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4.預かる

Penulis: 桜立風
last update Tanggal publikasi: 2026-02-03 09:50:07

「い…いえ、友達に、連絡をして…」

「どうやって連絡をする?」

「あ、直接訪ねます」

言ってから、お金がないと言ったばかりだと気づいた。

「下手な嘘はつくな。行くところがないなら…一緒に来てもらう」

手首を掴まれ、部屋の外へ出る。

広い廊下には、見たことのある絵画や複雑な模様が描かれた骨董品が、バランスよく飾られていた。

龍之介はある部屋の前で立ち止まり、ドアをノックした。…瞬間、甲高い女性の笑い声と「…誰?」という男の声がする。

「…俺だ。昨日拾った女だが、こっちで預かるから、そのつもりで…」

言葉を遮るように、ガチャ…っとドアが開き、半裸の男が出てくる。ドアの端にいたせいで、桜には部屋の中が見えた。

大きなベッドに、横たわる女性。

そしてこの男は、昨日「蔵」って呼ばれた人だ。

「…なんでその子にこだわるわけ?」

「別にこだわってねぇ。

…ただ、Black Roseの従業員は22までの女って決めたはずだ。この子は23、それから、自分の意思で働くと決めた子以外は取らねぇってことになったろ」

「ふーん…」

すると、中にいる女性から「まだぁ…?」という艶めかしい声があがった。

「…るせぇなっ!話をしてる時に声をかけんなって言ってんだろっ」

半裸の男は明らかにイラついた表情になり、部屋の中に入っていった。

…次の瞬間、晒した肌を服で隠した女性がドアの外に出てくる。

「蔵のバカっ!もう誘ったって来てあげないんだからっ!」

機嫌を損ね、女は追い出されたらしい。

蔵と呼ばれた男の背中に描かれた龍も、イラついた表情をしているように見える。

「蔵…訳アリの女じゃねぇだろうな」

「龍には関係ねぇだろ」

うんざりした様子で出てきた男に釘を刺す龍之介。面白くなさそうな男の視線は、桜にも下りてきた。

「あの…龍之介さんには、少しだけお世話になりますけど、すぐに自立するので…」

目が合ったので、そう言ってみた。

それに、あの風俗店を取り仕切るこの男に話を通してもらえるなら、店長から逃げ隠れしなくてすむ。

用心するのが父親だけなら、助かるのだ。

「すぐに自立?そんなもん…させてもらえるのかねぇ…」

男は腕を組み、桜に流し目を注ぐ。

「それに龍之介さん?まさか、自己紹介したのか?…この男が?」

笑っちゃうねぇ、というわりに、男の目は笑っていない。

龍之介はそんな様子を気にすることなく「話は通したからな」と言って桜の背中を押した。

「…待てや…」

肩に大きな手がかかり、桜は男の方を向かされた。腰を折ってゆっくり桜と目線を合わせ…

「俺は西門蔵之介。西龍会、若頭補佐…龍之介の弟だ」

肩に置いた手が後頭部に回され、わずかに引き寄せられた…と思った瞬間、奪い取るような龍之介の手が肩にまわる。

西門蔵之介が西龍会の若頭補佐だとすると…龍之介が若頭ということ。

2人は敵対しているように見えたけれど…

その理由はまだ、桜には想像出来なかった。

入る時は通らなかった大きな門扉に向かい、堂々と正面玄関を出ていくつもりらしい龍之介。

「靴か…」

昨日はスリッパで逃げ出した。それも…途中で脱げてしまった。

「私のを履かせてやりなさいな」

後ろから落ち着いた女性の声が聞こえた。振り向くと…いつの間にか女性の後ろに数人、強面の男たちが控えている。

「お嬢さん、昨夜…蔵之介から話は聞きましたよ。…このまま龍之介についていくということがどういうことか、わかってる?」

おもちゃになること…

でも、この人は昨夜、そんなことを求めて来なかった。

「あの…」

「…うちの敷地で怪我をしたお嬢さんです。少し面倒を見たら、俺はここへ帰るので、それまで待っててください」

桜には何も言わせないようにかわりに答え、龍之介は足元に置いた靴に足を入れるよう促してくる。

「…戻れるの?」

落ち着いた女性の声に、心配が乗っているのがわかる。きっと母親だろう。あの蔵之介同様、整った顔立ちが際立っていて、3人はどことなく似ている。

女性に問われたのは自分だと勘違いした桜は、振り向いて「はい」と返事をする。その瞬間…龍之介が重厚なドアを開けた。

「行くのは俺のもうひとつの家だ。マンション自体俺のものだから、気兼ねなく過ごせるだろう」

車で20分ほどの距離を移動し、都内一等地に建つマンションに到着した。

…あの風俗店があったエリアとは程遠い、お洒落で清潔な街の雰囲気に心が和む。

案内された部屋は、20畳ほどのLDKと2部屋…といった2人暮らし用と思われる広さ。

白い布がかけられているが、家具はそろっているようだ。…どことなく、誰かが住んでいた雰囲気。

「…家具も何もかも、全部好みのものに変えたらいい」

締め切ったカーテンを開き、龍之介は窓を開けた。

「買い物はすべてネットですませろ。受け取りは下のコンシェルまで。俺が1日1回受け取ってやる」

ノートパソコンを1台持ってきて、唖然とする桜と目が合った龍之介。

「…傷の様子、見せてみな」

一瞬、まじまじと目の奥を見つめられた気がしたものの、深く考えずに一番ひどい膝の傷を見せた。

やかて、いつの間に頼んだのか…デリバリーがやってきた。

届けられたのはピザとコーラ。

「あったかいうちに食いたいだろ?」

「だから…自分でやるので龍之介さん先に食べてください」

「全部の傷を見せろ。1カ所だけ治りが悪かったら困る」

揉めているのは…腰より少し下の、太腿の外側の傷について。

場所的にスェットのズボンをまるっと脱がなければならず…桜はそうすることに、抵抗があった。

「自分で見て報告するってばっ!」

消毒液と薬、包帯を奪って、別室へ逃げる桜。昨夜は夜の相手をさせられるものだと、完全に諦めていたので平気だったが…今は違う。

もしかしたら龍之介という人は、自分を手籠めにすることなく、純粋に助けてくれるだけの…心優しき極道なのではないか。

そう思ったら、際どい場所の傷なんて、とても恥ずかしくて見せられない。

「…昨日と同じ感じでした。…まだ」

ピザもコーラも手つかずのまま…龍之介は革張りのソファに座ってタバコをくゆらせていた。

「…早く食え」

ニコリともせず言われて…とっさに胸元を押さえた。ドキドキと不安な音を鳴らす心臓。

…桜は不機嫌な男が苦手だ。

男と2人きりでいて、相手が不機嫌になると、必ずといっていいほど襲われる感覚。

「…どうした?」

「なん…でもないです」

言ったそばから…桜はその場に座り込んでしまった。

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