Mag-log in「も、もふもふだぁ」
余裕で標準よりも重い十キロ以上はありそうなむっちりボディにされてしまった私を抱き上げ、はあはあと息を荒げまでして、瞳がヤバイ雰囲気になっているこの興奮気味の《男》の名前は【それは、彼が《平民》出身の《獣人》だからだ。
私の知る限りは例外なく、
だけど、平民の家系に生まれた《獣人》は、まず間違いなく産みの親の元には居られない。
クズ親が《貴族》に売っていたり、良識のある親であっても人身売買を生業にしている者達に子供を攫われて売られたりもしてしまうからだ。特殊な例ではあるが、産院の医師達が『赤子は死産だった』という事にして、大金と引き換えに、そのまま貴族に手渡した事件も過去にはあった。
——そんなこんなで結局《獣人》は全て《貴族》の元に集められるのだが、『平民出身である』というレッテルは一生其の者を苦しめる。特に、この国の貴族達に与えられた特権的習慣で、『獣人の赤子』には洋風の名前をつける為、彼の様にその名前ですぐに『平民出身だ』とわかってしまうパターンなんかは最悪だ。どんなに優秀であろうがその血統だけで卑下され、馬鹿にされ、素晴らしい功績を上げようが評価されない。だけど『名は体を表す』文化が根強いせいで、名付けの時点で《名前》が魔術によって《魂》に刻まれてしまい改名なんか出来やしないのだ。(……だから彼は、此処に一人で暮らしているのか)
剣家は《男爵》の爵位を持つ。彼を『買える』くらいなので裕福ではあるのだろうが、爵位は低いからあまり権力は無い。そして《貴族》だからって全員が全員《獣人》ではなくて、むしろ《人間》である者の方が多い。今の剣家で《獣人》は叶糸だけなので、『陞爵などの為の道具』としての期待や重圧が彼の肩のみに重く伸し掛かっているのだろうなと、この部屋の、膨大な知識を彼に押し付けるような惨状を見て思った。
「ヤバイ、可愛い」
私のぼてっ腹に顔面を埋めてスーハーしている姿を見ると、過酷な環境に置かれている感じは少しもしないが、彼の置かれている立場はまず間違い無く相当弱いのだ。
「あー……良い匂いする……。全然獣臭くないって事は、ペットのマーモットが迷い込んで来た、のか?」 腹に顔を突っ込んだまま、多分そんな感じの事を言っている。そりゃそうだ、本物のマーモットなどではないのだから私が臭いはずがないじゃないか。自分ではわからないがきっと花の様な匂いのはずだ。……そうでなければ困る。じゃなければこの状態はかなり恥ずかしい。 「飼い主を探す、か?……あー、いや……」 小声でボソボソと言いながら私の腹からやっと離れてくれた。だが腕に座らせるような感じで私を抱き、あるのかないのか不明な首元にそっと触れてきた。「首輪が無いから、野生の子だな」
叶糸は勝手にそう決め付けやがった。そもそも獣ですら無いので飼い主を探すという無駄な行為をしないでくれると思えば、まぁ悪くない決め付けなのかもしれない。だが、そもそも『野生のマーモット』なんか、この国にはいないぞ?というツッコミは心の中だけに留めておこう。まぁ、この体ではそもそも言えないけども。
それにしても……彼の顔を近くで見ると目の下のクマがすごかった。部屋の床や本棚の中だけじゃなく、机の上も勉強道具でいっぱいだ。確か彼の現在の年齢は十九歳。国内最高峰の魔術大学の薬学部に通っているらしいから、勉強に課題にと、連日追われているのだろうな。
(家の周囲にあった庭はきっと薬草園だろう)
ちらりと覗いた他の部屋には実験道具や錬金術系の道具まであったから、家でも薬品の調合をしていそうだ。
「住む所がないから此処に入り込んで来たんだな。じゃあオレが責任持ってお前を飼ってやるから、安心していいぞ」 軽く体を持ち上げられ、互いの額をコツンとつぶけてくる。酷いクマのある顔で、寂しさの混じる顔で無理に笑われると、私は身じろぐ事すら出来なかった。机の方に足を向け、私を抱えたまま叶糸がパソコンをいじり始めた。『マーモット 食性』と調べているから、早速私の食事の心配をしてくれているのか。『本物じゃないんで何でも食べられますが?まぁ、食べずとも平気でもあるし』と伝えたい所だが、彼の強い《認知》が邪魔して言葉を発する事が出来ないままだ。このままでは彼が私の《後継者》である事も、『えげつない程の魔力を失い、もう死に戻る訳にはいかない所まで来ている』事すらも伝えられない。
(……これって、かなりマズイ状況なのでは?)
額から冷や汗が伝うような気持ちになった。必死にどうにか出来ないかと声を発してみはしたが、意味を持つ音は一切出てこない。コレがせめてインコやオウムみたいに声帯が人間に近い生き物であったのなら話は違っただろうに。
「草食か。野菜も果物も、自分でも育てている物があるから、なんとか養っていけそうだな」 暗い部屋の中でホッとした声がやけに響く。『もしかすると……自分の腹を満たすのも困難な程度にしか食事も貰えていないんじゃ?』と思うと、私の小さな手は無意識のまま彼の服をきゅっと掴んでいた。この『ハコブネ』の『管理者』である私の『後継者』たる資格を持つ叶糸を救おうと、私が彼の元に来てから一ヶ月程経過した。その間は比較的平穏に過ごせていた方だと思う。まぁそうは言っても、義家族達から、小さいながらも保持している領地の管理や運営計画の書類作成や大学院の課題などを押し付けられてはいたけれど、理不尽な折檻が今は無いだけでも、見ていて多少はほっとした。 彼が大学の講義を受けている最中などの時間で、私は私で、自分の『お仕事』をひっそりとこなす。異空間に居る補佐達から送ってもらった惑星管理関連のデータを元に『ハコブネ』の環境の微調整をしたり、今後起こる可能性の高い災害の対策を立てたりなどなど。だけどこっちもこっちで後継者問題があるから、『惑星の自我』が不機嫌にならない程度にちょっとだけ手を抜いて。でもむしろ今は現地に居る分、リアルタイムで関われるから今までよりもしっかりと対応出来ている気がする。 夜になり、私が眠ると叶糸が色々と発散するお時間に突入するけれども(そのせいで起きてしまっている)、“欲”を程良く発散しているおかげでよく眠れるのか、出会った当初より彼はやや健康的になってきていると思う。友人の一人である古村にも『近頃はクマが薄くなったな』と言われていたし。嫌がらせで最低限にしか貰えていなかった食材も、庭で育てている収穫物も、私がこっそり豊穣系の魔法で増やしてあげているからきちんと食事も出来ているおかげもあろう。 ——まだしばらくはこんな日々が続くかに思えていた、ある日の事。 叶糸が大きめの平たい箱を抱えて、男爵家の敷地内にある彼の家に戻って来た。 「……それは何、じゃ?」 居間のテーブルの上に箱を置き、中身を出して状態の確認をしている叶糸を見上げながら声を掛ける。「んしょ、っと」と無自覚にこぼしながら椅子の上にあがってみると、いつの間にか叶糸が両手で顔を覆い悶絶していた。どうも自力で登る際に晒したプリケツがツボだった様だが、私の心はレディなのでめちゃくちゃ恥ずかしかった。 気を取り直してその様子をじっと見ていると、叶糸が「……義父から、夜会に行く用意をしろって言われたんだ」と教えてくれた。成る程、だからスーツのサイズ確認の為に広げてみているのか。 「そうなのか。……だけど、その服は君には小
『剣叶糸』の人生は、生まれる前からもう『不幸』になる事が確定していた。 平民の血筋の腹に宿ってしまったからだ。 エコー写真で、『獣人』であると確認出来た時点でもう貴族に売られる事が決まり、より高値で売れる先を両親は嬉々として探したそうだ。様々な貴族を相手にゴネにゴネ、最終的には男爵の爵位を持つ『剣』家へ養子に出すと決まった。 何処の家に売ろうかと考えるばかりで、彼の名前は、その辺にたまたまあった本を開いた時に偶然目に入った言葉をそのまま子供につけたらしい。そうでもなければまともな名前すらならなかったかもしれないから、そのテキトウっぷりには逆に感謝したくなった。 そう言えば別件で、産院と結託して平民の元に産まれた『獣人』を死産と偽り、即座に貴族に引き渡していた事件があった。貴族として名付けもされたおかげで、誘拐された子供のその後の人生はとても順風満帆だったそうだ。——それを読むと、あれは貴族なりの優しさだったかの様に思える程、『平民』出身の『獣人』は肩身の狭い人生が確定している事が悲しくてならない。 他の貴族を抑えて、男爵家が叶糸の産みの親達に最高額を提示出来たのは、ひとえに当時の当主であった『剣エイガ』の才覚のおかげであった。歴代最高を収益をあげる程に会社の業績は好調で、今の剣家はあの時の資産を食い潰して成り立っていると言っても過言では無い。 『犬』の『獣人』であった義祖父・エイガは『人間』しか産まれなかった実子や孫達に一握りの期待すら持てず、私財の九割をも投げ打って叶糸を『孫』として迎え入れたらしい。その分期待は相当大きく、経営学を筆頭に、経済学、歴史に数学などありとあらゆる分野の学問を、叶糸が言葉を理解し始めたと同時に叩き込み、詰め込むように教育し続けた。だが、スポンジみたいに全てを見事に習得していく叶糸の様子(幼少期から睡眠時間は四時間程度しか与えないという鬼畜っぷりだったそうな)を見て、『安い買い物だった』と満足していたそうだ。 だがそんなの、実子達にとっては面白くもなんともない。 エイガの息子達を筆頭に、長男の子として産まれた三人の叶糸の義兄達の不満は察するに余りある。義祖母や長男の嫁である義母からの反感は特に酷かった。『獣人を産めなかった』と長年肩身の狭い思いをしてきた彼女達は事ある毎に叶糸を、『教育』だの『躾』だの言
午後になり、叶糸は『授業があるから』と残念そうな顔で大学の講義室に向かった。私はといえば、大半の者には姿が見えぬのをいい事に大学の敷地内を見学させてもらっている。(叶糸相手には通じないが、それ以外の者が相手なら完全に隠す事ももちろん出来るしな) 叶糸的にはずっと側に居て欲しかったようだが、何かある度にチラチラこちらを見て授業に身が入らないとかが物凄くありそうなので断った。(圧倒的はまでの癒し不足とはいえ、学生は学業が優先だからな。気を遣わねば) 国立の大学である此処『幻都魔術大学』は国内最高峰の大学というだけあって、施設の充実っぷりは半端ない。都内の一等地にありながらも広大な敷地を誇り、駅は構内直結だし、当然バス停も正門の目の前で、学生達を主な客層にしている洒落た商店街まで近傍にはある。周辺地域には身分別で選べる学生寮なんかも数多くあるらしく、申し分ない環境が整っている。 主体となっている魔術系の学科以外にも、叶糸の通う薬学科や錬金術、機械工学などの他に農学部まである。当然学生達の質も高くて皆勉学に対して真剣だ。受験シーズンだけじゃなく、入学後も常に相当勉強をし続けねばすぐ周囲に置いていかれる程苛烈な学生生活となるが、その分得られるものが大きいから入学を願う者は後を絶たない。就職は他校出身者よりも相当有利だが、その分『楽しい大学生活』とは無縁だ。だけど真面目に研究や勉学に取り組みたい層には天国の様な環境が約束されている。 実は、叶糸のニ歳年上の義兄である滋流もこの大学を目指していた時期があった。叶糸に作らせたテスト対策問題のおかげで好成績を取れていたせいで自分の力量を笑える程に見誤っていたからだ。だが実技試験の結果が大学の入試を受けられるレベルには達していなかったせいで、受験すら出来なかった。魔法科目の実技は本人でなければ受けられないし、似ても似つかない二人では叶糸を替え玉に仕立て上げる事も不可能だったから、もしも受験資格をどうにかして得ていようが、結局どうにもならなかっただろうな。 『人生に箔が付くから』という理由だけで憧れていた学校に、義弟の叶糸がトップの成績で合格し、入学式では新入生代表として挨拶までするとなった時のキレ方はもう異常者そのものだったとか……。叶糸に利用価値が無ければ、それこそこの時点で殺していたかもしれない程だったらしい。(
「……あーでも、このままでもいいんじゃないかな」 開き直った様に言われたが、ちょっと寂しそうな顔をされてしまっては反発する気にもなれない。 「『形を持たぬ者』であるなら余計に、な。姿形があった方がこうやってコミュニケーションも可能になる。まぁ、それでも魔力が低い者には見えないみたいだけど、それは返って好都合だよな」(だからって何も『マーモット』のままである必要はないのでは?) とは正直思うが、……私をモフッている時の叶糸の様子を思い出し、渋々ながらも「わかった、ぞよ」と返しておいた。 「まぁ、しばらくはこのままでいるとしても、『管理者』である私は食事などの必要がない。なので君は、自分の食事を削るような真似はもうするんじゃないぞ、な」 「あー。気付いてたのか……」 「気付かぬはずがないだろう?」と言いつつ、彼の膝の上で体の向きを変え、対面の状態になる。決して、振り返ったままでいると食い込む肉が邪魔過ぎた訳では、にゃいっ。「しっかり食べて、しっかり寝て、より良い人生を君に送ってもらうために私は来たの、じゃよ」「……個別の案件には不干渉なんじゃ?」 私が言った『文化や文明に関してはもうここまで成熟してしまうと下手に手出しを出来なくて』の部分を叶糸はそう受け取ったのか。 いや、まぁ、実の所『管理者』は全権を委ねられているが故に個々への人生や環境への干渉や微調整もやれる。やれるのだが——(そこまで手を出すと、過剰労働で私の心が死ぬっ!) 私が今の任に就いた時代よりも人口が増加しているのもあって、現状ですらも『寝ずの番』みたいな状態が続いていて、もう頭も心もパンク状態なのだ。だけど、自分の個体としての『名前』を記憶から失い、体の原型を保てない程なのだとは、お互いの今後のためにも黙っておく事にしよう。『そんなに大変なら、後継の件は辞退する』だなんて言われては困るしな。「『君』は、『特別』なんじゃ」 そう口した途端、まるでこのタイミングを狙ったかの様に強い風が吹いた。私の『補佐』達が『演出』を加えやがったのだろう。 「……『特別』?」と叶糸が噛み締めるような声で呟く。言われた経験のない言葉だったのか、マーモットから言われたからなのか。目が少し見開き、私が自重で転がり落ちてしまわぬようにと支えてくれている手に軽く力が入った。 「叶糸」 改
「よし。まずは、この『ハコブネ』についての話を先にしようか、のう」 「小学や中学の時点で全て習っているぞ?」 「あ、いや。地理、構造や主成分とかに関しての話ではない、のじゃ。もっと根底の、始まりについてといった所だ、じゃな」などと、己の言葉遣いへの違和感をガン無視し、遠い目をしながら私は、私も前任の『管理者』から随分昔に聞かされた話を彼に語り始めた。 ——悠久の昔。 原初の宇宙に黒い靄の様なモノが誕生した。意思があるが、ただそこに『ある』だけで、何の目的も存在理由も無く、真っ暗な宇宙の中で身近にある全てを強欲に飲み込みながら、その『モノ』は、ただただ意味も無く彷徨い続けた。『自我のあるブラックホール』みたいなモノであると言えば多少はわかりやすいかもしれない。 永い永い年月を経て、その『モノ』は『とある惑星』の存在に気が付いた。 それは、青く輝く美しい惑星—— 『地球』だ。 どの星よりも青く綺麗に輝き、暗黒の宇宙空間の中で異彩を放っているその惑星に異常な程強い興味を抱いたが、その『モノ』が近づけば全てを飲み干してしまう。欲しい欲しいと我慢が出来ず、太陽系の絶妙なバランスをいとも簡単に壊せてしまう自分ではこれ以上近づく訳にはいかない。失わぬ為にと我慢に我慢を重ね、遥か遠くからただ見詰める事に徹した。 じっと、じーっとひたすら観察し続けるうち、その想いはもう『恋焦がれる』に近い感情へと昇華した。だが、その想いは応えてもらえる様なものではない事はわかっている。強く深いこの想いは永遠に届かず、押し付ける事も、欠片であろうと認知すらしてもらえない。だからって、せめて寄り添おうと近づけば腹の中に収めてしまってもう『観る』ことすらも出来なくなる。そのせいで悶え苦しみ、苛立ちから飲み込んだ星の数はもう、数え切れぬ程になった。 気が狂いそうな日々を悶々と過ごすうちに、その『モノ』は、ふっととんでもない考えに行き着いた。 己も、『アレ』と同じになればいいのでは?——と。 “素材”と言える物は、それこそ星の数程腹の中にある。思い付くまますぐに粘土のように我が身を変化させ、その『モノ』は自分自身を『地球』に似た姿に変えていった。青い海、広大な大地、清浄な大空と無数の植物。 ——こうして、『超越者』とも呼べる程のその『モノ』は、自らを『コピーキャ
生粋の《狼》は時速約五十六キロ程で走り、二十キロもの長距離を一日で移動する事も可能な生き物だ。《人間》要素が組み込まれている《獣人》では流石に《狼》であろうとそこまでの能力を素では持ち合わせてはいないが、鍛えた者であれば同等に近くはなれる。どうやら叶糸は後者のようで、剣家の敷地を飛び出し、アスファルトの公道を、草原や森の中みたいに駆けに駆けた彼は隣街にある廃れた公園にまで私を連行した。 「……大学は、いいの、か?」 余裕を持って一限目から出席出来るであろう時間にはもう家を出たんだ。てっきりあのまま大学に向かうとばかり思っていたのだが、此処では随分と離れている。 「あぁ、今日は午後からだから大丈夫だ。あの時間に家を出たのは、アイツらに渡す物があったのと……いつもは、家に、居たくないから習慣化しているだけ、だな」 ブランコに乗り、足だけで軽く揺らす。私は膝の上に抱えられた状態で一向に離してくれる気配はない。 住宅街の一角にあるこの公園には私達以外には誰も居ない。動くとギーギーと煩いブランコ、ペンキの禿げた木製のベンチ、他には小さな砂場があるだけの狭くて管理がずさんで小さな公園よりも、少し足を伸ばして、もっと大きな遊具のある綺麗な公園に子連れの人達は集まっているのだろう。「……お前が、無事でよかった」 ふっと緊張の糸が切れたのか、急にギュギュッと抱き締められて骨が軋む。きっと彼はその生い立ちのせいで一度も小さき者や動物なんかを相手にした事が無いのだろう。加減が一切出来てはおらず、私が相手じゃなかったら骨が折れるか、下手をすると砕けていたかもしれない。 「でも、何でアイツらには見えなかったんだ?」 今度は一転して力を緩め、私のわがままボディの腰っぽい箇所を掴んで少し距離を取る。 見上げた彼の目の下のクマが昨日よりも少しマシになっていたもんだから『昨晩は普段よりかは眠れたのか』と、つい関係の無い事を考えてしまった。が、疑問には答えようと「——ハッ」と笑い、胸を張る。だけどこの体ではただ腹を突き出しただけみたいにしかならず、ちょっと後悔した。「あの程度の者達に姿が見える程、下等な魔力は持っちゃおらんからなっ!」 突き出したままの腹、そして何故にこの口調なんだ。……と、やってしまってから後悔したが、もう遅い。変に《彼》が自分の《後継者》である事







