LOGIN「もうすぐ……会えるからね」「楽しみだな」「……うん」私はこの子たちの母親になる。 父親が誰であろうと、私がこの子たちを守り抜く。「真樹……あなたは、この子たちの父親になる覚悟が……今でもあるの?」真樹の気持ちが知りたい。「その覚悟なら、とっくに出来てる」「……そう」私は……真樹とどうなりたいのだろうか。本当は、殺したいくらい憎いはずなのに……。私はその気持ちが、わからなくなっていた。「……朱里」私の頬に触れる真樹のその手が、妙に温かくて……。「真樹……」その手の温もりが心地良く感じる私は、その真樹の手をつい取ってしまう。「朱里……?」 私はその手を振り払えなくて、そのまま真樹の唇に自分の唇をつい重ねてしまう。「私……あなたのことが好き」「俺も……好きだ。愛してる」私はイケない人間になってしまった。 こんな男を愛してしまうなんて……。こんな冷酷な男を愛してしまうなんて……私はイケない人間になってしまった。こんな憎い男を愛してしまうほど、私は落ちぶれてしまったんだなと、つくづく実感する。こんなはずじゃなかった。……こんなはずじゃ、なかったのに。なんで私は、この男のことを愛してしまったんだろうか。 どうして……。そんな虚しくなる気持ちを抱えてしまうほど、私は弱くなってしまったのだろうか。「朱里……?」「好きだよ……真樹。 大好きだよ……」でもこの気持ちだけは、どうしても止められそうにない。 私の気持ちだけは、もう止まらない。✱ ✱ ✱それから数日が経った頃ーーー。「おめでとうございます、お母さん。 元気な双子の男の子ですよ!」私は、双子の男の子を無事に出産した。 予定日よりも数日早い出産となったが、無事に産まれたことが嬉しかった。思えば、買い物の途中に破水してしまい、急遽病院に運ばれて、そのまま病院で出産することとなった。初めて陣痛は、どうしようもなく痛くて、死にそうだった。「おめでとうございます。 元気な双子の男の子ですよ」「そうですか。……良かった」その隣にいるのは、真樹だ。「お父さんに似て、美形なお子さんですね」「それは嬉しいです」急に出産することになったと伝えたら、真樹はすぐに病院に飛んできた。 一人では不安だろうから、付き添いたいと言ってくれたのは、真樹だった。 真樹は私のそばに
私が紅茶の中の砂糖を混ぜながらそう答えると、真樹は「出産の日……一人なのか?」と質問してくる。「……そうだけど、なんで?」真樹はなぜ、そんなことを聞くのだろうか。 私たちは夫婦ではないのだから、立ち会ってもらうつもりは私にはないのだけど……。「なら、俺たちが……立ち会ってもいいか?」「え……?」今、俺たち……って、言った?「立ち会うって……二人でって、こと?」「ああ。 俺と千歳、二人で立ち会いたい」「……どうして? どうして、そこまで?」私のために、そこまでしてくれる理由がわからない。 私は一人で産む決心をした。なのに、なんで……立ち会いたいだなんて言うのだろうか。「見たいんだ。……子供が産まれる瞬間を、純粋にこの目で見たいと思ったんだ」命が尊いからこそ、その瞬間をこの目に焼き付けたいのだと、真樹は私に懇願した。「……立ち会いたいなら、別にいいけど」真樹は「本当か?」と私を見る。「うん……もちろん」真樹は私の前に来ると、私をそっと抱きしめる。「え……? 真樹?」「俺……自分の子供が産まれることって、想像してなかった。でも……今はすごく楽しみなんだ」自分でも信じられない。真樹が……真樹じゃない。 これは私の知っている、真樹じゃない。私の知っている真樹は、冷酷な人なはずだ。 「俺が何を言ってるのかって思うだろうけど……本当に、そうなんだ」「……そっか」真樹は変わったと思う。 あなたはレッド・アイで……最強の殺し屋だと思っていたのに。こんなに優しい人じゃないと、思ってた。「真樹……」「ん……?」私は真樹の手を握りしめ、真樹を見る。「あなたのこと……今でも愛してるのは、変わらないわ」「朱里……?」「だから、あなたに優しくされると……」優しくされると……困るのよ。 そう言いたいのに……なかなか言えない。「優しくされると……何だよ?」真樹は私の顔を覗き込んでくる。「……なんでもない。忘れて」私は真樹から目を逸らし、紅茶を口にする。 そんな私に、真樹は「朱里……」と私の肩に触れる。「あなたの優しさに触れると……私、惨めになるの」「え……?」「あなたは冷酷で、残酷な殺し屋で……。私はあなたが悪くて仕方ないのに……あなたの優しさに触れると、私は惨めに感じるの。 母親になることを決めて、強くなろうと思ったの
「お願いだから、これ以上……私には関わらないで。もういいのよ、私のことなんて。 気にしなくて、いいんだって……」私だってわかってる。二人が思いやりがあることくらい、わかってる。それでも私は、二人と距離を置きたいとさえ思ってしまうの。動かない時計の針を、これ以上動かしたくはない。 ううん、動かしてはダメなの。「言っただろ。それは出来ないって」「……どうして?」私がそう問いかけると、千歳は「君と子供のために、何かしてあげたいと思うのは……父親としての宿命だと思ったんだ。 兄貴も、そう言ってた」と私に話してくれた。「……変な人ね、あなたたちは」だけどその優しさを受け入れていくことも大事なのかもしれないと思った私は、その優しさに甘えることにしてしまったんだ。きっと私は、それを受け入れたことでバチが当たるかもしれない。 それでも、二人の思いを虚しいものになんてさせたくなかった。「子供の名前……考えてきてくれたの?」「ああ。二人で二つずつ、候補を出した。とりあえずだけど」「……ありがとう。参考にさせてもらうね」「ああ」あれからどんどん大きくなるお腹が、現実になった。 つわりがあった頃は、お腹なんて膨らんでもなかったから、全然実感なんてなかったのに。でも今は、ちゃんと赤ちゃんの鼓動も感じるし、生きているってことも感じられる喜びがあった。早く赤ちゃんに会いたいと願ってしまう自分がいて、私はやっぱりつくづく母親なんだと、思い知らされた。私を母親にしてくれたのは、間違いなくこの子たちだ。「朱里……出産の時、俺が立ち会ってやろうか?」ハルキがそう言ってくれたのは、多分私に対する優しさだと思う。「一人じゃ、不安だろ?」「でも……そんなの悪いよ。 ハルキだって、任務で忙しいでしょ?」ハルキが出産に立ち会ってくれると言ってくれるのは、嬉しいけど……申し訳ない気持ちでいっぱいになる。「一人で出産するなんて、寂しいだろ? 俺で良ければ、立ち会うよ」「ありがとう……気持ちは嬉しい」「立ち会えるように準備はしておく。……いつでも呼べよ、俺のこと」ハルキにそう言ってもらえるだけで嬉しい気持ちになった。 ハルキが私のそばにいてくれるからか、不安が取り除いていく気がした。「ありがとう……ハルキ。本当に、ありがとう」私……頑張るからね。 「朱里、お前
「ん……ありがとう、ハルキ」「朱里、一人でなんでもやろうとしなくていいんだぜ? 俺たちがいるんだから、頼るべき所は頼れよ」ハルキが優しくそう言ってくれるから、本当に嬉しかった。仲間ってやっぱり大切だし、いるべきだなと思った。「ボスも……朱里が頑張りすぎること知ってるから、心配してる」「え……?」ハルキは缶コーヒーのプルタブを開けてそれを口にすると「ボスも言ってたから。朱里を一人にはしないって。 これからも朱里は、大切な家族だからって言ってた。 だから、もっと俺たちを頼れよ」と私に向かって話した。「ボスが、そんなことを言ってたの……?」「そうだよ。朱里のこと一番心配してるのは、なんだかんだボスだしな」私はそれを聞いてちょっとホッとしたのか、「そっか」としか言えなかった。 でもその反面嬉しくて、ボスやハルキに支えられていることを改めて知った。「心配すんな。お前なら、大丈夫だって」「……ん、ありがとう」ハルキは「頑張れよ、お前ならちゃんとやれる」と私にエールをくれる。「子供なら、俺たちも一緒に育てていくから。一人で頑張らなくていい」「……うん」私は一人じゃないと思えた。ずっと一人で生きていくことが正しいとさえ、そう思っていたのに。やっぱり一人でなんて無理だし、そう考えると誰かに頼っていくことも、大事なことだと感じた。愛おしいと思える家族が、私にはたくさんいる。ボスがいて、雅人がいて、ハルキがいて……そして大切な子供たちがいる。「朱里、お前は充分に母親になってる。だから、心配しなくてもいいんだぜ。……お前は、もうこの子たちにとっては、大切な一人しかいないママなんだから」ハルキの言葉はいつも、勇気と元気を与えてくれる。「私……程々に頑張るよ」「おう。無理すんなよ」「うん」間もなく私は、出産の時を迎える。 出産した後がとても大変になるけど、私はどんな時も負けない。絶対に負けたくない。アイツと約束、したから。 絶対に死んだりしないと。「じゃあ、俺帰るわ」「うん、今日は来てくれてありがとう」 「おう」ハルキが帰る姿を見つめながら、私も家の方面へと向かう。「早く……会いたいな」この子たちが産まれてきてさえすれば、私はそれでいい。 無事に産まれてきたことを、心から喜びたい。「あなたたちの名前……二人のパパが、付けてくれたか
なぜか自然と、笑みが漏れた。「朱里……一つ聞いていいか?」「うん……なに?」千歳は私に真剣な眼差しを向け、「兄貴のこと……本当に、殺すのか?」と聞いてきた。私はその答えを濁すかのように、「どっちだと、思う?」と問いかける。「俺にも……わからない。けど兄貴のしたことは、確かに最低なことだし……朱里が恨むのも、仕方ないと思う。 でもやっぱり俺にとって、兄貴は大切な家族なんだ。本当は……殺してほしくはない」千歳の言うことが、本当は正しいに決まっている。 千歳の気持ちはよく分かるし、私が千歳だったら、きっと同じことを思うと思う。「……あなたの言うことは、私にもわかるわ」「朱里……俺は君を責めるつもりはないんだ。でも……俺は一人になりたくないんだ。 もし、愛した君に裏切られたとしても……家族だけは、失いたくないんだ……」千歳の気持ちが深く伝わってきたことに、間違いはなかった。「千歳……あなたのことは、殺したりはしないわ」「え……?」「本当は……あなたも殺すつもりだった。だからあなたを拉致して、真樹の前で殺してやろうと思ってた。……でも真樹に頼まれて、あなたを殺すのをやめたの」千歳は「どうして……」と私を見つめる。「……私も、人の子ってことよ」人情くらい、私にもある。 私にだって、人の気持ちくらい分かる。私は殺し屋である前に、一人の人間だから。「朱里……もし、子供が産まれたらさ……」 「ん……?」千歳は私の手を握りしめると、「子供……抱かせてくれないか?」と私にお願いしてきた。「……もしかしたら、あなたの子供じゃないかもしれないのに?」私がそう聞くと、千歳は「もしそうじゃなかったとしても、朱里の子供……抱っこしたいよ」と微笑んだ。「……うん、わかった。抱っこ、してあげて」 この子のパパかもしれない人だから、この人も。「嬉しいな。その日が待ち遠しいな」千歳はほんのりと、パパの顔をのぞかせていた。この子の父親は……本当に千歳なのだろうか。産まれてこないと、分からないけど……千歳はきっと、いい父親になると思う。「……千歳はきっと、いい父親になるね」「え?」「あなたは……優しいから」こんな私にも優しくしてくれるなんて、普通ならありえない。 千歳に復讐されてもおかしくはない立場……なのに。「あなたは、優しすぎるわ。……
「……分かってる。本当にごめんなさい」「でも、朱里の方が傷付いて当然だ。 朱里の大切な人を……兄貴は傷付けたんだ。 そんなの怒って当然だし、恨んで当然だよ」(どうして千歳は……そんなに優しいの……。これ以上、優しくしないでほしいのに)「……あなただって、私を恨んでるでしょ? 私はあなたを騙して、殺そうとしたのよ?……恨まれて当然のことを、私はあなたにした」私のことを殺したいと思えば、それは当然で。私がなにかを言える立場ではない。「俺は……朱里のことを恨んでるわけじゃないよ」「っ……なんで……?」なんで……そんなことを言うの?「俺は……朱里のことが本当に好きだったんだ。だから、君の幸せを一番に考えるべきだと思ったんだ」私はそう言われて、つい「私を殺したいなら、殺してもいいよ。……私だってあなたに、同じことをしたんだから」と言ってしまった。私がそう言うと、千歳は「多分……そうなんだとは思ってた」と答えた。「……わかってるのに、なんで?」「君のことが……大切だから」「え……? いや、だって私は……」私は、千歳のことが分からない。 なんで……そんなことを言うのか分からない。「わかってるよ、俺のことなんて眼中にないこと。……兄貴のことが好きなのも知ってるし、愛してることも知ってる」「じゃあ、なんで……?」千歳は優しいから、私は千歳とは合わない。「君の幸せを……願ってるからだよ」「……あなたは、優しすぎる。私のことなんて、もう気にする必要なんて、ないのに」千歳はそんな私に、「気にしないなんて、出来るわけがないだろ。……愛した人、なんだから」と言って、私のお腹に優しく手を当てた。「だから……元気な子供、産んでほしい」その千歳の表情があまりにも優しすぎて、私は思わず「うん……産むよ」と微笑んだ。 「あ、そうだ。これ……渡したかったんだ」千歳はジャケットのポケットから、あるものを取り出した。「はい、これ。……お守り」「え?これって……」千歳が私に渡したものは、安産祈願のお守りだった。「どうして、これ……?」「それ……兄貴からなんだ」(え……? 真樹……から?)「兄貴、朱里のこと心配してたんだ。きっと一人で産むつもり……なんだろうって」「……真樹が?」どうして……。どうして私のこと、気にかけるの……?「やっぱり……心
「そんなことより、さっさと引き上げるぞ」「ええ、行きましょう」私とハルキと雅人は、任務を終えてそのまま仕事を終えた。✱ ✱ ✱「南川先生、おはようございます」「おはようございます」進学クラスが開設されると決まってから、すでに三日ほどが経過した。進学クラス希望の生徒の募集を開始したところ、思ったよりも進学クラスへの募集が殺到してしまっているようだ。 校長先生としてはまずまずの滑り出しだ、と喜んでいた。それもそのはすだ。 学力が上がるならばと、親御さんたちからの希望が増えてしまった。そのため進学クラスへの生徒の選抜は、今度の中間テストの結果を考慮した上で決めるとされた。進
あれはレッド・アイの仕業だったのか……。「ヤツらは相当危険な連中だ。……お前の手に負えるような、相手じゃない」「………」レッド・アイが危険なことは、私も分かっている。 でもレッド・アイは、私の両親を殺した相手なのだ。私の……復讐相手。「お前が無茶をすれば……お前は確実にヤツに殺されるぞ」「……それでも私は、レッド・アイに、草原に復讐したいです」危険なことは分かっている。私だって、分かってるそんなこと……。「朱里、お前にはあるのか。……ヤツを殺す覚悟が」ボスの言葉に、私は言葉が出なくなった。 (草原を、殺す覚悟……)そんなもの……分からない。「……その覚悟がないなら、
「紹介しよう。来月から進学クラスを受け持ってもらう、草原千歳(ちとせ)先生です」 「……は、初めまして。南川朱里(あかり)です」(なんだ……やっぱり別人か。 そうだよね、こんな所にあの草原が来る訳ないもの。あり得ないわ)草原という苗字にやたら敏感になっているのか、別人であったことにとてもホッとした。「あなたが南川先生ですか。初めまして、草原千歳と言います。よろしくお願いします」「こ、こちらこそ……」(え、笑顔が爽やかすぎる……。それに、意外とイケメンだ)「草原先生には、非常勤講師として来月からこの学校の進学クラスを担当して頂きます」え、何?しかも進学クラスの担当が、非常勤講
その日から私たちは、レッド・アイの動きを探り探り動いていた。昼間教師の仕事をしている私は、仕事の合間を縫って草原のことを調べていた。 でもそんなある日のことだった。 「皆さん、来月から我が校では、新しく進学に特化した進学クラスを作ることになりました」校長先生がいきなり、私たち教師にそんなことを言ってきたのだ。「えっ?」(し、進学クラス……!? な、何?どういうこと?)突然の発表に、職員室はざわざわとし始める。「進学クラスを希望する人には、これから進学クラスで、進学クラスの人のための特別なカリキュラムを組んだ授業を行ってもらいます」(し、進学クラスの人のための授業……?







