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8.アルバイトを始める

ผู้เขียน: 桜立風
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-07 14:41:37

「あの…この先の話をしたいんですけど、今夜はもうこちらへは来ませんか?」

「先の話?」

「怪我も治ったし、アパートの後始末もしてもらえてありがたいんですけど、私はもうここにはいられないので…」

桜の言葉に、眉間にしわを寄せ…固まる龍之介。

「アルバイト、探します。とりあえず」

「仕事なんかしなくても、金なんか出してやる」

「そういうわけにはいきません…」

ひょんなことで助けてもらっただけで、赤の他人に違いない。龍之介さんとの関係に何の名前もないなら、頼るわけにはいかない。

「友達…」

ボソッとつぶやかれ、2度見しそうになった。整った顔立ちの極道、大人の男に、友達なんて言葉…似合わな過ぎる。

「ふふ…っ!友達って、龍之介さんが言うと面白いです…!」

つい、素直に反応してしまい、切れ長の瞳に睨まれてしまった。

「友達なら、金がなきゃ助けるだろ。部屋を貸したり、飯を食わせたり」

「そうですね…でも知ってます?友達には、してもらったことを返さないと、上手く付き合えなくなるんですよ」

中学生の時…出かけたきり父が戻らなくて、友達に助けてもらったことがある。でも…借りたお金をいつまでも返せなくて、友達は離れていった。

「俺は、その辺の友達とは違うから大丈夫だ」

「…だとしても、私…働きます。家を借りられるようになるまで、ここにいさせてもらうだけで十分です」

先にソファから立ち上がったのは、その方が龍之介は部屋を出ていきやすいと思ったから。

きっと…今夜龍之介はここへ戻らない。このマンションに移って数日たつけれど…彼は決して、桜と一緒に夜を過ごさなかった。それはきっと…ほかに行くところがあるということ、そして待つ人がいるということ。

いつか口走った名前を思い出す。

百合…確かにそう言った。それは…花の名前でないなら女性の名前に違いない。

「バイトが決まったら、お知らせします」

なるべく明るく言ったつもりだった。でも龍之介の表情は晴れない。

よほど心配されているのかと思うものの、その理由について疑問を抱いてしまう。

今までは怪我をしていたからこその心配だとわかる。でも…もうその傷は治り、何の心配もない。

それなのに…友達、とまで言って、自分を助けようとしてくれるのはなぜなのか。

誰かを助けた覚えも感謝された経験もない桜は、首をひねるばかりだったが…

きっと妹とか、同情とか…そんなところだろう。

たまにキスをされることはあるけれど、それは猫にじゃれるようなもので、自分に真剣な思いを寄せてるわけではない。

友達…と口走ったのは、きっとそういうこと。

龍之介さんは、好きになっていい相手ではないし、この先一緒にいていい人でもない。

だから…この辺で離れなくては。

それぞれの生きる場所に、戻らなくては。

「…それじゃ、まずはこれを使え」

龍之介さんは携帯電話を桜に差し出した。

「料金の心配はするな。アルバイトをするなら、携帯くらいないと採用されねぇぞ」

「あ…ありがとうございます…」

「いちお…俺の連絡先だけは入ってるから…」

確認してみると、メッセージアプリに龍之介の名前がある。

「完全に個人的なやつだから…なんかあったら、メッセしてこいや」

…今日、携帯が壊れた事を知ったのに、もう渡してくれるなんて…もしかしたら以前から、私に渡そうとしていた?

質問される前に、龍之介はマンションを出ていった。

「あれ…龍之介さんのアイコン…」

1人になって、メッセージアプリにひとつだけ入っている連絡先を見て気づいた。

RYU…という名前と、今日見てきたばかりの桜の木がアイコンになっている。

帰りの車のなかで、そんな操作をしていとは…龍之介を、つい可愛いと思ってしまう。

桜のアイコンを撫でながら…龍之介はいつもどこで眠っているのか…実はとても気になっている自分に気がついた。

「お酒重いけど、大丈夫かね?」

「はい。こう見えて、力はある方だと思います」

アルバイトの面接にこじつけたのは、駅前にある趣ある酒屋。

「まぁ…配達は将ちゃんがいるしな」

酒屋のオーナー、室井さんは、履歴書と桜を見比べながら、腕を組んで考える。

「うち、もう1人女の子のバイトがいるんだよ。…そしたら桜さんには、その子と一緒に店番と掃除、商品管理とお客さんへの説明…あたりを頼もうかなぁ」

「はい!ぜひ、よろしくお願いします」

室井酒店は、個人経営とはいえ、かなり広さのある老舗の酒屋らしい。

面接をしてもらっている間にもひっきりなしにお客さんが来ていて、アルバイトの女性もいそがしそうだ。

「いつから来れるかなぁ?…早い方が助かるんだけど」

「今日から…今からでもお手伝いできますが」

「そうか!?それはありがたい!」

動きやすい格好で来て良かった。

桜は店のロゴが入った法被を手渡され、Tシャツの上に羽織って店に出た。

「私…中村美紀といいます」

やっと店内が落ち着いた頃、もう1人のアルバイトだという女性が、桜のそばに来て名乗ってくれた。

バタバタして挨拶もできていなかったことを思い出し、桜も慌てて頭を下げる。

「滝川桜です。…よろしくお願いします」

年齢は多分同じくらい。…もしかしたら、学生のアルバイトだろうか。

…そこへ、奥から女性が出てきた。

「2人とも、あんころ餅好き?用意したからさ、ちょっとおやつにしなさいよ」

暖簾の向こうを指差しながら、店番を変わってくれたので、美紀と2人で奥へ入った。

「…同い年くらいかな?桜ちゃんはいくつ?」

「私は…23です」

「あ…私は25歳。2つ年上だね!」

アルバイトを始めて半年ほどだという美紀。ボブのサラサラの髪が綺麗な、優しい笑顔が印象的な人だ。

「3年前…大学を卒業して就職したんだけど、心と体、両方しんどくなっちゃって…思い切って辞めたの」

「そう…だったんですか」

次は自分の身の上話をするべきだろうか…とりあえずあんころ餅を口に入れたのは、何を話すのが一番差し障りがないか考えたかったから。

「仕事を辞めて田舎から出てきて…とりあえず、バイトをしようと思って、ここに来ました」

今どき高校も行ってないとか、言えない。ましてや…ついこの間風俗店から逃げてきたことなんて。

美紀は、桜の言葉に優しい笑顔を見せてくれただけで、それ以上は何も聞かなかった。

ただ…オーナーも奥さんもとてもいい人だということ、そして働きやすいところだと教えてくれただけ。

中には、根掘り葉掘り聞く人もいる。仲良くなりたい気持ちからだろうと聞かれるまま答えたこともあったけれど、あまりに壮絶な生い立ちに、引かれることも少なくなかった。

それからは…距離感を間違えないようにしている。

「…早く上がりたい日は言ってくれれば大丈夫だから。それじゃ、明日もよろしく頼むね!」

オーナー夫妻に見送られ、美紀とも手を振り合って別れ、アルバイト1日目は無事に終わった。

マンションまで歩きながら、背中のリュックから、何やら音がしていることに気づく。

…そうだ、携帯!

慌てて立ち止まり、リュックにしまった携帯を確認して驚いた。

…龍之介から、すごい量のメッセージが入っている…!

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