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傷跡

مؤلف: エチカ
last update تاريخ النشر: 2026-07-24 19:15:59

 一方その頃、セルジオは皇太子の私室にいた。

「計画通りだな、ナハト」

「そうですね。しかしこれからが本番です」

 そう言うと、皇太子は「ふん」と鼻で笑う。

「ベル嬢が男爵を裏切るとは思えません」

「しかし、男爵を質に取れば、彼女も言う事を聞くだろう」

「こちらの裏切りがバレたら、一巻の終わりですよ」

「あんな南の辺境まで行ったんだ。必ず手に入れてみせるさ」

 そう言った皇太子に無言のまま敬礼し、セルジオは部屋を出る。

 ジェイド・デルメールは野放しに出来ない。

 まだ何かを隠し持っているのではないか?

 そう思わせる程、用意周到な男でもある。

 流れの情報屋のふりをして近づいたが、結局最後まで信頼される事もなかった。

 皇太子の私室から軍の詰所へと向かう途中、大きな声が聞こえてセルジオは足を止める。

「跪け

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  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   聖女

     上着もはおらず軽装のまま姿を見せた皇太子は、リゼルの怪我を聞きつけて見舞いに来たらしい。「ベル、侍女の怪我の具合はどうだ?」「殿下、恐れ入ります。本人は大丈夫だと……」「こちらの通達が遅れたばっかりに、すまなかった」「いえ……」 ラヴェルは殊勝な皇太子の態度に、反論も出来ずただやり過ごそうとした。 傍に立って首を垂れるリゼルは、きっとまだ痛いままだというのに……。「少し、話せるか?」 そう言った皇太子は、こちらではなくランベルトとリゼルの方へと視線をやる。 暗に“出て行け”と言いたいのだ。「では、我々は外で待機しております」 こちらの返答も聞かずにランベルトはリゼルを連れて部屋を出る。 仕方ない。 この状況では、皇太子を拒否する事は出来ない。「何のお話でしょうか? 殿下」「まぁ、そう急くな」 皇太子はソファに腰掛け、足を組み、対面に座れと促す。 若い後継者ではあるが、ラヴェルはこの男を侮るほど世間知らずにもなれなかった。 夜会では礼儀的に声を掛け合う程度、仲良く話した記憶もあまりない。「侍女には悪い事をした。後で詫びを贈ろう」 詫び、といいながら表情が詫びているように見えない。 でも彼にはそれが許されるだけの権力がある。「いえ、その様なお心遣いは無用です」「その内、私の婚約者が城内に招かれていると噂になるだろう」「左様でございますか」「ベル」 名を呼ばれて顔を上げると、皇太子が前のめりに肘をつき見つめている。 嫌な予感がした。「何でございましょう?」「君はとても美しいな」「はぁ……恐

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   傷跡

     一方その頃、セルジオは皇太子の私室にいた。「計画通りだな、ナハト」「そうですね。しかしこれからが本番です」 そう言うと、皇太子は「ふん」と鼻で笑う。「ベル嬢が男爵を裏切るとは思えません」「しかし、男爵を質に取れば、彼女も言う事を聞くだろう」「こちらの裏切りがバレたら、一巻の終わりですよ」「あんな南の辺境まで行ったんだ。必ず手に入れてみせるさ」 そう言った皇太子に無言のまま敬礼し、セルジオは部屋を出る。 ジェイド・デルメールは野放しに出来ない。 まだ何かを隠し持っているのではないか? そう思わせる程、用意周到な男でもある。 流れの情報屋のふりをして近づいたが、結局最後まで信頼される事もなかった。 皇太子の私室から軍の詰所へと向かう途中、大きな声が聞こえてセルジオは足を止める。「跪けッ! 動くなッ!」 声の方へと歩いて行くと、下級の兵士がお仕着せを着た小さな侍女を捕まえて声を荒げている。「お前は何処から入った⁉ 何者だッ! 言わんかッ!」 兵士は持っていた警棒で、彼女の大腿部を強く叩いた。 セルジオは見兼ねて声をかける。「おい」「……これは、ナハト大尉! お戻りになっていたのですね」「お前は何をしている?」 兵士は男爵家の侍女リゼルの片腕を、引っ張り上げたままだ。「この怪しい者が場内をうろついておりまして」「いや、俺今、お前に何しているか聞いたよな?」 セルジオは軽い調子の言葉とは裏腹に、しっかりと兵士を見て問い返した。「ふ……不審者に尋問しておりました」「放してやれ」「ですがっ……」「殿下の客人の侍女

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   碧いドレス

     翌朝、目が覚めると隣にはもうジェイドはいなかった。 裸のまま半身を起こすと、体中に彼が付けた所有の証が朝陽で良く見える。「……着替えないと」 リゼルを呼びつけ着替えを用意して貰ったが、明らかな事後にリゼルに手伝って貰うのも気が引けた。「自分で出来るわ」「ダメです」 間髪入れず断ったリゼルは無表情のままコルセットを持って待機している。 おずおずと恥ずかし気に寝台を出たラヴェルは、大人しくリゼルの前に立った。 ジェイドはバロー領へと早朝に出発したらしい。 起こしてくれたらよかったのに、と思いながらも、黙って出て行く所がジェイドらしいとも思える。「本日のドレスは旦那様がお選びになりました」 リゼルがそう言って出して来たのは、美しい碧いドレスだ。 まるで人魚の鱗の様にシルクの生地が幾重にも重なって揺れ動く。 首元まで隠れるクラシカルなデザインで、昨夜咲いた花達はしっかり隠せる。 自分の瞳の色を纏わせて、他の男の婚約者を演じさせる所も、彼らしい。 一年前なら困惑していたかもしれない。 でも、今なら分かる。 ジェイドの熱を全身全霊で受けた今、何も疑う余地はない。 昨晩の余韻がドレスの内側に仕舞われる頃――。 部屋の扉がノックされ、リゼルが扉へと向かう。「おはよう、侍女殿」 声の主はセルジオらしい。「レディをお迎えに上がりました。殿下が馬車でお待ちです」「お待たせしてしまっているのね。リゼル、行きましょう」 身を翻し部屋を出たラヴェルたちを待っていたのは、豪奢で大きな馬車だった。 乗り込むと皇太子はもう暇そうに頬杖をついて、車窓の外を眺めている。「おはようござ

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   碧夜の夜 Ⅱ

     そこから先はもう、ただお互いに空いた隙間を埋める。 唇から、掌から、互いの熱を奪い合う。 ジェイドは乱雑にラヴェルのドレスを剥ぎ取り、背中で編み上げられたコルセットを器用に解く。 伸びたラヴェルの髪が絡まないように、ゆっくりと指を滑らせ、撫でた。 その間にラヴェルはお前も脱げ、と言わんばかりに性急にこちらの服を脱がせる。「ジェイド……」 ラヴェルは露になった胸板に甘えた猫のようにすり寄って来る。 きっとこの皇太子の件で自分を売られたと誤解した事だろう。 でもそれでいい。 その不安があったからこその、今なのだから。「ラヴィ……腰が細くなったな」「毎日締めてたらそうなるわ」「でも綺麗だ」 夕日に染まったような美しい髪も、飴色の瞳も、昔から変わらない。 自分が十三で領地を背負い、ローゼン家という大きな後ろ盾を失った暗い時代に、たった一つ瞬いていた星。 社会からの信頼、他者を傷つけない良心、善悪の境界。 ジェイドが色んなものを失う中で、暗い航路を導いていたのがラヴェルだ。「お前だけは絶対に誰にも渡さない」 着衣を全て剥ぎ取ったラヴェルの肢体は、暮れる夕日を浴びて色付く果実のようだった。 首につけた夜境石のネックレスだけが残り、まるで所有の首輪のように見える。 ジェイドも裸体となって白い寝台に彼を押し倒し、彼の膝の間に割って入った。 期待に勃ち上がり始めた彼の欲棒を、優しく指で撫ぜる。 下から恍惚と見上げたラヴェルは、薄らと微笑み返して来た。「あまり見ないで」 そう言ってラヴェルは少し顔を背ける。「何故?」

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   碧夜の星

     リゼルが扉を開けた向こうに姿を見せたのはジェイドだった。 言葉もなく部屋に入ったジェイドは、ただこちらを見て様子を窺っている。 ラヴェルは悔しさも相まってジェイドを睨んだ。「怒っているな、ベル」「当たり前でしょ! こんな、急にっ……」 言いたい事はたくさんあるのに、目の前に立たれると言葉が詰まる。 一瞬、皇太子に売られたかと思ったのだ。 あの瞬間の気持ちを思い出して、コルセットで絞められた胸は余計に軋むようだった。「聞いてくれ、ベル」「やめてッ! 触らないでッ!!」 伸びて来たジェイドの手を振り払うと、ジェイドは両手を上げて“降参”の意を示した。「分かった。触れないから、聞いてくれ」 聞かなくても分かっている。 ジェイドが何をしようとしているのか。 だからこそ、あの場で承諾し、明後日には王都へ向かうのだ。 でも、それでも、自分のあずかり知らぬ所で“偽装結婚”を反故にされていた悔しさがラヴェルをかき乱す。「私は、お前を日陰者にはしたくない」 そうポツリと零したジェイドは、窓の外を見遣る。 名残惜しそうに海に沈む夕陽を見て、何かを懐かしむ様に瞼を伏せた。「祖母の様に、匿って過ごさせるのは嫌なんだ」 行方不明のローゼン家公爵家の嫡男がいる限り、現王は諦めたりしないだろうとジェイドは言った。 だからこそ、力を奪い、悪行の根を絶つ必要がある。「わ、分かっているわ! ジェイドがラヴェルをこの世界から消し、ベル・デルメールと言う女にした理由も、貴方が何をしようとしているのかくらいは分かっている! でもっ……」 偽装で良いから結婚して欲しいと言った時、受けると言ってくれたのに――! その言葉が、ラヴェルの喉に

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   二つの婚約

     呆れたように息を吐いたセルジオが「まずはご挨拶を」と傍に寄る。 腰かけたこちらに視線を合わせるように彼は跪く。「セルジョアナ・ナハト上級大尉、皇太子殿下の御命令にてデルメール領で情報収集をしておりました」「上級大尉……」 上級大尉とは国軍の中でも数える程しかいない、王家と政治に関与できる地位の持ち主。 この男が? と単純にラヴェルは驚いた。「見えませんか? えぇ、まぁそうでしょうけども」「それでナハト上級大尉、どう言う事ですの? ジェイドからお話が出たと言うのは……」 事の次第を大人しく聞いていたラヴェルは、より一層腹の虫が収まらない。 勝手に決めて、勝手に人を道具のように扱う。「順を追って説明しましょう。まず、私達の目的は大きく言えば“現王の廃位”です」「廃位……」「まぁ、王を挿げ替えれば多くの事が片付けやすくなる。デルメール男爵はそれを手伝う代わりに対価として、デルメール領の自治権と“貴女”を求めていらっしゃいます」「それがどう殿下との婚約に繋がるのでしょう?」「これからデルメール男爵が動くに当たり、我々が保護するのが一つ。そして、貴女を王城に招く事で、我々も監視される事になる」 皇太子の傍に女を置くには婚約者という形が一番自然だ。 セルジオがおどけた様に後頭部に手を当て、眉尻を下げた。「つまり、現王を廃位に追い込み、皇太子殿下が即位なさる」「レディ・ベル、私とデルメール男爵の目的は一致している。王の権威の下、バロー領で行われている非人道的な行為はこの国に必要ない」 それを聞いてラヴェルはハッと気づいた。 ジェイドはこの若き皇太子を使って、現王を排除しようとしている――⁉ 彼が即位すれば、ジェイドの祖母やリゼル達のような不遇な境遇の者達がこれ以上増える事はない。「我々

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   盗まれた日記

     ジェイドは白シャツにサスペンダーと言う軽装で、貴族の外出着とは言えない装いだった。「お加減はいかがですか? ラヴィ様」「あ、あぁ……大分良い」「貸して下さい。私が拭きましょう」「いや……それは……」 下位の貴族とは言え“旦那様”と呼ばれているという事は、デルメール家を継いでいるという事だ。 ヴェルモナ王国の南の辺境であるデルメール領。 小さな領地ではあるが、その昔は港を有した貿易の拠点として栄華を誇った土地でもある。 今は国境を

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    「ぐえっ――! げほっ、げほっ――!!!」 ラヴェルは必死に目を開け、直後に海水を激しく吐き出した。  肺が引き裂かれたように痛む。  呼吸の一つ一つが拷問だった。 「ゔっ……」 「ラヴィ様っ! お

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   落ちる薔薇

     ラヴェルは、自分があとどれだけ持ちこたえられるのか分からなかった。 海水が無数の手のように、彼の鼻や口を引き裂く。  肺に流れ込み、空気のひと欠片まで押し出していく。 視界は閉ざされ、四肢も縛られている。 ラヴェルは誰かに捨てられた石のように、ゆっくりと真っ暗な底へ沈んでいった。 これが、ローゼン公爵家の嫡男の末路なのか? 二十分前まで、彼は王都で最も豪華な夜会にいて、クリスタルのグラスを手に、皆からの祝いの言葉を受けていた。「ラヴェル様、ご立派になられて」「ラヴェル様は王家からの期待も大きいですからな」 偽りの笑顔、追従の言葉。  彼はただ早く家に帰って、夜会服を脱ぎ

  • 没落した薔薇は、碧夜の星になる   貴方の秘密

    「生まれ変わる?」 起き上がれる様になり、初めて食堂で一緒に晩餐をとった夜。 ラヴェルはジェイドにそう聞き返した。「えぇ、そうです」「ど、どう言う意味だ……?」「ラヴェル・ローゼンとしての全てを捨てて、別人としての人生を歩むのですよ」「別……人……。しかしっ……」「では、他に方法が?」 そう言われてラヴェルは唇を噛む。 ローゼン家の嫡男として追われている自分が、怪しまれずに外へ出るには、それしかない

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