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2.

Auteur: 桜立風
last update Dernière mise à jour: 2026-02-28 15:47:48

「…効かない?自分に惚れさせるためのキスだったってことですか?…だとしたら残念ですね?まったく効きませんし、むしろ…」

丸い目を頑張ってつり上げて、神西を睨み上げる凛花。

「…嫌いになりましたわ!ふんっ!!」

つかまれた腕を振りほどこうとするのを、神西は力でねじ伏せる。…このまま離すわけにいくか…!

「…ちょっと待て。もう一度…」

忘却のキスが効かないとは、鈴原凛花…突然変異の人間か?

逃れようとする凛花を抱きしめ、もう一度唇を合わせた。…今度はもう少し長く。

…やがて、彼女の体から…フッと力が抜けるのがわかった。

そっと体を離し、さっきと同じように凛花の様子を伺うと…意外な反応に神西は頭を抱えた。

「…どうして2回もキスをするんですか?」

ハラハラと涙が頬を伝っている。なぜキスくらいで鈴原が泣くのか、意味がわからない。

「どうして泣く…?」

「泣きますよ…いきなりこんな会議室に連れ込まれてキスなんて…」

「…キス、されたことが悲しいのか」

コクン、とうなずく表情は…わずかながら神西に罪悪感のようなものを植え付けた。

「初めて、だったんですよ?なのに、無理やり2回も…ムードもなく、愛もないキスを…」

…これは、どういうことだ?

キスをされた記憶はあるようだが、背中のカマについての記憶はどうなった?

「…鈴原、俺を見てみろ」

凛花の正面に立ち、様子を伺う。

「はい…何ですか」

…背中のカマについて何も言わないということは、忘却のキスが2回目でやっと効いたということ。そんなの聞いたことないが…忘れたならそれでいい。

「キスについては突然すまなかった。だがあれは、必要なキスだった。俺にとっては」

「…どういう意味ですか?」

「わからないならいい。ただ勘違いしないでくれ。君に対して、特別な気持ちはない」

人間の女にとって、キスが特別なものだということはわかっている。

だが普通、忘却のキスをしたら、キスをしたこと自体を忘れるものなのだ。だがこの鈴原凛花という部下には…

「特別な気持ちがないのはこっちだって同じです」

神西の言葉に、凛花はふふ…っと笑みをこぼした。

「…神西課長はカッコよすぎて、私のタイプではありません。ファーストキスの相手が課長なんて、落ち込みますっ!」

神西をキッと睨みつけ、凛花が会議室を出ていく。強めの音を立ててドアを閉めたのは、怒りの表現だろうか。

…ホッとため息を吐き、神西はドサッと椅子に座り込んだ。

「………あれは、厄介だわね」

女の声が聞こえた次の瞬間、目の前に黒いモヤが発生し、ユラユラと揺れながら人の形を作りはじめた。

「メグか…」

黒いタイトスカートのスーツ。インナーも黒、ヒールも黒で、顎ラインのボブヘアも真っ黒だ。

「鈴原凛花。あなたの背中のカマが見えるとは…いったい何者?」

「俺の直属の部下だ。…それより、忘却のキスが効きにくい人間なんて、存在するのか?」

「しないはずよ。私たち死神にカマを振り下ろされて、あの世へ行かない人間がいないのと同じくらい、あり得ないわ」

深海めぐみ。

この会社の社長秘書を務めている。

神西の仲間…兼、見張り役でもある。

「多分…忘却のキスは効いてないわ。彼女は短い時間ですべてを思い出してしまうでしょうね」

「…そんなまさか」

「そのまさかよ。背中のカマに気づく人間がいるなんて…この由々しき事態は、上に報告しないといけないわね」

神西は弾かれたように立ち上がった。

「それは…俺から報告する。メグは黙っててくれ」

それより…忘却のキスが効かないということは、俺はやはり、死神としての力が弱いということなのか。

「…優しすぎるのよ、あなたは」

腕を組み、窓の向こうを見つめる神西の横に立ち、めぐみは同じように外を見つめた。

「寿命が来た人間にカマを振り下ろすどころか、まだ死にたくないと泣かれて、願いを聞き入れちゃうんだから」

「それは…多少はあることだろう?中には人間と命の取引をする死神だっている」

「あなたは何の取引もしないで、ただ寿命を見逃してやるだけじゃない。そのやり方のせいで、他の死神がどれほど忙しくなってるかわかってる?」

わかっている…だから俺はこの会社で働いている。人間界に降りて…魔力を使って。

「研修は間もなく終わるはずだ。上の言いつけ通りに、寿命が近い者、命を粗末にしている者に容赦なくカマを振り下ろしてきた」

「そうねぇ。確かに仕事はスムーズに運ぶようになったわ。…でも、鈴原凛花の件は、マズいわよ?」

そう言われて、神西はめぐみの方に体を向け、決心したように口を開く。

「…教えてくれるか?忘却のキスが効かない場合、どうしたらいい?」

「…それが人にものを聞く態度なの?」

顔をしかめて見上げられ…スラックスのポケットに突っ込んだ両手をそろそろと出して、前で組む。

「こういう場合も、やはりカマを振り下ろして、命を奪った方が…」

「…ダメよ!それは一番やってはいけないこと!あの子の生命力はとても強いわ。下手をしたらあなたが弾かれて、消えてしまうわよ?」

きっぱり言われ、その迫力にやや驚いた。…だったらどうすればいいのか。せっかくここまで研修を終え、間もなく呼び戻されるだろうと思っていたのに。

「私から教えられることは3つ」

腕組みをしためぐみが、神西の横でつぶやく。

「ひとつは、忘却のキスが効かない場合、し続けるしか方法はないということ。もうひとつは、キスには相手を操る力があるということ。そして最後は、あなたからキスをされた人間が、別の人間とキスをしたら…」

思わず、めぐみの前に進み出てしまう神西。

「…別の人間とキスをしたら?」

「その人間も、あなたが死神であるという正体を知ってしまうわ」

「それじゃ…鈴原凛花をこのままにしておくわけにはいかないってことか…」

「そうね。…早く行った方がいいんじゃない?あの子、ずいぶんモテるみたいよ?」

「………!」

神西は、めぐみが消える前に会議室を出た。

彼女が何を言おうとしているのか、すぐに理解できた。…人間の男は基本的に女を好む。そしてマーケティング戦略部においては、鈴原凛花を飽きもせず見つめている2人の男が存在すると知っている。

人間界に降りて働いて(俺にとっては研修だが)わかったことがある。

この会社の人間は、鈴原凛花を好意的に見ている者が多い。

真面目に仕事をする姿、屈託なく笑う姿、誰彼構わず親切にする姿。そういうひとつひとつが、別の人間を引き寄せるらしい。

「…鈴原、いるか?!」

すでに午後の仕事が始まっているオフィスに、神西の切羽詰まった声が響く。

「…はい」

そっと手を挙げて、立ち上がる人物に近づく。

「…ちょっと、来てくれるか」

「はい…」

その表情を見ていてわかった。チラッと…背中のカマを見ている。

やはり、忘却のキスの効果は短すぎる。

さっきと同じ会議室に招き入れ、用心のため、中から鍵を閉めた。

「あ、あの…鍵はかけない方がいいと思います。…あともうしばらくしたらこの会議室は使われますので、その時閉まってるとあらぬ疑いをかけられます」

「…ここで会議…」

そうだった。社長を交えた戦略会議…俺も出席することになっている。

「それじゃ…簡単に言う。今夜、俺のマンションに来てくれ」

「…は?」

「泊まる準備をして。…というか、引っ越して来てほしい」

「何を突然…言い出すのかと思ったら…」

頬が、耳が…首までも赤くなる凛花。

「ご自分が何を言ってるかわかってますか?と、と、泊まるって、いい大人が、そんな事を会社で…部下に言っていいんですか?」

「会社であろうとなかろうと、そんな事を考えている余裕なんてない。とにかく君にはこれから、俺という監視がつく。いついかなる時も1人にはさせない」

「な…っ?!」

赤い頬をさらに赤くして…凛花は言いにくそうに、けれどハッキリ言った。

「それは…さっきのキスのお詫び、ですか?ファーストキスを奪ったから、つ、付き合うって、そういう結論を出したと?」

ふと腕時計を確認し、時間が迫っていることに気づく。

「あぁ。そう取ってもらってかまわない。付き合うぞ。君は今から俺の恋人だ」

本音を言えば、付き合うとか恋人がどういうものなのか詳しく理解はしていない。俺は死神…当然だ。

「だ、だからって…急に今夜課長の家に行くなんて、できませんっ!」

「なら俺が行くからいい」

そう言った次の瞬間、会議室のドアが開いた。

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