めて桜に目をやる。「君は、とても似てるなぁ。……百合さんに」龍之介、蔵之介、そして麗香に順に視線を送り、組長は立ち上がった。襖を開けると、そこに女性がいる。それは初めてこの屋敷に来た時会った、龍之介と蔵之介の母、そして組長の妻だ。目が合って、頭を下げる桜に会釈を返し、組長の後を追っていく。「……ったく、なんなんだろうな、この部屋の硬い空気は。緊張しかしねぇわ」蔵之介はその場にあぐらをかいて座り、龍之介は反対に立ち上がった。「あの、蔵之介さん……しばらくお世話になります。よろしくお願いします」正座のまま蔵之介に向き直り、頭を下げた。「うん。わからないことは俺に聞いて。……ほら、この2人は結婚式の準備で忙しいから!」「……はい、ありがとうございます」隣にいた麗香も立ち上がり、龍之介の隣に行く。……が、龍之介が動かない。「なに、寄り添っちゃって。……先に行けばいいじゃん」「蔵之介も早く出ろ。こ

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   53.龍之介の部屋で過ごす最後の夜

    「……何もかもを、捨てられたらいいな」リビングを掃除していた桜を自分の部屋に入れ、改めて抱きしめる龍之介。「でも……皆さん困りますよね。龍之介さんがいなくなったら」「皆さん……か、」ふふ…っと笑う龍之介に、少しだけ抗議したくなって見上げれば、優しい視線にとらわれて、動けなくなる。「2年で、何とかする」「……2年」「志田川組の強化と独立をさせて、麗香と離婚する。……西龍会若頭は、蔵之介に譲る」こういった組織を抜けるのは、決して容易いことではないと聞いたことがある。それは……映画やドラマだけの話なのだろうか。「待てるか?」甘い視線に、わずかな不安が宿るのがわかった。……強さと美しさを兼ね備えた龍之介のような人が、自分をそんな目で見るなんて、改めて信じられないと思う。「待ってます。……ずっと、龍之介さんだけを思って生きます」真剣に伝えたのに、フッと軽く吹き出すなんて……ちょっと意地悪が過ぎるような気がした。「笑ってごめん。可愛くてな」頬に指先を這わせ、優しくなでる龍之介。「俺は……お前しか抱かないから」「でも……」「お前以外無理だろうし、その気になれるはずがない。だからお前も、俺以外に触れさせるな」本当にそんなことが可能なのだろうか。正直なところ、いくら形式的な結婚だとしても、子供を望まれることは十分考えられる。麗香が、というより組織が、跡継ぎを望んだとしたら……そこまで考えて、胸が激しく痛んだ。……嫌だ。龍之介がほかの女性に触れるなんて、絶対に耐えられない。自分から龍之介の胸に飛び込み、広い背中に腕をまわす。ありったけの力を込めて、しがみつくように抱きしめた。気持ちを理解してくれたのか、抱きつく桜を包み込むように腕のなかに閉じ込める龍之介。「本当は、お前を家政婦として働かせたくねぇよ。だが志田川組も出入りするようになって、全員に役割が必要なんだ」自分のような若い女が、役割も持たずに屋敷をうろついていれば……龍之介や蔵之介との関係を想像させてしまうということだろう。「わかってます、大丈夫。……何もしないでお金をもらうようなこと、私にはできないので」「あぁ。桜らしいな」「頑張って、この屋敷を綺麗にしますね」ビー玉のような瞳で見上げる桜の頭をクシャと撫で、髪に、おでこに……キスを落とす龍之介。やがて貪るように桜の唇を

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   52.麗香からの話と桜の覚悟

    「……意外と女らしい部屋でしょ?」龍之介の部屋に帰った桜を訪ね、麗香は自分の部屋に彼女を招いた。「意外と、っていうわけじゃないですけど、女性らしい落ち着いた部屋ですね」おしゃれな家具と観葉植物、見たことのある絵画が壁を飾っていて、上手にベッドを隠している配置は素敵だと思った。この部屋でもお茶の用意ができるようで、麗香は香り高い紅茶を淹れてくれた。「どうだった?齋藤専務は」「あ……落ち着いた大人の方で、あの…私みたいな人の手助けをするボランティアをしているって言ってました」知ってるはずの情報を改めて伝えてしまった……麗香は嫌な顔ひとつせず、優しくうなずいてくれる。「桜ちゃんは、しばらくここで働いたらいいと思う。……龍之介は自分の専属家政婦とかバカなこと言ってたけど、そうじゃなくて、屋敷の家政婦として」「……はい、ありがとうございます」美紀に借りたお金を奪われて、返金しなくてはならない。だから仕事をしてお金を得る必要があった。けれど外に働きに行くことは、龍之介や麗香だけではなく、西龍会に迷惑をかけることになりかねないと……さっき自覚したばかりだ。「わかってくれて嬉しい」それとね……と、紅茶をひとくち飲んで、麗香が続ける。「結婚式の日取りを、決めることになったの。私……龍之介と結婚する」「……はい」「愛があるわけじゃないよ。お互いの組のため。……っていうか、どっちかって言うと志田川組が助けてもらうためかもしれない。だから私は、龍之介と結婚する必要があるの」蔵之介のことを口に出すことは出来なかった。こういう決断をしたということは、必然的に諦めたということだから。「それからこれは……桜ちゃんにしか言わないけど」迷いを含んだ言い方に、桜の伏せた瞳が上がる。「龍之介は、計画的に私との結婚を終わらせるつもりでいる」「それは……計画的離婚のことですか?」「そう。龍之介は、2年かけて離婚するって言ってる。でもね、結婚したら……親が出てくるのよ。うちの父親、志田川組の組長が、娘婿になった西龍会の若頭を離すかどうか……」少しずつ、取り巻く環境に手足をとらわれる龍之介が見える気がした。「だから、離婚がそううまくいくかは、約束してあげられない」……返事はできなかった。それは仕方のないことで、自分に何かできるわけではないとあきらめるしかないのに

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   51.龍之介の想い③

    麗香に言われて出かけた桜が屋敷に戻ってきたようだ。……遠目に俺を見て、立ち尽くしている。「帰りは夜になる」すれ違いざま声をかけると、弾かれたように、通り過ぎる俺を振り返る桜。…優しい視線を感じる。…しばらくして、今度は俺が振り返った。白いワンピースの裾を揺らし、薄茶色のロングヘアをなびかせて歩く桜を、俺は花を愛でるような気持ちで見つめた。……齋藤という松白屋の専務と会ってきたのだろう。麗香にそう言われたときは、ただの嫉妬が心に渦巻いた。まるでガキと一緒だ。「ちゃんと、話をしよう。龍之介」桜が出ていって、麗香に腕を掴まれた。まだ、桜との未来を諦めてはいなかった。この時は……まだ。「親に、式の日取りを決めろって言われてる」「蔵之介を諦めて……組のために俺と結婚するって決めたのか」「うん。決めた」……深いため息を漏らす俺に、麗香がこれ以上ない本音を打ち明けた。「やっぱり似てるから。蔵之介の面影を乗せて、龍之介を見てる。多分それで私…結婚生活やっていける」「俺は桜以外、抱けねぇぞ」本音に本音をぶつければ、麗香は諦めたような笑みを浮かべた。「適当に欲望を発散する手助けをしてくれたらいいわ」「そんなこと…ごめんだな」「…ひど」本気で言っているわけではないことはわかったが、俺がどこまで譲歩するか確認している気がした。「計画的離婚についてはどうだ?式を挙げて1年後までに志田川の組織を変えるつもりだ。うちの後ろ盾がなくてもやっていけるようにする」「…うちの組長がどう言うか…」「組織を強くして、文句なんかねぇだろ」タバコに火をつけ、唇の端で咥えながら続けた。「志田川組を独立させたら、さらに1年後までに、俺たちは離婚」「晴れて、桜ちゃんのもとに行けるってわけ?」「うちの組織と組員、蔵之介の力があれば可能な計画だ。お前に話をつけたら、うちの組長に伝えようと思っている」自分の質問に答えない俺を見上げ、意味深に笑う麗香。「……桜ちゃんを離さないつもり?」「どうしてそんなことを聞く?」「あの子のためにならないからよ」…それは何度も頭をよぎったことだった。離してやるのが桜のためで、自分のような極道のそばに置くことは、静かな幸せから遠ざけることだと…十分すぎるほどわかっている。過去……百合にも同じことをした。結果あいつは病気になり、

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   50.離れてゆく…?

    「家庭環境に恵まれず、進学を断念したり夢を諦める若者の支援をしています」「そう…なんですか。あの、麗香さんとは……?」「松白屋のお客さまです。そのお付き合いで担当者が何度か櫻川へ行ってまして、あなたの美しさに魅了されたようです」意外な話の流れに、頬を染める桜。「いえ、私なんてまったくの素人で…お恥ずかしいです」「担当者が麗香さんにあなたの話を聞いて…私に伝えてきました。それで、あなたを指名して櫻川へ行ったのですが…」担当者は、齋藤がボランティア活動をしていると知る、数少ない人物だったそうだ。桜はちょこんと頭を下げる。「すみません。私は櫻川に出なくなったあとでしたね…」齋藤は緊張をほぐすように笑った。「桜さんに支援が必要な時は、ぜひ連絡をしてください。私は社会的立場もあり、決して怪しいものではありませんから」「…はい」ありがとうございます…なんて言っていいのか。桜の迷いに寄り添うように、齋藤は明るく言った。「さぁ、冷めないうちにコーヒーとケーキをどうぞ」齋藤は、押し付けがましさがなく、終始落ち着いた紳士で、育ちの良さを感じさせる人という印象。そんな彼との間に不思議な縁があることがわかったのは、コーヒーを飲み終えた頃のこと。「櫻川の前は、どんな仕事をなさってたんですか?」「室井酒店というお店で働かせてもらってました」「……室井?」ふと考え込み、齋藤は愉快そうに言った。「もしかしたらオーナーは、室井昭仁…ですかね?」「え、昭仁さんをご存知なんですか?」「はい。大学の同期で、今も連絡を取り合ってますよ」携帯に収められた写真を何枚か見せてくれた。それはよく知る昭仁に間違いない。「恋人ができたって言ってたなぁ…」…美紀ちゃんのことだ。なんだかとても嬉しくなった。「一緒に働いていた女の子のことです。美紀ちゃんと言って、とても優しい人で…」「…そう!それならぜひ今度、4人で食事でもしましょう!」「はい、ぜひ!」2人に会えるとしたら、こんなに嬉しいことはない。坂上や父親が雲隠れしている今、1人で出かける事も2人に会う事も危険かもしれないが……。齋藤と別れ、屋敷に向かう。出てきた時と同じ裏門に近づくと、中にいた男性が桜に気づき、門を開けてくれた。「和哉さん、ありがとうございます」「おかえりなさいまし…桜さん」「あ

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   49.桜を支える人

    「どうしてお前が勝手に決める……?」「櫻川を私に任せるって言ったのは龍之介でしょ?せっかく大企業の御曹司と接点ができたのに、これをビジネスに変えなくてどうするのよ」「その御曹司とやらに、どうしても桜を会わせると言うなら、俺も同席する」「だめよ」2人のやり取りをハラハラする思いで見守る桜。…龍之介さんにこんな風に意見ができるのは、麗香さんと…蔵之介さんくらいだろう。「龍之介が出ていったら、櫻川は西龍会と繋がってるって思われるわ。あの店は、もう私のものよ?西龍会とも志田川とも一線を引いた……私の店なの」そこまで言われ、さすがの龍之介も黙った。「確かに経営は譲った。それぞれの組がバックにあるなんて知られちゃあ、うまくないわな」こちらに視線をよこす龍之介に気づき、桜も隣にいる龍之介を見た。……どことなく悲しそうに見えるのは、気のせいだろうか。「桜ちゃん、裏の門から出て…大通りにある『川北珈琲』って店に行ってくれる?そこで齋藤専務が待ってるから」「はい…わかりました」そう答えたものの、そんな大企業の偉い人が、自分にどんな話があるというのだろう。「齋藤専務…すごくいい人よ。…とは言っても、坂上の裏の顔を見抜けなかったんだから、信用できないか…」裏門まで送ってくれた麗香が、桜の肩に手をかけながら自嘲気味に笑う。桜も曖昧に笑顔を返して、門を出ようとした時…「桜ちゃんは、もっと外の世界を知った方がいい」「……え?」「龍之介のことが好きな気持ちはわかる。……でも、あいつと一緒にいるってことは、わかるでしょ?普通の幸せから遠ざかることなんだよ?」もしかしたら、麗香さんは。「2人の邪魔をするつもりはない。でも龍之介は……最終的に私に任せて」「それは……どういう意味ですか?」「もう1人、支えてくれる人を作っておくの。龍之介と別れたあとに、支えてくれる……男を」返事を待たず、行きなさい…と、そっと背中を押された。若い衆の1人が飛んできて、門を開け、通してくれた。振り返った麗香の顔は…決して意地悪なわけではない。多分今の自分と同じような表情。どうしようもなく悲しくて、どこか諦めがまじって……さっき龍之介さんも、同じような表情をしていたっけ。喉の奥に涙のかたまりを秘めながら、桜は言われた通り大通りに出た。川北珈琲というカフェは、すぐに見つかっ

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   25.傷だらけの逢瀬

    何の疑いもなく、黒い車に近づく桜。ボンネットの前に立ち、正面からフロントガラスを見た。…途端に笑顔になる。後部座席を示され、乗り込んだ途端走り出した。「…お久しぶりです。あの、前に屋敷に来られた時…動揺しててろくに挨拶もできなくて、すいませんでした」「いえ…そんなことはまったく、気にしないでください」車は信号に引っかかることなくスムーズに進む。和哉はさらに申し訳なさそうに言った。「遠くないホテルなんですけど…万が一を考えて、少し遠回りします」高速道路に乗り、速度を上げていく車。「2つ目のインターを降りて、引き返しますね」チラチラバックミラーを見るのは、桜の様子を伺うためで

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   24.坂上の思い

    「知らなかったんだ。うちの最寄り駅にある店のケーキだなんてさ」坂上はそう言って、箸を置いてしまった。「初めてあげたケーキは、本当クライアントにもらったものだよ。でも2回目以降はごめん。もらったって言ったのは…嘘」「え…?どうして、そんな」「桜ちゃんとコンタクト取るための道具にした。…仲良くなりたいと、思って」それが、友達として…という意味ではないのはすぐにわかった。視線が…真剣で熱い気がする。まっすぐに見つめられ、少々困りながらも、そんな正直なまなざしに逃げたいと思ったことがあったのは事実。「ごめんなさい。私…好きな人がいて」「知ってるよ。麗香さんの幼なじみだよね。えっと…

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   23.周囲の心配

    「桜ちゃん、話せることがあったら、いつでも聞くからね」あんな痛々しい姿の龍之介を見て、何でもない顔をして、すぐに自分の生活に戻れるはずもなく。努めて浮かべる笑顔の本音に、美紀は呆気なく気づいてしまった。「うん。…いつか、聞いてね」美紀になら…自分のこれまでの生い立ちを話してもいいかもしれない。そうすることできっと、美紀が就職した会社を辞めてしまった理由や、心も体もしんどくなってしまったことを教えてくれるだろう。…打ち明けあって、さらに信頼し合える友達になれたら…嬉しい。でも龍之介のことは…もし巻き込むようなことになったら…と思うと、まだ話せそうもない。…しばらくして、昭仁に呼

  • 極道と、咲き乱れる桜の恋   22.瀕死

    「…おっと、こっから先はダメだよ」「待って、どいてください…」風俗店、Black Roseから決死の思いで逃げてきた日のことは、まだ私の頭のなかに残っていたらしい…どうやってたどり着いたのかもわからない。それほど必死で、やってきた。角を曲がった…西龍会の屋敷に。「…お姉さん、ここの人となんか関係かあるの?ちょっと、話を聞かせてもらおうかなぁ」制服姿の警官に腕を掴まれそうになった瞬間…細い腕が伸びてきた。「サチ!どこに行ってたのよ!また道を間違えて…」赤い傘が頭上に広がった。振り返ると、ガムを噛みながら…麗香が桜を見下ろしていた。「…あ、ちょっと」何か言いたそうな警官に愛想

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status