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消えゆく愛と、軽やかな心
消えゆく愛と、軽やかな心
作者: 雫

第1話

作者:
須賀淳人(すが あつと)の、血のつながらない妹が、彼の結婚後に自ら命を絶った。

その日から彼は、自分と結婚した桑原日南(くわはら ひなみ)を心の底から憎むようになった。

そしてそのときになって初めて、彼女は知ったのだ。

彼がずっと想い続けていた相手は、その妹だったのだと。

だが二人の想いが芽生えたばかりの頃、その恋は須賀家の両親によって無残にも摘み取られた。

「許されない恋」を阻止するため、彼らは淳人に、以前から彼を慕っていた日南との結婚を強要したのだ。

それから10年。

彼は彼女を憎み続け、彼女もまたその憎しみを受け続けた。

彼は一瞬たりとも彼女から解放されたいと願わなかったことはない。

だからシャンデリアが落ちてきたあの瞬間、彼は迷うことなく彼女を突き飛ばした。

代わりに自分が血だまりの中へ倒れ込むことになっても。

息を引き取る直前、彼は最後の言葉を残した。

「日南......命を賭けて頼む。もし来世があるなら、俺を好きになるな。俺と結婚するな。俺を......自由にしてくれ」

その願いを叶えるために、日南は生涯をかけ、莫大な資金を投じてタイムマシンを完成させた。

そして再び目を開くと、彼女は淳人と結婚した初日に戻っていた。

本来ならば新婚初夜のはずだったが、淳人は泥酔していた。

両親に愛してもいない女性との結婚を強いられたからだ。

そして彼が本当に愛している相手は、今まさに別の男との見合いに向かっていた。

頬は酒で赤く染まり、潤んだ瞳には薄い靄がかかっている。

彼は彼女の手に頬を擦り寄せながら、酒に濡れたかすれ声で何度も呟いた。

「明音......他の男と見合いなんてするな。俺は、お前がいないと駄目なんだ......お前が誰かと一緒になったら......俺はきっとおかしくなる......」

酔ったときにしか口にできない本音の一つひとつが、鋭い刃となって日南の胸を切り裂いていく。

淳人を好きになることは、とても簡単なことだった。

二人は幼なじみとして育った。

彼は授業を抜け出して足を捻った彼女を背負って家まで送ってくれた。

生理痛で泣きながら甘いお菓子が食べたいと言えば、吹雪の中を買いに行ってくれた。

彼女を守るために不良たちと喧嘩し、肋骨を二本折っても構わなかった。

けれど後になって、彼女は知った。

彼があれほど気遣ってくれたのは愛情だったからではない。

ただ両家が親しい間柄だったから。

ただ彼が礼儀正しく誠実な人だったから。

そして何より――彼が根っから優しい人間だったからだ。

彼が本当に愛していたのは、須賀明音(すが あかね)だった。

淳人と明音に血のつながりはない。

7歳のとき、明音の母親が淳人の父親と再婚し、4人家族になったのだ。

だから淳人が妹を溺愛していても、日南はずっと兄が妹を可愛がっているだけだと思っていた。

だが違った。

淳人は、明音が他の男子と少し話しただけで嫉妬した。

彼女が短いスカートを穿けば、一晩中心を乱され眠れなくなった。

そして人目のない場所では彼女を抱き寄せ、唇を重ねていた。

ただ、日南がその真実を知ったのは遅すぎた。

一つの結婚が明音を死なせ、淳人を壊し、そして彼女自身も残りの人生を苦しみの中で生きることになった。

タイムマシンを起動する前、研究員はこう言っていた。

「須賀淳人の三つの後悔を解消できれば、全員の運命を変えられるかもしれません」

日南は細い指先でそっと淳人の頬をなぞり、彼の日記に書かれていた三つの後悔を思い出した。

【俺は後悔しているんだ。

日南と結婚したこと。

両親に最後まで抵抗しなかったこと。

そして、明音を救えなかったこと。】

彼女は深く息を吸い、小さく呟いた。

「淳人......今度こそ、あなたの願いを叶えてあげる」

......

深夜。

プリンターが低い音を立てながら動き続ける。

日南は離婚協議書に署名し、それを淳人の前へ差し出した。

そして明音の声色を真似て優しく囁く。

「サインして。そうしたら私、お見合いには行かないから」

彼はほとんど奪い取るようにペンを握り、ためらいなく自分の名前を書いた。

胸が張り裂けそうな痛みを抱えたまま、日南は笑った。

やはり彼は明音を骨の髄まで愛している。彼女の言葉なら、何だって従うのだ。

日南は目尻の涙を拭いながら問いかけた。

「内容も見ずにサインするなんて。私が騙していたらどうするの?」

淳人の反応はひどく鈍かった。

しばらくしてからようやく手を伸ばし、彼女の頬に触れる。

その瞳には、愛する人への深い愛だけが宿っていた。

「お前が俺のそばにいてくれるなら......俺は何だって差し出せる」

どんな女性でも胸を打たれる言葉だった。

けれどその言葉は、明音へ向けられたものだ。

目を赤くしたまま、日南は彼を見つめ続けた。

長い、長い時間。

......

翌朝。

彼女は離婚協議書を弁護士へ渡し、静かな声で告げた。

「双方のサインは揃っています。離婚手続きを進めてください」

弁護士は戸惑ったように言う。

「奥様、結婚初日で離婚だなんて......もう少し考え直されてはいかがですか?」

「考え直しません」

彼女はきっぱりと言い切った。

「この結婚は、必ず終わらせます」

そのとき、背後から低く響く男の声が聞こえた。

「離婚って、何の話?」

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