今から二十五年前──聖教会の用いている教会暦に直すと1175年。"崩壊の砂時計"が、地上に出現した直後。
崩壊の砂時計の出現を、天空の神ソルからの天啓と解釈した聖教会が、全ての異教徒たちの断罪と、全ての聖教徒たちの救済を声高に叫び、ハルモニアを始めとする諸国家に宣戦を布告した。 聖教会側が"最終戦争《ハルマゲドン》"と呼称したこの世界大戦は当初、兵力・技術力ともに優れるハルモニア帝国軍が優位に戦を進めていたが、天使長ミカエルたちが聖教会側に助力、更には剣聖アレスが登場したことにより、わずか一年ほどで戦局を覆されることとなった。 天使という究極の脅威に対し、異教徒たちが助力を求めた者たち。それは神にも匹敵する力を持った、魔族たちを束ねる五人の堕天使──"死天衆"だった。 ハルモニア帝都──アルカディア。 神殿内の至る所に、巫女の格好をした少女たちの遺体が転がっていた。まだ息絶えて間もないのか、殆どは小さな手や純白のストッキングに包まれた華奢な爪先を、ピクピクと痙攣させている。 彼女たちは全員、ハルモニア国教会に所属する巫女であった。死天衆の召喚という、国家の存亡を賭けた、それでいて危険極まりない儀式に臨んだ、美しく気高く、そして清らかで勇敢なる者たち。 死天衆の長が召喚に応じて顕現した直後──彼女たちは顕現によって生じた暴風に吹き飛ばされ、神殿の壁や柱に身体を強く打ち付けられ、そして命を落とした。無事だったのはただ一人、逆五芒星の描かれた魔法陣の中にいた若い男だけであった。 「──私を呼んだのは、貴方ですね?」 死天衆が、穏やかな声音で問い掛ける。小鳥の囀りを彷彿とさせる、透き通ったウィスパーボイス。長い銀髪を夜風に靡かせながら、涼やかな青い瞳で男を見つめる様は、世に存在するありとあらゆる芸術品が、全て陳腐な瓦落多《ガラクタ》に見えるほどに神々しく、そして美しい。 「……あぁ。他ならぬ、この私だ」 周囲の惨状に胸を痛めているのか、或いは必要な犠牲だったとはいえ、未来ある少女たちの命を奪ってしまったことに罪悪感を覚えているのか、男は何処か辛そうな顔で、死天衆の問いに応じた。 「大地の女神シェオルの使徒よ……"簒奪者"ソルの魔の手からハルモニアの民たちを守るべく、貴公の力を借りたい。どうか我らを救ってはくれまいか」 「ふむ……」 「頼む……天使どもが、あの簒奪者の犬どもが、聖教会に力を貸している現況では、如何に我がハルモニアの誇る将兵たちが精鋭揃いと言えどもこの戦、勝ち目など万に一つも存在せぬ……! どうか!!」 死天衆は必死に頭を下げる男の様子をじっと観察していたが、やがて端正な顔に不気味な笑みを浮かべると、 「──若し、本気で私たちの……女神シェオルの使徒たる堕天使たちの助力を得たいというのなら……貴方の最も大切なものを、この私に差し出しなさい」 「何、と……?」 「言葉通りの意味です。貴方にとって最も大切なものを、贄としてこの私に捧げるのです。そうすれば、貴方やハルモニアの民のために、私や同胞たる堕天使たちが力を振るって差し上げましょう」 「……死天衆の長よ、女神の使徒よ。其方はこれ以上、更なる贄を欲すると言うのか……! 大神殿内のこの惨状を見ても尚、より多くの犠牲と供物を欲すると……!!」 周囲で事切れている巫女たちを見回しながら、男は死天衆に対して訴えかける。だが、死天衆からの返答は冷たいものであった。 「はい、貴方の仰る通りです。彼女たちは、国と民を愛する貴方にとって、確かに大切なものには違いないでしょうが──少なくとも、一番大切なものではない」 「何、と……それでは、彼女たちの犠牲は……」 耳に心地好い声で、死天衆は男をフォローするように、 「いえいえ、彼女たちの犠牲は全くの無駄という訳ではありませんよ。現にこうして、私を奈落の底から呼び出すことに成功していますからね。ですが彼女たちは、あくまで私を呼び出すのに必要な贄……私が貴方に協力を約束するために必要な、契約の対価とは異なります。ですから、その対価を頂きたいのですよ」 「……何が、望みだ。シェオルの使徒よ。神の代理人よ」 死天衆の顔を睨み付けながら、男は尋ねる。どのみち、聖教会を打ち破るためには、死天衆の力を借りなければならない。元より国と民を守るためならば、如何なるものも差し出す覚悟だった。 「そうですね──」 雷鳴が響き渡り、死天衆の声を遮る。だが、男には死天衆が何を言ったのか聞き取れたらしい。 「……分かった。それで、愛する祖国を……我がハルモニアを救うことが、出来るのなら……」 生気の感じられない、虚ろな表情で頷く男……そんな男を見下ろしながら、死天衆は白い歯を見せて笑った。 「──契約、成立ですね」 ◇◆◇◆◇ 時は流れ、現代── 「……陛下。数ヶ月前、グノーシス辺境伯領より行方をくらませたセラフィナ・フォン・グノーシスを、先日ハルモニア国境守備隊が保護したそうに御座います」 玉座の間へと入ってきた、デスマスクで素顔を隠した死天衆の長の言葉に、男はわずかに眉を動かす。 「……セラフィナは、無事であるのか?」 「はい、陛下。セラフィナ自身は至って健康で、衣服が土埃や返り血で汚れていることを除けば、特に問題はなさそうとのこと」 「そうか。それは良かった。だが、その口振りだと、どうやら奇跡が起こり、セラフィナが死の淵より生還してから一夜が明けた。 墓標都市エリュシオンの地下礼拝堂にて、アザゼルにその身を深く斬り裂かれ、意識を失ってから二週間と少し。長く、苦しい戦いだった。 意識を完全に取り戻したセラフィナは、自分が生死の境を彷徨っていた間、世界情勢に何らかの変化が生じたか否かを知るべく、シェイドたちに自室へと来るよう呼び掛ける。「────」 呼び掛けに応じ、ナベリウスが作った病人食を手に部屋の中へと足を踏み入れたシェイドたちが見たものは、復帰に向けて精力的にリハビリに励むセラフィナの姿だった。 病衣から普段の寝間着である白のロングワンピースに着替え、ベッド上に仰向けに横たわった状態で、ぴったりとした純白のストッキングに包まれた細い足を片方ずつ、規則的に上下させている。「──うん? あ、来てくれたんだね。ありがと」 まだ、自力で身を起こすことが出来ないのか、セラフィナは顔だけを動かしてシェイドやキリエ、マルコシアスにカイムといった面々の顔をちらっと見やる。 マルコシアスが尻尾を振りながら駆け寄り、彼女の手や頬を愛おしげに舐めると、セラフィナはくすぐったそうに微笑みを浮かべる。普段は凛としているマルコシアスも、セラフィナが目を覚ましたことに歓喜しているのか、甘え声を断続的に発していた。 シェイドの手を借り、壁にもたれ掛かるような形で何とか身を起こすと、セラフィナは単刀直入に尋ねた。「早速だけど──アザゼルに斬られたあの日から、昨夜目を覚ますまで……その間の記憶が、当たり前のことだけど欠落していてね。その間に起こった出来事を、可能な限り詳らかに教えて欲しい。今の状況を、整理したいから」 ナベリウスお手製のほかほかのココアを、キリエに手伝ってもらいながら少しずつ口に含むセラフィナを見つめ、その場にいる全員を代表してシェイドが口を開いた。 墓標都市エリュシオンの地下礼拝堂にて、セラフィナがアザゼルに斬られた後、フォルネウスの時間稼ぎで好機を掴んだ自分たちは、異形に変身したアスモデウスにしがみつ
ラミアの心中未遂から一夜明け、新月の夜── セラフィナの部屋にはエリゴールとナベリウス、カイムといった堕天使たちが集い、"聖痕《スティグマータ》"からの出血の対処に当たっていた。 シェイドとキリエ、ラミアにエコー、マルコシアスには何も考えず休むように言ってあったが、今宵がセラフィナにとって危険な新月の夜ということもあって不安なのか、彼らは寝間着姿で何度も何度も自室とセラフィナの部屋とを往復していた。「────」 スティグマータから滾々と溢れ出る血で顔の右半分が汚れるのも意に介さず、エリゴールはセラフィナの左胸に耳を当て、心臓の鼓動音を的確に聞き取る。 ──ハヴェール、ハヴァーリーム、ハヴェール、ハヴァーリーム、ハッコール、ハーヴェル。 ──ハヴェール、ハヴァーリーム、ハヴェール、ハヴァーリーム、ハッコール、ハーヴェル。 弱まる心臓の鼓動に反比例するかの如く、彼女の身を蝕む渾沌《まろかれ》の力の一端が発する呪詛の声が、少しずつ大きくなってゆくのが聞こえる。「──ナベリウス、直ちに胸骨圧迫。骨が折れても構わないから、全力で心臓が鼓動を止めるのを阻止するんだ」「──畏まりました、エリゴール様」 エリゴールが素早く指示を出すと、ナベリウスは粛々と彼に従う。「──やはり、渾沌が邪魔をするか……カイム、血止め草の生汁は抽出し終えたかな?」「万事抜かりない。アモンの奴め、これ以上ないくらい良質な血止め草を大量に送ってきおった」 鶫の姿から本来の堕天使の姿へと戻ったカイムが、磨り潰して抽出した血止め草の生汁をエリゴールに手渡す。羽根飾りの付いた帽子を被り、腰にサーベルを帯びた目付きの鋭い青年騎士……それが、カイムの本来の姿だった。「ありがとう、カイム。それと、アモン卿にも後日感謝をお伝えしなければならないだろうね……セラフィナのために最高品質の薬草を、国中を駆け回って……文字通り東奔西走してまで、集めてきて下さったのだから」 ナベリウスが一旦胸骨圧迫を止めた隙
エリゴールの未来視によって、セラフィナがそう遠くない未来で再び目を覚ますことを知らされた一同であるが、中にはそれを聞いても尚、安心出来ない者もいた。 ナベリウス共々、セラフィナが物心つく前から彼女に仕えてきた侍女のラミアである。 長命なるエルフの女性であるラミアは、感受性が他の種族と比較しても極めて豊かであり、数手先の未来を見通すというエリゴールの言葉ですら気休めにならぬ程、精神的に追い詰められていた。 そして──彼女は、思わぬ凶行に走る。 墓標都市エリュシオンに於ける、"誇り高き叛逆者"アザゼルの率いる"獣の教団"との戦いから二週間後──セラフィナにとって危険な、新月の夜を翌日に控えたこの日の夜明け前、ラミアは姿見の前で何時ものように、寝間着から仕事着であるメイド服へと慣れた手付きで着替えると、護身用の飛刀《ダガー》を手にセラフィナの自室へと向かった。 音を極力鳴らさないよう、慎重に扉を開けると黒のストラップシューズを静かに脱ぎ、純白のストッキングに包まれた爪先を優雅に滑らせながら、ベッドに横たえられたセラフィナの枕元まで歩み寄り、そっと腰を下ろす。「……セラ、フィナ……お嬢、様……」 憔悴し切った顔で、ラミアはセラフィナの頬をそっと指先で撫でる。青い瞳には狂気の光が宿っており、明らかに正気を失っている様子だった。 ラミアの精神はもう限界だった。何時、瀕死のセラフィナが目を覚ますかも分からぬ不安。それが溜まりに溜まった結果、このまま彼女は目を覚ますことなく息を引き取るのではないかという、そのような恐怖に囚われていた。 このような思いをするくらいならいっそ、一思いにセラフィナを介錯し、そして自分も死んでしまおう。セラフィナもアレスも居ない世界で生きる意味などない。ならば死んだ方がマシだ。恐怖に堪え切れなくなった彼女は、そう決断してしまったのだ。「……お許し下さい……セラフィナお嬢様……ラミアも、直ぐ貴方様の元へと参りますから……」 ラミアがダガーを持つ手に力を込め、セラフィナの喉を貫こうとしたその時──
聖マタイ王国、サンタンジェロ城下── "獣の教団"の幹部、優美なる黒豹オセにより煽動された民衆や軍人たちで構成された叛乱軍と、聖教騎士団長レヴィに率いられし聖教騎士団とが激突したサンタンジェロ城の戦いから、早くも数週間が経過していた。 捕虜の尋問、倒壊した家屋の修復、炊き出し……ブルボン王国宰相にして枢機卿《カルディナル》であるリシュリューが国を挙げての復興支援を表明したこともあり、荒廃した聖マタイ王国は順調とは言い難いが、それでも着実に復興への道を歩んでいた。 リシュリューに協力を要請したのは、他ならぬ聖教騎士団長レヴィであった。先代騎士団長であったレヴィの父とリシュリューは旧知の仲であり、父の自害を受けてレヴィが騎士団長の座に無理矢理据えられた際も、リシュリューが何かと目を掛けてくれた。 その縁もあってか、カルディナルの中で唯一レヴィに対し友好的に接してくれる他、ある程度の融通を利かせてくれるなど、レヴィにとっては有り難い存在である。尤も、自らが仕えるブルボン王国に利がなければ、たとえ旧友の忘れ形見たるレヴィの要求であろうと首を横に振ったであろうことは、想像に難くない。 そんなある日の夜──レヴィは、サンタンジェロ城下で一番大きな礼拝堂にて、サンタンジェロ城の戦いで命を落とした戦没者たちの追悼式典に参加していた。叛乱軍、聖教騎士団、聖マタイ王国軍……敵味方を問わず、その死を悼むという目的の下、礼拝堂には当代国王ヤコブを始めとする王侯貴族、そして多くの民衆たちが訪れていた。 「──此度の戦いで散っていった全ての者たちに、皆で哀悼の意を捧げよう。死者たちに栄光があらんことを」 ヤコブが声高らかにそう告げると同時、レヴィはパイプオルガンで聖マタイ王国の国歌を演奏する。礼拝堂に集いし人々が国歌を斉唱する中──天使ラグエルは、パイプオルガンを演奏しているレヴィという麗人を見つめ、ポツリと感嘆の声を漏らした。 「あれが……聖教騎士団長レヴィ、か……」 喪服を思わせるシンプルな黒いドレスに身を包み、黙々とパイプオルガンを演奏するレヴィ──その姿は、美しいなどという言葉では、到底表すことなど出来ない。 ドレス故か、線の細さが際立っているようにも思える。三十をとうに過ぎているとは思えぬ、まだあどけなさの残る端麗なる容貌とは対照的に、軍人としての
ハルモニアが墓標都市エリュシオンの復興と、行方を眩ませたアザゼルたち"獣の教団"の面々の捜索に追われていた丁度その頃、聖教会内部もまた混沌を極めていた。 教皇選挙の準備は遅々として進まず、"最後の魔術師"クロウリーを筆頭とする枢機卿《カルディナル》たちの間に軋轢が生じ、対立が深刻化。 旧来のように、聖者の血筋の男性を教皇に選ぶべきとするクロウリーたち保守派。身分や血筋、性別に関わらず民衆を導く力を持つ高潔なる人物を教皇に選ぶべきとするリシュリューたち改革派。この二つに彼らは分断され、骨肉の争いを水面下で繰り広げていた。 聖教会自治領、聖地カナン── 貧民街の片隅に腰を下ろしながら、"同族殺し"の異名を持つ天使ラグエルはぼんやりと、行き交う人々や遥か遠方にて不規則に輪郭を変えながら蜃気楼の如く揺らめく、忌々しい"崩壊の砂時計"を眺めていた。 天使の証である翼や光輪《ヘイロー》を隠すこともなく、路傍に座り込んでいるラグエル……人々は気味悪がって、彼に近寄ろうとはしない。首から提げた角笛から、彼をラグエルと見抜いた者もいるようで、そう言った者たちは目が合うと脱兎の如くその場から逃げ出した。 ──"同族殺し"のラグエルだ。目を合わせるな。目が合えば首を刎ねられて殺されるぞ。 人々が陰で囁く声など意にも介さず、ラグエルは指先に留まった可愛らしい小鳥に話し掛ける。「……私は一体、どうすれば良いのだろうな」 小鳥は答えることなく、ただラグエルに甘えるのみ。それでもラグエルにとってそれは、十分な慰めとなっていた。 同胞や人間たちから忌み嫌われようとも、動物たちは自分を好いてくれる。血に塗れた自分に対し、親愛の情を向けてくれる。無償の愛を注いでくれる。 何より──言葉は通じずとも自分の心に寄り添い、そして慰めてくれる。「私も、其方のように自由に空を飛べたなら──この身と心を苛む苦しみや悲しみとは、無縁の生き方が出来るのだろうか」 小鳥はラグエルを見つめたまま、不思議そうに小首を傾げる。それを見て、
翌日── キリエはエコーと共に、屋敷の庭で午後のティータイムと洒落込んでいた。視線の先では、槍を構えたエリゴールと剣を構えたシェイドが対峙しており、両者ともに凄まじい威圧感を放っている。 エリゴールが未来視し、セラフィナはそう遠くないうちに必ずや黄泉路より帰還すると言ってくれたお陰で、幾分か気は楽になり、屋敷内に立ち込めていた陰鬱とした空気は払拭されつつある。ナベリウスやエコーも再び笑顔を見せるようになり、キリエもまた笑顔を取り戻していた。「──さぁ、お手並み拝見と行こうか。何処からでも掛かって来ると良い」「──目に物見せてやるよ。お望み通り、な」 物騒なことを言っているが──何のことはない、単なる実戦形式の稽古である。エリゴールが死天衆に次ぐ地位にある実力者にして槍の名手であることは、ハルモニア国民の多くが周知している事実。それ故、貪欲に更なる強さを求めるシェイドは、彼に稽古を申し込んだようである。 一気に間合いを詰める両者から目を離し、キリエはガーデンテーブルの上に置かれた手紙を手に取る。それは、墓標都市エリュシオンの統治者アイネイアスと、その秘書官アリアドネから送られてきた近況報告であった。 今も尚、復興の只中にあるエリュシオン。家を焼け出された者たちのために炊き出しや寝床の提供を、アイネイアスを始めとする貴族たちが率先して行っているらしい。帝都アルカディアからも、ハルモニア皇帝ゼノンの名義で日々大量の物資と支援金が運び込まれており、少しずつではあるが着実に復興の道を歩んでいる……手紙には、そう書かれていた。 セラフィナが死に瀕していることは、既にアイネイアスやアリアドネの耳にも入っているようで、彼女の一日も早い回復と、キリエたちの心身を案じる文章で、手紙は締め括られていた。アイネイアスたちも頑張っているのだ、自分たちも頑張らねば──そう、気を引き締めさせられる。「──良きお顔を、していらっしゃいますね」 紅茶を優雅な所作で口に含みつつ、エコーはキリエを見てにこっと笑う。「はい──墓標都市エリュシオンの長たるアイネイアス